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戦士を目指すナツメの修行が本格的にスタートした「デカダンス」。作品の魅力を掘り下げるリレー連載企画、第6回はキャラクターデザイン・総作画監督の栗田新一さんとサブキャラクターデザインの緒方歩惟さんが登場。キャラクターの生き生きとした表情はいかにして生まれたのかをうかがいました。
――お二人がキャラクターデザイン、サブキャラクターデザインという役職で参加された経緯からうかがえますでしょうか。
栗田 参加した時期はシナリオがかなり進んでいる状況で、たぶん「フリクリ オルタナ」の作業が終わった頃だと思います。角木(卓哉/NUTプロデューサー)さんから、「栗田君、やって」と言われ……(笑)。
(ここで同席していた角木プロデューサーが補足)二人とは「デス・パレード」の元になった「デス・ビリヤード」(いずれも制作:マッドハウス)から一緒に仕事をしていて、僕がマッドハウスを辞めてNUTを立ち上げるときも、ついてきてくれた二人だったんです。そのままNUTにいてくれる限り、確実に「デカダンス」は一緒にやるだろうなと半ば決まっていた感じはありました。
栗田 確かに、最初から「やってほしい」と匂わせていましたよね。まだ作品がどうなるか分からないけど、やるとなったらお願いするかもと。緒方さんは、私が手術をすることになってキャラクターデザインが捌ききれないという状況になったので、だったら緒方さんにフォローしてもらおうとなりました。
緒方 そうですね。私は当時からNUTの社員だったこともあって、角木さんから「やってね」という感じのオファーをいただきました(笑)。
栗田 緒方さんは社内の別作品でキャラクターデザインをやっていて、その画を見たときに丸みを帯びた感じがpomodorosa さんのデザインにぴったりだなと思って、緒方さんがいいんじゃないかという話を角木さんとしました。
――オファーがあった際に、作品の設定や物語についてどんな感想をお持ちになりましたか。
栗田 たぶん視聴者さんの何割かが第2話で思ったことと一緒だと思います。ゲーム世界と聞いて、まずVRなのかなと思ったんです。でも、話を聞くと全部リアルの世界、人間がちゃんと存在している世界を舞台にゲームを繰り広げていると。自分の知っている範囲では全然聞いたことのない設定だったので、これはすごいと興奮しました。
緒方 内容が難しそうだと思いました(笑)。でも、人間たちのリアルな世界とサイボーグの世界で全然タッチが違っているのが面白かったです。
――pomodorosaさんのキャラクターコンセプトデザインをアニメのキャラクターデザインにする際、どのような部分を大切にされようと思いましたか。
栗田 pomodorosa さんのデザインをそのままアニメーションに起こすのではなく、「デカダンス」の世界に合わせたデザインに調整していくことですね。この作品のブレーン、中心となるのは立川(譲)監督なので、逐一確認していただいて立川監督の頭の中にあるデザインに少しずつ近づけていくというやり方で進めていきました。もちろん、pomodorosa さんの描くキャラクターの特徴、例えばがっしりした下半身などはしっかり生かすようにしています。
――監督からのリクエストで何か印象的だったものはありますか。
栗田 この作品の直前まで線と影が多めの、リアルなデッサンの作品をやっていたので、「もう少し漫画的で丸みを帯びた感じや、はったりの効いたアニメーションらしさを重視してほしい」と言われました。あとは、影と線を少なめにしてほしいとのことでしたね。アクションシーンについては装備デザインのプロップデザイナーの方がいたので、まずは日常芝居、感情芝居で動きやすいものにしようと思いました。
――緒方さんは、サブキャラクターデザインとしてどのキャラクターを担当されたのでしょうか。
緒方 マーチンとゴメスに、ミンディ、メンディ、ムンディの三人、あとはオペレーターの三人などです。最初にデザインしたのはマーチンでした。これはpomodorosaさんのコンセプトデザインがあったんですが、それ以外に担当したキャラクターは栗田さんのラフを元にしたり、自分で考えたりしました。
栗田 ミンディ、メンディ、ムンディだけ私がラフを描いて、あとは緒方さんのオリジナルです。
――そうだったんですね! ちなみにミンディたち三人のデザインを考える際、栗田さんとはどんなお話しをされたのでしょうか。
緒方 確か……いろいろ描き方のコツを教えてもらった気がします。
栗田 デッサン的ではなく、記号的なほうがいいという話はしましたね。その上で、完全に平面ではなく、立体感もあって画面映えがするようなデザインにしてほしいと。
緒方 線の入れ方とかも教えてもらいました。
――緒方さんのオリジナルであるオペレーターの三人についてはいかがですか。
緒方 イチからデザインを考えるのは楽しかったんですが、やっぱり大変でもありました。もともといるキャラクターや立川さんの考えている世界観にちゃんと合っているのかどうかが分からず、かなり試行錯誤してしまって……。結果的に三人とも三パターンずつ立川監督に提出して、それを組み合わせる形になりました。
栗田 例えば、オペレーターの女の子(オペレーターB)だったら、ショートヘアの子にロングヘアを合わせたりしましたよね。あとはキャラ打ちのときにミナトにメッシュが入っているので、三人にもメッシュを入れてもらった気がします。
緒方 そうですね。制服はpomodorosaさんが描かれたミナトに合わせています。
――立川監督から直接言われたことは何かありましたか。
緒方 そこまで細かいことは言われなかったんですが、大きなところだと「あまりリアルに描かないでほしい」と言われました。
栗田 線の多さはやっぱり立川監督が一番気にされていたことですね。こちらとしては五割ぐらい減らしたつもりが、まだまだ多いということもあったくらいです。
――栗田さんが最初に描かれたキャラクターは誰ですか。
栗田 キャラクターデザインをするうえで女性はナツメと男性はカブラギが基準になるだろうと思ったので、その二人から取り掛かりました。
――では、まずナツメのデザインで特に大事にされたことを教えていただけますでしょうか。
栗田 立川監督から表情がころころ変えられるようなデザインにしてほしいとの注文があったので、表情の豊かさを一番大事にしました。あとはpomoさんらしさをしっかり残したくて、一度、打ち合わせをしたときにナツメをどういうふうに描くか、目の前で実演していただいたんです。描き順や癖を覚えて、本編でもそういう描き方を意識しています。
――ほかのスタッフと共有されているわけではない?
