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シグレさんの常識人ぶりに目頭が熱くなる「旗揚!けものみち」最新話。何だかんだで、毎回助け舟を出してくれるギルドマスターも物好きですね。今回の相手は魔獣グリフォン。その鋭い口ばしとツメに、百戦錬磨の源蔵さんもまさかの敗北!? さっそく、リングアナウンサー村田晴郎氏にその戦いを語りつくしてもらいましょう!
第4話でございます。
アルテナ姫が城内で「尻姫」と呼ばれていますが、尻よりも首の具合は大丈夫なのでしょうか?
プロレスラーは全身の筋肉を鍛えますが、特に首の筋肉は重要です。
プロレス技は頭から落としたり、後方に倒したりするものが非常に多いです。
頭から落とされると、相手の力と自身の体重が首にのしかかります。首の筋力が弱いとその力を支えきれず、頸椎に重大なダメージを負ってしまいます。
投げ技などで背中からマットに叩きつけられた時は、首の力で顎を引いている状態をキープして、後頭部がマットに激しく打ち付けられないようにします。
打撃技を頭部や頸部にもらってしまった時は、首の筋力があれば頭部の揺れを最小限に抑えられるのです。
肉体同士が激しくぶつかり合う衝撃は脳に伝わります。頭をぶつけた時にクラクラするのはそのせいです。その衝撃をなるべく軽減するために、プロレスラーは頭部を支える“首”を鍛えるのです。
首の筋トレにはさまざまな方法がありますが、高重量のバーベルをガンガン持ち上げるような派手さはなく、コツコツと地道にやらなくてはならないトレーニングばかりです。その積み重ねが、強靭な太い首を作るのです。
プロレスラーがジャーマン・スープレックスやラリアットやDDTを食らって試合に負けたとしても、無事(無傷ではないが)でいられるのは、ひとえにその頑丈な肉体、特に鍛え抜かれた首の力があることは知っておいてください。
では、今回のプロレス技解説にいきましょう。
バイトの命令を断ろうとしたカーミラに源蔵さんがかけた技は「ロメロ・スペシャル」。日本名は「吊り天井固め」と言います。
劇中では一気に極めていますが、あの状態になるまでの過程があります。
まず、うつぶせになった相手の両膝の上に自分の足をそれぞれ乗せて、相手の爪先を自分のふくらはぎの裏側に回して固定します。
そして相手の両腕を捕まえて一気に後方へ引っ張り、マットに背中をつけ、腕と脚の力で相手を持ち上げることで完成です。背骨を痛めつける技ですが、両肩と両膝にもダメージがあります。美しい技ですね。プロレス技の芸術品とも呼ばれています。
グリフォン討伐の道中でも、源蔵さんはカーミラにプロレス技で折檻します。
頭上に抱え上げて背骨をへし折らんばかりに痛めつけたのが「アルゼンチン・バックブリーカー」。
自分の両肩の上に相手を仰向けに持ち上げて、相手の顎と太腿あたりをつかんで下に引っ張って身体を弓なりに反らせることで、背骨に大ダメージを与える技です。
腕の力で反らせるだけでなく、脚の力で上下にゆっさゆっさと揺らし、相手の腰に更なるダメージを加えることもあります。
なぜ「アルゼンチン」なのかといいますと、これまたジャーマン・スープレックスと同じで、技の創始者がアントニオ・ロッカ(*1)というアルゼンチン人プロレスラーだったからです。
ちなみに、このアルゼンチン・バックブリーカーは日本ではかなり有名なプロレス技です。
マンガ、アニメ好きの方はどこかで見た気がしませんか?
