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「Fate/Grand Order THE STAGE -神聖円卓領域キャメロット-」のBlu-ray&DVDの発売を記念してベディヴィエール役の佐奈宏紀さんとランスロット役の小野健斗さんの対談をお届けします。
――本作品で初共演だったとのことですが、お互いの第一印象をお願いします。
佐奈:最初にお会いしたのはワークショップでした。演出の(福山)桜子さんのこだわりで脚本とは別にキャスト全員で先に演技レッスンをしていただいて、このシステムが本当によかったんです。舞台ってカンパニーで創り上げていくものだから人間関係がものすごく大切なので、ワークショップがあったことで稽古に入るころには全員と打ち解けていて、全力で役に挑むことができました。そのワークショップ初日終わりにそれぞれが感想を言ったんですが、まだ空気もわからなくて互いにようすをうかがっている中で、健斗くんは最初っから「俺の今までの演技は全然ダメでした。これまでの意識がくつがえりました」と真っ正直にばーん!と言って、すごい……ってなりました。それで、みんな、「あ、そういうことなんだ」と気付いて翌日からの取り組み方が変わったんです。たぶん狙ったわけではなくて本当にそう思ったから素直に言ったんだと思って、すてきな方だなあ、と。
小野:あー、ありました……細かくは覚えてないけど。でも確かに、そのときの感情は覚えていて、「うわ……すげえ、いいワークショップだったな」って思ったんですね。
佐奈:それってすごくないですか? 経験が長い人ほど自分がダメだと思ったことを言えなくなるんじゃないかと思っていたので驚きました。
小野:でも、どんなに長く役者をやっていても、たった1日の経験ですべてがくつがえっちゃうことってあるから。「え、今日の、この1日、なに!?」って。それくらい、いい経験でした。
佐奈:その気持を素直に出せちゃうことがすごいです。きっと、公演を終えた今なら僕も言えますが、初日で怖れずに言える、というところがかっこいい方だなあ、と思いました。
――小野さんはいかがでしょう。
小野:最初に「すごくいい声だな」と思いました。あと、ワークショップでも自分の意見をしっかり言うし、頭の回転が早いんだなと感じていました。たとえば、ぱっと何かを言われたときに、まず理解するのに時間がかかることはわりとあって。ことに桜子さんのワークショップは専門用語が多くて知らないことばもたくさんあったけど、すぐに反応して動いていたので。
佐奈:それは「できない」と言えなかったし、何より言いたくなかったからです。ほかにも「難しい」、「苦手」、「ごめんなさい」といった自分を否定することばを使ってはいけないと決められていたので心がけていました。
小野:そういったこともすべて楽しんでいるようすが感じられて、すごくいい子なんだなと思いました。たとえば、今、腑に落ちていないままセリフを言ってるな、とか観ていてわかるんです。でも常にセリフの音がはっきりしているというか、迷いがないなと感じました。
佐奈:めちゃくちゃ楽しかったんです。僕、「こういう風に」とか「こういう感じで」といった演出を受けることが多かったんですね。でも、演劇をきちんと学んできたわけではないのでうまくつかめていないところがあったんですが、桜子さんは専門用語を使いながらそれらを全部、教えてくれたんです。「今まで、あなたが『こんな感じで』と言われていたことはこういうことですよ」と説明してもらえたことで今まで溜まっていた違和感みたいなものが一個一個、解消されていって、ひとつわかると、だったらあれはこういうことだ!と次々につながっていって、考えるというよりも閃いていく日々でした。さらに桜子さんは毎日、疑問に対する答えを紙にまとめて渡してくれたので、それを読むのが楽しみで、毎晩、気になる部分をノートに書いていって……だから、もらった紙と書いたノートと台本は一生、僕の宝物です。
――演じた役について伺います。ランスロットは獅子王ことアルトリア・ペンドラゴンに従いながらも、対極を見つめ、いろいろと独自の判断で動く存在でした。
小野:そこをわかってもらえたならすごくうれしいです。円卓の騎士に関しては掘り下げて描かれる部分が少なかったんですが彼らの関係や成り立ちは織り込みたかったし、ランスには揺らがない本心はある、でも、それは見せない、といったつくり方をしていました。
――そのランスロットがマシュ・キリエライトのある秘密が明かされることで一転、動揺する姿が微笑ましくもおかしくて。
小野:僕もなんであんなことになっていったのか、よくわかっていないんです(笑)。ただ、重い話だったので少しでも笑いがあるといいな、とは思って演じていました。
――ベディヴィエールはどのようにつくっていたのでしょう。
佐奈:自分に近いと思えたので演じることは難しくはなかったです。もちろん、さまよっていた年月とか規模的なものは比べようもないですが、気持ちが合致するところがたくさんありました。たとえば、あるとき桜子さんから「謝りたい相手はいるか?」と聞かれて「います」と答えたら、「じゃあ、その人と今、会える?」と続けて聞かれて、「今はもういないので会えないです」と伝えたら、「じゃあ佐奈宏紀として、その人が居ると思って探して帰りなさい」と言われて、本当に探して歩いて帰ったことがありました。本気で探すなら電車になんか乗らないだろうなと思っていろんなところを歩き回っていたら、帰り着いたのが深夜3時すぎくらいになっちゃって。でも、ベディヴィエールならそうするだろうな、と思えたし、そういうキャラクターだから寄り添うことができました。
――いい経験をされています。ちなみにお2人ともスマートフォン向けRPG「Fate/Grand Order」もかなりやりこんでおられるとのことですが。
小野:出演が決まってから始めましたがこんなにハマったアプリは初めてです。ほとんどゲームはしないんですが、こんなに続けるとは自分でも思ってもみませんでした。最初は舞台の原作である「第六特異点 神聖円卓領域キャメロット」まで終わらせようとして、でも実際に終わったら、今度はこのサーヴァントがかっこいいな、とか、お話がおもしろいなとか思って、今も続けています。
佐奈:実は僕、ワークショップのころはまだ始めていなかったんです。でもみんなが「イシュタルが出た」とかわいわいやっているのを見て楽しそうだなあと思って始めたら、誰よりも早く第六特異点まで辿り着いちゃいました(笑)。秋公演でも「ハロウィン2017」のイベントをいちばんに終わらせました!
小野:あれ、誰よりも早く終わらせてたよね。僕、負けちゃった(笑)。…(笑)。
佐奈:だって円卓の騎士も出ていたから少しでも知りたくて。知ることで、さらに役に盛り込めることもあったので、毎回、公演直前までプレイして「よっしゃあ!」ってなって出てました。
――愛があふれていてすてきです。最後にひと言、お願いします。
小野:女性マスター、男性マスターの両公演が収録されています。同じ脚本ですが全然、ちがっているし、それに対しての僕らの演技も変えているので、そこも感じてほしいです。
佐奈:擦り切れるくらい繰り返し観てほしいです。この舞台は本当に全員でていねいにつくり上げていったので、それこそランスロットの真意やいろいろなキャラクターの秘めた思い、アンサンブルの方々の表情まで全部の人に意味が込められています。なので、どこになにが隠されているのか、実はこうなんじゃないかとか、考えながら観てください。
取材・文:おーちようこ、写真:田上富實子