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映画「ハケンアニメ!」公開記念、原作:辻村深月インタビュー 「映画を観て、私が元気をもらいました」

2022年05月27日 22:30配信
映画「ハケンアニメ!」公開記念 原作:辻村深月インタビュー
映画「ハケンアニメ!」公開記念 原作:辻村深月インタビュー (C)2022 映画「ハケンアニメ!」製作委員会

 伝説の天才アニメ監督・王子千晴が、9年ぶりに挑む「運命戦線リデルライト」。同じ時間帯には、王子の作品に魅せられ、この世界に飛び込んだ新人監督・斎藤瞳の「サウンドバック 奏の石」が。果たして「覇権」を取る作品は―ー?
 ライフスタイル情報誌「anan(アンアン)」で連載された小説「ハケンアニメ!」が、このほど実写映画となった。2014年の刊行後、映画化が動き出し実に7年の歳月をかけたという本作。そこにはタイトルの由来「覇権を取るアニメ」へのこだわりと作品へのリスペクトがあった。現在公開中の本作について、著者・辻村深月さんにその思いを伺いました。

映画「ハケンアニメ!」より
映画「ハケンアニメ!」より(C)2022 映画「ハケンアニメ!」製作委員会

――映画公開、おめでとうございます。
辻村 ありがとうございます。映画は確かに私の小説が原作ですが、こんなにも……こんなにも、描(えが)きたかった姿で表現していただけて、映画チームに深く感謝しています。原作者ではありますが、私自身がとても元気をもらえる作品を送り出していただきました。アニメの現場を描いていますが、映画制作にかかわるスタッフさんだけでなく俳優のマネージャーさんたちまで「まるで自分のことのようだ」と言ってくださり、深く共感してくださっていて、作りながら、皆さんのその熱量がどんどん大きくなっていくような感じがありました。

映画「ハケンアニメ!」より
映画「ハケンアニメ!」より(C)2022 映画「ハケンアニメ!」製作委員会

――新人監督の斎藤瞳を吉岡里帆さん、天才と謳われた王子千晴を中村倫也さんが演じられています。
辻村 お二人をはじめ、皆さんの演技が本当にすばらしくて! 小説は地の文で登場人物の思いをつづりますが映画ではそこをモノローグやセリフに頼るのではなく、間とか表情ですべて見せてくれているんです。ああ、今、歯がゆいんだ、悔しいんだ、とすごく伝わってきて。行間をまるごと演じてくださっている。ラストのシーンも、主人公の瞳がひとつの作品を終えて戻ってきた日常で終わるのですが、それが、まさに私が描きたかった原作のテーマそのものが凝縮されたような場面で、感動しました。
 あと、クライマックス近くに、瞳が怒る場面があるんですが、ただ声を荒らげるんじゃなくて、怒りなれていない人が精いっぱい、怒っているという瞳の怒り方、感情の出し方で、それを表現してくれた吉岡さんは本当にすごいと圧倒されました。他にも、王子の、あの社会性はないけど場を引きつけていく感じとか、神作画を描くとされる和奈が、初デートで背伸びしておしゃれしてがんばっている感じとか……挙げていけばきりがないんですが、細部のリアリティーがとにかくすばらしいんです。プロデューサーの行城理も有科香屋子も存在感があって、佇まいがかっこいい。原作者として幸せを感じます。

映画「ハケンアニメ!」より
映画「ハケンアニメ!」より(C)2022 映画「ハケンアニメ!」製作委員会

――今回、「劇中プロット」として参加されています。
辻村 実は当初は、書く予定はなかったんです。通常、原作者はお任せしたら手を離すものなので。ですが映画のプロデューサーが私もチームの一員のように仲間に引き入れてくださって。もともと原作に対して熱い思いを伝えてくださっていましたし、なかでも、行城や香屋子の在りようにものすごく共鳴してくれて、「自分ごととして映画にしたい」と仰ってくださっていた方たちだったので、いろいろと意見交換したり、状況を報告してもらう中で、自然と作中アニメについても相談されるようになりました。

