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これは音響アトラクション!? 「ガールズ&パンツァー 最終章 第1話』【Dolby Atmos & DTS:X】公開記念先行上映会レポート

3月29日(木)、イオンシネマ幕張新都心で「『ガールズ&パンツァー 最終章 第1話』【Dolby Atmos & DTS:X】公開記念先行上映会」が開催され、上映後には音響監督の岩浪美和氏、音響効果の小山恭正氏、録音調整の山口貴之氏が登壇するトークショーが行われました。

このイベントは2017年12月に公開されたアニメ『ガールズ&パンツァー 最終章 第1話』(以下、『ガルパン』)の音響アップデートバージョンの先行上映会です。イオンシネマ幕張新都心ではこれまで、7.1chサラウンド音声対応版の『最終章 第1話』と、9.1chサラウンド音声版などが上映されてきましたが、今回はさらにパワーアップ。前後左右はもちろんのこと、劇場の天井にもスピーカーを配するサラウンドシステム「DOLBY ATMOS」にアニメの音声を対応させることで立体的かつ臨場感あふれる音場を実現しています。

上映後、岩浪氏が「『ガルパン』をATMOSでやりたかった理由がわかったでしょ?」と笑った通り、その効果は絶大です。天井にスピーカーを設置したことで前後左右上下に音を振り分けられるようになった上に、ATMOSシステムは登場人物の声や物体から鳴る音声など、あらゆる音の要素(オブジェクト)を空間の自由な位置に音を配置できる「オブジェクトベースオーディオ」という機能を搭載。戦車の上に高々と掲げられた旗がはためく音は確かに頭上数メートルの場所で鳴っているように感じられ、また主観視点で描かれる戦車が突如砲撃されるシーンでは、映像中に敵車輌や砲弾は描かれていないものの、その砲弾が左ななめうしろ数十メートル奥の上方からスクリーン中の戦車に着弾する様子を音のみでリアルに再現しています。

小山氏によると今バージョンの『最終章 第1話』では多くの層にDOLBY ATMOSを体感してもらうために、よりわかりやすいATMOSを目指して音響効果パートをリニューアル。DOLBY ATMOS対応のハリウッド映画の中には10前後の音声オブジェクトしか用意していない作品も珍しくない中、本作では数百にも及ぶ音声オブジェクトを三次元空間中に配置したといいます。また岩浪氏が「イオンシネマ幕張新都心のようなATMOS対応の劇場がありながら、そこで公開できる日本映画がない」と危機感を示せば、山口氏が「この作品に日本の映画音響の未来がかかっているのかもしれない」と続けるなど、トークショーで3人は終始、ATMOS対応のガルパンに大きな自信を伺わせていました。事実、その音響は圧巻のひと言。4月7日(土)から全国19の劇場で一般公開されているので、初めて『ガルパン 最終章』に触れる人はもちろん、すでに5.1ch版、7.1ch版を劇場で鑑賞した人も、Blu-rayやDVDを持っている人も劇場に足を運んでみてはいかがでしょう。まさに「ガルパンはいいぞ!」と唸らされる1作に仕上がっています。

なおイベント終了後岩浪氏、小山氏、山口氏へのインタビューが行われました。

——念願のATMOS版が上映の運びになりました。

岩浪:この3人のチームでアトモス作品を手がけるのは3本目なんですけど、「『ガルパン』をATMOSでやりたい」という強い思いがあったので感無量です。ようやくゴールに到達できた記念日ですね。

——これまでのガルパンとは違う、ATMOS版らしさはどこにありますか?

山口:僕らのような音響の仕事をしている人間でも、初見の映画で「あっ、これATMOSだな」って確信を得るのってすごく難しいんです。それだけにほかのATMOS対応映画に倣うと、音の仕事をしていない方々に「ATMOSだ」って理解していただくのは難しいな、と思いまして。しかも今回の『ガルパン』が、たいていのアニメファンに対するATMOSのお披露目の場になるはずなので、とにかく音場の違いをわかりやすくするために、ATMOSらしさを強調するように表現してみました。

