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ニュータイプ2月号のBOOKページで紹介した若木未生さんによる「ゼロワン」。“お笑い”をテーマにした作品を手掛けた若木さんに、WebNewtypeがインタビューしてきました。
――笑い、それはとてつもなく幸せな地獄、だ。
「心に傷を抱えている人に向けて、この作品は『安全地帯から眺めた他人事の悲しみ』ではないのです、と伝えたかった。そのためには、勇気をもって自分のことをも開示しないと……。私にとって、『笑い』を書くことは、『悲しみ』を書くことと同義だったので」
丁寧に、けれど熱をもって語るのは若木未生。「GLASS HEART」や「ハイスクール・オーラバスター」といった数多の青春譚をつづる著者がこのほど、選んだ題材は「漫才」。なぜか?
「……私事ですが、とてつもなくつらかったときに『M-1グランプリ』に元気をもらったからです。
同時に、私は作家だから、この世界を言語化したいと思ってしまいました。演者は言葉が放たれてから笑いが起こるまでの時差を計算して空白をわざと置いたり、『今のツッコミは0.5秒遅い』と言って練習を繰り返したりしている。その尖鋭な、特殊な戦いを表現したいと思ってしまった」
語る通り、つづられたのは心も身体も削りながら「笑い」に向き合い、創造するために血を吐く者たちの壮絶な姿。
「私自身に迷いはありませんでしたが、出版にこぎつけるまでは苦労しました。そもそも『漫才小説』という確固としたジャンルがないので。読みたい人がどれだけいるかわからないですよね。
ただ、漫才のあの最高の笑いの瞬間を描きたいと願っていて、届けたいのは青春小説だったから」
それは常に新境地を切り開く著者が乗り越えてきた壁、でもある。
「1993年から書き続けた『GLASS HEART』も、音楽を題材にしていましたが、音楽小説だけではなく葛藤や喜びも織り込んだ青春の物語でした。音楽のすばらしさも伝えたかったからおろそかにはできなかったし、そこを描くことで、登場する人々の肉声のようなものも伝えたかった。
私はずっと同じテーマを書き続けているんです。生きづらい人々が生きるための力について。その力が、ある人にとっては音楽だったり、ある人には漫才だったりする」
作家として徹底的に取材して書く。だからこそリアルでときに、痛い。<後編に続く>【取材・文/おーちようこ】