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箏曲CD「この音とまれ!~僕たちの音~」の魅力とは? 箏演奏家・橋本みぎわさんが語る制作秘話

2020年2月26日(水)、TVアニメ「この音とまれ!」の作中で使用された箏曲を収録したCD「TVアニメ『この音とまれ!』~僕たちの音~」が発売されました。アミューさんによる原作コミックは、時瀬高等学校筝曲部の部員たちがお箏と向き合うことで成長する姿を描く青春ストーリーで、作中でさまざまな学校の箏曲部が弾く曲はすべて作品独自のものとなっています。

箏曲CD「TVアニメ『この音とまれ!』〜僕たちの音〜」の制作にあたり、キーパーソンとなったのが橋本みぎわさんです。プロの箏曲演奏家として活動する橋本さんは、原作・アミューさんの実姉でもある方です。そんな橋本さんに「TVアニメ『この音とまれ!』~僕たちの音~」制作の経緯や、その魅力をうかがいました。

――まずは自己紹介をお願いいたします。

橋本 箏の演奏をしております、橋本みぎわといいます。「この音とまれ!」原作者のアミューの姉で、「龍星群」と「天泣」の作曲をさせていただいたほか、演奏にも参加しています。少しでも原作に沿ったものを、アニメに沿ったものをという一心で携わらせていただきました。

――「この音とまれ!」は、2017年3月に箏曲CD「この音とまれ!~時瀬高等学校筝曲部~」が発売されました。どういった形でオファーがきたのでしょうか。

橋本 2014年に集英社さんの企画で「龍星群」を作曲して実際に演奏するプロジェクトのお話をいただいたのがきっかけでした。でも、最初は不安の方が大きかったんです。原作を読んで受ける(「龍星群」への)印象は人それぞれでしょうから、それをひとつの曲として具現化してしまうのは、はたしてよいことなのかな、と。ですが、読者の中にはお筝の曲をよく聴いたことがない方も多くおられると聞き、少しでも「お箏っていいな」と思ってもらえたら……という思いでお引き受けしました。

――「龍星群」の作曲は、原作の描写を元に進められたのでしょうか。

橋本 はい。アミューが原作を描いていたころは、その曲を実際に作るなんて考えていなかったものですから、それはもう大変でした(笑)。とはいえ、せっかく作曲する以上、妹が「ちょっとイメージと違うな……」と感じてしまう曲にはしたくありませんでしたので、お互いに納得がいくまで作り込みました。

――そのあと箏曲CDの企画が動き始めるわけですね。

橋本 「天泣」のときは、原作で演奏するエピソードが描かれる前から曲を作ることが決まっていて、時瀬高校が演奏する回のネームを参考に作曲していきました。そういう意味では「龍星群」より作りやすかったのですが、あの曲でとても大きな反響をいただけましたので、プレッシャーもその分大きかったです。

――「天泣」作曲の顛末の一部は、原作コミック第14巻巻末のおまけコミックでも描かれていました。

橋本 「お姉ちゃんならもっと上へいけるよ!」と、気を使った表現でリテイクを重ねました(笑)。そうして曲ができたら、次はアミューとそれぞれの高校の特色をどのように出すかを相談し、それを演奏家のみんなに伝えて練習しました。

――倉田武蔵が弾いているという設定の「六段の調」があったりと、原作の再現を重視して敢えて学生らしく演奏されている曲もあります。"意図して未熟に弾く"のは大変だったのではないでしょうか。

橋本 普通に弾くと私たちが積み重ねてきたものが一音に出てしまい、初心者らしさはなくなってしまいます。爪をちょっと手に合わないものにしてみたり、弾く位置や力の入れ方にこだわりました。演奏メンバーの中には実際に高校生に教えている人もいましたので、実際の高校生の弾き方を観察してきてもらったり。普段はまったくしない試行錯誤の仕方でしたので、新鮮で楽しかったです(笑)。

――そうして発売された「この音とまれ!~時瀬高校筝曲部~」はすぐに1万枚以上のセールスを上げました。

橋本 純邦楽の世界は「1000枚売れたらヒット」と言われるような世界ですので、お箏だけの音楽をこんなにも大勢の方が聴いてくださったということに、漫画の持つ力を感じました。

――それでは「TVアニメ『この音とまれ!』〜僕たちの音〜」のお話もお聞かせください。

橋本 以前のCDと同じ立ち位置で「天泣」の作曲、演奏、曲の方向性のディレクションなどで関わらせていただきました。各学校の演奏の特色は1枚目でできるかぎり出したつもりでしたが、その後TVアニメ化するというお話をうかがいまして。今なら、その特色をより際立たせた1枚を作れるのではないか、と。

――収録されている楽曲のうち「龍星群」と「久遠」は原作やアニメで描かれていたミスを再現した未熟なバージョンも別途有料配信が始まりました。合奏を意図的に"ずらす"のも大変だったのではないでしょうか。

橋本 私たちプロが「あ、しまった!」と思うミスでも、聴いてくださっている方たちの多くは気づかなかったりすることもあります。このCDではその程度ではダメで、初めて聴く方でも「あれ、この曲の演奏、なにかヘンじゃない?」と思ってもらえるようでなくてはいけませんので、気を使いました。聴いていただけたら、存分にドキドキしていただけるかと思います(笑)。

――今回、その2曲を先行して聴かせていただきましたが、いつ止まってもおかしくないぞとハラハラしながら聴かせていただきました(笑)。たとえば、バンドではドラムとベースのリズム隊が曲全体のペースを作りますが、お箏の合奏でそういう基準となるパートはあるのでしょうか?

