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五十嵐雅の初高座はまるで応援上映!?——弱点を魅力に変えた落語の魅力「声優落語天狗連 第十三回」レポート

2017年11月26日(日)、東京・浅草の東洋館にて「声優落語天狗連 第十三回」が開催されました。

テレビアニメ「昭和元禄落語心中」とのコラボレーションからはじまったこのイベントもついに約2年、第13回を数えるまでに。声優による「声優落語チャレンジ」はもちろん、話題の噺家による口演は回を重ねるごとにファンを増やし、毎回イベントが楽しみだというファンも多数来場しています。

イベントは、発起人である、アニメが好きで落語も好きなニッポン放送アナウンサー 吉田尚記さんと、お笑い芸人であり国語学者のサンキュータツオさんによる、恒例の落語トークからスタート。今回、「新作落語しかやらない」という瀧川鯉八さんが高座に上がることについて、サンキュータツオさんは、「約2年を迎え、落語の最先端を走っている才能をぜひみてもらいたかった」と語りました。

そして話が、古典落語と新作落語の違いに及ぶと、まず古典落語と新作落語の定義について、1900年に亡くなった三遊亭圓朝までを古典、それ以降は新作と分けられ、さらに作った人以外がやることで古典落語になると説明。そして、今でこそ三遊亭圓朝の落語は、古典と呼ばれているが、それができた当時は新作以外の何物でもなく、そもそも落語は固定概念を打破しようと急進的な人たちが時代を積み上げてきた演芸。だから新作落語こそ、王道だという考えている人たちは、現在もたくさんいるそうです。ただ、新作落語は古典を求めるお客さんの常識とまず戦い、かつ面白くなければ生き残れないという厳しい演目。だから普段は古典落語をしつつ、懐刀として新作落語を仕込んでいる落語家さんが多いのだとか。

そんな厳しい状況にもかかわらず、今回口演する瀧川鯉八さんは、古典落語を決してやらない、新作落語だけで勝負している落語家。彼の噺を聞いたとき、サンキュータツオさんは「ついにこの時代がきたか!」と衝撃を受けたそうで、鯉八さんは“現代版 桂文楽”、もしくは“落語界のベンチャー起業家”だと紹介。「説明書は全くないけれど触っていると(聞いていると)自然に分かるようになってしまう。この不思議さを体験してほしい」という言葉に客席の期待は、高まっていきます。

一方、今日初めて高座に上がる五十嵐雅さんが挑戦するのは古典落語の「鰻屋」。五十嵐さんは劇場版アニメ「KING OF PRISM by PrettyRhythm」(鷹梁ミナト役)やゲーム「A3!」(シトロン役)をはじめ、舞台俳優としても活躍している声優です。

舞台上では、毎回恒例の稽古模様の映像も流されましたが、そこには台詞が出てこなくて大苦戦している五十嵐さんの姿が……。稽古をつける立川志ら乃師匠からは、目線の付け方、個性的なキャラクターを際立たせるためには“普通”をどうやるかが大切といった、立体的な指示が飛んでいました。

そんな緊張が高まる中、「皆さんの笑い声が、最高の応援です」という吉田さんの紹介で五十嵐さんが登場。笑顔ながらも少し緊張した様子で、「かねてからやりたかったので、この機会をいただけたことに感謝しています。精一杯やりますので、よろしくお願いします」と丁寧に挨拶すると、古典落語「鰻屋」の一席が始まりました。

「鰻屋」は、若い衆2人が酒を飲もうと入った鰻屋で繰り広げられる滑稽話。鰻を注文する若い衆ですが、店の主人は鰻が大の苦手。それでも鰻が食べたい若い衆にいわれ、主人は渋々、触るのもイヤだという鰻をつかもうと……。最初はごくごく普通に登場する鰻屋の主人ですが、鰻をつかもうとするくだりから一気に豹変! 五十嵐さんのひょうきんとも狂気ともいえる姿に、客席からは笑い声が沸き起こります。そして見事に一席をやり終え五十嵐さんが深々と頭をさげると、会場は大きな、大きな拍手に包まれました。

