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最大の敵と決着をつけようとする蜘蛛子。勇者として新たな一歩を踏み出すシュン。そして、ここにきて魔族軍が攻勢を仕掛けようとしていて――。
TVアニメ「蜘蛛ですが、なにか?」を盛り上げるリレー連載、第14回は魔王役の上坂すみれさんが登場。ミステリアスな魔王の魅力のほか、上坂さんが監修する異世界語の裏話などについて語っていただきました。
――上坂さんは、2016年2月に公開された「蜘蛛ですが、なにか?」原作第2巻のテレビCM&PV、およびラジオドラマに出演されていました。当時の原作の印象は覚えていますか。
上坂 2016年当時は、異世界に転生、転移するアニメが今ほど多くなかった気がします。しかも、転生といえばだいたい「チート」とか「美少女」がキーワードだと思っていたので、タラテクト(蜘蛛)という最弱の魔物に転生するのがとても新鮮に感じられました。
前世は暗い性格だった蜘蛛子がこの迷宮で生き抜くと決意して、転生してから生き生きしだすのも面白かったです。過酷な状況なのにとにかくポジティブ。その前向きさに勇気をもらいつつ、異世界に行く人ってどうして異世界でのほうが生き生きするんだろうと不思議に思った記憶があります(笑)。
――ははは(笑)。
上坂 物語のギミックにも驚かされました。アニメも蜘蛛子サイド、人族サイド、魔族サイドとバラバラに見えるストーリーがだんだん繋がってきていますが、そのギミックが明らかになったときは「なるほど」と唸りました。
――ラジオドラマでは蜘蛛子を演じられ、アニメでは魔王としてキャスティングされました。
上坂 実は、オーディションでは別の役を受けたんです。結果的に魔王役になりましたが、ずっとボスキャラを演じてみたかったので、とてもありがたかったです。
――魔王の第一印象はいかがでしたか。
上坂 ビジュアルが一番かわいいと思いました。フィギュア、出てほしいです! 性格としては、何を考えているのか、その思惑が見えず飄々としているところが好きです。
――演じる上ではどのようなことを意識されているのでしょうか。
上坂 魔王ということで、現状、かなり強い部類だと思いますが、その自負を感じさせないようにしています。力を誇示してまわりを従わせるのではなく、捉えどころのない振る舞いで魔族を取りまとめるイメージです。会話から思慮深さや努力家なところが垣間見えるので、魔族のトップに立つ者として、あえて飄々とした振る舞いをしているのかなと。なんとなく、生まれながらにこういう性格ではないんだろうなと感じています。
――魔王は強者ゆえの余裕を感じさせますよね。
上坂 バトルシーンには「はっ!」のような気合いのアドリブがあるんですが、強いキャラクターは戦うときにあまり声を出さないんです。強者を演じるときは、相手を軽くいなすようなアドリブを入れると強く見えると別の現場で教わったことがあり、その雰囲気も意識するようにしています。もう一つは、微笑みですね。なるべく微笑みをもって相手に接することで威厳を感じさせるようにしています。
――板垣伸監督や音響監督の今泉雄一さんから何かディレクションはありましたか。
上坂 「余裕たっぷりでいてください」と言われることがあるくらいで、特に大きな修正はなかったと思います。よくバルト役の梅原(裕一郎)さんとご一緒するんですが、最初の収録からお互いすぐに方向性が定まりました。わりと魔王もバルトも地声に近いところが面白いですね。逆に、そういう声のイメージでキャスティングしてくださったのかなと思ったくらいです(笑)。あとは、ディレクションではないんですが、異世界語の監修をすることになりまして……。
――そうなんですか! 異世界語は第9話でDたちが話していた言葉ですよね。
上坂 そうです。あの言語のイントネーションを監修しています。実在する特定の言語ではないんですが、ロシア語っぽい感じで喋ってほしいと。
――ロシア語がベースだったんですね。
上坂 ロシア語って喉を使った発音や巻き舌の発音が多く、どこか異国感のある響きがするので、確かに異世界語っぽいところがあるんです。ロシア語のスキルがあってよかったなと思いました。
――原稿自体は用意されてあるんですか。
上坂 はい。原稿は当日に渡されて、カタカナの言葉をロシア語っぽいイントネーションで喋って(ガイド用に)収録しています。ただ、本物のロシア語ではないので、その塩梅を探るのが難しかったですね。(D役・早見沙織さんたちの)収録そのものには立ち会えなかったんですが、私もかなり頑張りましたので、Dたちを通してぜひその頑張りを聞いていただけたら嬉しいです。
