「これが面白いんだ、これを食え!」原作者カルロ・ゼンが語る「幼女戦記」(前編)

2017年02月11日 01:30配信

「シカゴ学派を人間に適応したらどうなるんだろう、という思考の遊びから」生まれたのがターニャ

(C)カルロ・ゼン・KADOKAWA刊/幼女戦記製作委員会

幼女の皮をかぶった化物――。強烈なフックを持ったコピーとタイトル顔負けのハードな内容に注目が集まる「幼女戦記」。Web小説が書籍化され、テレビアニメ化に至りました。原作者はカルロ・ゼンさん。小説投稿掲示板“アルカディア”を中心に投稿を続け、本作で商業デビューを果たしました。今回は、その人物像があまり知られていないカルロ・ゼンさんのインタビューをお届けします。前半は幼少期から「幼女戦記」が出版に至るまでの話を聞きました。ターニャ・デグレチャフの行動原理に関する話題も出てくるので、ぜひじっくりお楽しみください。

――小さい頃はどのような本を読んでいたのでしょうか。

カルロ・ゼン(以下、カルロ):小学生の時は吉川英治先生の「三國志」や伝記などが多かったですね。秀吉だとか信長だとかの低学年向けの伝記を図書館で読んでいるような子どもでした。その後は、コーエーさんの「信長の野望」とか「三國志」といったテレビゲームに手を出し、歴史が好きになって、さらには「太閤立志伝」やモンゴルが舞台の「蒼き狼と白き牝鹿」といった系統にも手を出してしまい、「世界史楽しいな♪」となり、ズブズブと浸かっていきました。

――なるほど(笑)。2012年に小説投稿掲示板のアルカディアで「幼女戦記」を連載していたということですが、最初に小説を連載し始めたのはいつ頃だったんですか?

カルロ:小さい時から、読むのが好きで中学・高校の頃から学校の仲間内で細々と書いていました。転機となったのは、大学進学です。自由にインターネットが使えるようになり、ネットで不特定多数に読んでもらえる喜びに目覚めてしまった。

さらにいけないことに、暫くしてからアルカディアさんと出会ってしまう。これが決定的で、小説投稿サイトという空間にはまり込んでしまいました。

「幼女戦記」の時は連載と前後して海外にいたのですが、その時に現在、書籍編集を担当してくださっている藤田さんからメッセージをいただきました。

――小説を出版しませんか、と?

カルロ:そうです。ただ、当時は「自費出版詐欺」という話をさんざん聞いていたので、あーこれは新手の自費出版詐欺だな、と相手にしていなかったんです。次に藤田さんから「会いに行きますよ。どこに住んでいるんですか?」とメールが来て、海外にいる旨を知らせたら、「東京に来た時に声をかけてください」と(笑)。一時帰国をした際にお話をさせていただいて、どうやら詐欺ではないらしいことがわかり、じゃあ出版してもらってもいいかなと。

――そして書籍化へと。書籍の反響はいかがでしたか?

カルロ:当時はTwitterなどもちゃんとはやっていなくて、よくわかっていませんでした。藤田さんからは、最初は「4巻構成くらいで考えてほしい」と言われていました。だから書籍用に改稿して1、2巻はかなり詰めこんでいるんです。でも、すぐに予約の状況で初版の部数が増え、「重版が決まりました」というメールもいただいて、「4巻で終わらせなくていいです」と。2巻だけ妙に厚いのは、そういう経緯ですね。

――確かに2巻はボリュームがありますね。少しさかのぼりたいのですが、「幼女戦記」の物語を思いついたのは、どういうきっかけだったのでしょうか。

カルロ:自分の小説はいつも、自分が読みたいものを書いています。料理に例えるなら、食べるのを好きな人が自分の好きな物を作って、同好のみんなと一緒にその料理を味わってみようという気持ちで始めました。真っ当に聞こえるのは、ここまでですね。実際は当時のアルカディアさんではいろんな小説が投稿されていて、読んでいるうちにインスパイアされて、僕も他人の口に自分の書いたものを突っ込んでみたいなと。

――自分と、アルカディアの読者に振る舞うためにですね。

カルロ:これが面白いんだ、これを食え、といった感じで自分の好きな物を書いていきました。

――連載ですから、読者のリアクションも受けて、というところもありましたか?

