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「デカダンス」リレーインタビュー監督:立川譲&シリーズ構成・脚本:瀬古浩司【後編】 「カブラギとナツメは必ず再会させたかった」

TVアニメ「デカダンス」の魅力を掘り下げるリレー連載第18回は、立川譲監督とシリーズ構成・脚本の瀬古浩司さんのインタビューを前後編にわたってお届け! 後編では、物語終盤に込めた想いを語っていただきました。

TVアニメ「デカダンス」より
TVアニメ「デカダンス」より(C) DECA-DENCE PROJECT


――後編では中盤以降のお話を伺えればと思います。まず、カブラギの矯正施設送りからガドル工場襲撃ぐらいまではいかがですか。

瀬古 この辺でよく覚えているのは、いわゆる洋画あるあるですね。刑務所に入れられたらボスみたいなヤツがいるとか、第8話の素体の回収も洋画によくあるケイパーもの(詐欺や強盗を描いた映画のジャンル)のノリで、ストラクチャーの中にカブラギたちを落とし込んでいきました。あとは現実世界とゲームの世界があるので、それが“設定”としてより効果的になるようにしたいと思っていました。たとえば別の素体でログインしてナツメに会いに行くとか、二つの世界でそれぞれに作戦が進行するとかですね。カブラギとナツメに関しては、第7話でナツメが心折れているのをカブラギが見て、改めて奮起するというのはシリーズ構成の段階で決めていました。ここまでナツメをとにかく前向きで明るい子として描いて、カブラギもそう思っていたけれど、実はそう単純なものではなかったというところで、カブラギの決意がもう一段階上がればいいな、と。

立川 シナリオ段階だと工場の構造、場所関係が決まっていませんでしたし、第9話は同時多発的にいろいろなことが起こっていたので、その辺を整理するのが大変でしたね。

TVアニメ「デカダンス」より
TVアニメ「デカダンス」より(C) DECA-DENCE PROJECT


――ドラマとしてはカブラギとミナト、ナツメとフェイのように変革を望む人と望まない人の対比も印象的でした。

立川 この辺は自然とドラマの道筋が決まっていったと記憶しています。もともとナツメのまわりのタンカーは変わることを望んでいませんし、ギアが守ってくれると信じている。でもナツメは変わりたいという意識の差がありましたからね。

瀬古 ドナテロとターキーもまさにそうですね。サイボーグは厳密には人間ではありませんが、人間と同じく生き物は変わろうとする人と別に変わらなくてもいいという人がいるので、それは両者の本質的な部分なんだと思います。

――どの対比もそれぞれに言い分がありました。

立川 縛っているものに抗うのか、従って生きるのか。どちらが本当に正しいのかはわかりませんよね。それもあって「このままでいい」というキャラクターと「いや、そうじゃない」というキャラクターをはっきり分けて描いています。その一部がバグということになるんですが、バグもまたある視点から見ればバグかもしれないけれど、別の視点から見たらバグではないかもしれないわけです。それがテーマではあるので、そういった対比は多めに入れています。

――後半は、カブラギとミナトの関係を気にされている方も多い印象でした。

瀬古 シナリオではカブラギが現役のギアだった頃はミナトからいろいろ指示を受けながら戦っていたという描写もあったんですが、尺の都合でカットとなってしまったんです。一応、二人は長い期間、一緒に戦っていました。で、ミナトはそれがすごい楽しかったんだなと思います。それから立川監督と話していたのは、二人の関係は作家と編集者のようなものだと。カブラギは作家をやめてしまったけれど、ミナトはまた一緒に本を作りたがっている、そういうイメージを共有していました。

立川 今までは同じラインにいてチームを組んでいたのに、カブラギは違うゾーンに入ってしまった。しかもタンカーの女の子に入れ込んでいる。タンカーってサイボーグからすれば、いわば商品のようなものですから。ミナトからすれば理解できませんよね。

瀬古 ミナトはミナトでカブラギにもう一度作家に戻ってもらえるように手を尽くしているのに、本人はまったくその気がない(笑)。

立川 途中からカブラギは暴走に近い状態になっていましたからね。でも、最後はもう一度ともに戦うことができて嬉しかったんだろうなと。

TVアニメ「デカダンス」より
TVアニメ「デカダンス」より(C) DECA-DENCE PROJECT


――真相を知ってからのナツメについては、どのように描こうと思いましたか。

立川 ナツメの心情の描き方は難しかったですね。自分が本物だと思っていたものが全部嘘だったなんて普通は理解できませんよね。だから、それを聞いて落ち込んで、どういう心の流れで立ち直るかというのはシナリオ上でも悩んだ部分です。解決策としてはカブラギの書いた手紙によって、まず怒りの感情が先行するということでした。怒りによって奮起し、カブラギに思いをぶちまける。それはすごくナツメらしい、いい立ち直りのきっかけになったなと思います。

