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「BEATLESS」と「サイバーセキュリティ月間」コラボで長谷敏司・辻伸弘が対談!レイシアに騙されて膝枕されるのは幸せなこと!? 

3月18日(日)まで実施される「サイバーセキュリティ月間」のキックオフイベントが2月1日に開催され、現在放送されているテレビアニメ「BEATLESS」原作者の長谷敏司さんと、サイバーセキュリティのエバンジェリストであり、“セキュリティ男子”とも呼ばれる辻伸弘さん(ソフトバンク・テクノロジー)による「近未来サイバーセキュリティ対談」を実施。内閣官房内閣サイバーセキュリティセンターの文月涼さんが進行を務めました。

「サイバーセキュリティ月間」はセキュリティの普及・啓発を目的とし、テレビアニメ「BEATLESS」とコラボ。期間中に貼り出されるポスターにはヒロインのレイシアが描かれ、作品に登場する“アナログハック”という言葉が記されています。対談では、「BEATLESS」のエピソードを絡めながら、サイバーセキュリティの現在や未来について語られました。

――今回のコラボは、“アナログハック”という言葉をサイバーセキュリティ上で使ってもいいですか、と長谷さんに依頼があったところから始まりました。

長谷:“アナログハック”を含め、「BEATLESS」に出てくるリソースをフリーで使っていただけるようにオープンにしているので、コラボのお話をいただいたときは面白いなと思いました。「BEATLESS」ではhIEという人型ロボットが登場しますが、最近の標的型攻撃を見ていると、AI(人工知能)的なものも少なくありません。「BEATLESS」で描いているようなことが、いつ実際に起きたとしてもおかしくない。そう考えると、今回のご提案は非常に納得のいくお話でした。

――そもそも、“アナログハック”とは何でしょうか?

長谷:人間の意志が動く速度よりも早く人の心を誘導して、思った通りの行動をとらせる、というものです。

――実際の社会でも、人間の心理的な隙をついて、利用者に自ら行動を起こさせるサイバー攻撃が増えつつあります。

辻:最近は、あなたのパスワードが破られたので今すぐ変更してください、とメールが届いて、クリックすると騙しのページに飛ばされるという攻撃が多い気がしますね。それだけでなく、今は音声や画像の合成もできてしまいます。自分の見ているものが本当のことかを確認する術がなく、モニターの向こうにいる相手が本当に自分の知っている相手なのかもわからない、ということに危険性を感じます。

――誤解されがちですが、アナログハックというのは単なる技術であって、アナログハック=悪ではないということです。同じアナログハックでも、レイシアのように膝枕をしてくれる、なんていうことばかりならいいんですが(笑)。

長谷:何らかの企みがあって、お願いをして誘導していることを考えると、完全にハッキングですね。

辻:「私のこと信じてくれる?」みたいに言われるシーンでは、僕だったらすぐにハックされるなと(笑)。 

長谷:人間っていうのは形に弱いなと思います(笑)。人のセキュリティホールっていうのは、ガバガバですね。穴しかない感じ。ハックというのは本来、コミュニケーションをとるための技術なんですよ。人間同士の潤滑油的に使われたり、同じ社会認識が通用しますよ、ということを示すために使われたり。

――「BEATLESS」では、そんな風にアナログハックを仕掛けるAIが体を持ったらどうなるのかを示唆していて、私たちの未来を暗示していると言えます。

長谷:hIEである女の子たちは、設定上では人間的な感情は持っていないけれども、人間と同じようなハートを持っていて、外見にさえこだわれば、彼女たちの言うことに人間は簡単に誘導されてしまう。形だけが同じhIEに対して、人間はどういう関係を築いていけるのか。それが、この作品で書いたことです。

