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『フラ・フラダンス』総監督・水島精二×『EUREKA』監督・京田知己 映画完成対談――面倒くさい人こそおもしろいフィルムをつくる

『フラ・フラダンス』総監督・水島精二×『EUREKA』監督・京田知己 映画完成対談!
『フラ・フラダンス』総監督・水島精二×『EUREKA』監督・京田知己 映画完成対談!

現在公開中の『フラ・フラダンス』水島精二総監督と『EUREKA/交響詩篇エウレカセブン ハイエボリューション』京田知己監督のスペシャル対談が実現! お互いの作品への感想や、主人公を造形するにあたって考えたこと、そしてこれからについて。旧知の仲である2人の演出家にたっぷりと語ってもらいました。

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『フラ・フラダンス』総監督・水島精二×『EUREKA』監督・京田知己 映画完成対談!
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――京田監督は『フラ・フラダンス』ご覧になっていかがでした?
京田 あの、メッチャおもしろかったんですよ。
水島 ありがとうございます。
京田 僕なりの感想になるんですけど、この作品はアニメキャラだからいいなって思ったんです。これが実写で実在の俳優さんが来ちゃうと、その人を見ちゃっていて、実際にそこに生きている人とかその人がやっている職業というものが見えづらくなってしまうだろうなと思って。アニメーションのキャラクターだからこそ、その向こう側に実際に働いている人を感じられるというか。実景の上にアニメのキャラクターをのせる意味は、こういうところにあるんだなと実感できて、よかったんですよ。いや、まいんちゃん(主人公・夏凪日羽を演じた福原遥が以前出演した『クッキンアイドル アイ! マイ! まいん!』より)が大好きなのもあるんですけれど(笑)。
水島 え、そうだったんだ(笑)。

『EUREKA/交響詩篇エウレカセブン ハイエボリューション』は絶賛公開中
『EUREKA/交響詩篇エウレカセブン ハイエボリューション』は絶賛公開中(C)2021 BONES/Project EUREKA MOVIE

 

『フラ・フラダンス』総監督・水島精二×『EUREKA』監督・京田知己 映画完成対談!
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――水島監督も『EUREKA/交響詩篇エウレカセブン ハイエボリューション』をご覧になったそうですね。
水島 見ました。それで今、一番京田君に言いたいのは「お疲れ様」ですよ。
京田 (笑)。
水島 やっぱり16年間もひとつのタイトルを作り続けるって、ものすごくエネルギーがいる行為なんですよ。しかも京ちゃんは、なおかつ新しいものも作り出そうとしてるでしょ。しかもジャンルに対する愛情もすごいし。同じ作り手として同じことはできないなと素直に思いました。
京田 ありがとうございます。でも、そうですか?
水島 例えばさ、テロに追っかけられる2人っていう、とても面倒なシチュエーションをよくも丁寧に描いてるじゃない。見ながら「カロリー高!」って思うんだけど、でも必要だよなぁとも思って。
京田 いやー、車で逃げるヤツを作りたかったんですよね。
水島 分かる分かる(笑)。でもそのあたりがジャンルに対する愛情だと思うのよ。ロボットアニメあり、ロードムービーあり、戦記物風のテロップでの進行もあるし。「映画なんだからこれぐらいやるでしょ」っていう覚悟の決め方が俺よりハードルが高い(笑)。
京田 今回はそういうことをすごく言われるんだけれど、そういう意識はないんですよね。
水島 やっぱそれを無意識でやってるけど、それが京田知己なんだよ。……昔、一緒に仕事をしたアニメーターに言われたんだけど、「やっと、面倒くさい水島の現場から離れてボンズに行ったと思ったら、ボンズにもいたんだよ。水島そっくり面倒くさいのが」。それが京ちゃんだった(笑)。
京田 (笑)。
水島 当時はまだ面識がないからさ。それで「そうなんだ」と思って、『ラーゼフォン』を見たら、「いや、俺より面倒さが上だろ」と思ったけど。
京田 いやいや、確かに言われるけど、そんなに面倒くさくないですよ。
水島 でもまあ、僕から見ると面倒くさい人のほうがおもしろいフィルム作るんだよ。ほらタイプも違うけど○○○さんも面倒くさいタイプじゃん。
京田 ああ、いやー、○○○さん、すごいけど確かに面倒くさいタイプですね。僕は○○○さんみたいなやりかたは無理だ(笑)。
水島 でしょう。だからみんなタイプは違うけど面倒くさいんだって(笑)。
――『フラ・フラダンス』と『EUREKA』は、共通点が少なさそうな2作ではあるんですけれど「主人公と仕事の関係」がドラマの縦糸になっているところは共通点と言えるかなと思いました。
水島 ああ、それはまったく思いも寄らない共通項だ(笑)。

