新作&おすすめアニメのすべてがわかる!「月刊ニュータイプ」公式サイト

rssボタン

ネタバレ注意!「この世界の片隅に」片渕監督SPインタビュー【後編】

2016年11月16日 16:31配信
ネタバレ注意!「この世界の片隅に」片渕監督SPインタビュー【後編】

リン(右)を演じた岩井七世さんについて、「複雑で難しい役だったと思いますが、岩井さんの声は素晴らしかった」と岩渕監督

(C)こうの史代・双葉社/「この世界の片隅に」製作委員会

11月12日(土)に封切りされ絶賛の声が巻き起こっている「この世界の片隅に」。漫画とアニメーション――まったく違う媒体で同じメッセージを伝えるために、片渕監督は何をかえ何を残したのか。

監督へのインタビュー第3回、最後は物語の核心に触れるお話です。

※本インタビュー記事は後半に物語の核心に触れる「ネタバレ」要素を含んでいます。まだ本作品をご覧になっていない方はご注意ください。

(中編からの続き)

――白木リンを演じられた岩井七世さんの艶っぽい声も印象的でした。

リンさんを演じてくれた岩井さんが最後に決まったキャストなんですよ。というのも、すずさんとリンさんのキャスティングはセットで考えなければならなくて。リンさんってすずさんが唯一“私と等しい存在なんだ”と思える人なので、同じような年齢感を感じられる人でなければいけなかった。すずさんがのんちゃんに決まったから、リンさんのキャスティングができるようになったんです。

のんちゃんの演じるすずさんはティーンエイジャーなんですよ。そのすずさんと同じ年齢で、すずさんはこの人だったら心が休まる、警戒しないで済むという声が必要でした。ですから想像してたよりリンさんの声が若いと、原作を読んだことのある人は感じるかもしれません。のんちゃんは他の役者さんとはほとんど別録りでしたが、すずさんとリンさんのからみだけは、のんちゃんと岩井さん、一緒に収録したんですよ。岩井さんは理解して、自分で作ってきた役作りをすずさんに合わせて変化させてくれた。

リンさんは複雑で難しい役だったと思いますが、岩井さんの声は素晴らしかったですね。

――のんさん(すずさん)の絡みという点では、水原哲を演じた小野大輔さんも難しい芝居が求められたと思います。

作中で哲さんとすずさんが一晩過ごす場面があるのですが、深いところにはまる前にお互いに身を退くんです。でも、なぜ自分が身を退くのかがわからない、哲という人をどう理解したらいいんでしょう?って、アフレコ中に小野さんから質問されたことがありました。実はそこって、のんちゃんが「ここ私、すずさんの気持ちがよくわらないんです」って言った場所でもあったんです。

それぞれに私が考える理由を説明して小野さんものんちゃんも理解してくれましたが、お互いに同じ所を表裏一体で悩む。この瞬間、2人の気持ちの中でどんな想いが交差しているのだろう?と2人の役者が鏡のように悩んでいて、今にして思うとまるで「君の名は。」みたいだな、って。新海くんってこういうことをやっていたんだ!って理解しちゃった(笑)。

収録は哲さんのほうがずっと前に終わっているんです。同時に存在しているようだけど、決してそうではない……でも、結果的にできあがったものがものすごくかみ合っている。これはすばらしいことですよ。

■“この世界”とは、どの世界なのか

――映像化される際、時間的にどうしても盛り込めないシーンがあったと思います。シーンの取捨選択の基準は?

