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虚淵玄(ニトロプラス)「Thunderbolt Fantasy Project」インタビュー(後編)「アクションは増し増し!」

台湾の伝統芸能「布袋劇」を映像向けに進化させた霹靂社とニトロプラスの虚淵玄さんがタッグを組み、多くの日本人に布袋劇の魅力を知らしめた「Thunderbolt Fantasy Project」プロジェクト。現在、新作劇場作品「Thunderbolt Fantasy 生死一劍」(以下:「生死一劍」)が上映されています。そこで、脚本・総監修を務める虚淵玄さんにインタビューを敢行! 後半となる今回は、劇場版からTVシリーズ第2期にかけての見どころを語ってもらいました。

――「生死一劍」は「殺無生編」と「殤不患編」の2本立てとなっていますが、それぞれの見どころを教えてください。

虚淵:「殺無生編」は、TVシリーズ1期で拾い残した殺無生の設定の補完的な内容となってます。殺無生は濃ゆいキャラだけど途中退場してしまったので、もう1回彼に焦点を当てた話を作りたいなと思い、江波光則さんに書いていただいた外伝小説(発売中の書籍「Thunderbolt Fantasy 東離劍遊紀 外伝」に収録)を下敷きに、映像化に最適化するように手を入れさせてもらいました。ただ「殺無生編」はどうしても後味の悪い結末になってしまう話なので、もう少し胸のすく、笑いもあるような話もあったほうがいいだろうと、殤不患を主人公にしてTVシリーズ2期に繋がるような短編を付け加えたんです。

――小説では殺無生の過去エピソードが描かれていますが、確かにあれは、殺無生が凛雪鴉に殺意を抱くのも仕方ないなと思える内容でしたね……。

虚淵:TVシリーズ1期で蔑天骸に裏切らなければこういう風に、凜雪鴉が勝っていたという話もどこかで1度はフォローしておきたかったんですが、本筋でやってしまうと後味が悪すぎるので……。そんな、凜の活躍も見どころです。

――TVシリーズ第2期に繋がる「殤不患編」には第1期OP曲「RAIMEI」を歌うT.M.Revolution 西川貴教さん演じる浪巫謠(ロウフヨウ)も登場しますが、西川さんはどういった経緯で作品に関われたんでしょうか?

虚淵:OP曲については「日本でも台湾でも認知度の高い歌手であり、あの世界観に噛み合う華やかさがある」というのを基準に考えさせていただいたんですが、真っ先に西川さんが歌っていた「戦国BASARA」シリーズの主題歌が思い浮かんで(笑)。空気感もどこか共通するところがあるし、入り口としてわかりやすいテイストだと思い、お願いしたんです。

――浪巫謠は本編出演より先に木偶(人形)が完成して、2016年の「AnimeJapan2016」のステージで発表されていましたね。

虚淵:最初はコンセプトデザインみたいな感じで、半ばチャレンジ的に木偶を作っていただいたんですけど、これがすごくいい出来だったので本編にも出そうということになり。西川さんは声優としての活動経験もお持ちなので、キャストも務めていただくことになりました。ただ、人形自体は西川さんをイメージして作ったものですが、設定として本編中のキャラクターを新たにひとり作り、それを西川さんに演じていただく感じですね。ゲストキャラクター扱いではなく、作品の筋にもガッツリ絡むキャラクターになっています。

――劇場作品の制作にあたり苦労された点は?

虚淵:裏方の話になってしまうんですが、続編制作にあたっての企画の出だしが一番難しかったですね。TVシリーズ第1期は現場の情熱の勢いで作ってしまった部分も大きかったので、企画を継続していくにあたって、常識や慣習など双方のやり方をすりあわせて行くという工程が結構長かったですね。

――劇場作品を作るというのが決まったのはその後だったんですか?

虚淵:そもそも外伝をやろうという話はあったけど、最初はどういうフォーマットでやるのかも暗中模索状態だったんです。みんなが合意して方向性が決まるまではけっこう気をもみました。

――虚淵さんはプロデュース面も担当されている?

虚淵:実務的な部分は社長や専門のスタッフが頑張ってくれていますが、いろんな判断やジャッジには口を出させていただいていますね。あとはどういう方向性で作品を作ったらそれぞれの国のお客さんに届くだろうかみたいな知恵の出し合いとか。それが実現可能かの相談はまた別の人と協議することもありますが、何がベストかという指標は僕が出すことが多いかと思います。

――なるほど。実際の映像制作についても伺いたいのですが、小説から映像化するにあたって、苦労された点はありましたか?

虚淵:小説は江波さんらしい、心情を語っていく話だったので、それを映像映えする形に組み直すのはそれなりに悩むところはありましたね。ほとんど密室劇のような話ですから。

――密室劇的な静の場面と打って変わって、剣技会のシーンでは激しいアクションが展開していきますね。アクションシーンについては今回も人形師さんにお任せする形だったのでしょうか?

