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“試行錯誤の過程を展示”河森正治が「河森正治EXPO」の見どころを語る! 

2019年5月31日より、東京・文京区の東京ドームシティGallery AaMoにて開催される展示会「河森正治EXPO」。「マクロス」シリーズや、「アクエリオン」シリーズなどで知られる河森正治のクリエイター生活40周年を記念して企画されたもので、これまで携わってきた作品資料をスペースの許す限り公開する、かつてない展示会になるという。そのコンセプト、そして見どころを、河森自身に聞いた。

作品の原点からすべてを公開する


監督、デザイナーという役割にとどまらず、河森正治はものづくりの多方面にわたって活躍する。それゆえにEXPO用の資料整理に際しては、膨大な資料が「発掘」されている。たとえばごく初期のアイデアメモでも、作品が誕生した瞬間をとらえた貴重な資料である。今回は、それすらも展示してしまおうというのだ。

「一般的な展覧会と違うのは、試行錯誤の過程を展示するということです。デザインのラフや絵コンテだけではなく、その前段階である企画メモや取材の記録、それこそ世に出なかった企画もお見せします。完成度重視で『ラフや企画書を出したくない』という方も多いと思いますが、自分は試作機が大好きなのでどんどん見せたいタイプ(笑)。ぜひアイデアがひらめく瞬間から、試作段階を通じて完成に至る流れを見てほしいですね。特に企画や作品がなかなか通らずに悩んでいるクリエイター志望の方は、ぜひチェックしてください。『ここまでつくり込んでも没になるんだ……』ということがわかってもらえると思います(笑)」

 展示に向けた準備のさなか、河森は自身の記憶にないほどの膨大な資料を目の当たりにして、クリエイターになる以前の自分を思い出していた。'75年の春休み、10代半ばの河森少年は、当時のアニメシーンにおいて、SF・メカニックデザインの最先端にいた「スタジオぬえ」を訪れる。これが河森の運命を変えた。

「自分自身はアポロ計画にあこがれて宇宙開発を志していましたが、数学と英語が苦手だったのは致命的でしたね。ただ、仮に宇宙開発に携われたとしても、必ずフォン・ブラウン(『アメリカ宇宙開発の父』とたたえられる科学者)のように、アポロ計画の中心的な役割を果たす人物になれたという保証はありません。ところが日本のアニメーションは、鉛筆1本ですべてを生み出すことができるんです。今でも覚えているのは、初めてスタジオぬえを訪れた日のことですね。『宇宙戦艦ヤマト』に感動して、友達とスタジオ見学に行ったのですが、これがとんでもなく狭いボロアパート(笑)。でも、この小さな場所から鉛筆1本で世界を動かす最先端のSFが生み出されているという衝撃は、今も忘れることはできません」

 '70~'80年代におけるオリジナルアニメとは、基本的におもちゃを売るためのロボット、メカアニメのことを指す。ゆえに当時のスタジオぬえは、何本ものラインを抱えていた。

「スタジオぬえは企画会社ということもあり、10代の若いころから作品全体を見るポジションにかかわれたことはラッキーでした。当時は同時に4~5作品を掛け持ちするのは当たり前で、全話のシナリオ、コンテを読むわけですから、自然とコツはつかめてきますよね。また、アニメ関係だけではなく、出版社やおもちゃメーカーといったクライアントの方と、直接打ち合わせができたことも大きかった。ジャンルやカテゴリを超えた考え方は、自分の資質に合っていました」

コンセプトこそが作品づくりの神髄


 多作品に並行して携わることは、コンセプトの重要さを刻み込んだ。それはデザインだけではなく、作品づくりのすべてに通じること。それはEXPOの展示でも、ぜひ感じ取ってほしい点だと河森は語る。

