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アヌシー国際アニメーション映画祭選出も「チャレンジングな作品」――映画「ホウセンカ」完成披露試写会レポート


去る'25年9月4日、東京・新宿バルト9にて長編オリジナル劇場アニメ「ホウセンカ」の完成披露試写会が行われました。
アヌシー国際アニメーション映画祭の長編コンペティション部門にも選出された同作は、'21年に放送されて話題となったTVアニメ「オッドタクシー」の木下麦監督(兼キャラクターデザイン)と脚本の此元和津也さんが再びタッグを組んだ完全オリジナル作品。
独房で死を迎えようとしていた無期懲役囚の元ヤクザ阿久津実は、なぜか人の言葉をしゃべるホウセンカとの会話を通じて自分の過去を振り返っていく……裏目続きだった男が最後に懸けた人生大逆転の一手とは?
過去と現在が交錯しながら展開していく、予測不能でありながら巧妙に伏線が張り巡らされた物語で、主人公・阿久津とヒロイン・永田那奈の “過去”と“現在”を、それぞれ小林薫さんと戸塚純貴さん、満島ひかりさんと宮崎美子さんが、そして人の言葉をしゃべるホウセンカをピエール瀧さんが演じています。
こうした豪華主要キャストの皆さんに木下麦監督も加わって、試写会上映前に行なわれた舞台挨拶の様子をとくとご覧あれ。

豪華キャストを魅了する
美しい余韻を持つ挑戦的な作品


現在パートの阿久津を演じた小林薫さん


司会の奥浜レイラさんの呼びかけを受けて、順にピエール瀧さん、満島さん、小林さん、戸塚さん、宮崎さん、木下監督が登壇。
まずは試写会に参加したお客さんに向けて、“現在パート”の阿久津を演じた小林さんが「ささやかなことが日常の中で大事で幸せなことなんだな、という思いにさせてくれる作品でした」とみずからの本作への感想を紹介。


過去パートの阿久津を演じた戸塚純貴さん


“過去パート” の阿久津役の戸塚さんは「今回、初めてアニメーションの声優をやらせていただきまして、とても幸せに思うことがたくさんありました。それを皆さんにも感じていただければいいと思います」と、お客さんに語りかけます。


過去パートの那奈を演じた満島ひかりさん


“過去パート”の那奈役の満島さんからは、'16年の劇場アニメ「ONE PIECE FILM GOLD」出演の際、「日本の、すごいクリエイターって、ここにいたんだ……!」とアニメ制作の世界に魅了され、それ以来毎日何かしらのアニメを観たり、制作過程を勉強してきたという逸話が披露され、同年代である本作の木下監督が「古い日本映画のような余韻のある、とてもいい作品を作ろうとしている姿に、一緒に関われることが嬉しくて」と本作に参加した喜びが述べられました。


現在パートの那奈を演じた宮崎美子さん


“現在パート”の那奈を演じた宮崎さんは「実写の映画で挨拶するよりも、いまドキドキしています。どんな風に皆さんに受け止めていただけるのか、ぜひ感想を聞きたいです」と口にされ、長いキャリアの中でも本作が独特な位置づけにあることが示されました。


ホウセンカ役のピエール瀧さん


ホウセンカ役のピエール瀧さんは、「美少女は出てきません。露出が多めの美女は出てきません。超能力も出てきません。鬱屈した主人公が特殊能力を手に入れて全開放して活躍するシーンも出てこないです。いま2025年にこの作品をアニメーション映画で劇場公開するということは、制作陣の皆さんにとってチャレンジングな作品になっていると思います」と独自の表現で本作を紹介した後「これを皆さんに届けられることは非常に光栄でもあり」「これから先は皆さんの感想が頼りでございます」とお客さんに働きかけました。


木下麦監督


それを受けて木下監督が「ピエールさんがおっしゃった通り、結構攻めた内容で、かつオリジナルの映画になっています。収録から2年ぐらい経ち制作を終えて、こうしてキャストの皆さんと集まることができて、本当に嬉しいです。良い映画になっていると思うので、楽しんでいってください」とまとめました。

小林薫とピエール瀧が放心状態?
豪華キャストの意外な裏話

続いて主要キャストの皆さんに、それぞれのキャラクターを演じた感想を尋ねてみると、小林さんからは「役を演じたという実感がない」という発言が飛び出しました。
「声だけの表現だから気を入れようと踏ん張ってしまって、放心状態で家に帰りました」と収録時の心情を語り、「翌日、ピエールさんも赤坂のスタジオから渋谷まで歩いて帰ったと聞いて、同じように放心状態と覚ますために歩いたんだとずっと思っていたら、さっき『僕は、仕事でもプライベートでも帰りはいつも歩くんですよ』と言われて」と笑みを浮かべながら漏らしていました。