小山:最近のハリウッドはどちらかというとATMOSを派手に使うのではなく、上品に音を聴かせる方向に走っているので、その逆を目指しましたね。

山口:表現方法を拡げてくれる新しい規格が登場すると、エンジニアっていろいろやってみたくなるんですよ(笑)。5.1chサラウンドもそうでしたよね。出始めの頃はみんないろんな実験をしていたんだけど、年月が経って今の映画のように落ち着いた表現が確立されるようになった日本ではまだATMOSは入り口の段階だからこそ、はっきりと「これがATMOSだ」と主張できる表現にしたかったんです。

小山:3年前に公開した『ガールズ&パンツァー 劇場版』は2時間のうち半分以上が戦闘シーン。画が派手だったので、それに従って音を付ければ十分映えたんです。だから最近の映画のセオリー通り、素直でキレイな5.1chサラウンド音声を目指していたんですけど、今回の『最終章 第1話』は尺が47分。『劇場版』に比べると戦闘シーンが短くなるので、音もキレイなだけでなく激しく……。

岩浪:ぶっちゃけると「音響アトラクション」なんですよ。『劇場版』に比べるとアクションシーンが短くなるから、それを音でいかに印象的にするか? ATMOS化によってより表現が多彩になって格段に音の情報量が増えているので、その点だけでも体験していただく価値はあると思っています。

——作画チームもATMOSに大きな期待を寄せている、と。

岩浪:絵コンテの段階で水島(努)監督も「ATMOSになったらどういう音が鳴るんだ?」「4DXならどうなんだ?」ということを想定しながら映像を構築していただいているので、音も作りやすいんですよね。

——では、ATMOSに対応したことで理想の音響を構築できた?

岩浪:「本当に聴かせたかった音はこれだぜ」というか、我々が本当に提供したかった、今のテクノロジーで考え得る限りの理想形、音としての最良の形になったな、とは自負しています。

——確かにATMOS版の『最終章 第1話』は音の解像度と定位感が素晴らしいし、音の数も増えたように感じました。

小山:でも音の数はあまり足してないんですよ。ATMOSならこれまであった音をそれぞれのスピーカーに振り分けるだけで、メリハリを効かせられるし、これまでほかの音の下にもぐって聞こえにくくなってしまっていた音もしっかり聞かせられるようになるんです。

岩浪:単純な数字の比較をしてしまうと、7.1chサラウンドの場合、8つしか音の発生源がなかったわけです。ATMOSならが空間中に自由に音を配置できる。特別な体験を提供できるものになったとは思っています。そもそもなぜATMOS版の映像作品を作りたかったかというと、今までエンタテインメントの表現というのはテクノロジーの進化によって進化がもたらされてきたんですよね。

——映画やテレビが発明されたから映像コンテンツが制作されるようになった、というように。

岩浪:はい。原始人が壁に絵を描くことから始まって、紙が発明されたら紙に描くようになり、カメラが登場したら写真を録ってみる。そしてその絵を動かしてみる、というふうに進化したわけですよね。ところが、映画の音響に関するテクノロジーの進化はここ最近ずっとなくて。5.1chサラウンドも四半世紀以上前に開発されたフォーマットですし。それから4〜5年前にようやくATMOSというテクノロジーの登場という大きなレボリューションが起きた。そしてATMOSに対応した劇場……いろいろな音声表現を自由にできる劇場が日本にも続々とできていているのに、日本の映画界は誰も反応していなかったというのが、たまらなくイヤだったんです。素晴らしい劇場があるのにそれに対応した作品を作らない……F1サーキットがあるのに軽自動車しか走らせないような状況はクリエイターとして怠慢だと思っていて。だから最高の劇場で最高の音を流すということは是が非でもやりたかった、未見の方や映画音響に興味のある方は一度体感していただきたいな、と思っています。

——最後にATMOS版だからこそのオススメシーンはありますか?

山口:知波単学園の会議シーンですね。あのクロストークって7.1ch、5.1サラウンドだともっとモヤっとしちゃうんです。

小山:地下で井澤詩織さん(園みどり子)を追いかけるところと、戦車の主観の場面を観ればATMOSの実力がわかると思います。

テキスト・撮影/成松哲

■「ガールズ&パンツァー」最終章
リンク:「ガールズ&パンツァー」最終章公式サイト
※上映終了している劇場もありますので、公式サイトにてご確認ください。
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