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カブラギの決意は、サイボーグたちを、ナツメをいかに動かすのか……。物語が再び大きく動き出した「デカダンス」。本作の魅力を掘り下げるリレー連載第12回は、サイボーグデザインの押山清高さんにお話を伺いました。個性的なデザインが光るサイボーグたちは、どのようにして生まれたのでしょうか!?
――「デカダンス」という作品の第一印象はいかがでしたか。
押山 僕が参加したときはシナリオがまだ途中の段階だったと思いますが、未知の生物と戦う人間の世界とそれをゲームとして楽しむサイボーグたちの世界があり、その対比を描くというお話や、サイボーグ世界は自分の体を修理して作り替えながら生きているので、死という概念がない世界というお話をざっくりと教えていただきました。キャラクターづくりにおいては、サイボーグも中身は人間と変わらないので個別に性格づけをしてしまっていいと言われたのを覚えています。
――どんなところに魅力を感じましたか。
押山 現実世界に別のレイヤーが広がっているという設定が面白いですよね。ゲームでアバターをつくったり、自分の分身みたいな存在をネットに作り上げたりするのがゲーム感覚で当たり前の時代ですから、今だから作れる物語だったり世界観はあるなと思いました。
――サイボーグデザインについて、立川譲監督や角木卓哉プロデューサーからどんなオーダーがあったのでしょうか。
押山 立川監督から映画「ミニオンズ」のミニオンのようなデザインをイメージしていると伺って、なんとなく鳥山明さんの「Dr.スランプ」が思い浮かんだんです。「Dr.スランプ」は昔よく見ていましたし、そういう路線だったらいけそうだぞ、と。自由度の高いデザインのお話だったので、なるべく昨今のアニメ作品と似通わなくて、かつ自分がアニメーターとして描きたくなるようなポップなものを描ければいいなと思いました。
――デザインをされる上で、素体のデザインは参考にされたのでしょうか?
押山 意識しなかったわけではないんですが、何せあまりに方向性が違いますから(笑)。あんまり似通ってても面白くないかなとは思いました。監督チェックの段階で、素体の要素を追加してほしいという指示があれば追加したくらいですね。それもそんなに多くなかったと思います。例えばカブラギだったら、最初はもっと丸みのあるシルエットで描いたんですが、素体のデザインを踏襲して頭をツンツンにしてほしいというオーダーがありました。
――カブラギはもっと丸かったんですね。
押山 サイボーグのデザインに何か一貫性を持たせたくて、統一のモチーフとして薬のカプセルみたいな形状を取り入れようと考えていたんです。主人公のカブラギを描くときに、そうしようとなったのが最初だったと思います。
――カブラギのサイボーグデザインは、どのようにして生まれたのでしょうか。
押山 以前、ネットで日食を溶接マスクで見る子供の写真を見たことがあって、それがすごくかわいかったんですよね。いつかデザインで使ってみたいなと思っていたら、カブラギのデザインで使ってみた(笑)。なので、あの顔面の四角い窓は溶接用のマスクそのものなんです。カブラギが茶色ベースなのも溶接用のマスクをイメージしています。
――溶接用のマスクと言われて納得しました。それはカブラギが装甲修理人であるという設定も反映されているのでしょうか。
押山 そうですね。以前はイケイケの戦士だったけれど、今はそうではないというところで、素体のカブラギは最近の言葉で言う枯れ専女子が好むおっさんだと思いました。サイボーグにもいい意味での控えめさがあるといいなと思い、現在のカブラギとも結びつくようなデザインにしました。色味に蛍光色が入っているのも、建設現場の作業員などプロフェッショナルが安全のために目立つハイビジビリティーカラーのベストを着ているのを参考にしています。
――髪型以外で、立川監督から何かリクエストはあったのでしょうか。
押山 尖っていた戦士時代の名残を付け加えてほしいというオーダーがあって、バックパックのロケットなどを追加しました。あとは、細かい設定ですが顔の窓をモニターにしてほしいという指示がありました。実は、あの表情変化はモニターの表示変化なんです。サイボーグ感、電脳感を出したかったんだと思います。
――では、ほかのキャラクターについても伺えればと思います。まずはミナトのサイボーグデザインについてはいかがでしょうか。
押山 ミナトは、カブラギと対になるような未来的なデザインにしてほしいという監督からのオーダーがありました。サイボーグの中でも古い、新しいや階級社会があると聞いていました。腕や足を浮いていたり、最新の機体っぽさを出すなら関節のジョイントが見えるよりも、それらが隠れて流線型でシャープなフォルムになっていた方がいいよねという理由からです。はじめは腕がしなやかに曲がるデザインにしたんですが、立川さんの指示で人間的な関節になりました。ミナトの生真面目さを表したかったのだと思います。
――ミナトは変形して小さなカプセルに入るシーンがありますよね。あの変形も押山さんが考えられたんですか。