――どういった相談だったのでしょうか?
辻村 映画化が動き出してから、7年かかっているんですが、その大きな理由が、王子と瞳がそれぞれ手がけるアニメの制作が難航したためでした。最初から「絶対に映画には『サウンドバック 奏の石』と『運命戦線リデルライト』を登場させたい。それも、できることなら実際に〝覇権″が取れるクオリティーで」という熱意があって。ですが、当然、そういった作品がお願いできる方々のスケジュールが簡単にいただけるわけはなく……困ってしまって、私も、当時かかわっていた『映画ドラえもん のび太の月面探査記』の八鍬新之介監督に相談したんです。
 そうしたら「もし、僕が手がけるとしたら、全12話分、何が起こるのかが書かれたシリーズ構成と、第1話と最終話のプロットは最低限ほしい」と。確かに、それがたとえ5分であろうとシリーズ12話分だろうと、アニメを作るにあたってのキャラクターデザインや世界観を作る立ち上がりの労力はいっしょなんですよね。八鍬さんの言葉を受けて覚悟が決まり、だとしたら、それを書くのは私しかいないんだろうな、と、チームに申し入れました。

映画「ハケンアニメ!」より
映画「ハケンアニメ!」より(C)2022 映画「ハケンアニメ!」製作委員会

――結果、ご自身が書かれたとお伺いしました。
辻村 書き始めたら、すごく楽しかったです。自分がこれまでアニメの何に惹かれてどんな影響を受けてきたのかがすごく出たプロットになったと思います。こんな形でアニメの現場とかかわることができるんだ!と驚きましたし、書かせてもらえてよかった。プロデューサーからも「これを預かったからには必ず形にします」と約束してもらえて、結果、こちらの本気が伝わりやすくなった。そこまでできているなら、と、真剣に話を聞いてくださる方々が現われて、最終的には谷東監督と大塚隆史監督をはじめとしたすばらしい方たちに集まっていただくことができました。作中の声優さんも豪華すぎて、実写シーンで一瞬しか映らないのが本当にもどかしいくらい……。
 実は「ハケンアニメ!」執筆当時に、何のつてもないまま手探りで取材を始めた際に、最初にお話を伺ったのがProduction I.Gさんで。そこで制作進行の女性プロデューサーの存在を知り、取材をさせてもらったことで香屋子が生まれました。そして、今回、劇中の「リデルライト」をそのProduction I.Gさんに作っていただき、取材でお世話になった松下慶子さんに担当してもらえたんです。お客さんとしてお邪魔したスタジオに、今度は身内になって、実写のスタッフのみんなと帰ってこられたんだ、と胸がいっぱいになりました。
 映画の速報でアニメの一部が公開された際には、そうしたスタッフの方々に作ってもらったものが、クレジットでは「監督・斎藤瞳」とか「監督・王子千晴」と出るのがなんだか恐れ多くて。それぞれご自分のテイストがある第一線の監督の作品を、登場人物の監督作として使わせてもらえる。「これがどんなにすごいことか、わかってるか!」と瞳や王子には言いたいです(笑)。

――それらアニメ作品の視聴率を競って、実写映像の中をSNSの評判が駆け巡る場面に、こんな見せ方があるのか、と驚きました。
辻村 あれはもう、吉野耕平監督のセンスの賜物ですね。瞳と王子がイベントに登壇し、Web配信の反響が次々と映し出されるシーンも臨場感があってすごくいいですよね。執筆当時の2013年から比べるとアニメは配信も増え、コロナ禍もあり現場を巡る環境は変わった部分も多いと思うんです。ですが、作品への向き合い方や観ている人たちの受け止め方には普遍的に変わらないものが絶対にある。映画でも、そこは特に大事に描いてくれていると感じています。
 