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――『フラ・フラダンス』を制作するにあたって、水島総監督は主人公・日羽と仕事の関係をどう考えましたか。
水島 映画の最初の成り立ちからすると、福島県いわき市が舞台で、そこに暮らすフラダンサーや、福島県のランドマークを扱うことは決まっていたんですよ。その中であえてハワイアンズを舞台に「お仕事もの」――新人がその職業の世界を知っていくジャンルですよね――を選んだのは、その子の成長と視聴者がその世界を知って「なるほどね」となっていく様子が同時に描けるからですね。それは映画にちょうどいいボリュームだろうと。「お仕事もの」は、周防正行監督や矢口史靖監督の作品を見て、一度挑戦してみたいことだったので、いい機会だったんです。
――日羽という主人公が、あえて地味目なキャラクターとして描かれていますよね。
水島 それは意識してそうした部分でもあって。今回は『ずっとおうえんプロジェクト2011+10...』という企画のひとつでもあるので、誰もが共感できて楽しんでもらえるところを目指しているので、普段アニメでやっているキャラクター造形よりは、もう少しリアリティある方がいいだろうな、と。とはいえリアル一辺倒を目指すわけではなく、絵的な部分であるとか、物語全体のテイストは、アニメファンが見ても楽しめるものにするというバランスに落とし込んだんです。

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『EUREKA/交響詩篇エウレカセブン ハイエボリューション』は絶賛公開中
(C)2021 BONES/Project EUREKA MOVIE

――一方、『EUREKA』のエウレカは、これまでがザ・ヒロインという感じだったのに対し、人間の大人になって、上級戦闘員という仕事のプロになっています。
京田 エウレカってキャラクターは「女の子ってファンタジーだよね」というところから始まっているところがあるんです。ただエウレカという女の子のことを考えると、永遠の14歳を繰り返すというのは地獄じゃないか、と。だから「エウレカってこういうことはしないよね」というところから降りてもらって、彼女を一人の人間として描いてあげないと彼女が救われないんじゃないかと思ったんです。長いこと関わってきたキャラクターなので、自分で生活できる確固たる人間として存在してほしいというのが大きな理由でした。
――冒頭の戦闘シーンはアクション的な見せ場でもありますが、同時に人間となったエウレカがいかに生きてきたかを感じさせるシーンでもあります。
京田 うん、だから彼女がこの世界で生き抜くためにどれだけ努力をしてきたのかっていうのが、冒頭のプロフェッショナルな様子を描くことで一番見せたかったところで、だからキャラクターデザインも鍛えた体になっているわけです。それまでの吉田健一さんじゃなくて、奥村正志さんになったこともあって、超能力を使えなさそうな、もっと鍛えた体のデザインにしようということになっているんです。
水島 『EUREKA』を見て、何をやらなくちゃいけないか、何を見せようとしているかは、すごくよくわかる作品でした。やっぱりエウレカというキャラクターを描くこと、エウレカというキャラクターを解放するというところをすごく重視していて。ここで作品にケジメをつけるというか、作品を昇華するということにすごく真摯に向かい合っているフィルムだなと。そこは本当にすごいと思いました。

『EUREKA/交響詩篇エウレカセブン ハイエボリューション』は絶賛公開中
『EUREKA/交響詩篇エウレカセブン ハイエボリューション』は絶賛公開中(C)2021 BONES/Project EUREKA MOVIE