カルロ それもありました。あの頃のアルカディアは、よく言えば面倒見がいいというか、ちゃんと読んだ上で全力をもって向き合ってくれる読者の方がたくさんいました。悪く言うと、変な料理を出すと「こんなもの、食えるか!」とボコボコに叩かれてしまう。鬼教官がいる大学のゼミみたいなものでしょうか、すごく緊張感のあるぶつかり合いがありました。ただ、どうしても、ある程度連載が進むと変化してしまう。厳しい人というか、波長が合わない人が去ってしまうんですね。だんだん小さくまとまってしまうので、どうすればもっと多くの人にこれから楽しんでもらえるのかな、ということを考えながら、ちょっとずつ広げていった感じです。

――サラリーマンが幼女に転生、というアイデアは、どこから着想したのでしょうか。

カルロ:それは「シカゴ学派」という学派を人間に適応したらどうなるんだろう、という思考の遊びからです。「人間はそんなに合理的じゃない」とか「市場(しじょう)には問題があるよね」ということは耳にすることもあると思うんですけど、シカゴ学派というのは「人間は合理的な存在」という仮定からはじまっていて「市場を心底から信じ込んでいる」。そんなシカゴ学派を理想とする人間を変な世界にぶち込んだらどうなるんだろう、と。

――「シカゴ学派」をもう少し詳しくうかがってもいいですか?

カルロ:ここからは極端な解釈で、正確な定義は大学の先生方に確認していただけると幸いなのですが、彼らは完全に計算と数字の世界の住人なんです。すべてをミクロ経済学で判断しようとする。サンデル教授の有名なたとえ話に出てくる路面電車の話があるじゃないですか。自分が運転手だとして5人を轢くか1人を轢くかという究極の選択の話です。標準的な功利主義的では5人を轢くより1人となるかも知れませんが、シカゴ学派の発想だと総コストで判断する。ある5人の生産性より、1人の生産性の方が高ければ、5人を轢いてしまえと。

ここまでラディカルなケースは稀ではあるんですが、根本的に道徳や善悪には個人差があるので、ひとつの公平かつ客観的なものさしとして数字を使おう、というのがシカゴ学派のスタンスなんです。彼らにとってすれば、感情もコストにカウントして計算できると考えるんですね。繰り返しになりますが、ここでは非常に簡略化して話していますので参考程度にしてください。

――とても分かりやすいです。ターニャの行動原理はここにあるということですね。

カルロ:シカゴ学派の信徒で、この原理に当てはめて行動しています、というところがはじまりですね。

――架空ではありますが、近代の第一次世界大戦的な舞台になっているのはなぜでしょうか。

カルロ:2つあります。ひとつは第一次世界大戦(以下、WW1)をもうちょっと前に出したかった。日本ではどうしても第二次世界大戦(以下、WW2)の方が取り上げられがちですが、政治学の世界で見てみると、WW1こそがすべてをグルッとひっくり返す契機になっているんです。たしかに日本という視座から見ると、戦前・戦後というくくりでWW2がマイルストーンのようになっている。ただ、世界全体に尺度を広げて捉え直すとなれば、重要ながらもうちの国では忘れられていたWW1にも注目してほしいなぁと。

2つ目が騎士道やロマンが見られる最後の戦争がWW1だからです。英雄譚を書こうと思ったらWW2では遅いんじゃないでしょうか。WW1であれば、個人でできる範疇がまだ広い上に、個人ではどうにもならないことも数多ある。それらを描けるのはWW1、ということになったからです。

――ファンタジーを取り入れられた理由もうかがえますか?

カルロ:主人公がすべての戦場に顔を出すためには何かひとつ理由が必要で、パイロットは空しか、戦車は陸しか行けません。魔法があればヘリコプターにも潜水艦もどきにも、タンクにもなれますから。あとは物語に大きなウソ(=魔法)を入れようと思ったんです。小さなウソは物語を破綻させるといいますが、大きなウソは整えることができる。物語の中で整合性をどんどん組み立てていきました。細かく整えていくのは好きなので、そのあたりは趣味のようなものですね。<後編に続く>【取材・文=細川洋平】

■テレビアニメ「幼女戦記」

放送  :AT-X…毎週金曜22:00~ ※リピート放送あり

     TOKYO MX…毎週金曜25:05~

     サンテレビ…毎週日曜25:00~

     KBS京都…毎週日曜23:30~

     テレビ愛知…毎週日曜26:05~

     BS11…毎週月曜24:30~

先行配信:AbemaTV…毎週金曜25:35~

一般配信:ニコニコ動画・GYAO!ストア・Rakuten SHOWTIME・ひかりTV・バンダイチャンネル・U-NEXT・J:COM オン デマンド・PlayStation®Store・DMM.com・ビデオマーケット・HAPPY!動画・ムービーフルPlus

スタッフ:原作…カルロ・ゼン(「幼女戦記」/KADOKAWA刊)/キャラクター原案…篠月しのぶ/監督…上村泰/キャラクターデザイン・総作画監督…細越裕治/シリーズ構成・脚本…猪原健太/アニメーション制作…NUT

キャスト:ターニャ・デグレチャフ…悠木碧/ヴィーシャ…早見沙織/レルゲン…三木眞一郎/ゼートゥーア…大塚芳忠/ルーデルドルフ…玄田哲章

リンク:アニメ「幼女戦記」公式サイト

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