「こうして今までの作業を振り返ってみると、自分は誰も見たことがないコンセプトや設計図をつくる作業が好きなんだということがわかりますね。作品や世界観、メカやキャラクター、そして演出方法にしても新しいコンセプトで表現することに興味があるんです。それらすべてが『デザイン』といえます。本当の意味でのデザインとは、世界観やコンセプトまでを含めたものです。外観を整えるのは、あくまでスタイリングの作業。メカデザインでたとえるなら、『機動戦士ガンダム』におけるモビルスーツのデザインは、スタジオぬえのパワードスーツをヒントに、富野(由悠季)さんと大河原(邦男)さんが作品世界に合わせたコンセプトからデザインしたものです。『機動戦士ガンダム0083 STARDUST MEMORY』で自分が担当したのは、初代のデザインベースに0083の物語に合わせて自分なりにスタイリングを考えていった、というスタンスです」

 コンセプトや世界観、物における役割まで加味したものをデザイン、それに対して外観を中心に表面を整えるのはあくまでスタイリング。これはアニメシーンではメジャーではないが、カーデザインなどでは一般的な考え方である。

「コンセプトの違いがわかりやすいのは、同時期に作業をしていた『超時空要塞マクロス』のVF‐1バルキリーと『クラッシャージョウ』のファイター1でしょうね。VF‐1は『人型ロボットに変形する』というキャラクター性の強い要素があるので、ファイター形態はより航空機的です。ですがファイター1はスペースオペラ色の強い作品のメカであり、変形などのギミックがありません。そこでよりキャラクター性を高めるために、意図的に空力重心をズラして、ウイングボディとすることで成立させている。航空機としては少し〝噓〟をつくことで、キャラクター性を高めているわけですね。作品はどんな世界観なのか、何のためにつくられたのか、どんなキャラクター性が必要なのか……。今回は両機を並行してデザインしているラフも展示予定です。同じ航空機を題材としながらも、デザインが大きく異なることがわかっていただけると思います」

 ジャンルの異なる多彩な作品を手がけることは、クリエイター河森正治の大きな魅力である。EXPOでは、まるで外国を巡るように、文化の違いが感じ取れるという。

「掛け持ちが当たり前だったこともあって、並行して異なる作品の作業を進めることは普通に受け止めていました。ただ、作品が変われば世界観が変わるし、文化体系も変わります。それを並行して行なうのは、いくつもの国々を越境して行き来する感覚に近いかもしれません。たとえるなら『マクロス』シリーズはEU(欧州連合)、『アクエリオン』シリーズはアジアやインドのノリですね(笑)。自分の場合、文化のギャップを楽しめるタチなので、複数の世界観を行き来することは世界を旅している感覚に近いものがありました。今回のEXPO=世界万国博覧会というタイトルもイメージどおりですね。たとえばK‐40ドームシアターでは以前からずっとやりたかった全天映像に初めてチャレンジ。作品の枠を超えてマクロスやアクエリオンたちが活躍する熱いショートムービーをお見せします。お蔵入りになった幻の企画も展示する予定ですので、ぜひご来場いただければと思います」

【インタビュー=河合宏之 写真=神保達也】

■河森正治EXPO
開催期間:2019年5月31日(金)~6月23日(日)
開催時間:10:00~20:00(最終入場19:30)
     ※期間中毎週月曜10:00~19:00(最終入場18:30)
     ※5月31日(金)のみ13:00開場
会場:東京ドームシティ Gallery AaMo
入場券:ローソンチケット、アニメイトオンラインショップにて販売中
一般入場券:前売り…1800円/当日…2000円
K-40 ドームシアター付き入場券:前売り…2200円/当日…2400円
※K-40ドームシアターでは、新作映像を含む河森正治EXPO限定の特別映像を上映します
※5月31日(金)以降は、すべて当日券価格のみでの販売となります
主催:株式会社サテライト
特別協賛:株式会社SANKYO
協賛:網易ニュース ジャパン
後援:TOKYO MX

リンク:河森正治EXPO 公式サイト
    公式Twitter・@kawamoriexpo
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