――京田監督は「ハイエボリューション」シリーズやそれ以外の作品でも、毎回新しいアイデアを投入していますが、ああいうアイデアは普段からストックがあるんですか?
京田 うーん、説明しにくいところではあるんですけど、基本的に僕は「お題」を整理している感じなんですよ。これは演出家だったらわかってもらえると思うんですが、周囲が出してきた「この題材だったらこうなりますよ」「それを描くならこれがいりますね」ってお題に答えている感じなんですよ。ただたまにお題とお題がぶつかることもあって、「そのお題を追加すると、最初のお題の狙いのほうにいかなくなっちゃいますよ」みたいなこともあったりするんですけれど。「ハイエボリューション」シリーズの場合は、もし次に誰かが『エウレカセブン』を監督することになってもいいように、これまでのシリーズに決着をつけつつ、新しい要素をいろいろ用意していくことだったんです。
水島 ああ、演出家だったらわかる、という部分はほんとにそう。これが意外にほかの人には伝わらなかったりすることもあるんだよね。だからそこをいかに説得するかみたいなことは毎回あるね。『フラ・フラダンス』でも熱いメールを書くという作戦で、その難局を突破したことは何回かあった。
京田 熱いメールですが、それはいい手ですね。水島さんは、多分僕が悩むような段階よりももっと前でコントロールしてると思うんですよ。実制作が始まる前に、自分に作りたい方向にどうもっていくかがしっかりできているというか。そういう意味ではすごくプロデューサー的な部分があって。そういう部分に関してはもう全然、水島さんはすごいと思っていて。そういう部分をできるようになりたいなと思っていたけれど、できないうちに四十代が終わってしまった。
水島 え、そうなってくると、そういう部分をアウトソーシングできる相手を見つけるしかないよね。……俺、やるよ(笑)。
京田 えっ(笑)。
水島 だってようやく『エウレカセブン』が終わったわけでしょう。俺も京ちゃんのオリジナルで、一本勝負するような映画がめちゃめちゃみたいもん。もう、「次行こう! 次行こう!」て思ってるもの。
――お二人が最初に仕事をしたのは『鋼の錬金術師』になりますか?
京田 『鋼の錬金術師』で何話か絵コンテをやってOPも担当しましたけど、直で演出処理をやったのは『楽園追放 -Expelled from Paradise-』だけなんですよ。
水島 演出となるとそうね。
京田 その『楽園~』の仕事では、結構水島さんに影響を受けたんですよ。アフレコにも立ち会わせてもらって。僕は音響監督の三間(雅文)さんとは初めてだったんで、借りてきた猫っていう感じで、水島さんと三間さんのやりとりを見ていて「俺は、水島さんみたいにここまでちゃんと言語化できていないな」って思って。
水島 でも俺も最初からできたわけじゃなくて。『(地球防衛企業)ダイ・ガード』の時に三間さんから、キャラクターについての質問がバンバン来るんですよ。元々考えていたことについてはスッと答えられるけれど、スッと答えられないところも多くて。その時に、「この人がこういう行動をするのはこういう人だから、こういう感情だから」というのをもっと掘り下げてないとダメだと思ったの。
京田 あ、キャラクターの描き方でいうと『フラ・フラダンス』でひとつ聞いてみたいことがあったんですよ。
水島 え、なになに。
京田 ぽっちゃりとした子がいたじゃないですか。
水島 うん。(滝川)蘭子ね。

映画『フラ・フラダンス』は絶賛公開中
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京田 彼女が「米」とか、おもしろい文字が描かれたTシャツを着ているじゃないですか。ぽっちゃりしている子にわざわざおもしろいTシャツを着せたのは何故だろうと思って。
水島 ああ、そのことね。これは脚本にはなかったんだけれど、彼女って映画が進むにつれて、ちゃんと節制して体重も減ってくる様子を描こうと思って。キャラクターデザインも3種類描いてもらったの。そしてそれぞれのTシャツ姿を設定する時に、デザイナーの女性が「蘭子は食べることが好きだから」って「芋」て描いてきたんです。もともと蘭子は自分からわざと相撲取りの真似をするぐらいのキャラだから、これぐらいパンチがあってもいいだろう、と。それであと2つが「米」と「甘」になったの。途中、ほかの漢字が候補になったこともあったんだけれど、それだと蘭子を笑いものにしてる感じに見えてしまうかもしれないというおそれもあったんで、それはナシにしたりはしてますね。
京田 ああ、そういうバランスの結果だったんですね。

