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合計120歳超のトークショー「GHOST IN THE SHELL/攻殻機動隊 4Kリマスター版」押井守監督×若林和弘音響監督対談

アニメ 2021年09月29日 16:02配信
「GHOST IN THE SHELL/攻殻機動隊 4Kリマスター版」押井守監督×若林和弘音響監督対談

「GHOST IN THE SHELL/攻殻機動隊 4Kリマスター版」押井守監督×若林和弘音響監督対談

(C)1995 士郎正宗/講談社・バンダイビジュアル・MANGA ENTERTAINMENT

2021年9月18日(土)、東京・TOHOシネマズ日比谷 スクリーン4にて、「GHOST IN THE SHELL/攻殻機動隊 4Kリマスター版」の上映に伴い、監督の押井守さん、音響監督の若林和弘さんのおふたりによる舞台挨拶が実施されました。

台風の接近による大雨に見舞われた中で開催された本イベント。押井さんもまず、「来るのやめちゃおうかなと思うぐらい(雨が)ひどかったんですけど、若(※若林さんのこと)が車で迎えに来たので、逃げようがないので来ました(笑)」と、軽いジョークから会話を切り出します。

それを受けつつ、「当時と違って、私と押井さんの年齢を合わせると120歳を超えているので、思い出せる限り正しい情報が言えればと思います」と話す若林さん。「GHOST IN THE SHELL/攻殻機動隊」が最初に劇場公開されたのは、今から26年前の1995年。おふたりが関わっていた音響関連の作業は海外で公開する事情もあり、それよりもさらに1年ほど先行していたとのこと。27年前といえば、若林さんは30代の初頭、押井さんもまだ40代前半。今では合計「120歳」を超すアニメ業界の重鎮おふたりも、当時はまだまだ若手と呼ばれてもおかしくない年齢でした。他のスタッフやキャストにもおふたりと年齢やキャリアの近い方々が多く集っており、以降のトークはそんな若くてやんちゃだった面々の思い出を交えつつ進んでいきます。

押井さんの作品に共通するこだわりのポイントにガンアクションがありますが、今作では制作にさきがけ、アニメーターを連れてグアムで射撃を実体験するロケを敢行していました。しかし、その際には音響のチームのことを失念しており、あらためて音響チームを連れて香港でのロケハン(サウンドハンティング)を実行することになったそう。

アフレコでは、通常の防音処理(壁や天井からの反響がないように処理されている)をされたスタジオではなく、音楽のレコーディングに使うスタジオを借り、マイクスタンドを複数本立てることで、空間的な響きを加工前の素材の時点でも残すように音声を収録したとのこと。

また、今作では当時は新しい試みであったAvidを使ったノンリニア編集(物理的にフィルムを切り貼りするのではなく、素材をデジタル化してデータ上で行う編集。現在はアニメの制作現場で一般的な手法)を行いたいと現場からの要望があり、音声もデジタル収録を目指していた。ただ、当時はまだ新しい試みであり、マシンエラーも多発していたため、従来のアナログの手法も併用されることでトラブルを回避していたそう。

これは音響面だけではなく、今作の制作全般における話で、押井さんは「(「GHOST IN THE SHELL/攻殻機動隊」といえばデジタル制作の印象が強いとされるが)デジタルで作ったというのは実態と違っていて、デジタルを『手段』にしたのではなくて、『デジタルだとどう見えるのか』というのを『目的』にしたんだよね。デジタルっぽく見えるようにアナログで作った」と当時を振り返ります。

音響作業における「デジタルっぽく見えるようにアナログで作った」ものの実例としておふたりのあいだで話題に上がったのが、今作に登場する義体化された登場人物たちが電脳で通信を行う際のくぐもったような声の芝居。あれはデジタルであとから加工しているのではなく、信楽焼の巨大なツボの中にマイクとスピーカーを吊るして収録したものを使用しているそう。45Lの水色のポリバケツに役者が頭をつっこみ、その中で芝居をするなどの試行錯誤を経て、ツボを使うのがベストであるという結論に至ったとのこと。

今回の4Kリマスター版では、そうした苦労を経て作成したオリジナルの2.0chの音素材を、PC上でプラグインソフトウェアを使用して擬似的に5.1ch化し、それを若林さんが最終的なバランス調整を行ったものを使用しています。押井さんから、こうした手法ではなく「もしも頭から、アフレコから音響作業をやり直すとしたらどうしますか?」と水を向けられた若林さんは、役者陣の芝居に関しては「当時が僕は一番いいと思っているので」と返されます。当時はまだ若手や中堅だったキャスト陣が現在はベテランになっている点もさることながら、27年の月日の流れの中で、当時年長のキャスト陣の中に鬼籍に入られた方も数多くいる点が、理由としては大きいそう。そうした状況の中でも最新のものに近い音響へと作品をアップデートするために、デジタル技術が駆使されています。

以上の盛り沢山な内容のトークを経て、最後に若林さんは「押井さんの(BGMの)基本構成がしっかりされていたのと、こんなことを言うと語弊があるかもしれないけど、『お客に見やすくするためのエンターテインメント性で音楽をつけるということをしなくていい』ということだったので、ストーリーに沿ったものだけをつけるということをやらせていただきました。なので、刑事ものなのに刑事ものらしくできてない。だからいいんですよ? この映画。逆に今、そういうふうに僕がしたいと言っても、ほとんどの監督やプロデューサーにやらせてもらえないので。『そんな地味な映画、見ないよ』と。そういう意味では私としては一番思い出深い作品で、この作品をきっかけにスタジオジブリさんも含めて、いろんな作品の仕事を続けるようになった大事な作品ですので、こういった形で20年以上経ってまたこうやってスクリーンにかけられたことをとても幸せに思います。本当に今日はありがとうございました」と挨拶。

押井さんはそれを受けて「今言われて確かに思ったけど、この作品って実は地味なんですよね。めちゃくちゃ地味。素子が最後一瞬だけ大暴れするところを除くと、ほとんどブツブツいっているだけ。よくこれ、作れたなと、今にして思う」「これがある種、僕の中の『戦う女』のスタートになったというか。ヒロインで映画を作りたい、(作品の)真ん中に女性を置きたいということを決定的にしてくれた」「25年以上経って、未だにこういうところ(映画館)でかかるというのはすごいことだと思う」「監督としては一番幸せなことだといつも思っています。それもこれもですね、やっぱりスクリーンで見たいというお客様のご要望がないとどこもやってくれないので」「そういう意味でいえば今日来てくれたお客さんを含めて、僕の作品をスクリーンで見たい! という(ファンのみなさんの)熱意のおかげだと思っています。本当にどうもありがとう!」と率直な思いをコメント。イベントは暖かな空気に包まれて、終わりを迎えました。

【取材・文:前田久】