最初は全部入ると思っていたんですよね。でも、いざやってみたら色々な展開に時間がかかってしまって、難しくなってしまった。この作品ではすずさんと、(周作のお姉さんである)径子さんを主軸にしようと思っていたので、リンさんには原作よりも少し引いてもらいました。ただ、絵コンテまではできあがっているので、機会があれば描けなかった部分もぜひ描きたいと思っています。

――逆に、原作に比べて説明や描写が増やされているシーンもありました。空襲中に広島に帰ると駄駄を捏ねるすずに対して激高する周作の姿は特に印象的でした。

でも、おそらくああいった人の方が信用できますよね。すずさんも周作さんも、夫婦になってからもずっと本音を言えないままきているんですよ。で、本音でぶつかる前に汽車の中で口げんかをする場面があるのですが、本気になる直前の、駄駄を捏ねるぐらいで終わってしまったので、もっと本気で衝突しなければならないと思っていました。あの時もすずさんは気持ちの上ではまだ逃げているんですが、周作はここで自分の心を本気でぶちまける必要があると思ったんです。

それで僕がやったのは、周作さんが自分の膝を1回、ぱんっと叩く――これだけなんです。原作に付け加えた物があるとしたら、ほぼそれだけですね。それで感情が今までの周作とは違うんだと細谷くんがちゃんと読み取ってくれて、「ここは変えます」って反応して、どんどんと作り上げていってくれたんです。

――終戦を迎えて怒り涙するすずさんの台詞が大きく変わっていました。ここまで大きく変えた理由というのは?

あのシーンは終戦を迎えた日本人がなぜ泣いたのか、こうのさんが「実は自分の感情では理解できない」って言われたことがきっかけなんです。それで実際にはどうだったのかを色々と調べてみたのですが、当時の人の日記を見てみると、本当に皆さん泣いているんですよ。それから、終戦直後に進駐軍がやってきて日本人の意識調査をやっているんですね。いろんな町でいろんな階層の人にどう思っているのかを聞いているのですが、ほとんどの人がどうも大義とか正義で負けたとは思ってなくて、単純に科学力と物量で負けたっていう悔しさがあるとしかいっていなくて……。もしそうなら、あのシーンですずさんは日本という国をいきなり背負わなくてもいいんじゃないか?と思ったんです。彼女の身のうちのことで、同じように悔しいという思う理由を考え出せないかと考えたんですね。

すずさん自身はお米を炊いておかずを作って……ということをずっとやってきて、そこに彼女のアイデンティティがあった訳です。ならば、ごはんのことで原作のようなことを、彼女のことを語れないかと考えたんですね。

実際、その当時の日本本土の食料自給率ってそれほど高くなくて、海外から輸入している穀物がなければやっていけなかったんですよ。そういうのがわかると、やっぱりすずさんは生活人だから、あのような反応をしたほうがいいと思ったんです。

――では、最後にファンの方へメッセージをお願いします。

「この世界の片隅に」の“この世界”って何なのかな?ってずっと考えてたんです。そして、どの世界でもなく我々がいる“この世界”なんだって思ったんです。この世界のたまたま2016年の片隅に僕らがいて、1945年ぐらいの片隅にすずさんたちがいるだけで、まったく同じひとつの世界なんです。そういう風に思って観ていただけるとうれしいですね。【取材・文=小川陽平】

■劇場アニメ「この世界の片隅に」

公開  :11月12日(土) テアトル新宿、ユーロスペース他で全国ロードショー中

スタッフ:原作…こうの史代「この世界の片隅に」(双葉社刊)/企画…丸山正雄/監督補・画面構成…浦谷千恵/キャラクターデザイン・作画監督…松原秀典 /美術監督…林孝輔/音楽…コトリンゴ/プロデューサー…真木太郎/監督・脚本…片渕須直/製作統括…GENCO/アニメーション制作…MAPPA/配給…東京テアトル

キャスト:北條すず…のん/北條周作…細谷佳正/黒村晴美…稲葉菜月/黒村径子…尾身美詞/ 水原哲…小野大輔/浦野すみ…潘めぐみ/ 白木リン…岩井七世/北條円太郎…牛山茂/北條サン…新谷真弓 他

リンク:「この世界の片隅に」公式サイト

    公式twitterアカウント・@konosekai_movie