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画面に出るまで「決定稿」は存在しない――「シン・エヴァンゲリオン劇場版」キャラクターデザイン・コヤマシゲトインタビュー

「シン・エヴァンゲリオン劇場版」は好評公開中
「シン・エヴァンゲリオン劇場版」は好評公開中(C)カラー

公開中の「シン・エヴァンゲリオン劇場版」。完結編となる本作について、そして「エヴァンゲリオン」シリーズについてキャラクターデザインのひとりであるコヤマシゲトさんにお話をうかがいました。

──コヤマさんの「エヴァンゲリオン」の思い出をお聞かせください。出会いはTVシリーズの「新世紀エヴァンゲリオン」ですか?

コヤマ いや、貞本(義行)さんが描かれた漫画版を、TVシリーズの放映開始前に友だちに勧められて第1巻だけ読んでいたんですよ。その友だちからは「アニメも見た方がいいぞ」と薦められたんですけど、そのころの僕はアニメの見方がよくわかっていなくて、その「エヴァンゲリオン」も「ちびまる子ちゃん」も「シティーハンター」も全部同じようなものだと思っていたんです(笑)。そうしたら「違うよ!」とめちゃくちゃ怒られて。でも、いざ放送がはじまったら、ぼくの周囲の人たちがやたらと「エヴァ」に対して怒りはじめたのでこれは気になるな、と(笑)。それでようやくTVシリーズの「エヴァ」を観て。でもぼくは周囲の人たちとは違ってラストでグッときてしまって。それがきっかけで、のちに漫画家となった西島大介さんと自主制作アニメをつくり、それがきっかけでイラストレーターとしてデビューして。なので「エヴァ」がなければ今この仕事をしていないので、そういう意味でも、僕にとって人生を変えた作品ではありましたね。

――当時話題になっていた「新世紀エヴァンゲリオン劇場版 Air/まごころを、君に」を、コヤマさんはどのように観ていましたか。

コヤマ 最高ですよ(笑)。多分今までの人生で一番劇場に行ったんじゃないかな。映画館の廊下にいても、漏れ聞こえてくる爆発音だけで、何分目のシーンなのかわかったくらい(笑)。

――ははは。何度もご覧になったんですね。

コヤマ あの時期に劇場まで行った人たちにとっては特別な作品だったんじゃないですかね。みんな何度も観たと思いますし。

――アニメに関わるようになったのは、そこからですか?

コヤマ その後、西島(大介)さんたちと会社をつくり、「月刊ニュータイプ」でイラストレーターとしてデビューをさせてもらうことになったんですけど、連載前に市ヶ谷にあった当時の「月刊少年エース」編集部に行ったことがあるんですよ。

――「月刊少年エース」は漫画版「新世紀エヴァンゲリオン」の掲載誌ですね。

コヤマ それで当時、貞本さんの担当編集だった渡辺(啓之)さんに漫画版「エヴァ」のアシスタントをさせてもらえないかと、持ち込みしたことがあって。

――持ち込みの結果は、どうでしたか?

コヤマ 全然ダメでした(笑)。車と人物を描いていったんですが、「もっと勉強した方がいい」と言われて。で、そのあとに「ニュータイプ」でデビュー(2000年8月号)して、「ニュータイプ・ドットコム」(ニュータイプ別冊2002年5月号)という雑誌で、版権イラストを描くことになって、資料を借りるために(TVシリーズを制作していた)ガイナックスへお邪魔して。そのときに鶴巻(和哉)さんと出会ったんです。貞本さんとは角川書店の新年会で知り合ってからかわいがってもらっていたのもあって、その後「トップをねらえ2!」で貞本さんに誘ってもらったことで、デザイナーしてのキャリアがはじまったという感じです。

――漫画版「エヴァ」の最終巻(第14巻)では、コヤマさんがアシスタントとしてクレジットされていますね。

コヤマ 最終回のアスカとシンジがホームで会うあたりとか最後のページも描かせてもらいました。

――持ち込みから考えると、アシスタントになるまで長い遍歴が。

コヤマ そうなんですよ! 一度はアシスタントにも落とされたこの僕が、紆余曲折あって漫画版に関わることができた……そこで僕の「エヴァ」への想いは成就しているんです(笑)。なのでカラーができて庵野さんと鶴巻さんが「『エヴァ』をもう一度やる(『ヱヴァンゲリヲン新劇場版』シリーズ)」といったときは正直、「本当にもう一度……やるの?」みたいな気持ちもありました。

――コヤマさんは「トップをねらえ2!」や「天元突破グレンラガン」でメカニックデザインだけでなく、かなり幅広く現場に関わっていらっしゃいましたね。「新劇場版」ではメカデザインには関わっていないんですか?

コヤマ 「トップ2!」のときは、貞本さんのお手伝いとして誘って頂いたんですが、現場的にメカ設定をやる人材が足りなかったのでメカデザインの仕事を振られたんです(笑)。でも「新劇場版’ではキャラクターデザイン周りをさせてもらえました。

――「エヴァ」のメカデザインはやはり特殊なんですか?

コヤマ と、思います。「:序」に参加したときに、高倉(武史)さんの設定を見て、こんなの自分には無理だと思いましたから……線画だけで、衝撃を受けましたよ。

――コヤマさんは「:破」で使徒(第7の使徒)のデザインをしていますよね。

コヤマ あれはどっちかというと小松田(大全)さん(「:破」では副監督)のヘルプのような感じでしたね。小松田さんは演出家なので、コンセプトを立てて使徒を考えられてたんですけど、デザインとしてまとめるのに苦労されていて。なので小松田さんと一緒にコンセプトを練りつつアイデアを盛って、デザインとしてまとめた感じです。でも使徒もデザインできたので嬉しかったですけど、「新劇場版」を通しては基本的にずっとプラグスーツのデザイン班という感じでしたね。

「シン・エヴァンゲリオン劇場版」は好評公開中
「シン・エヴァンゲリオン劇場版」は好評公開中(C)カラー

――プラグスーツのデザインについてはNT本誌でじっくりと聞かせていただきます。「:序」から「シン・」まで「新劇場版」は長く大きなお仕事でしたね。

コヤマ エヴァの作業では、設定がクリンナップされてからもリテイクが入ることもありますし、それが最終的に画面に出るまで決定稿になることはありえないので「尋常ではない」とは思います(笑)。そういうのが耐えられない人もいるかもしれないですけど……僕はそういう状況もおもしろいと感じられたから、最後まで楽しみながらやることができましたね。

●コヤマシゲト/デザイナー・アートディレクター。数多くの作品にさまざまな形で関わり、「ヱヴァンゲリヲン新劇場版」シリーズでは「:序」から参加。「日本アニメ(ーター)見本市」で制作された「おばけちゃん」では初の監督を務めた。

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「シン・エヴァンゲリオン劇場版」は好評公開中(C)カラー


現在発売中のニュータイプ6月号では、スタッフ・キャスト30名以上のインタビュー&コメントを掲載。コヤマシゲトさんにも別の角度からお話をうかがったものを掲載! 総作画監督・錦織敦史さんの描きおろしイラストが目印です。

「シン・エヴァンゲリオン劇場版」が表紙のニュータイプ6月号は好評発売中
「シン・エヴァンゲリオン劇場版」が表紙のニュータイプ6月号は好評発売中(C)カラー


【取材・文:志田英邦】

リンク:「エヴァンゲリオン」公式サイト
    公式Twitter・@evangelion_co

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