一方のピエールさんも、「小林さんにアニメの声をやっているイメージがなかったものですから、『台本は、そーっとめくったらパラパラ音がしなくていいですよ』とアドバイスさせていただいたんです」という収録時のエピソードを披露。そして全部終わった後に「あ、この人、ジブリ(作品の声優を)やってる人だ!」と気が付いて恥ずかしい思いをしたと明かします。

今回、初めてアニメーションの声優に挑戦した戸塚さんは当初、発声や抑揚などアニメーションならではの芝居を想定していましたが、先に収録した小林さんの“現在”パートの演技を聴き、「もっと素直に自分の感じたまま演じさせていただこう」と考えを改め、「僕が思い描いていた阿久津像と、更に薫さんが声を乗せて作ってくれた阿久津」を繋げていくような気持ちで収録に臨んだと、当時を振り返ります。

“過去” の那奈を演じた満島さんが、 “現在”の那奈役の宮崎さんの収録現場を訪ねて、お互いの那奈像を話し合った結果「ともすれば強すぎて怖くなるくらいエネルギーのある女性の役の中にある純情な部分とか、柔らかい部分がお話しできて」那奈というキャラクターが膨らんだと語ると、宮崎さんも「二人でひとつの役をこさえたような感じ」と答えます。
また一緒に収録に臨んだ戸塚さんについて、満島さんは「現代にタイムスリップしてきた昔の役者さん」のようと、かねてより気になる存在だったそうで、朴訥で無骨な阿久津の役柄にも通じる、情報過多な今時の若者とは違ったその自然で「良い意味で空っぽな演技に救われた」とユニークな言い回しで称賛されていました。

小林さんとピエールさんの後に収録に臨んだ宮崎さんは「先ほどの小林さんが放心状態で帰ったという話を聞いていたので、それだけでプレッシャーでした」と苦笑しながら、掛け合いの収録時に「声優さんと違うので、ついつい(マイクではなく)相手の方を向いてしまうんですよね。小さなことなんですけれど、色々とあたふたすることはありました」と裏話を口にしました。


サプライズなお祝いに思わずニッコリ


ここで試写会当日に74歳の誕生日を迎えた小林さんに、サプライズで花束と木下監督がこの日のために描き下ろしたアニメの色設定画仕立ての小林さんの似顔絵が贈られました。
思いがけないプレゼントに、小林さんも「こんな嬉しいことはない。家宝にします」と満面の笑みを。
場内も盛り上がる中、上映時間も間近となったため、木下監督と戸塚さん、小林さんから最後に試写会に参加してくれた皆さんに向けてひと言ずついただくことに。

「静かで力強くて美しい映画になっていると思います。最後まで楽しんでいってください。今日は本当にありがとうございました」(木下麦監督)

「この映画に参加して僕が味わった感動を皆さんにも届けたいと思いますし、この『ホウセンカ』の輪が広がって欲しいと心から言える作品です。どうぞ皆さん最後までよろしくお願いします」(戸塚純貴)

「出演した方々も、それぞれの思いをお持ちだと思うんですけれども、これから上映されるこの作品で、皆さまがほんの少し幸せになった気持ちでお帰りいただければ幸いです。今日は本当にありがとうございました」(小林薫)

本編同様、予測不能なトークの連発で、満員御礼の客席も満足感に包まれて、完成披露試写会の舞台挨拶は幕を閉じました。
「ホウセンカ」は、'25年10月10日(金)より、新宿バルト9ほか全国劇場で公開予定です。


【取材・文/倉田雅弘】

映画「ホウセンカ」
10月10日より全国劇場で公開予定

スタッフ:
監督・キャラクターデザイン=木下麦 原作・脚本=此元和津也 企画・制作=CLAP 音楽=cero / 髙城晶平 荒内佑 橋本翼 演出=木下麦、原田奈奈 コンセプトアート=ミチノク峠 レイアウト作画監督=寺英二 作画監督=細越裕治、三好和也、島村秀一 色彩設計=のぼりはるこ 美術監督=佐藤歩 撮影監督=星名工、本䑓貴宏 編集=後田良樹 音響演出=笠松広司 録音演出=清水洋史 制作プロデューサー=伊藤絹恵、松尾亮一郎 宣伝=ミラクルヴォイス 配給=ポニーキャニオン 製作=ホウセンカ製作委員会

キャスト:
阿久津=戸塚純貴(過去)。小林薫(現在) 那奈=満島ひかり(過去)、宮崎美子(現在) 堤=安元洋貴 若松=斉藤壮馬 林田=村田秀亮(とろサーモン) 小西=中山功太 ホウセンカ=ピエール瀧


公式サイト https://anime-housenka.com
公式X @anime_housenka 
公式Instagram @anime_housenka 


Ⓒ此元和津也/ホウセンカ製作委員会

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