橋本 「龍星群」では十七絃がそういう立ち位置になりますが、必ず十七絃に合わせるというわけではありません。ここは一箏が主体だからそれに寄り添おう、ここは二箏に合わせよう……とケース・バイ・ケースですね。「龍星群」では、まず「誰をきっかけにしてズラしはじめるか」を考えました。「きっかけとなってしまうのはやっぱりコータ(水原光太)だよね」、「演奏が飛び出すか(早く弾いてしまうか)、遅れるかだったら、飛び出した方が聴いていて分かりやすいよね」…と少しずつ固めていって。

――理詰めで合奏を崩れさせていくというのがおもしろいですね。

橋本 それでも愛、武蔵、さとわはズレずに演奏できて、でも"3バカ"はちょっとずつわやくちゃになっていって……と、各キャラの個性や原作の描写に、より忠実に合わせました。「久遠」に関しては、そんなさとわも動揺してズレてしまうところがあるので、それも演奏に反映しました。

――その他の新曲についてもおうかがいします。蒼井翔太さんが歌う第1クールのオープニングテーマ「Tone」の箏曲バージョンも収録されていますね。

橋本 私も蒼井さんが歌われている原曲がとても大好きなのですが、ポップスをお箏で演奏すると格好悪くなってしまうことも多々ありますので、そうならないように最善の気を遣いました。とはいえ、お箏は転調が得意な楽器ではないので、コードが複雑になると押手(左手で絃を抑えて音を変化させる奏法) や調絃変え(箏柱を動かして音程を変える)がどんどん増えてしまうんです。押手が多すぎても演奏しづらい、でも押手が少ないと平凡なアレンジになってしまう……いい落としどころを探すのが大変でした。

――オリジナル曲ではなく、実在曲の「水の変態」は、堂島晶役の東山奈央さんが実際に歌っておられます。

橋本 こうした「地歌」は、お筝をやっている人なら誰しもが通る道なのですが、堂島晶先生は「2年間みっちりとこの曲だけに取り組んでいた」という描写がありますので、それを歌っていただくのは相当なプレッシャーだったのではと思います。

――「三つのパラフレーズ」についてお聞かせください。

橋本 「二つの個性」よりも、さらにライブ感を重視しました。「二つの個性」が枠の中にきちっとハマった上品な曲とするなら「三つのパラフレーズ」は、「私たちは絶対王者なんだという迫力のある曲・演奏にしてほしい」と、アミューからリクエストを受けました。

――「無題~天泣原曲~」は、アニメを見た人なら誰もが気になる曲だと思います。

橋本 さとわがお母さんを思って書いたという心情や、それを滝浪先生が前向きに編曲したのが合奏バージョンなのだということを念頭に作曲しました。この曲は演奏家の木村麻耶さんが弾いてくれたのですが、木村さんも原作を丁寧に読み込んでくれていたので、とてもよい仕上がりになったのではと思います。当時のさとわが抱えていた痛みや苦しみ、そしてさみしさをぜひ感じ取っていただければと思います。

――そして最後の「天泣」ですが、なんと新録されておられますね。原作からのファンはアニメ放送前に「時瀬高校筝曲部」を買って「天泣」を聴いて「きっとアニメでもこの音源を使った演奏シーンが見られるんだ」とワクワクしていただろうと思います。ですが、実際にオンエアを見たら演奏はさらにすばらしいものになっていて。「これ、違う音源だ!」と気づいた人もいたようです。

橋本 そこまで聴き込んでいただけていたなら、本当にうれしいです。1枚目のCDも最善を尽くしたものではありましたが、「ここをこうしたら、もっとよい演奏にできていたかもね」という心残りも、演奏側にありました。今回の「僕たちの音」は、「今ならもっといいものが録れる!」という私たちのリクエストがかなったものでもあるので、とても満足のいく1枚になりました。

――2020年4月11日(土)には2回目のスペシャルイベント開催が決定しており、プロの演奏家のみなさんによるお箏の生演奏を再び楽しめると発表されました。最後に、意気込みをお聞かせください。

橋本 「TVアニメ『この音とまれ!』〜僕たちの音〜」は、アミューがとても力の入ったジャケットイラストを描いてくれました。アニメで流れていた曲を実際に生演奏で聴くと、また違った感情が生まれるのではと思いますので、CDを聴いていただいたら、ぜひ生のお箏の音を聴きにきていただけると嬉しいです!



■TVアニメ「この音とまれ!」~僕たちの音~
発売日:2020年2月26日(水)
価格:税別2500円
収録曲:龍星群/六段の調(初段のみ)/セピアの風に/二つの個性/さらし風手事/百花譜/久遠/Tone/水の変態/無題~天泣原曲~/三つのパラフレーズ/堅香子/天泣

■Blu-ray「この音とまれ!」Vol.7
発売日:2月26日(水)
価格:税別7800円
収録内容:第20話~第22話
映像特典:ノンテロップOP(第21話~第23話Ver.)
音声特典:オーディオコメンタリー
封入特典:スペシャルイベント優先申込みシリアルナンバー(初回製造分のみ、応募期限は2020年3月9日(月)23:59まで)

■TVアニメ「この音とまれ!」スペシャルイベント
日時:2020年4月11日(土) 18:15開場 / 19:00開演
会場:相模女子大学グリーンホール 大ホール
出演:内田雄馬/榎木淳弥/種﨑敦美/井口祐一/松本沙羅/蒼井翔太/東山奈央(予定)
チケット:全席指定7200円

リンク:TVアニメ「この音とまれ!」公式サイト
    公式Twitter・@konooto_anime
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