――お話を伺っていると、それぞれの分野のプロフェッショナルが全力で挑んでいる……と感じます。
辻村 お仕事小説を書く時に、自分が一番大事にしたいと感じていたのが、そうしたプロ意識だったのかもしれないです。吉野監督が原作に惹かれてくださった理由のひとつに、アニメを作る人たちの日常が書かれていた点を挙げてくださっているんですが、みんながそれぞれの生活を送りながらプロとしての役割を果たす……映画でも、さっきまでそんなふうに見えなかった人が、あ、今プロのスイッチが入った、と思える瞬間がいくつも描かれていて、それがすごくかっこいいし、うれしかった。
 今回の実写化で感謝しているのは、映画になったからと言って物語の規模を単純に大きくするのではなく、あくまで、いいアニメや刺さる作品との出会いは個人的な体験であるということからブレないでいてくれたことなんです。作中の瞳のセリフにもありますが、「この世の中は繊細さがないところ」。心が疲弊することもたくさんあります。けれどそんな中でも自分を理解してくれていると感じられる作品は必ずあって、私自身も日々、それらに救われています。だから、この映画も、誰かにとってそんな〝刺さる″作品になることを、心から願っています。

映画「ハケンアニメ!」より
映画「ハケンアニメ!」より(C)2022 映画「ハケンアニメ!」製作委員会

プロフィール

●つじむら・みづき/1980年2月29日生まれ。千葉大学教育学部卒業。2004年「冷たい校舎の時は止まる」でメフィスト賞に輝きデビュー。2011年「ツナグ」で吉川英治文学新人賞、2012年「鍵のない夢を見る」で直木三十五賞、「かがみの孤城」で本屋大賞を受賞。主な著書に「スロウハイツの神様」、小説「映画ドラえもん のび太の月面探査記」など多数

☆発売中のニュータイプ6月号にて、「ハケンアニメ!」のスピンアウト小説「レジェンドアニメ!」(マガジンハウス刊)についての辻村深月さんへのインタビューを掲載中です。

小説「レジェンドアニメ!」

小説「レジェンドアニメ!」カバー
小説「レジェンドアニメ!」カバー

アニメ制作現場で働く人々の姿を描き、2015年、第12回本屋大賞3位に輝いた「ハケンアニメ!」のスピンオフ小説集。彼らの過去、現在、未来へと続く日々がつづられる。「九年前のクリスマス」「声と音の冒険」「夜の底の太陽」「執事とかぐや姫」「ハケンじゃないアニメ」「次の現場へ」6編を収録(マガジンハウス刊/税込1760円)

【取材・文:おーちようこ】

映画「ハケンアニメ!」
●全国公開中

スタッフ:原作…辻村深月「ハケンアニメ!」(マガジンハウス刊)/監督…吉野耕平/脚本…政池洋佑/音楽…池頼広/主題歌…ジェニーハイ「エクレール」(unBORDE/WARNER MUSIC JAPAN)/制作プロダクション…東映東京撮影所/配給…東映

キャスト:斎藤瞳…吉岡里帆/王子千晴…中村倫也/宗森周平…工藤阿須加/並澤和奈…小野花梨/群野葵…高野麻里佳/行城理…柄本佑/有科香屋子…尾野真千子

ストーリー:連続TVアニメ「サンドバック 奏の石」で夢の監督デビューが決定した斎藤瞳。最高のアニメを届けたいという思いから日々、アニメ制作に奮闘していた。最大のライバルは、瞳もあこがれる天才・王子千晴監督の復帰作「運命戦線リデルライト」。瞳はひと筋縄ではいかないスタッフや声優たちも巻き込んで、“ハケン=覇権”を争う戦いを繰り広げる! はたして瞳の思いは人々の胸に刺さるのか……?

リンク:映画「ハケンアニメ!」公式サイト
    公式Twitter・@hakenanime2022