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ついに最終回を迎えた「デカダンス」。本作の魅力を掘り下げるリレー連載第18回は、立川譲監督とシリーズ構成・脚本の瀬古浩司さんのインタビューを前後編にわたってお届け! 前編では、作品の立ち上げから物語中盤までの制作秘話を伺いました。
――瀬古さんはどのタイミングで参加されたのでしょうか。
瀬古 正式にオファーをいただく前に、立川監督から今度オリジナル作品をやるから一緒にどうですかという話を伺ったんです。そのときの内容は今の「デカダンス」とは全然違っていたので、実際にオファーをいただいたときはエンターテインメントよりになったんだと思いました。
立川 「デス・パレード」が終わったくらいに、KADOKAWAの田中翔プロデューサーとNUTの角木(卓哉)さんと企画会議を重ねて、ある企画を立ち上げたんです。ただ、類似の作品があったのと、内容的にもちょっと暗かったので、もっと王道のエンターテインメントを作りたいねということで、また別の企画を出してはボツになりということを繰り返して……。それである程度、企画が固まった段階で瀬古さんに正式にお願いしました。
瀬古 最初の企画が難解そうな内容だったので、1クールでやるんだったらストレートなエンターテイメントの「デカダンス」のほうが絶対に刺さるなと感じました。
――その段階で設定などはどれぐらいまで決まっていたのでしょうか?
瀬古 巨大移動要塞が荒野を走りながらガドルを狩るという娯楽施設を舞台にしていて、サイボーグのおじさんと人間の女の子が出会い、おじさんが女の子のために頑張るという大枠は決まっていました。あとは最後に制御不能になった巨大な怪物がラスボスになるというのも決まっていたと思います。
――オメガは最初の段階で決まっていたんですね!
立川 そうですね。テーマパーク内で制御されている怪物なのに、最後は制御できないバグが出てきて混乱に陥るという構想がありました。最後は大きなものと戦うって、エンターテインメント感があると思いませんか? 合わせて主人公のおじさんが最後に巨大構造物と一体となって戦うという流れも最初から構想に入っていましたね。
――全体の構成を考える上でどのような話し合いがあったのでしょうか。
立川 あまりチャレンジしたことのない、王道のエンタメSFがやりたいということはお伝えした気がします。自分は決してSFを得意としているわけではないんですが、それでもそういうものが作りたいと。
瀬古 僕も決してSFが得意というわけではないんですが(笑)。でも、いわゆるハードSFものをやろうということではなかったので、そこまでの危惧はなかったですね。
――瀬古さんはシリーズ構成を考える際、どのようなことを軸にしたのでしょうか。
瀬古 先ほど監督がおっしゃっていたように、カブラギとナツメが出会い、カブラギがナツメのために頑張り、制御不能のガドルと戦うという大枠は最初に決まっていました。それをいかにドラマとして見せていくかというところと、もう一つは、1本の映画のようにしてほしいというオーダーがあったので、これまで見てきた膨大な映画の呼吸、物語の緩急をどうつけるか等を意識しましたね。
――ドラマというのは感情の流れのようなことでしょうか?
