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BL(ボーイズ・ラブ)漫画をきっかけに、女子高生と老婦人の間に58歳という年齢差を超えて友情が芽生えるヒューマンドラマ「メタモルフォーゼの縁側」(著者=鶴谷香央理)が実写映画に! 女子高生・うららを芦田愛菜さん、老婦人・雪を宮本信子さんが演じるという豪華キャストです。映画化にあたって、2人を結びつけた劇中漫画「君のことだけ見ていたい」の作画を担当したじゃのめ先生にインタビューしました。
――じゃのめ先生は原作のファンだとうかがいました。先生が感じる原作の魅力は?
じゃのめ 第1巻から順番にお気に入りシーンを挙げていきたいくらい好きなんですけど、長くなってしまうので(笑)、特に好きなところを言いますと、登場人物が身近に感じられるところです。うららさんや雪さんの行動やしぐさが、自分にも覚えがあったり、家族や友人を思い出させたりして、親近感がわくんですよね。特にうららさんは、漫画を描くときの気持ちや、BL愛好家として共感するような行動が多すぎて……私も高校時代はBL好きなことを隠していたし、漫画も隠れて描いていたので、うららさんの気持ちがわかりすぎて、勝手に友達だと思っているところがあります(笑)。
――じゃのめ先生のBL漫画との出会いを教えてください。
じゃのめ 中学生のころに友達にすすめられたのが初めてでした。BLをすすめられた経験のある方ならわかると思うんですけど、背後から忍び寄られて、耳打ちされるような感覚があるんですよね(笑)。衝撃を受けるというよりも、スルリと入り込まれたような感じでした。すすめてくれた友達が、それまで少女漫画を貸してくれていて、そのなかで私の趣味を探られていたようで。ある日スッと渡されたものがBL作品で、「男の人同士だ!」とちょっと驚きはしましたが、違和感はありませんでした。私の好みに合わせた作品を選んでくれたんだと思います。一撃必殺でしたね。
――「君のことだけ見ていたい」の作画されることになった経緯や、そのときのお気持ちを教えてください。
じゃのめ プロデューサーの河野(英裕)さんから突然メールをいただいて依頼されました。映画化のことはファンとして知っていたのですが、びっくりしたというのがいちばんの感想です。読者として読んでいたとき、自分がコメダ先生なれるとは……自分の絵柄では考えたことがなかったので、本当にびっくりしたんですけど、すぐにやりたいと思いました。作品が好きなのももちろんですが、河野さんのメールもビジネス的ではなく、優しそうな感じがしたので、安心してお引き受けしました。
――作画はどのようになさったのですか?
じゃのめ 映画の台本に「君のことだけ見ていたい」のパートも書かれているので、それを抜き出してネームを起こす、というところから始めました。事前の打ち合わせで、制作の方々も私も、原作に寄り添っていきたいという意見が一致していまして、台本のなかのセリフは原作寄りに書かれていましたね。最初は台本にないものは描いてはいけないと思い込んでいたのですが、狩山(俊輔)監督から「もっと自由にやっても大丈夫だよ」と言っていただいて、台本にはないコマとコマの隙間を埋めるようなセリフを加えたり、新しいコマを足したりさせていただいたので、楽しい作業でした。咲良くんと佑真くんのストーリーの隙間を埋めてよい、というところがうれしかったです。2人の間に何があったんだろう? 喧嘩したのかな?と想像しながら描きました。
――作画にあたって工夫したところを教えてください。
じゃのめ 鶴谷先生の漫画が好きすぎて、コマ割りやムードをトレースしようと思っていたんですけど、やっぱり「私の漫画」を描かなければ成立しないんだな、と思ってコマ割りや構図にはこだわりました。また映画を見ている方に、ひと目でどちらが咲良くんでどちらが佑真くんかわかりやすくするために、髪形や髪の色は変えさせていただきました。原作では、佑真くんは社会人になったら髪が短くなるんですけど、映画の中で時間軸を表すのは難しいだろうと思って、時間の経過を髪で表現するつもりで、髪を伸ばして。鶴谷先生が作ったキャラクターを変えてしまうことになるのではないかと、かなり悩んだところではあるのですが、わかりやすさを重視させていただきました。
――映画をご覧になった感想をお聞かせください。
じゃのめ すごくよくて、最初は自分の作品をチェックするつもりで見始めたのですが、チェックをすっかり忘れて、見入ってしまいました(笑)。チェック用のDVDをいただいた日だけで3回見ました。本当にすてきな映画だと思います。
――映画のなかに登場したご自身が描かれた漫画についてはいかがですか?
じゃのめ 読む人の目線で紙がめくられていくところが、本当にすごくて……めくる音にもこだわっていますし、画像を取り込んだだけでなく、撮影なさったらしく、紙の質感にもこだわりを感じました。私自身、どんなふうに使われるのか、まったく想像がつかなかったのですが、映画を見せていただいて、びっくりしましたし、うれしかったです。BL作品として映画のジャマになってしまったり、オーバーに表現されたりしたら困るな、と思っていたのですが、物語に自然に組み込んでくださって、漫画を読むことが自然だと思える表現だったので、感動しました。カメラが寄っていくところも、うららさんと雪さんはここに注目しながら読んだのかな、と想像したりして。楽しかったです。
――じゃのめ先生が漫画を描くにあたって、心がけていることや、大切になさっていることを教えてください。
じゃのめ 漫画はフィクションなんですけど、読者さんにウソはつかないことが大事だと思っています。私自身がサボッたり手を抜いたりしたところは、読者さんにバレていると感じるんです。みなさん、読む目線が鋭いんですよね。真摯に取り組み、誠実でいなければ伝わらないと思いますし、まじめに描いて、まじめに読んでくださる方の気持ちに応えたいという思いが強いですね。誠実にやったことに読者さんが気持ちで返してくださることがとてもうれしいです。
――最後に、映画の見どころを含めて、読者にメッセージをお願いします。
じゃのめ すごくすてきな映画なので、BL好きな方も、BLを知らないという方も、ぜひ見ていただいきたいです。特に、物作りをする人にとってはすばらしい映画だと感じます。そして、映画を見る前でも見た後でもいいので、原作の漫画「メタモルフォーゼの縁側」を読んでいただけたら、もっと世界が広がるんじゃないかと読者の立場からも思いますので、原作もよろしくお願いします。
【取材・文:垳田はるよ】