そう、マンガ「キン肉マン」に登場する英国出身の超人、ロビンマスク(*2)の必殺技「タワーブリッジ」です。アルゼンチン・バックブリーカーの名称は知らなくても、タワーブリッジは知っているという方は多いのではないでしょうか。
源蔵さんが手でカーミラの頭を鷲掴みにしていた技は「ブレーン・クロー」。
掌で相手の顔面をつかみ、握力でこめかみを押し潰さんばかりに締め上げる技です。
シンプルな技ですが、手が大きく握力のある選手がやると必殺技になります。
こめかみを力任せにつかまれる痛みはもちろん、頭蓋骨を圧迫されることで頭がぼーっとしてきて、最後には意識を失うこともあるそうです。まさに「脳(ブレーン)に爪(クロー)を突き刺す」恐怖のプロレス技です。
カーミラの次くらいに源蔵さんの餌食になっているのが、凄腕ハンターのカゲロウさん。
今回は源蔵さんに「パイルドライバー」でKOされました。
相手を前屈みにさせ、相手の頭を自分の股の間に挟みます。相手の胴体を両腕で抱えて持ち上げ、そのまま軽くジャンプしてマットに尻もちをつき、相手の脳天をマットに突き刺す技です。古くから使用されている歴史の長いプロレス技ですが、その破壊力は抜群。今でもフィニッシュホールドとして使用しているプロレスラーは多いです。
技名はビル建設の基礎工事などで使用される重機、「杭打機」の英語名からきています。
物語の後半、グリフォンの攻撃に耐える源蔵さん。
両腕で上半身を隠すようにガードしていましたが、あれはキン肉族に代々伝承されている鉄壁の守備技「肉のカーテン」(*3)でしょう、どう見ても!
タワーブリッジといい、「今回はさりげなくキン肉マンネタを入れてきたな」と、ニヤリとしてしまうシーンですね。
そんな源蔵さんを見て、花子が「なんで源蔵さんはそんなに頑丈なんですか?」と驚きます。それに対し源蔵さんは「それは……鍛えているからだー!」と答えます。一見、普通のやり取りと思えるこのセリフも、実はプロレスネタです。
「鍛えてるからだー!」はDDTプロレスリング所属のプロレスラー、HARASHIMA選手(*4)の口癖です。どんな時に使うのか?その一例をご紹介しましょう。
試合に勝利したHARASHIMA選手がマイクアピールをします。
HARASHIMA「次も勝ってやるさー!」
観客「なんでー?」
HARASHIMA「勝って、チャンピオンになってやるさー!」
観客「なんでー?」
HARASHIMA「チャンピオンになってもっともっとDDTを盛り上げてやるさー!」
観客「なんでー!!」
HARASHIMA「なんでかって?それは……鍛えてるからだー!!」
「ジャーン♪」(HARASHIMA選手のテーマ曲が流れる)
……と、こんな感じです。
メインイベント(大会の最後の試合)でHARASHIMA選手が勝利すると、高確率でこのやりとりが繰り広げられます。
ちなみに予告に登場するリアル・ケモナーマスクが同じセリフを言いますが……、偶然です、たぶん。
今回はここまで!次回も楽しみですね!ケモナーマスク、Go Fight!
最後に、これをご覧の皆さまは絶対に真似をしないように。技を仕掛けた側も仕掛けられた側も共に不幸な結末が待っています。ケモナーマスクのようになりたければ身体を鍛えてプロレスラーになりましょう。「Please don‘t try this at home.」約束ですよ。
<注釈>
(*1)アントニオ・ロッカ
1940年代から1970年代に米国で活躍したプロレスラー。イタリア系アルゼンチン人。
日本で試合をすることはなかったが、米国での超人気っぷりと、アルゼンチン・バックブリーカーの創始者として、日本でもその名は知れ渡っていた。1977年3月、49歳で死去。
(*2)ロビンマスク
マンガ「キン肉マン」に登場する英国のエリート超人。騎士のような鎧のマスクが特徴。
キン肉マンのライバルであり、友情パワーで結ばれた仲間。得意技はタワーブリッジ、ロビンスペシャル。
(*3)肉のカーテン
マンガ「キン肉マン」の主人公、キン肉スグルが使用する防御技。上腕を前方に構えるポーズをすることによって、相手の攻撃をほぼ無効化する。一見、上半身だけをガードしているように見えるが、全身の防御力が格段にアップする超人技である。キン肉マンファンなら一度は真似したことのある技。
(*4)HARASHIMA選手
DDTプロレスリング所属のプロレスラー。DDTの黎明期から活躍し、団体を代表するトップレスラーのひとり。年齢非公開のため実年齢はわからないが、見た目はさわやかな好青年。キャリアを重ねても驚異的な若々しさをキープし続けている。11月3日の両国国技館大会では、メインイベントでタイトルマッチ。勝利すれば「鍛えてるからだー!」が見られるかも。