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3月31日(金)より、声優専門チャンネル「ST-X」では、AT-Xのオリジナル番組で活躍中の人気声優たちが吹き替えを担当するスペシャル企画が配信スタート。
この企画では「アニメ女子部」でナビゲーターを務めている吉野裕行さんが、日本での劇場未公開となるロシア映画「カクテルナイトフィーバー ~シェイカーより愛をこめて~」(英題:「Bartender」)にて、主人公ヴィクヒンを吹き替えました。
憧れの会社へ就職すべく転職活動中の主人公ヴィクヒンは、いざ面接を受けても大失敗と踏んだり蹴ったり。そんなヴィクヒンが、雨の夜に偶然入ったバーで飲んだカクテルが、彼の運命を変えていくことに――。
今回は、主人公を演じた吉野さんにインタビュー。
本作の魅力の他、吹き替えの現場で吉野さんが感じた演技への思いなど、深く語っていただきました。
――まずは収録を終えての感想をお聞かせいただけますか?
僕は、外画(日本外で制作された映像作品)の吹き替えの経験が多い方ではないので貴重な体験でしたね。外画の経験の多い先輩たちから見たら、この作品にはもっと様々なアプローチがあったかもしれませんね。
――作品について教えていただけますか?
本筋はコメディなんですけどそこまでコメディに振り切りすぎているわけではなく、この作品はスタンダードなストーリーだなと感じましたね。シリアスな部分も含め、誇張しすぎず、シンプルな作品で、言葉がわからなくても展開は伝わりやすいと思います。ベタな展開で、そんなに派手さはないけれど最後はちょっといい話…という、本当にスタンダードな作品ですね。
――吉野さんが演じられた、主人公のヴィクヒンについて教えてください。
最初はあまりぱっとしないのに、カクテルを飲んで気持ちが入るとかっちりするキャラクターです。基本的には自信のないタイプなのかと思っていたんだけど、かなり自発的になっていくので、意外と積極的な人でしたね。(作品内で)ヴィクヒンを演じているロシアの役者さん自身の印象も、話が進んでいく中で僕の中でどんどん変わっていきました。
――本作でヴィクヒンを演じてみての感想を教えてください。
今回のヴィクヒンのようなタイプは、僕らより上の世代の先輩たちが演じるイメージを持っていたので、自分としては不思議な印象でした。先輩たちだったら台本に書いてないようアドリブをすごく入れるんじゃないかなって考えたりもしましたし。演じる人によってはすごくアドリブをやりたくなる人もいるんじゃないかなと。でも主人公は28歳という若さなので、あまり達者過ぎるのもよくないなと。それに、主役がアドリブをたくさん入れてしまうと、それを受ける相手の方はもちろん、作品全体のバランスが心配で。今回の吹き替えは本当にいい経験をさせてもらいましたね。
――ロシアの作品ならではの苦労した点、大変だったところはどんなところでしょうか?
ロシア語は言葉が長く、日本語のセリフと合わせるのが難しかったです。英語ならなんとなく解りそうな部分もあるけれど、ロシア語だと書いてある台本を信じるしかないところですね。足りない言葉を補う提案をしたくても、どこを広げられるのかとか何を足せるのかの基準がわからないので、台本に書いてあることをいかに表現するか、という感じになってしまうのがもどかしかった点でしたね。
――アニメと外画で、演じ方に違いはありますか?
アニメなら自分の経験値の中でアドリブの線引きもわかるんですけど、外画だと台本やディレクションに沿うことが多いですね。ただ、日本語訳されているものを見て、不思議に思ったり違和感があった時には、すぐにディレクターに聞くようにしています。
――吹き替えをする際に、気をつけている点というのはありますか?
