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団地への思いに直撃! 劇場アニメ「ぼくらのよあけ」今井哲也×佐藤大対談

2022年10月21日(金)より全国公開された映画「ぼくらのよあけ」。2011年発行の同名の傑作SFジュブナイル漫画を原作に、今、届けたい少年たちの世界と想いがスクリーンに描き出されます。

劇場アニメ「ぼくらのよあけ」全国公開中
劇場アニメ「ぼくらのよあけ」全国公開中(C)今井哲也・講談社/2022「ぼくらのよあけ」製作委員会

発売中のニュータイプ11月号では、原作の今井哲也さん、脚本の佐藤大さんに、今作の成り立ちや制作中のエピソードをうかがいました。続く今回ウェブニュータイプでは、お2人の出会いや団地というモチーフへの想い、黒川智之監督の印象について語っていただきます。本誌11月号と合わせてお楽しみください!

――団地好きトークユニット「団地団」の活動でもご一緒されているお2人ですが、出会いはどんなものだったのですか?
佐藤 大山顕さん、速水健朗さんと団地団を結成したのが2010年の末なんですが、2011年に大山さんたちとSNS上で「ヤバい本が出る」と盛り上がって。そのとき僕はシナハンで熊本にいて、熊本の本屋で「ぼくらのよあけ」を買って、帰りの飛行機で読んで、空港に着いてすぐ「ヤバいです」と返信したのを覚えています(笑)。当時、団地団の本(「団地団 〜ベランダから見渡す映画論」)を準備していたので、中のイラストを今井さんにお願いしたいということになって。新書「映画を早送りで観る人たち」などで、今や飛ぶ鳥を落とす勢いの編集ライターの稲田(豊史)さんが今井さんに連絡をとってくれたんですよね。その前後くらいで開かれた団地団イベント(阿佐ヶ谷ロフトA にて2012年1月開催)へ今井さんにゲストに来ていただいて、たぶんそのとき初めてお会いしたのかな。
今井 当時……僕は漫画家デビューしてしばらくして、東京でひとり暮らしを始めたくらいの頃で。世の中にそんなトークイベントが存在するなんて知らなかったので、バンドのライブとかじゃなくて!?みたいな(笑)。ただ、大さんがシリーズ構成をされてた「(交響詩篇)エウレカセブン」をリアルタイムで観てましたし、大山さんの「工場萌え」とか知っていたので、そんな方々が僕の漫画をめっちゃ褒めてくれてるというのに、びっくりしちゃって。参加できて、とてもうれしかったです。実は「ぼくらのよあけ」の前に描いてた「ハックス!」にも、あからさまにエウレカのパロディをやっている風のTVアニメが出てくるのですが、まさか大さんとつながってしまうとは……。内心、ヤバいって思いましたけど(笑)。
佐藤 そうそう。僕も遡って「ハックス!」を読んだとき「これは……!?」と思って(笑)。そのあたり、お会いしたときに話せて楽しかったですね。
今井 本当にすごくいい方で、ほっとしました。
佐藤 団地団に関しては、それまで、大山さんと速水(健朗)さんと僕の3人組の形だったんですけど、そのイベントの時に今井さんが手を挙げて「入りたい!」と言ってくれて。そうか、「入る」っていうシステムがあったんだっていう気づきが生まれ(笑)。これがけっこう目から鱗で、それ以降、メンバーが無限増殖しはじめたという。
今井 入りたいと言った自覚は僕にはないのですが(笑)、でも、混ぜていただけてうれしかったです。