虚淵:そうですね。先方には「小説のことは気にしないでください」とお伝えしました。逆に江波さんも「劇中の動きにとらわれず、小説として見栄えのするアクションシーンを工夫してください。そのためだけの設定を作ってもかまわないので」とお伝えしてあります。

――一貫性よりも、媒体ごとに一番見栄えのする形で表現してほしいと。

虚淵:そもそも「Thunderbolt Fantasy Project Project」は、布袋劇を魅せようと思って作った世界観なので、大前提である媒体が変わるならなんら準拠する必要はないんですよ。漫画などメディアミックスの作家さんにも「映像には縛られず、それぞれの媒体でイチから新たな作品を作るものと思ってやってください」と言ってあります。その媒体で一番活かせる方向で、設定から世界観から書き換えちゃっていいなというのが僕の考えです。

――小説を読んだ人はそこの違いも楽しめそうですね。新キャラクター・鐵笛仙(テッキセン)はどんなコンセプトのキャラクターなのでしょうか?

虚淵:鐵笛仙は完全に江波さんのオリジナルです。「殺無生編」について、僕からは「劍技會で恥をかかされた」というベースを提案させてもらい、具体的な内容は江波さんに考えてもらったんですね。その結果生まれてきたのが、鐵笛仙というかつての殺無生の師匠。老人なのに巨漢というビジュアルイメージはキャラクターデザイナーのアイディアですね。鐵笛仙はかなり僕の手を離れた、いろんな人のアイディアによって構成されたキャラクターです。

――「殤不患編」に登場する新キャラクターたちについても教えてください。

虚淵:「殤不患編」は第2期の前日譚でもあるので、第2期のキャラクターが予告ぐらいのポジションで顔出ししています。キャラクターが伝わるぐらいにはセリフもありますね。要するに殤不患が西幽に居た頃に縁があった人物たちで、あの辺は東離の話に西幽から関わってくるという感じになるかと。劇場版には登場しない、殤不患絡み以外のキャラクターもTVシリーズ第2期には登場するので、そちらもお楽しみいただければ。

――ちなみに、TVシリーズ第2期の進捗状況は?

虚淵:いま(11月中旬現在)12話を書いてます。11月中に全話あげて12月の頭からクラインクインという予定です。

――第1期シリーズのメイキング映像で、日本語の脚本→中国語から台湾語に翻訳して台湾で撮影→日本でアフレコをし直すという手順を紹介していましたが、制作にはかなり時間も手間もかかりますよね。

虚淵:布袋劇はセリフに合わせて人形を動かしているので、あちらの方々がわかる言語で感情移入してもらわないと人形の動きに情緒が備わらないんです。ただそうやって撮られた映像は、見得の切り方や力の入れ方、アクセントの置き方が日本語とはぜんぜん違うので、そこは声優さんのち器量でカバーして、動きに合わせて言い方を変えてもらっています。なので大変ですが、順序として仕方ないんですよ。

――なるほど、TVシリーズ第2期では動きとセリフの合わせ方にも改めて注目したいですね。まだ発表されている情報は少ないですが、第2期の見どころについても伺えますでしょうか?

虚淵:TVシリーズ第1期に比べてアクションは増し増しになります。TVシリーズ第1期は世界観を飲み込んでもらうために、アクションをしないでしゃべっているシーンが長いんですよ。そこは自分にとても反省点で。TVシリーズ第2期は説明することが少なくてすむぶん、バンバン戦うようにしようと意図して脚本を作っています。

――TVシリーズ第1期のラストで実力が明らかになった殤不患の活躍も期待できますね。

虚淵:彼の戦いも派手になると思います。

――シリーズ全体としてはどのぐらいの長さを想定しているのでしょうか?

虚淵:機会が許される限りどんどん作り続けたいですね。主演のビン・ディーゼルが元気な限りどんどん続けていく映画「ワイルドスピード」シリーズような、長く続くナンバリングタイトルにしていきたいです。あえて世界観もそんなにキッチリ決めていないので、いくらでもエスカレートできるし、殤不患の目録のストックもあと30何本ありますしね。使ったから補充しちゃいけないわけでもないですし(笑)。

――今後の展開がますます楽しみですね。最後に「Thunderbolt Fantasy Project」ファンにメッセージをお願いします。

虚淵:劇場作品はTVシリーズ第1期のメタな話なので、まだ本編を見たことがない方は事前に見ておいてもらえると、泣きどころ笑いどころが増すと思います。幸い配信も見られる機会も増えているので。劇場に来る前にぜひご覧になってください。TVシリーズ第1期を楽しんでもらった人にはサービス的な内容も溢れているので、期待していてください。

劇場作品「Thunderbolt Fantasy 生死一劍」は12月2日より全国の対象館にて公開中。TVシリーズ第1期「Thunderbolt Fantasy 東離劍遊紀」は、BD&DVD全4巻が発売中のほか、huluやAmazonプライム・ビデオなど映像配信サービスでも配信中です。

取材・文:段木英里

■「Thunderbolt Fantasy 生死一劍」
公開日:公開中
公開館:ユナイテッド・シネマ豊洲、109シネマズ川崎、ユナイテッド・シネマ札幌、109シネマズ名古屋、109シネマズ大阪エキスポシティ、109シネマズHAT神戸、ユナイテッド・シネマキャナルシティ13、ufotableCINEMA

リンク:「Thunderbolt Fantasy」公式サイト
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