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自分なりに考えた「シン」の意味――「シン・エヴァンゲリオン劇場版」鈴原ヒカリ役岩男潤子インタビュー

「シン・エヴァンゲリオン劇場版」は好評公開中
「シン・エヴァンゲリオン劇場版」は好評公開中(C)カラー

公開中の「シン・エヴァンゲリオン劇場版」。完結編となる本作について、そして「エヴァンゲリオン」シリーズについて鈴原ヒカリ役岩男潤子さんにお話をうかがいました。

――TVシリーズから26年が経ちました。洞木から鈴原へ名字を変えたヒカリというキャラクターとは、長いお付き合いになりましたね。

岩男 そうですね、こんなに長い間演じさせていただけるとは、オーディションを受けたころには思いもしませんでした。

──オーディションのことは覚えていますか

岩男 覚えています。当時のマネージャーさんから「これだけは絶対に合格して!」と言われていましたし、私も祈るような気持ちでマイク前に立って、委員長の洞木ヒカリ役を演じました。その時に、庵野総監督(TVシリーズ時は監督)から「もう少し強めの声で、甘えた感じを一切出さずに発声するとどうなりますか?」と尋ねられて、中学時代のクラス委員長の表情や声を思い浮かべながら演じたことを、今でもはっきりと覚えています。

──TVシリーズから「ヱヴァンゲリヲン新劇場版」まで、長く収録を重ねてきた中で、印象に残っていることはどんなことですか。

岩男 強烈に覚えているのは第1回目(第参話)のアフレコ……ですね。アフレコスタジオのあの張りつめた空気は、ほかの作品ではないものでした。当時はいくつかの作品に出させてもらえるようになったころでしたが、「エヴァ」のアフレコ現場は毎回、すごく張りつめていて。事務所から「『エヴァ』の収録が来週あります」と言われるたびに、キュッと身が引き締まるような感覚がありました。当時の「エヴァ」の収録は地下のスタジオで行なっていて、階段を降りると更にプレッシャーが高まって、毎回ものすごく体に力が入っていました。録音の環境もいまのようにデジタルではないので、一度スタートしたら止めずに最後までという、その緊張感もあったと思います。スタジオでは(赤木)リツコ役の(山口)由里子さんもすごく緊張されていたのを覚えています。エヴァがデビュー作だと教えてくださって、私だけでなく、それぞれ震えるような緊張を胸に演じているのだと思いましたし、この瞬間を大切にしたいと何度も感じました。収録で、特に私がみなさんにご迷惑をおかけしてしまったのが、委員長の「起立、礼、着席」というセリフなのですが、何度も録りなおしていただくことになりました。イントネーションが違うと指摘されて、大分(岩男の出身地)での「起立、礼、着席」の言い方、アクセントが独特だということをそのときに初めて知りました……。

――「シン・エヴァンゲリオン劇場版」の収録はいかがでしたか。

岩男 「シン・」の収録1回目は林原めぐみさん(アヤナミレイ(仮称)役)といっしょに行ないました。最初のアフレコテストが始まる直前、林原さんがレイちゃんそのものに見えて、不思議な感覚になりました。すごく温かい距離感も出してくださるので、そこに私も寄り添えるように演じました。今回の場面では、レイちゃんをリードしていかなければいけない立場なのに、何度も感情がこみあげてきてしまって大変でした。テストを終えるたび、本番の前などに、林原さんが優しく微笑みかけてくださって、心を落ち着かせることができました。実は、別作品のレギュラーで林原さんとごいっしょさせてもらっていたときに、アフレコ中に私の声がかすれて出なくなってしまったことがあるのですが。そのときに林原さんが一生懸命、鎖骨の周りを押してくれて、背中をさすってくれたんです。林原さんとお会いするたびに、あのころのことを思い出して、思わず感極まってしまうこともあり、そういう気持ちがあふれでる中で、「シン・」の初回のアフレコを行なうことができました。生涯忘れられないアフレコになりました。

――「シン・」は何回かに分けて収録を進めたそうですが、岩男さんも何回かアフレコに参加しているのですか。

岩男 最初に、台詞演出の山田(陽)さんから、「何度も(アフレコに)呼ぶことになりますが問題ないですか?」と確認のご連絡もいただいていましたので、むしろ「全部のアフレコに参加したいぐらいです」と答えていました。2回目のアフレコではトウジ(関智一)と一緒に。3回目では、トウジとケンスケ(岩永哲哉)といっしょに収録できたので、みんなと呼吸を合わせた会話を録ることができて良かったなと思います。関さんと岩永さんと、「僕ら生きていたんだね!」と笑顔で話せたことも嬉しかったですし、こうして25年経ってもいっしょに収録ができたことが何より幸せでした。

――「シン・」の公開後、観客の反響などはご覧になっていますか?

岩男 たまたま「シン・」の感想を見ていたところに「岩男潤子が声優を続けていた!?」みたいなコメントがあったんです(笑)。私は2008年と2015年に大きく体調を崩してしまい、声優のお仕事を休まなくてはいけない期間があったのですが、そういう休業のときだけニュースに出てしまうんですよね……。復帰の発表もしたのですが、そこにはなかなか気付いてもらえず、私が声優業を辞めたと思われている方もいたんです。今回の「シン・」で「私も元気です!」と晴れて伝えられたことが嬉しかったです。

――いやいや、岩男さんは近年ですと「新幹線変形ロボ シンカリオン」にも洞木ヒカリ役でご出演されていますし……(笑)。

岩男 「シンカリオン」に出演できたことも本当に嬉しかったです。あの回は、洞木ヒカリ役だけではなく、三姉妹を演じることができて、応援してくれていたファンのみなさんもすごく喜んでくれました。一時期は「この仕事ができなくなる」と言われて絶望を味わったこともあったんです。でも、「もう一度マイクの前に立ちたい」という気持ちで声と身体を取り戻すことができました。「エヴァ」には25年間、ずっと力をいただくことができました。最後の最後までヒカリを演じさせてくださった庵野総監督に、感謝の気持ちでいっぱいです。

――「シン・」で「エヴァ」シリーズは大団円を迎えました。この作品にかかわったご感想をお聞かせください。

岩男 あくまでも想像ですけど、庵野総監督は「人の心を描く」ために「エヴァ」をつくられたのかなと思っています。「シン・エヴァンゲリオン」の「シン」とは何かとずっと考えていたんですけど、もしかしたら「心」なのかなって。私の勝手な想像ですけど。人の体の中に宿る心。人の中心にある「芯」。苦しいことがあっても、何度でも乗り越えて、心を失わずに生きていくんだということを私たちに伝えるために、この作品を長い時間かけてつくってくださったのかなと思いました。ラストシーンは私たちのことにも、庵野総監督自身のことにも見えました。レイちゃんが汗水を垂らして、田植えをしていたように、「汗水垂らした先には明るい未来が待っているんだよ」と。「みんな幸せになるんだよ」そういう希望のメッセージが「シン・」にはたくさん込められていたような気がします。

●いわお・じゅんこ/大分県出身。代表作は「カードキャプターさくら」(大道寺知世役)、「パーフェクトブルー」(霧越未麻役)など

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【取材・文:志田英邦】

リンク:「エヴァンゲリオン」公式サイト
    公式Twitter・@evangelion_co
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