――先ほど、バルト役の梅原さんとご一緒することが多いとおっしゃっていましたが、掛け合いの感想はいかがですか。
上坂 第9話の会議を見ると、中間管理職的な心労を抱えているようにも感じられてバルトは気苦労が絶えないだろうなと心配になりました。魔王との噛み合っているのか、噛み合っていないのかよくわからないやりとりも楽しいです。
梅原さんとは別作品でもご一緒しているので、「こういう感じでくるかな」というイメージがしやすく、とてもやりやすいです。黙々と仕事に向かっていく姿がバルトと重なりました。
――今お話に出た第9話では、魔族軍の幹部が勢揃いしましたね。
上坂 魔族たちにもそれぞれの思惑があり、魔族イコール悪という構図ではない。それがわかったのがよかったです。ただ、あまりに考えていることがバラバラなので、あれをまとめるのは大変だろうなと。ひと癖もふた癖もある魔族をどうやってまとめるか考えた結果、魔王は飄々としつつも時に圧倒的な力を見せる君臨スタイルを選んだのかなと思いました。そうしないとみんな暴れて、収拾が付かないですよね。普通の会社よりもずっと大変そうに見えました。あとは、魔族にもああいった会議室、オフィスがあるとわかってちょっと親近感がわきました(笑)。
――(笑)。一瞬でブロウとダラドを締め上げる姿が威厳に溢れていましたね。
上坂 あの2人の会話は、会議の前にトイレでしておくべき会話ですよね。大事な会議の場で喧嘩されても困ります(笑)。それこそ魔族が魔族たるゆえんなのかもしれませんけど。だからこそ、あれぐらいわかりやすく締め上げないと、魔王の威厳が伝わらないんでしょうね。その中で、ちょっと怒りつつも笑顔を絶やさなかったのが魔王らしいなと。基本的ににこやかにしているのが、魔族のトップの在り方なのかなと思いました。
――魔族の中で気になるキャラクターはいますか。
上坂 コゴウは訛っているところがかわいいですし、戦争を避けたがっているのも魔族らしくなくて面白いです。この重苦しい雰囲気の中で戦争を避けたいと提案できる人材は貴重です。会社……ではありませんが、魔族軍を辞めないでいてくれてありがたいですし、彼が生きやすい世の中になるといいですね。ただ、魔王としては歯牙にもかけていないと思いますが。あとは、もう少し美少女の数が増えるとよろしいのではないかと思います!
――蜘蛛子サイドや人族サイドをご覧になっての感想はいかがですか。
上坂 人族サイドは、クラスがまるごと転生したことに驚きつつも、クラスメイトとしての記憶を保って転生しているので、それは心強いだろうなと思いました。海外に行ったとき、知り合いがいるような安心感があるだろうなと。ただ、異世界に来ても学校特有のギスギス感があり、みんながみんな仲良くできるわけではないんだなと思うと、ちょっと寂しいです。
蜘蛛子サイドは、蜘蛛子そのものよりも悠木(碧)さんがどんな風に収録しているのか気になります。それぐらい蜘蛛子のお芝居がすごいです。ただ楽しそうに喋っているだけではなく、かっこいいところはかっこよくて。まだこの作品のアフレコ現場ではご一緒できていないので、いつかご一緒したいですね。
――その蜘蛛子サイドと人族サイドの繋がりが少しずつ明らかになってきました。
上坂 人間から見た蜘蛛子の姿が衝撃的でした。最初は蜘蛛子に感情移入するので、「人間は敵」ぐらいに思っていましたが、人間から見るとこんなにも恐ろしい存在だったのかと。このまま蜘蛛子が強くなっていったら、人間にとってとてつもない脅威になるでしょうし、皆さんがどちらに肩入れしているのか気になります。
――いよいよ前半戦のクライマックスですが、2クール目の魔王についてぜひ注目ポイントを教えてください。
上坂 第9話で、バルトが「魔王は魔王たりえるからこそ魔王なのだ」と話していました。この言葉通りだとすれば、きっと魔王は天性の才能もありつつ、影ながら努力をして魔族を従えていると思うんです。同時に、強者であるがゆえに誰ともわかり合えない孤独な雰囲気も感じられるので、そういった内面や裏側が描かれるのかどうかも楽しみにしていただけたら嬉しいです。
それから、魔王という存在はだいたい勇者に倒されるから魔王なので、余裕たっぷりの彼女がどのように動き、どのように追い詰められるのか。あるいは、そうではないのか。彼女の行く末にも注目してみてください。
【取材・文:岩倉大輔】