口演を終えて汗びっしょりの五十嵐さんは「稽古は毎回発見の連続でとにかく楽しかった。何より、何でもパッと見抜く志ら乃師匠の話がとても面白く、そして勉強になりました。『落語はすぐ裸にされてしまう、素がでてしまうよ』という師匠の言葉は正にその通りでした。キンプリと一緒ですね(笑)」と口演の感想を述べました。

そして稽古番を務めた志ら乃師匠も登場。志ら乃師匠は五十嵐さんについて、感情ではなく音で、しかも自分の気持ちいいテンポで話したくて仕方がない……すごい魔球を投げられるけれどキャッチボールができないタイプと分析。そこで、(本人はそこをすごく悩んでいるようだけれど)落語の場合には、感情を入れずに音でやるほうが聞きやすい場合があるので、それは欠点ではなく長所なんだと伝えたそうです。

そんな師匠の教えに五十嵐さんはとても勇気づけられたそうで、「芝居をやる上での悩み、壁を越えるきっかけがほしくて仕方なかったので、やらせてほしいとお願いしたんです。人に伝えるには何が必要なのか、落語をやらせていただいて感覚をつかむことができました」と語ると、客席から大きな拍手が。志ら乃師匠は五十嵐さんの稽古を振り返り、「アドリブが抜群に面白く、落語家ではでてこないイマジネーションを刺激するくすぐりがどんどん出てくる」とコメント。そして五十嵐さんの熱意を感じ、今度一緒に地域寄席の高座にあがると発表すると、会場はさらに大きな拍手に包まれました。

「声優落語チャレンジ」に続いては、いよいよ瀧川鯉八さんによる新作落語がスタート。サンキュータツオさんの「30年後、100年後の落語の姿を変えるかもしれない才能です」と紹介され登場した鯉八さんは、「ちゃお」とお茶目に挨拶。空前の落語ブームについて、正しくはイケメン若手落語家ブームであるという持論を、硬軟かつ緩急つけて語り、客席をぐいぐいと自分のフィールドに引き込んでいきます。

そして枕から途切れることなく最初の落語「俺ほめ」が始まり、そこからはもう鯉八ワールド全開。「俺をほめろ」という“まーちゃん”と、彼のことを褒める仲間の不思議なやりとりに客席からは笑いが途切れることはありません。さらに口演はつづきもう1席、今度は「暴れ牛奇譚」が披露されました。前世を占ってもらうため水晶球をのぞくと、そこには暴れ牛に困った村と生け贄に差し出されようとしている“タミコ”の姿が映し出され……なんとも一言では説明できない不条理な、でも落語としての物語が進んで行きます。そして噺が終わり鯉八さんが深々と頭をさげるいと、会場は割れんばかりの拍手に包まれました。

鯉八さんの落語を初めてみたという吉田さんは「すごいモノを見てしまった! この感想をどうやって誰と共有したらいいのか戸惑っている」と、その衝撃を語り、サンキュータツオさんは「鯉八さんが本当に求めているお客さんは皆さん。不条理を飲み込むのが得意なアニメファンの皆さんに、見てもらえる場を持てたのが本当に嬉しい。ぜひ追いかけていただいて、別のプリズムショーを見て欲しい」と感動していました。

口演の感想について尋ねられた鯉八さんは、「普段は8割5分スベっているのですが、これまで12年間、落語をやってきて一番ウケました。出会うべきお客さんに出会えたというか、今日、このために生まれてきた気持ちです」と感激している様子。

そんな鯉八さんに志ら乃師匠は「おそらく談志はこれを認めたような気がしてならない。この高座は“あの時の鯉八はすごかった”っていわれる高座。本当に(ウケすぎて)腹が立つ!(笑)」と最大級の賛辞を送りました。

落語の新たな可能性を感じさせたイベントもついに終了の時間。ついに3年目に突入する声優落語天狗連、次回2018年1月開催も予定として発表され、イベントは終了となりました。落語とアニメファンの幸せな関係は、まだまだ続いていきそうです。

■声優落語天狗連 第十三回
日程:2017年11月26日(日)
会場:浅草東洋館
MC:サンキュータツオ、吉田尚記(ニッポン放送アナウンサー)
出演:瀧川鯉八、五十嵐雅/立川志ら乃(稽古番)
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