作中で登場する「阿佐ヶ谷住宅団地外観」美術ボード
作中で登場する「阿佐ヶ谷住宅団地外観」美術ボード(C)今井哲也・講談社/2022「ぼくらのよあけ」製作委員会

――団地を舞台に物語を描くことについての想いを教えてください。ちなみに今井さんは「ぼくらのよあけ」を描かれた時には、どんな思いで団地を選んだのでしょう?
今井 僕が住んでいたのは厳密には団地ではないんですけど、親が学校の教師だったので、子供の頃は教職員住宅に住んでいて。団地タイプの建物だったので遊んだ場所とか思い出として浮かんでくるのは、やっぱ団地的な光景なんですよね。だから、そこを舞台にしたらキャラが生き生きしてくるんじゃないかな、みたいなことは最初に考えた気がします。
佐藤 僕はまさに団地出身で、まさに悠真たちの年の頃に団地で生活していたので、団地は原風景という感覚がとても強いですね。あと、「ぼくらのよあけ」の舞台になっている団地「阿佐ヶ谷住宅」にも、実は団地団がはじまってからすぐくらいのタイミングで見学に行ってるんです。その後、2013年に取り壊されてしまったので、見ておけてよかった。街の中での距離感とか肌で観じた経験は、今回とても役に立ちました。加えて、大山さんの知り合に、取り壊しまで含めて記録撮影されてた方がいて、今回資料として写真を提供していただけて、ありがたかったですね。当時の空気に触れられた経験を活かして、もう今は見ることはできない情景を描けたのではないかと思うし、阿佐ヶ谷住宅をアニメーションで再現することは、とても大きな意味があるのではと感じていました。
――ふと見まわすと、昨今、団地が舞台になっている作品も増えてきていますね。
佐藤 なんか不思議ですよね。10年前に団地団を始めた時は、リアルタイムの作品にはあんまりないからおもしろいと思って初めたことだったのに。だからこそ、「ぼくらのよあけ」に出会ったときに、そういう意味でもうれしかったんですけど、まさか10年後に、こんなに団地が舞台の作品が溢れるとは……(笑)。最近ではTVアニメでも「よふかしのうた」や「異世界おじさん」があって。でも、まあ、作り手の世代がちょうど団地で育った世代ということが大きいんでしょうね。

劇場アニメ「ぼくらのよあけ」より
劇場アニメ「ぼくらのよあけ」より(C)今井哲也・講談社/2022「ぼくらのよあけ」製作委員会

――黒川智之監督とのクリエイティブから受けた刺激は?
佐藤 僕は黒川監督とご一緒するのは初めてだったんですけど、近いところでは「PSYCHO-PASSサイコパス」や「龍の歯医者」などでのご活躍は知っていました。実際に現場を共にして感じたのは、すごく冷静に作品を見るタイプの人だということ。とてもクレバーに、「映画としてはこうです」とロジックで伝えてくれて、頼もしいなあと思っていたんですけど、後半になるにつれ、めちゃめちゃエモーショナルになって(笑)。ああ、さらに腹を割って話して、つくることができる方なんだ、とわかって、最終的により信頼度が増しました。
今井 いや、まったく、僕も同じ印象です。ホン読みがはじまって間もない頃は、僕と大さんが2人でずっと喋ってて、監督はうなずいて聞いてくれている、みたいな感じだったのが、回を重ねていくとだんだん、実はめちゃくちゃ熱い人だってことがわかって。監督が映画の芯にしたがっているものが肌でわかって、じゃあ、そこに向かってやっていこう!と素直に思いました。

【取材・文:ワダヒトミ】
★発売中のニュータイプ11月号、今井哲也さん(原作)×佐藤大さん(脚本)インタビューもぜひお手にとってお楽しみください。

■「ぼくらのよあけ」
全国公開中

スタッフ: 原作…今井哲也 「ぼくらのよあけ」(講談社「⽉刊アフタヌーン」刊)/監督…⿊川智之/脚本…佐藤大/アニメーションキャラクター原案・コンセプトデザイン…pomodorosa/アニメーションキャラクターデザイン・総作画監督…吉⽥隆彦/虹の根デザイン…みっちぇ/⾳楽…横⼭克/アニメーション制作…ゼロジー/配給…ギャガ、エイベックス・ピクチャーズ

キャスト: 沢渡悠真…杉咲花/ナナコ…悠木碧/岸真悟…藤原夏海/⽥所銀之介…岡本信彦/河合花⾹…水瀬いのり/岸わこ…戸松遥/沢渡はるか…花澤香菜/沢渡遼…細⾕佳正/河合義達…津田健次郎/岸みふゆ…横澤夏子/⼆⽉の黎明号…朴璐美

リンク:劇場アニメ「ぼくらのよあけ」公式サイト
    公式Twitter・@bokura_no_yoake

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