瀬古 確かに、ここが一番難しかったところですね。ここを越えてしまえば、あとはもうやることが決まっていたので。

――最終話のナツメとカブラギについてはいかがでしょうか。

立川 カブラギの動向については、脚本から絵コンテになる段階で結構変わったと思います。

瀬古 シナリオ段階だとカブラギがコアに接続してからセリフがなかったんです。コアに接続すると意識がなくなり喋れなくなるという前提があったので。カブラギはただ何かを感じて戦っているだけというシナリオでした。

立川 ただ、主人公が最終回に何も喋れないというのは厳しいのではないかということになって、絵コンテの段階で心理描写のようなイメージ空間を見せることにしたんです。とはいえ、デカダンスと大型ガドルの戦いに小さな人間が関与するのは難しくて、ナツメの描き方は悩んだ気がしますね。ナツメが何かカブラギの役に立とうとした結果、ちょっと余計なことをしている感じになってしまうんですが、それもまたナツメらしいのかなと。

――ラストはナツメの笑顔で終わるのがグッときました。

立川 王道エンターテインメントを作るなら最後は何かしらの形でカブラギとナツメを再会させようというのは決まっていました。どういう流れでそうするかはシナリオを作りながら考えていったことで、結果、ジルのバックアップによって再生することになりました。

瀬古 だから、カブラギは最後どうなったかは知らないんです。

立川 デカダンスにログインしたことも覚えていません。もちろん、ログインしようとしたことは覚えていますが、最終決戦はほかのギアから視界情報を共有してもらって補完していくほかないんです。

――そうなると、ミナトとのやりとりも消えているわけですね。

立川 消えていますね。ただ、ミナトのことですからカブラギを再構築するときに自分の視界情報を入れるんじゃないですか。「こういうやりとりをしたんだぜ」って(笑)。

――(笑)。ところで、ファンの皆さんは気になっていることだと思いますが、続編などの構想はあるのでしょうか。

立川 そうですね……(笑)。続編どうこうというわけではありませんが、いろいろ想像の余地のある終わり方だったかなと思います。例えば、最後にサイボーグと人間が楽しく共存するような形で終わりましたが、描かれていない部分では多分サイボーグを恨んでいる人間もいると思うんです。娯楽施設の一部で商品として扱われていたわけですから。わだかまりを持つ人間はいるだろうなと思いました。

瀬古 もしかすると、いつかテロリスト集団みたいなものが現れるかもしれない……そんな想像もできますよね。

TVアニメ「デカダンス」より
TVアニメ「デカダンス」より(C) DECA-DENCE PROJECT


TVアニメ「デカダンス」より
TVアニメ「デカダンス」より(C) DECA-DENCE PROJECT


――ありがとうございました。改めて制作を終えての手応えや感想を聞かせていただけますか。

瀬古 脱稿してからかなり時間が経ち、忘れてしまった展開もあったので、放送はイチファンとして楽しく拝見しました。すごく新鮮な気持ちで見られましたね。あとはやっぱり声優さんが皆さんすごかったです。どのキャラクターも声優さんによって魂が吹き込まれたかのようで。特にナツメはこんなに素敵な子だったんだと再確認できましたし、ナツメが喜んだり、笑顔になったりすると、なんだか泣きそうになりました。本当によかったです。

立川 自分にとってSFはあまり得意なジャンルではないですし、サイボーグ世界と人間の世界という二つの世界があったので、設定の管理がとにかく大変だったというのが率直な感想です(笑)。ただ、視聴者の皆さんの感想には新鮮な切り口がたくさんあって、いろいろな形で楽しんでくださっているんだなと嬉しくなりました。本当にありがとうございました。

TVアニメ「デカダンス」より
TVアニメ「デカダンス」より(C) DECA-DENCE PROJECT


【取材・文:岩倉大輔】

■TVアニメ「デカダンス」
放送:AT-X…毎週水曜23:30~
   TOKYO MX…毎週水曜25:05~
   テレビ愛知…毎週水曜26:35~
   KBS京都…毎週水曜25:05~
   サンテレビ…毎週水曜25:30~
   BS11…毎週木曜23:00~
配信:ABEMA…水曜24:00~ ※地上波先行・最速単独配信
   dアニメストア…毎週土曜24:30~

スタッフ:原作…DECA-DENCE PROJECT/監督…立川譲/構成・脚本…瀬古浩司/キャラクターデザイン・総作画監督…栗田新一/キャラクターコンセプトデザイン…pomodorosa/サイボーグデザイン…押山清高(スタジオドリアン)/デカダンスデザイン…シュウ浩嵩/ガドルデザイン…松浦聖/音楽…得田真裕/音響監督…郷文裕貴/アニメーション制作…NUT/製作…DECA-DENCE PROJECT
キャスト:カブラギ…小西克幸/ナツメ…楠木ともり/ミナト…鳥海浩輔/クレナイ…喜多村英梨/フェイ…柴田芽衣/リンメイ…青山吉能/フェンネル…竹内栄治/パイプ…???

リンク:TVアニメ「デカダンス」公式サイト
    公式Twitter・@decadence_anime
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