歌を歌っているシーンも哲学的な話をする時の真摯な表情も、ベースは一人の人間で。気持ちを変えて声を変えてアプローチをした時に、声優だからもちろん様々な声は出るし、メリハリを出すのは大切なんだけど、根底にそのキャラクターがいないとダメなんですよね。コメディをやり過ぎて「別人じゃん」ってなったらダメで、別人だけどちゃんと根っこに本人が見えてないといけない。所作やしゃべり方が哲学チックになったり下品になったりしていても、その根っこが声の音の中に含まれていたりすることで、「やっぱりこの役者さんがやってるからこういう風にしゃべっているんだな」というのが見えないといけないな、と。それを、諸先輩方はやっているって思うと、そこはもっともっと勉強していかないといけないなと思うし、経験を積まないとできないことだなって思いましたね。
――やはり先輩方はアドリブがお上手なのでしょうか。
僕らが子どものころに観ていた作品って、本来台詞じゃないとこのプラスアルファのアドリブが多かったように感じます。歩いたり動いたりするだけのところでのアドリブを入れたりとか。他の現場で見ていると、先輩方は言葉を入れ替えたり、言い回しを分かりやすいものにしたり、伝わりにくい表現をうまく書き換えていたりするんですよね。たとえば「ふっ」っていう息の部分だけでも、同じように吐いているようにやるだけじゃなく、もっと言葉を入れて面白くしたり。この作品だと、喧嘩のヒートアップしているシーンとかが、そういうアドリブができそうなシーンだったかな。殴られているシーンでは情けない声を出した方がいいのかとか、女性との絡みのシーンは先輩ならもっとアドリブ入れたりするんだろうなとか考えたりしましたね。先輩方だと、口が動いていない場面でも背中が写っていたりするシーンだったら、ばんばんアドリブを入れてきたりする方も多いので(笑)。
――本作では、偶然入ったバーで飲んだカクテルによって主人公の人生が変わりますが、吉野さんは「これがあって人生が変わった」と思うものはありますか?
あそこまで劇的なものはないですが、やっぱりアニメがあってよかったなとは思いますね。
――作中には「カリスマ」や「勇気」といった名前のついたカクテルが出てきますが、飲んでみたいものはありましたか?
飲んでみたいとは思いますけれど、副作用があるから(笑)。
――お酒を飲んでハッピーになったり、何か失敗してしまったな、という経験はありますか?
あの主人公ほど派手なことは、僕はないですね(笑)。友達や先輩と一緒に飲んでいて僕が寝てしまったりするんですが、そういう時は一時間くらいほっとかれたりしますね。大勢だろうと一人だろうと、割とみんなそっとしておいてくれます(笑)
――作中で、吉野さんがロシアらしさを感じた点はありましたか?
サッカー好きとしては、ロシア・モスクワを本拠地とするサッカークラブやサッカー選手の名前が出てきたところにロシアらしさを感じたかな(笑)。僕の中で一番盛り上がったのは、アルシャヴィンかな(笑)。
――改めて、本作の魅力はどんなところだと思いますか?
皆さんもそうだと思いますが、自分を解放するというか、ちょっと一歩踏み出すのにお酒の力を借りることってあると思うんですね。未成年の方はダメですよ(笑)お酒を飲むと気が大きくなるから失敗もあるけど、楽しくなることも、もちろんある、その成功例が描かれている作品だと思います。お酒を飲んでできることっていうのは、もともとは本人が持っているもので、根本的には本人の気持ちが大事なんだと思うんですよね。お酒の力を借りて、一生懸命背伸びをしてズルしたりする経験の中で、その力を使わなくても、どれだけ真摯に人と向き合えるのかというところを描いた作品だと思います。
ロシア映画を最初に観てもらう間口としては、とってもいい作品だと思うので、楽しんでいただけければ嬉しいですね。
声優専門チャンネルST-Xならではのスペシャル企画として1080円で楽しめるロシア映画吹替え企画は2017年3月31日(金)21時より声優専門チャンネル「ST-X」にて独占配信開始です。【取材・文=内田希】