瀬古 最初に構成を考える際はあまり感情面にはフォーカスせず、あくまでストーリーの流れを重視して書いています。例えば、絶対に成功しない作戦にナツメが出てしまうとか、巨大ガドルと戦うとか。それをプロットで打っていくと必然的にドラマが生まれるので、まずはストーリーの流れを作っていくということです。
立川 ほかにも矯正施設に落とされる、素体を回収するという、そういったイベントはプロットの段階でさくっと決まった記憶があります。
――以前、監督にインタビューをさせていただいたとき、シナリオを一度すべて書いてから第1話に戻って書き直していったと伺いました。改めて、どういった部分を見直していったのでしょうか。
瀬古 一番は、第12話まで書いたところでカブラギが主人公だとわかったのが大きかったですね。最初は、カブラギとナツメのダブル主人公にしていたんですが、最後までいくとやはりカブラギが主人公だったので、第1話からカブラギ目線で修正していきました。あとは、最初のシナリオではゲームだと明かすのは第4話だったんです。でも、ゲームであると明かさないとカブラギの心情も明かせないので、思い切って第1話のラストで匂わせ、第2話で明かす形にしました。
立川 第4話で出撃してはいけないイベントにナツメが出ようとして、カブラギがナツメの武器を壊すという流れは最初からフックになるところだったんですが、ナツメ目線で描くとカブラギがなぜその行動をするのかわからないんです。そのあとに世界の真実を提示すると情報量がすごいことになって、さらに混乱するだろうということで大きくシナリオを変更することにしました。
瀬古 第1話から第4話は大幅に変わりましたね。
立川 もともとナツメの父親のムロが活躍するエピソードもあったんです。倒したガドルを持ち帰って、生殖機能がないのに生まれてくるのはおかしい、どこから生まれてくるのかと仲間と一緒に調べるというやりとりなんですが、それは尺の都合でカットとなってしまいました。
――そんなエピソードがあったんですね。ちなみにカブラギとナツメの関係性ですが、どういったものを軸にされようと考えたのでしょうか。単なる恋愛関係とも、親子関係とも違う、不思議な絆を感じました。
瀬古 確かに、この二人の関係はなんなんだろうと、シナリオ会議のときも話題になりましたね。
立川 導入としては師弟関係ですが、完全な師弟関係かというとそうでもない。印象としては同志が一番近いのかなと。
瀬古 恋愛でもないですしね。恋愛に見えないようにしようというのは、シナリオ会議でも度々議題に上がっていたので、匂わせるような描写も極力なくすようにしました。一番近いのは親子関係かもしれないですね。ただ、それだけでもないので、今になってもなかなか二人の関係をひと言で表すのは難しいですね。
立川 ファンアートなどを見ると意外と恋愛に振り切った作品も多くて、そういう見方もあるのかと新鮮な気分になりますね。まったく想像していませんでしたが、違和感はなかったです。
瀬古 でも、カブラギは思った以上にナツメに対して大きな想いを抱いているなとは思いました(笑)。
立川 背景も世界観も違う二人なので、脚本上で二人の関係を紡いでいくのが難しくて、その辺は絵コンテの段階で表情などを盛っていきました。
瀬古 それが結果としてとてもグッとくる演出になっていて、とてもよかったです。
――カブラギがナツメのことを逐一録画していたのが面白かったです。
立川 ギアの視界は自動で録画されるという設定があるんです。他プレイヤーの視点は見られませんが、運営側は一応見られるようになっていて。あとはプレイングシェアのような感じで、ほかのギアの視界を閲覧することができます。子どもの頃のナツメが救急車で運ばれているときの映像もプレイングシェアですね。
――そのデータは買えるわけですよね?
立川 そうですね。最初は映像記憶部のようなプレイングシェアの部署も出てくる予定でした。そこに務めているおばちゃんがいて、「これが見たい」「じゃあいくら払いな」みたいなやりとりをするという。結局、シナリオに入らなくてオミットしてしまったんですが、そういう設定だけが残った形ですね。
――瀬古さんは前半戦で特にこだわりたかったポイントはどんなところでしょうか。
瀬古 最近のゲームはあまりやらないんでわからないんですが、昔、「ドラゴンクエスト」シリーズとか「ファイナルファンタジー」シリーズをプレイして、絶対に勝てない戦いみたいなものがすごく好きだったんです。いわゆる“負けイベ”というイベントで、ゲームを舞台にするなら絶対に入れたいなと。それで第5話にネスト攻略を入れて、そこから逆算してナツメがそのイベントに出ようとする、カブラギが装備を壊す、ナツメが泣く……といったエピソードを配置していきました。
立川 どうして負けイベが好きなんですか?
瀬古 どうしてでしょうね(笑)。絶対勝てなくて、別の場所に飛ばされて再スタートしたり、一回バラバラになった仲間を探してまた戦いに赴いたり、というドラマの流れが好きなのかなと。ちなみに、ガドルαは「FF5」のギルガメのイメージでした。これもレベルを上げれば倒せますが、そいつがそこにいると知らないでエンカウントして、普通に戦ったらまず勝てない敵キャラなんです。
【取材・文:岩倉大輔】