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力量が間に合って良かった――「シン・エヴァンゲリオン劇場版」作画監督・田中将賀インタビュー

「シン・エヴァンゲリオン劇場版」は好評公開中
「シン・エヴァンゲリオン劇場版」は好評公開中(C)カラー

公開中の「シン・エヴァンゲリオン劇場版」。完結編となる本作について、そして「エヴァンゲリオン」シリーズについて作画監督のひとり・主にCパートを手がけた田中将賀さんにお話を伺いました。

――田中さんにとって、25年以上の歴史をもつ「エヴァンゲリオン」シリーズはどんな作品でしたか。

田中 学生時代本放送時見ていて当時僕が好きだったのは、とにかく画としての部分だったんです。カッコイイアクションやカット割りだったりプラグスーツのルックだったり、レイとかアスカの魅力的な女の子のビジュアルや描き方が気になったんです。アニメ業界に入るならやはりガイナックスに入りたいと思っていました。まあ、この話を始めると延々と長いんですけど(笑)、ガイナックスに入れなかったという悔しさ込みで僕の心に刻み込まれた作品でしたね。

――今回、そんな「エヴァ」に参加することになって、どんなお気持ちでしたか。

田中 「エヴァ」は観るものであって、仕事で関わる作品じゃないみたいな感じがあったんです。自分がそんな舞台に立てると思っていなかったし、コンプレックスみたいなものも含めて、触っちゃいけないものだという感じがありましたね。たぶん、僕も「エヴァ」をこじらせていたんですよ。スタジオカラーで作業をしているときも「なんで自分がここにいるんだろう」と思っていましたから。

――スタジオカラーに入って、作画作業は進めていたんですよね。

田中 そうですね。緊急事態宣言が出るまではスタジオカラーに入っていました。ただ、宣言が出てからは自宅での作業が中心になってしまいまして。だから、同世代の他の作画監督の人たちとなかなか交流する機会ももてなかったんです。「エヴァ」をやっていて、ひとつだけ後悔があるとすればそこですね。スタジオカラー内の席もかなりエグい場所に用意してもらっていたんですが。

――エグい席とは?

田中 錦織敦史(総作画監督)の隣の席なんです。そのそばには総監督の庵野(秀明)さんと監督の鶴巻(和哉)さんの席があって……。ええっ!?みたいな。おそらく一番の新参者で、一番の後発の人間だったので、スタジオの端の席で目立たず仕事をしたかったんですけど、そんな席を用意してくれるとは……と。

――そのスタジオの席で一番お話する相手はどなたですか……?

田中 錦織敦史です。彼は「周りにアニメーターがいないから寂しいんだよね」と言っていて。「ダーリン・イン・ザ・フランキス」(錦織が監督、田中が総作画監督)のときと席の位置が入れ替わっただけで、環境は変わらなかった(笑)。でも、錦織くんはすごいプレッシャーを感じていただろうし、きっとすぐに相談できる相手がほしかったんでしょうね。作業後半のリテイク出しのときもお互いにダメだしをして、良い殴り合いができました。「ダリフラ」のときにガチで殴り合ったんで(笑)、「エヴァ」で少々のことを言い合っても大丈夫だったんだと思います。

――最終作業日となる納品日はスタジオカラーにいらしたんですか?

田中  その日はスタジオに入って、最後の瞬間は立ち会うことができました。

――「エヴァ」に対するこじれた想いに、変化はありましたか?

田中 今回の「シン・」に関わっていておもしろいなと思ったのは、(碇)シンジくんに対しての印象が、僕の年齢とともにどんどん変わっていたことなんです。TVシリーズの頃は自分も若く、むかつく小僧に見えていて。「新世紀エヴァンゲリオン劇場版 Air/まごころを、君に」もイライラして観ていたんです。でも「:序」「:破」を観たときにシンジくんが変わったなという印象があって、「:Q」も初見から数年後に見直したら、「いや、シンジくんの立場はしんどいわ」と同情してしまったんですよね。シンジくんを許せる自分を見つけてびっくりしました。我ながらやっとかと(笑)。20年以上の流れで、キャラクターの見え方が変わってくるのは、おもしろい経験だなと思いました。自分を見つめ直せるおもしろい機会だったなと思いましたね。

――完成した「シン・」には、どんな印象をおもちでしたか。

田中 僕は「シン・ゴジラ」がすごく好きなんですが、「ゴジラ」シリーズっていままで見たことがなくて、「シン・ゴジラ」をなんとなく見始めたら、めちゃくちゃおもしろかった。今も仕事中にアホほど「シン・ゴジラ」を観ているんです。たぶん庵野さんの作劇と見せ方が好きなんですよ。その流れで「シン・」がつくられているような気がして、すごく気持ち良い。第3村のシーン、ヴンダーの中、南極のシーン、マイナス宇宙……とルックの作り方がすごく徹底されているから、いろいろな場所でいろいろな事件が起きていることを観ている人にわからせる力がある。そのバランスがよくて、「シン・」は何度も観たくなりますね。

――完成して、お仕事も一段落されたと思いますが、今はどんなお気持ちですか?

田中 完成して、結果的に自分の役割は果たせたのかなと、ほっとしています。「シン・」に作画監督で呼ばれるくらいのポジションに立てて良かったなと思いますし、スタジオカラーの現場に入れる力量を身に着けるのに、間に合ってよかったなと改めて思いました。

(プロフィール)
●たなか・まさよし/アニメーターとして数多くの作品に参加。最近ではキャラクターデザイン・総作画監督を務めた「あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。」が10周年を迎え、記念プロジェクトが進行中

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「シン・エヴァンゲリオン劇場版」は好評公開中(C)カラー


現在発売中のニュータイプ6月号では、スタッフ・キャスト30名以上のインタビュー&コメントを掲載。総作画監督・錦織敦史さんの描きおろしイラストが目印です。

「シン・エヴァンゲリオン劇場版」が表紙のニュータイプ6月号は好評発売中
「シン・エヴァンゲリオン劇場版」が表紙のニュータイプ6月号は好評発売中(C)カラー


【取材・文:志田英邦】

リンク:「エヴァンゲリオン」公式サイト
    公式Twitter・@evangelion_co

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