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好評放送中のアニメ「神之塔-Tower of God-」。物語はクライマックスに突入しています。はたして夜やラヘルに待ち受ける運命は――。
今回、WebNewtypeではニュータイプ6月号の佐野隆史監督のインタビューを再掲載いたします。また現在発売中のニュータイプ7月号ではシリーズ構成吉田恵梨香さんのインタビュー、さらに原作者SIUさんのコメントも掲載しています。ぜひ、こちらもお楽しみください!
──SIU先生による原作コミックをお読みになってどのような印象でしたか?
佐野 複雑だけどおもしろいですよね。TVアニメ化を前提として読んだので、最初に思ったのはまとめるのが難しいな、ということでした。原作は10年も連載している作品ですから、たとえば、途中の盛り上がっている部分からアニメ化するという意見もありましたが、そうなるとキャラクターの説明もおろそかになる。登場するキャラクターそれぞれにバックボーンがあるんですよね。それをちゃんと説明しながら1シーズンでまとめようと考えていきました。
──どんなところをおもしろいと思われたのですか?
佐野 やっぱりストーリーですね。韓国の漫画ということで、韓国がもっている社会問題、受験戦争とか、今年アカデミー賞を取った映画「パラサイト 半地下の家族」でも見られる格差社会といったものがすごくにじんでいるなと思ったんです。キャラクターそれぞれが何かしらを抱えている、若者たちのギスギスした感じ。そこをうまく生かしていきたいと思いました。
──SIU先生からの要望などはありましたか?
佐野 ほぼなかったですね。原作を連載しているNAVER WEBTOONさんが上手にコントロールしていただいたのかなと思います。ただ、ヒロインのラヘルに関してはキャラクターデザインでコメントをもらいました。ラヘルは作品的にはかわいい子ではないんですけど、アニメにするからということで最初にかわいくしたデザインで相談してみたんです。でも、先生からはNGが出ました。ラヘルはかわいくしないでくれと(笑)。
──ヒロインをかわいく描かないでくれと(笑)。
佐野 わかるんですよ、僕も同じ思いでしたから。この世界ではラヘルのことを好きなのは夜だけなんです。ラヘルが万人受けするようなかわいい子だったら話が変わってきてしまうんですよね。
──ほかに、キャラクターデザインの工藤昌史さんや谷野美穂さんにはどんなことを伝えましたか?
佐野 影なし作画にしたいということと、できるだけ線を減らしたいということ。どこまで線を減らせるのかは、時代によって変化していくので、工藤さんにお任せしました。
──影なしにしたのは、動きを見せるためですか?
佐野 線を減らすことと同じで、原作の空気を生かしたかったからなんです。原作は絵の密度の薄さがいい味になっていると思って、それをアニメで再現しようと思いました。線については、昔のアニメのようにしたくて強弱をつけているんです。
──輪郭線のタッチが特徴的ですよね。見飽きないです。
佐野 今のアニメは細くて均一の線が多いんですけど、僕は昔のアニメのような、強弱のついた線をやりたかった。でもTVシリーズでアニメーターにそれを求めることは難しいので、代わりに撮影処理で、ランダムだけどギザギザが出るようにしています。一方で、ディフュージョンやフレアなどのフィルター処理は基本的には入れていません。背景もそのまま。パッと見たときの色合いがなるべくきれいになるよう工夫しました。撮影監督の野口龍生さんは「バキ」も参加されていて、あっちは撮影処理がガンガンに入れている。野口さんの両極端な仕事を見比べるのもおもしろいですよ(笑)。ただ、撮影処理を入れないということは作画がそのまま見えるということです。作画の崩れも見えてしまいますから危険かなとも思ったのですが、それを隠すために撮影を使うのはやめようと、思い切って撮影を処理なしにしました。
──ある種の覚悟でもあるわけですね。物語についてもうかがわせてください。ラヘルの何が、夜にとってかけがえのないものになったのでしょうか。
佐野 原作から描かれているのですが、刷り込みですよね。洞窟の中で生きていた夜の前に、初めて現われた人間がラヘルだった。生まれて初めて見たものをお母さんと思うように、理屈じゃなくラヘルを好きになった。だからきっと恋愛感情とはちょっと違うんです。
──主人公の夜を描くときはどんなことに気をつけましたか?
佐野 夜は主人公だけど能動的な行動がないんですよね。かといってラヘルから見た夜も描く機会が少ない。ならばと、周りの仲間たちとの関係性をしっかり描こうと思いました。他人を蹴落としてでも塔の上に行きたいと考える人々のなかに、全然違う思いをもつ夜が放り込まれることで、周りが大きく変化していく。周りの反応をていねいに描くことで、夜のキャラクターが立てばなと。
──クンやアナクの過去も明らかになりました。それぞれ切実で傷ついた過去を背負っています。
佐野 この作品のテーマは「幸せとは何だろう?」だと思うんです。暗い過去から逃れたくて、富や権力を求めて塔を上るんだけど、その途中で自分の過去、あるいは夜を顧みることで自分にとっての“本当の幸せ”を考える。物語の後半で大きなキーとなるのはラヘルの存在です。生まれながらに才能をもった夜を始めとする“勝ち組”と、才能を持たない“負け組”がそれぞれいることがわかってくる。“負け組”の人たちを描くことで、ラヘルの存在が浮かび上がってくるんです。
──クンやアナクも才能を持った勝ち組に入りますね。ラヘルが今後どうなるのか、大いに気になるところです。
佐野 この後、第7話~第9話で物語は大きく展開して、それぞれのキャラクターが抱えている問題の解決編に入ります。第10話からは最後のエピソードへ向かうのでぜひ楽しみにしてほしいと思います。最終話はあっと驚くような仕掛けにもなっているので、ぜひ集中して見ていただけたらと思います。
【取材・文:細川洋平】