押山 ミナトをデザインしたのはけっこう前のことだったので、どうだったかな……(笑)。ただ、もともと可動域が少なくて動かすのが難しそうだから、地面を滑らせようとか動き方についても多少は話しましたが憶えていません。多分、立川さんや他のスタッフのアイデアで面白く発展させてくれたんだと思います。
――確かに、デフォルメされたサイボーグの動作って、描くのが難しそうな印象があります。
押山 そうなんです。サイボーグをデザインするにあたって、どの程度までデザインに幅を持たせるかは最初問題になったんです。二足歩行や四足歩行、車輪や浮遊とか歩くだけでも様々なバリエーションが考えられるんです。立川監督はいろいろとバリエーションを増やしたいとおっしゃっていたんですが、僕と角木プロデューサーは大変そうだからちょっと抑えようかということで(笑)、難しい歩き方ではなく二足歩行を基本型として、車輪や浮遊できるバリエーションを目指しました。
――では、ドナテロについてはいかがですか。
押山 打ち合わせでは、大きい、強そう、悪役、大ボス、仲間思いなどといったイメージを伺いました。どうまとめるかを考えたときに、僕は格闘ゲームが好きなので「ストリートファイター」シリーズに出てくるバーディーというキャラクターをイメージしたんです。尖った髪の毛、いかつい体、そしてジャラジャラした装飾と、あまりサイボーグ感はありませんがうまくOKしてもらえました。ただ、最初はもっと太って丸みがあったんです。もう少し筋肉質にしてほしいというチェックバックがあり、現在の逆三角形のフォルムに落ち着きました。
――そして、謎の多いフギンとムニンです。
押山 北欧神話のフギンとムニンがモチーフなんですが、カラスだからかどちらも黒をベースにしたシンプルなデザインにすると打ち合わせで決まっていました。それもあってか立川監督の中でわりと具体的なイメージがあったのかもしれないですね。デザインしたのも、ある程度ほかのキャラクターのラフ画が出そろったあとだったので、他キャラクターとは明確に区別した四角いフォルムで非情さをデザインしました。
フギンのイメージとしてあったのは、これまた全然関係ない作品ですが、シルヴァン・ショメ監督の「ベルヴィル・ランデブー」という作品に出てくる、四角くて全身黒ずくめボディーガードです。それにちっちゃい親分がくっついているような対比で描けたらなと思いました。ムニンは普段は丸くてかわいい方が、怒った時に怖く方向にしようと決めてからは、デザインはスムーズに描けました。また、表情の違う顔がたくさんあって、本心が読み取りずらいと冷酷さや怖さがでるかなと思いました。
――最後にジル、サルコジ、ターキーについても聞かせていただけますでしょうか。
押山 実は最初にデザインしたのはジルだったんです。
――カブラギよりも前だったんですか?
押山 そうです。サイボーグ世界のイメージラフを何枚か描いて大まかな方向性を決めました。キャラクターの具体的なデザインに入るとなったときに最初に描いたのがジルでした。このデザインが気に入ってもらえたようなので、あまり大きな修正は入らず、そのままほかのキャラクターのデザインに取りかかれたという流れですね。
――ポップでかわいいですよね。
押山 丸いフォルムを基本としていたので「Dr.スランプ」のニコチャン大王の様に丸い胴体に棒の様な足が刺さってるという感じにしました。
海外で売られている子ども向けのぬいぐるみっぽさを加えました。ただ、アシンメトリーなデザインなので、スタッフさん達にご苦労をかけてしまったと思います(笑)。
――では、サルコジとターキーはいかがですか。
押山 ターキーは強いやつの腕で偉ぶってるキャラで目つきの悪い猫背のデザインにしたいと立川監督がおっしゃっていて、それらを統合してカマキリみたいな顔にしました。サルコジはポンコツサイボーグで酒に溺れたダメオヤジという設定があったので、身体の修理にお金をかけていない感じを出しました。最初は胸と腰が分かれていなかったんですが、もう少し人間っぽくしたほうが動かしやすいということで、胸と腰に分けました。
――ありがとうございます。アニメは第7話まで放送されましたが、物語の感想や気になるキャラクターなどについても聞かせていただけますでしょうか。
押山 実は、完成したオープニング映像は放送で初めて見たんですが、カブラギが空を飛んでいるのがシュールに感じました。ロケットで飛ぶとは聞いていましたし、自分でデザインしておいてなんですが、あんなにかっこいい動きをするイメージがなく、スーパーヒーローのごとく大真面目に空を飛ぶとは思わなくて(笑)。原画さんに感謝です。
――では最後に、「デカダンス」を楽しんでいるファンの方へひと言お願いします。
押山 今の時代、毎週放送を待ちながらアニメを見続けるのって、とてもエネルギーがいると思います。ですが、「デカダンス」はとにかく先が気になる内容ですし、最後まで見ないとわからない謎がたくさんあるので、ぜひ最後まで見続けていただきたいです。僕も本編を放送で追っているので、視聴者の皆さんと一緒に楽しみます。
【取材・文:岩倉大輔】