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今週の「旗揚!けものみち」はなんと現実世界からのスタート。原作には登場しないアニメオリジナルキャラ「MAO」を掘り下げる回でした。そして彼も、まさかの異世界へ……? 謎が深まる展開だった第5話、さっそく「プロレス目線」での実況を、リングアナウンサー村田晴郎氏にお願いしましょう!
お待たせいたしました。いや、お待たせしすぎたかもしれません。第5話はMAO回でございます! ついにMAOが喋りましたよ! 稲田徹ボイスで! ユニバース!!
ところでMAOこと「マカデミアン・オーガ」というリングネームは、いったいどういう意味が込められているのでしょう? マカダミアナッツが鬼(オーガ)ほど好きなのか、それともマカダミアナッツの主要生産地であるオーストラリアかハワイに何か密接な関係がある人物なのでしょうか? 謎です。ちなみに実在のプロレスラー、MAO選手は本名の「井上麻生」からきています。
アニメのMAOはケモナーマスクに連敗中というか、一度も勝利したことがない模様。
回想シーンだと毎回白目を剥いてKOされているので、そりゃもうイイワケのきかないくらいの「完敗」を喫しているのでしょう。
第1話の冒頭でも描かれたケモナーマスクとMAOの試合は「世界タイトルマッチ」でした。控室でプッシュアップ(腕立て伏せ)を繰り返し、闘志と肉体をアップするMAO。その表情には「今度こそ勝つ」という強い気持ちと共に、「絶対に負けられない」という焦りも見えます。
対するケモナーマスクは余裕です。余裕というか、プロレスで金を稼いで、ペットショップを開店することしか考えていません。
なんですかリング上のあの構え。両腕をあげてゆらゆらさせている。「ファイプロ」(*1)の「ミステリアスタイプ」(*2)か。ひたすら怪しいだけで、緊張感は皆無。
MAOを特別な相手、ライバルとして見ていないのは明らかです。そんなケモナーマスクを見るたびにMAOは「舐めやがって!」と悔しさと怒りを募らせてきたのでしょう。
でも違うんだ、MAO。ケモナーマスクはあなたが弱いからそんな態度をとっているんじゃないんだ。
異世界に来てからの源蔵さんの言動を見ればわかるように、源蔵さんは基本的に他人に関心がない、ウルトラ自己中野郎だ。心のパラメーターを、もふもふのケモノに対する愛情に全振りしている。だがMAOはそれに気が付いてない。ちなみにシグレはすぐに気が付いた。かわいそうなMAO……。
そんな片思いのMAO、リング上で消えたケモナーマスクに対して記者会見で怒りを爆発させています。「決着をつける!」と息巻いていますが、過去何度も決着はついていますよね?
まぁ今回は並々ならぬ覚悟で試合に臨んでいたのでしょう、そう言いたい気持ちはわかります。でもね、マイクを叩きつけるのはいけません。職業柄、許せません。ダメ、絶対。
実際のプロレスにおいても、リング上のマイクアピールは重要です。
対戦相手に対してだけでなく、観客やマスコミに対するアピールでもあるだけに、会場全体にその言葉を伝えるにはマイクは必須です。
試合後の選手は興奮状態でマイクを握ります。今回のMAOと同じです。
「これで勝ったと思うなよ! 次の後楽園ホールで決着戦だ!!」などとアピールをし、怒りの感情を込めて手にしていたマイクをリング上に叩きつける光景はよくあります。
プロレスラーのパワーで叩きつけられたマイクはどうなるか? 高確率で壊れます。
さらに叩きつけた衝撃音がスピーカーから「ボン!!」と響き「キーーーーン!」とハウリングを起こします。スピーカーにも大ダメージです。マイクは会社もしくは会場の備品です。壊したら買い替えもしくは弁償です。
まぁ、威勢よくアピールしたあとに、壊さないようにそっとマイクを置くのもあまりかっこよくはない。難しいところですが、職業柄「マイクは大切に扱う!」と教えられてきただけに、プロレスラーがマイクを持つとハラハラしてしまいます(笑)。
では恒例のプロレス技解説にいきましょうか!……と言いたいところですが、今回はこれといったプロレス技がないんですよね。次回予告でも「プロレス技の再現」ではなく「記者会見の再現」ですし。
初出のプロレス技はあったかな?と探したところ、ありました。
MAOのトレーニング風景の中でスパーリング時に一瞬出てきた技、「ボストンクラブ」です。
日本名は「逆エビ固め」。仰向けに寝ている相手の両脚を自分の両脇に差し込んで固定し、その状態で相手を裏返して反り返すことで相手の腰にダメージを与える技です。
プロレスの基本的な技で、まだ持ち技の少ない若手選手が使うことが多いです。
それなりのキャリアを積んでいると思われるMAOが大一番を前に特訓するような技ではないように思えますが、もしかすると基本的な技に更なる磨きをかけることが打倒ケモナーマスクの秘策だったのかもしれません。原点に立ち返る的な。
プロレス技ではないですが、個人的に一番グッときたシーンがあります。
源蔵さんの愛犬ひろゆきの誘拐を企てたヴォルフガングを、ジャイアントスイングでぶん投げた源蔵さんは「久々にプロレスっぽいことやっちまった」とつぶやきます。
「今まで散々プロレスっぽいことしてただろ!」と突っ込みたくなりましたが、実はこのシーンには深い意味が込められています。
源蔵さんが言った「プロレスっぽいこと」の意味は、「観客の前で技を披露し、歓声を受けたこと」だと思います。
街中で対戦相手(ヴォルフガング)に技を仕掛け、勝利(?)した源蔵さんに見物人から湧き上がる歓声。源蔵さんは思わず拳を突き上げ勝利のアピールをします。
この瞬間、久しく忘れていたプロレスラーとしての快感を思い出したのでしょう。
プロレスは観戦するお客様がいて成り立つ闘いです。プロレスラーは強いですが、観客の声援はプロレスラーをさらに強くします。相手の猛攻にさらされボロボロになり心折れかけても、観客の声援がプロレスラーに闘う力を与えてくれるのです。
「もうダメだと思ったけど、あのファンの大歓声があったから頑張れた」とプロレスラーはよく言います。
普段は変態にしか見えない源蔵さんの、プロレスに対するピュアな思いを垣間見た名場面ですね。
さて、次回はいよいよMAOが異世界に! プロレスラーとしての血が騒いだ源蔵さん、いやケモナーマスクとどんな闘いが待ち受けているのか? 楽しみですね!
最後に、これをご覧の皆さまは絶対に真似をしないように。技を仕掛けた側も仕掛けられた側も共に不幸な結末が待っています。ケモナーマスクのようになりたければ身体を鍛えてプロレスラーになりましょう。「Please don‘t try this at home.」約束ですよ。
<注釈>
(*1)ファイプロ
スパイク・チュンソフト開発の、プロレスゲームの略称。正式タイトル名は「FIRE PRO WRESTLING」。実際のプロレス再現度の高さと、マニアックな作り込みが特徴。それゆえにプロレスファンの評価は非常に高い。現在の最新作は「FIRE PRO WRESTLING WORLD」。PS4とSteamでプレイできます。
(*2)ミステリアスタイプ
ファイプロでは自分の好きなプロレスラーを作ってプレイできる「エディットモード」がある。そこで選択できるファイティングポーズのひとつ。動きが非常に怪しい