辻:hIEに人同士のように接するアラトと、道具のように扱うクラスメイトの遼を見たとき、どっちが幸せなんやろ、と思いましたけどね。

長谷:難しいですよね。人間に従ったほうがいいとは限らない、というのも「BEATLESS」という作品に通底しているテーマです。人型ロボットは自分の時間を100%オーナーのために使うことができるし、自分の利益を考えなくてもいいんですけど、人間は自分の時間を大事にしないといけないし、自分の価値や利益を考えながら相手との関係を築いていく。ある意味、マシーンのほうが人間に対してよりよい誘導をする可能性があるんですね。

――作品の中ではhIEに魂はありませんが、心配なのは、彼らが意志を持ったときに人間はどう対処するべきなんでしょう。

長谷:それも難しい問題です。「BEATLESS」では、hIE側が主張しないシステムにしていますが、そもそもAIに意思表示をさせる権利を与えるかどうかは、AIをこれから使っていくにあたって厳しい問題と言えるでしょうね。

――こういった問題が、物語が進むごとにどんどん登場してきます。「BEATLESS」を観ておけば、それだけでセキュリティの知識が身につくんじゃないかと。原作を書かれるときに、そういう意識はあったんでしょうか?

長谷:単純にお客さんに楽しんでほしいという想いで書いたんですが、そういう使い方をしていただくのはありがたいです。コンピューターをウイルスから守るセキュリティは少人数のプロにお任せすることができますが、ユーザーをターゲットにした攻撃は自分で防ぐことができないので、それぞれの人がそれなりの知識を持って防御しなければいけない。しかも、攻撃は、セキュリティに対して興味があって感度が高いプロではなく、セキュリティを知るために自分の時間を割くことに意義を持たない人たちが被害を受けることが多いわけなので。そういう人たちが興味を持てるストーリーの形で普及することで、防御の裾野は広がると。自分だけでなく、周りの家族や友達を助けることもできると思います。

辻:まずは知ってもらうことだと思います。実際に、最近は振り込め詐欺をコンビニの店員が阻止しているケースがあるんですよ。あとはアプローチの仕方かなと思います。

――「BEATLESS」には攻撃の事例がありますし、技術的な1000の記事より、1つのストーリーのインパクトは非常に大きいと。人工知能というと、いまだに「ターミネーター」のように“悪”を思い浮かべる人も少なくありませんが、セキュリティやハックについて“正しく”伝える作品が増えてほしいですね。

長谷:アニメのようなビジョンをいろんな形で提案していくのは、今の時代っぽいかなと思います。ただ、「ターミネーター」は80年代の作品ですので、ビジョンは、iOSのSiriのようにAIが当たり前に使われている現代の形に更新されたほうがいいでしょうね。ビジョンをいくつも知ることによって、自分の知らない新しい状況に対処できるわけで。フィクションとはもともとそういうものなんです。実際にはないものを使って人とつながったりもする。「BEATLESS」を観てくれた人たちが、この作品を観ることによって自分なりの防御の方法を手に入れてもらえたなら、作家としては1つ仕事ができたなあと思います。

構成・文:吉田有希

■TVアニメ「BEATLESS」
放送  :MBS…毎週金曜25:55~
     TBS…毎週金曜25:55~
     BS-TBS…毎週土曜24:00~
配信  :Amazonプライム・ビデオにて日本・海外独占配信
スタッフ:原作…長谷敏司「BEATLESS」(KADOKAWA)/原作イラスト…redjuice/監督…水島精二/シリーズ構成…髙橋龍也・雑破業/キャラクターデザイン…やぐちひろこ/アニメーション制作…ディオメディア
キャスト:レイシア…東山奈央/紅霞…冨岡美沙子/スノウドロップ…五十嵐裕美/サトゥルヌス…下地紫野/メトーデ…雨宮天/海内遼…石川界人/村主ケンゴ…山下大輝/遠藤ユカ…小野早稀/海内紫織…佐武宇綺/村主オーリガ…若井友希/エリカ・バロウズ…陶山恵実里

リンク:TVアニメ「BEATLESS」公式サイト
内閣サイバーセキュリティセンター
    公式Twitterアカウント・@BEATLESS_info

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