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怒涛の林原イヤー! ベスト&シングルリリースの林原めぐみインタビュー

林原めぐみさん
林原めぐみさん

2月には著書「林原めぐみのぜんぶキャラから教わった 今を生き抜く力」が日米で同時刊行、3月にはアーティスト活動30周年を記念したベスト盤「VINTAGE DENIM」が発売され、そしてシングル「Soul salvation」が発売された林原めぐみさん。その他の展開も合わせて、ファンにとって2021年は怒涛の林原イヤーの感が。その最新シングルに収録された2曲は、約20年越しで完全新作アニメ化され、ヒロイン・恐山アンナを演じる「SHAMAN KING」のOP/EDとして、どちらも攻めた内容です。その裏にある思いを、じっくりと語ってもらいました。

――「Soul salvation」は「SHAMAN KING」のイメージにぴったりで。

林原 ありがとうございます! 「SHAMAN KING」といえば「Over Soul」のイメージはやはり強くて、今回、作曲を同じたかはしごうさんが手掛けてくださってますけど、最初は「Over Soul」の影、自分で自分の影を追いかけていたんです。最初にコンペに出してくださった曲のあとに、なかなか集まった曲の中から決められずにいたら、何も言わずにもう一曲書いてきてくれたのが「Soul salvation」だったんですよね。一発で「これだ!」と思いました。

――ドラマティックですね。

林原 で、そこからいざ歌詞を書き始めたら、今度は私が「Over Soul」の呪縛に自ら入ってしまって。「Over Soul」を越えなきゃって、自分で自分を追い込んでしまったんです。で、このあいだのラジオの配信公開録音でも披露した、自粛中に見たYouTubeからはまった、スライムづくりをやっていたら、こうやって神様って人間作ったのかな……なんてプニプニしていたら、アダムはもういるからイブ創ろうって越えるんじゃなくて、別の子作るんだって思ったら、「越えて行こう 君と」という冒頭の歌詞が浮かんで、そこからは、一気に書けました。20年前はもうちょっと希望に溢れていた気がするけど、今は「欺瞞」と書いて「希望」と読ませたり、大人を信頼できずにいる子供たちも沢山いますよね。でも、もしかしたら今まで隠蔽してきたものが、噴き出しているだけかもしれない。闇も恨みも裏切りも、全部噴き出したあとに残るものが「SHAMAN KING」には描かれている気がします。根幹は一緒でも、20年経ったら「Over Soul」だけではいられないけれど、それでもあきらめない気持ちを、今回の歌詞では表現しました。

――エンディングの「#ボクノユビサキ」は音声合成ソフト曲のテイストで衝撃的です。

林原 実は初めて初音ミクちゃんのコンサートを見たとき、実在するアーティストではない存在に熱狂するファンのみなさんを見て、どこか恐ろしさを感じてしまったんです。でも、コロナ禍の中でYouTubeをよく見るようになったとき、あの時閉じた扉は間違いだったかも……と思えて、ミクちゃんの動画含めて、あれこれ見倒したんですね。そうしたら、これはあくまで一つの解釈にすぎないけれど、音声合成ソフトの曲には、アーティストが不在な分、聴く人がダイレクトに自分の怒りや悲しみやストレスを重ねられるのかもって感じたんです。まるで自分のことみたいだって。あとは独特のテンポと、人では出せない高音や息継ぎのなさや疾走感の中にある、脳内刺激が半端ないなと。喜怒哀楽を直接刺激する感覚がある。その魅力はわかるけど、でも、そういう音楽ばっかり聴いていると、本来の人の心拍数は上げられないのだから、刺激の中毒性に酔いながら、人間本来の神経はどっか、しんどいんじゃないかと思ったんです。生身のボーカルができないことをやれる素晴らしさはわかるけど、聴いている自分はあくまで人間で、ソフトに肉体を合わせられるわけじゃない。そんなことから、私なりの「人」のエッセンスを、音声合成ソフトっぽく、楽曲の中に入れてみたくなっちゃったんです。

――楽曲制作はどのように?