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――京田監督はインタビューで折に触れて「キャラクターの人生をウソにしたくない」という話をされていますが、それはいつ頃からそう思っているんですか。
京田 「交響詩篇エウレカセブン」が始まったばかりのころはそこまでは考えていなかったように思います。でも特技監督の村木(靖)さんと仕事をするようになって、メカというのは中に乗っているパイロットが大事なんだ――いわゆる板野(一郎)イズム的なものを繰り返し聞かされまして、「それはそうだな」と思ったんです。だから村木さんと仕事をしてなかったら、多分そういうふうに考えるようにはならなかったかもしれない。
水島 村木さんなんだ。それは意外。
京田 そうして、操縦している人のことを考えているうちに「こういうキャラクターってこう動かすんだろ」っていうのがだんだんやりたくなくなっちゃった、みたいな感じですね。

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――京田監督は「お仕事もの」ってやってみたいですか?
京田 「お仕事もの」もやってみたいと思いますよ。ただ、絶対に依頼がこないんじゃないかなぁ(苦笑)。今はともかくロボットがでないものをやりたいかな。
水島 いやでも俺でも、『フラ・フラダンス』の企画がきた時に「ロボットとかは出さないでほしい」って言われて、「あ、そこ釘を刺されるんだ」と思ったからね(笑)。
京田 (笑)。
水島 だから、そういうパブリックイメージはあっても、仕事は来るかもしれない。
――水島監督が、京田監督のこれからに望むものというのはありますか。
水島 さっきも話しましたけど、ずっと関わっていた『エウレカセブン』が終わって、呪縛から解き放たれたんだから、まったく新しい次の作品にどんどん行ってほしいです。「こういうのやりたい」っていう企画を自分から出すもよし、「こういうのやりませんか」みたいな先方の提案にアイデアを出すなり。いずれせよ純度の高い京田知己のエンタメ、というものを見せてもらいたいなと。そこで手伝えることがあるならプロデューサーでもやるよ、という気持ちですね。
――京田監督から水島監督に望むものはありますか。
京田 水島監督は、一番身近でいろいろ勉強させてもらっている監督なんですよね。しかも水島さんは、いろんな題材を扱っているんだけど、出来上がった作品は水島さんの作品だとしかいえないものを作っていて。だから「こういうのを作ってほしい」って望んでも、水島さんならちゃんと作っちゃうんだろうな、という気がするんですよ(笑)。
水島 (笑)。
京田 だから「何を言ったらいいんだろう」というのがあって(笑)。
水島 でもやっぱり依頼があるのはパブリックイメージがある方向のものが中心だからさ。だから、そういう意味では『フラ・フラダンス』はやれて本当によかったな。と。
京田 ほんと、『フラ・フラダンス』、よかったですよ。……あ、そうだ、水島さんで、エンタメ時代劇を見てみたいですね。『大江戸ロケット』的な方向ではなく、すごく真面目な切り口のやつを。
水島 ええ!? エンタメ時代劇? それはまた大変過ぎるお題だなぁ(笑)。
京田 いつか是非(笑)。

『フラ・フラダンス』総監督・水島精二×『EUREKA』監督・京田知己 映画完成対談!
『フラ・フラダンス』総監督・水島精二×『EUREKA』監督・京田知己 映画完成対談!

発売中の「ニュータイプ1月号」では、『フラ・フラダンス』『EUREKA/交響詩篇エウレカセブン ハイエボリューション』の特集記事あり! 『フラ・フラダンス』は描きおろしイラスト、水島総監督インタビューに加え、スパリゾートハワイアンズの取材レポート、『EUREKA/交響詩篇エウレカセブン ハイエボリューション』では、京田知己監督、エウレカ・サーストン役の名塚佳織さんのインタビューを掲載。こちらも注目です。

【撮影:大川晋児、取材・文/藤津亮太】

■『フラ・フラダンス』
●全国劇場で公開中
リンク:映画「フラ・フラダンス」公式サイト
    公式Twitter・@hula_fulladance
    ずっとおうえんプロジェクト2011+10...

■『EUREKA/交響詩篇エウレカセブン ハイエボリューション』
●全国劇場で公開中
リンク:劇場版「交響詩篇エウレカセブン ハイエボリューション」公式サイト
    公式Twitter・@EUREKA_HI_EVO
 

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