栗田 そうですね。スタッフに伝えたところで混乱させるだけなので(笑)。
――緒方さんはナツメのキャラクターデザインについて、どう思いましたか?
緒方 かわいいです! デザイン全体もですが、やっぱりころころ変わる表情が魅力的だなと思いました。あとは、シャツの右手側がノースリーブになっているところですね。
栗田 義手を通さないといけないので穴が大きめのノースリーブなのもポイントですね。
――第3話で新たな義手となり、第4話ではそのギミックを活かした戦闘も見られるそうですね。
栗田 わりと強引なギミックで(笑)、嘘もいっぱい入っているんですが、見栄えはするようなデザインにしたので楽しみにしていただきたいです。
――カブラギについてはいかがでしょうか。
栗田 カブラギはヒゲですね。実はpomoさんのデザインではヒゲがないんです。それが立川監督のアイデアでヒゲを加えることになって。最初はあごのラインを描いてヒゲを加えるという描き方をしていたのが、立川さんが言ったのか、私が勝手にやりだしたのかは忘れたんですが、あごとヒゲを一緒に描くようになったんです。
――ヒゲを足さなくていい形にしたわけですね。
栗田 そうです。あごの形とヒゲの形を融合させることで、筆の手数が減らせるようになったんです。このライン作ったときに決定稿になったので、そこで漫画的な表現が決まったのかなと思います。あとは、目つきですね。最初はもう少し瞳孔を大きく描いて、おっさんにしてはかわいい印象になるようにしたんですが、立川監督と角木さんからもっともっと小さくしてほしいと言われ、どんどん小さくなって現在の形になりました。
緒方 カブラギはカッコいいですよね。それに意外と描きやすいんです。私はおじさんを描くのが苦手なんですが、すごく描きやすいなと。それは栗田さんがおっしゃっていた、輪郭の特徴がわかりやすいからなのかなと思いました。
――栗田さんはほかにどのキャラクターを担当されたのでしょうか。また、筆が乗ったキャラクターも教えていただけますか。
栗田 ほかに担当したのはクレナイ、リンメイ、フェンネルで、サイボーグの素体だとジルとドナテロとミナトです。それ以外の、例えば、マイキーやサルコジ、ランカーのカブラギの素体などは谷口(宏美)さんが担当してくれました。特にランカーのカブラギの衣装は私の引き出しにないデザインで、すごくかっこよかったですね。
筆が乗ったキャラクターは女の子だとリンメイ、男だとフェンネルですね。あまりリテイクを重ねずに決まった記憶があります。
――リンメイは第1話のお尻の作画が素敵でした。
栗田 あれは原画さんがいい感じに描いてくださったので、特に手を加えるようなことはしてないです。良いカットですよね。
――緒方さんは、筆が乗ったキャラクターは誰ですか。
緒方 どのキャラクターも楽しかったですね。本編の作業だと、ナツメです。第1話では「かの力」に入れないと院長に言われて、抗議したり落ち込んだりするところの原画を担当しています。動きや表情がかなりコミカルになる場面ですが、かわいく描くことを大事にしました。
――逆に大変なことはどんなことでしょうか。
緒方 モブのギアたちですね。第1話の作監補佐をやっているんですが、装備を描くのが大変で。どこまで線を省略していいか、判断に迷うところがあるんです。あれは皆さん苦労しているところだと思います。
栗田 キャラクターの素体は線数を減らしたとはいえ、装備をつけるとまぁまぁの線数になるので、動かしたときが大変なんです。緒方さんとはどこが省略できるか相談しながらやりましたね。
――栗田さんは、総作監としてはどんなことを大切にされていますか。
栗田 立川監督と角木さんの注文もありましたが、キャラクターの表情は豊かに表現したいなと思いながらやっています。表情を出すときは“攻め的”な仕事を意識して、総作監として守らなければならないクオリティに持ち上げるときは“守備的”な仕事を意識して、バランスを見るようにしています。
――では最後に、今後の注目ポイントを教えていただけますでしょうか。
緒方 楽しんでみていただきたいというのが一番です。あとは今後の話数でサルコジをいいぱい描いたので、そこも見ていただけたら嬉しいです。
栗田 第4話はナツメの感情が大きく揺れる展開があるので、そこに注目していただきたいです。
【取材・文:岩倉大輔】