林原 歌の最後のフレーズに、人間要素をあえて、入れたり、「今すぐ逃げ帰れ」という、恐山アンナである私にしか表現できないものを入れ込んだり。あとのパートは全部、音声合成ソフトのフリをして歌ってみました。あえて気持ちを強くは込めないけど、心はある「私」がソフトを演じて歌う。昔からのファンのみんなに向けたのがオープニングの「Soul salvation」だとしたら、今の中学生に面白がってもらうように作ったのが「#ボクノユビサキ」です。だからタイトルにね、粋がってハッシュタグを付けちゃったりね(笑)。「今はなんでもハッシュタグで表現しますってニュースで見て、「そうなんだ~」って素直に取り入れました(笑)。

――これって、林原さんの声をサンプリング的に使っているところは……。

林原 いやいや、これね、歌ってるの。ちょっと声を潰して歌って、そこに少しコンプっていうか、よりそれっぽく聞こえるフィルターをちょっと掛けた感じです。基本は、全部私の肉声なんです。それが声優ならではというか、私らしさが出るところでしょ(笑)?

――オンエアされたら、衝撃だと思います……!

林原 だといいですね(笑)。私としては、「おばちゃん、何やってんだ」くらいの反応でもいいんですよ。当たり前に長く活動してくると、そういうことをSNSだとかでつぶやく人、攻撃してくる人もいるんだけど、私は、どう思われるかじゃなくて「やること」に意味があると思ってるんですよね。「この歳してこんなことやったら、変なふうに思われちゃうかな?」なんてことを気にしていたら、表現なんて人に届けられないし。勝算も大恥も両方、受け止めたい。「ソフトっぽく歌ってるけど、全然そう聞こえないじゃん」って言われても、「でも、あなたは一回は聴いてくれたんだね?」って思うし。私にとっては負の意見だとしても、意見が頭を出してくることそのものに意味があるので、ちょっとここは、無理を通してみようかなって。20年経って、今の時代に「SHAMAN KING」という作品を投じなきゃいけない意味のひとつとして、こんな要素も入れてみたって感じですね。

――ベスト盤のジャケットがデニムと空の青が印象的だったのに対して、「Soul salvation」は紅なのも、対比で印象的です。

林原 「Soul salvation」のジャケットアートは、恐山の風車のイメージと、「埋もれない強さ」がテーマですね。っていう。今回は、私のことは出来るだけ隠してくれ、と。ベストアルバムの方でバッキバキに前面に出たので、引っ込むけど隠しきれない、そういう強さを打ち出したいと思ったんです。それは曲ともリンクしていて、ものすごい早口で歌っているところは、歌詞カードで初めて歌詞の内容が、誰に向かって歌っているかが種明かしされる仕掛けなんです。

林原めぐみさん
林原めぐみさん


――そこも「埋もれない強さ」なんですね。

林原 歌詞カード、楽しんでほしいんですよね。今回のベストアルバムに合わせて、サブスクリプションサービスでの私の曲の配信も始まりました。私の歌詞には強い、刃のようなものもあるので、サブスクリプションでふと流れてくるのに向いているのかどうか…、ちょっとわからないところはありますね(笑)、そこから聴いてくださる方もいるのかもしれない。でも、その先にアニメがあるよ、ラジオがあるよ、CDを買ってブックレットを開くと、もっと深く楽しめちゃうかもよ~……って、そんな「沼」への誘いになるといいなと。古い人間だからかもしれませんが、やっぱり、歌詞カードとかにあるギミックとかね、物質としてあるものには、そこでしかわからない発見が詰まっているのよね。というか毎回詰め込んでいるので…そこも、見て欲しいなあという欲張りな気持ちは手放せませんね。

現在発売中の「ニュータイプ」5月号では、別の角度から切り込んだ林原めぐみさんのインタビューも掲載。そして先日発売された書籍「林原めぐみのぜんぶキャラから教わった 今を生き抜く力」も重版出来発売中!

VINTAGE DENIM

CD3枚組、KICS 3980~3982/3000円(税別)/キングレコード(初回製造分のみスペシャルケース仕様、SPECIAL PHOTO BOOK36P付)/発売中

VINTAGE DENIM
VINTAGE DENIM


Soul salvation

KICM2077/1200円(税別)/キングレコード(初回製造分のみデジパック仕様)/発売中

Soul salvation
Soul salvation



【取材・文:前田久】

リンク:「MEGUMI HOUSE」林原めぐみ公式サイト
    「林原めぐみのぜんぶキャラから教わった 今を生き抜く力」
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