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Prime Videoで世界独占配信中、また1月16日(金)より【Part-1】【Part-2】順次再上映が始まった「藤本タツキ17-26」。どういった思いでこの作品をつくったのか? 制作に対する思いを監督たちにうかがいました。
(月刊ニュータイプ2025年12月号で特集された際に掲載したインタビューの再掲です)
©藤本タツキ/集英社・「藤本タツキ 17-26」製作委員会
©藤本タツキ/集英社・「藤本タツキ 17-26」製作委員会
──この企画で唯一、2作品を監督されていますが、企画の順番はどうだったんですか?
渡邉 「人魚ラプソディ」をやると決まった1、2か月後ぐらいに、「予言のナユタ」のお話をいただきました。自分の演出はどちらかというと「ナユタ」みたいな作品のほうが合っていて、「人魚」みたいなキラキラした作品をやることのほうが例外的なんです。それで「人魚」が決まったあと、ボソッと「『ナユタ』もやってみたかったなあ」みたいなことをつぶやいたら、どうも関係者に聞かれていたみたいで(笑)。それでお話をいただいて、こちらも引き受けることにしたんです。
──両作に共通するコンセプトはありますか?
渡邉 王道(わかりやすくオーソドックスな手法)の演出力で魅せることですね。作画だけではなく、音楽や声優さんのお芝居、画面処理の効果、背景美術など、映像という媒体をフルに生かした総合力で勝負しようと考えました。これまで自分がやってきたことの集大成的なものをアウトプットしてみつつ、新しいことも試してみる。ことばは少々アレかもしれませんが、「今の自分がどこまでできるか」の実験的な作品としてもつくらせていただきました。
──では順番にお話をうかがわせてください。まずは「人魚」から。
渡邉 僕が参加する前、100studioが出した企画書の時点で「3DCGで海底をきれいに描きます」と書いてあったんですね。そのアイデアに素直に乗らせていただきました。そこをベースに、とにかくきれいな画面づくりを心がけようというのが、「人魚」の全体コンセプトですね。海底のシーンは幻想的に、リアルな海を描くというよりかは、ファンタジーが入った色味を使ったり、魚のテクスチャーもイラスト調の素材をつかってみたり。内容的にも思春期のピュアな恋愛ものですから、その甘酸っぱさをどこまで出せるかにチャレンジしてみました。それが対比で際立つように、陸の大人たちにはあえて瞳のハイライトを入れずに、夢も希望もないような描き方をして。作品で当時のタツキ先生がやろうとしていたことの解像度を上げようというのがねらいでしたね。
「人魚ラプソディ」においてハーモニーのカットは演出上の役割が大きい。キャラクターデザインの島崎望が原画を担当し、美術監督の高橋佐知が色を塗っている
©藤本タツキ/集英社・「藤本タツキ 17-26」製作委員会
──「ナユタ」はいかがでしょうか。
渡邉 どこかで狂気をはらんでいるような作品が好きなんですよね。この作品はナユタという存在自体が大量破壊兵器のようなキャラクターと主人公のディスコミュニケーションを描きつつ、グロさや感情の爆発する瞬間、世界の悲惨さも描いている。この混ざり方に、短編集の中でいちばんタツキ先生らしさを感じました。これもまた、当時のタツキ先生がやろうとしたことをよりわかりやすく見せることに注力していて、ひたすらきれいさをめざす「人魚」に対して、「ナユタ」はとにかく世界を汚す(ダークさを出す)ことを意識しています。作画でぱっくりと割れた動物の内臓までしっかりと描いたり、背景も金子雄司さん……今でも紙と絵の具で作業されている珍しい方にお願いして、さらに建物などの直線的な無機物もフリーハンドで描いてもらうことで、質感を出してもらって。その意味でもうひとつ大きなものはハイパーボールさんにお願いして、一度完成した映像にグレーディングをかけて画面を最終調整してもらった点ですかね。ほとんどビジュアルディレクター的な仕事をしていただいています。
──完成した手ごたえは?
渡邉 単独でも楽しめますが、2作をまったく違うテイストにすることにもこだわったので、コントラストも楽しんでいただけたらありがたいですね。
「予言のナユタ」ナユタ役の声優・咲々木瞳は、クライマックスの「泣き」の芝居を重視したオーディションで選ばれた。渾身の演技にも注目だ
©藤本タツキ/集英社・「藤本タツキ 17-26」製作委員会
人魚ラプソディ
海辺の町に暮らすトシヒデは、人魚の母と人間の父のあいだに生まれた少年。ふだんは陸で暮らしているが、母親ゆずりの体質で海中で呼吸をつづけることができる彼は、ときおり海の底に捨てられている人魚のピアノを演奏するのを密かな楽しみにしていた。ある日、いつもどおりにピアノの演奏を堪能していたトシヒデは、その音を隠れて聴いていたかわいらしい人魚のシジュと出会う。少しずつ距離を縮めていく2人。だが、人と人魚のあいだには深くて暗い溝があって……。キャラクターデザインは「この世界は不完全すぎる」(総作画監督)の島崎望。音楽は「庭には二羽ニワトリがいた。」の石塚玲依が続投。アニメーション制作は「中禅寺先生物怪講義録 先生が謎を解いてしまうから。」の100studio。
予言のナユタ
ケンジの妹のナユタは、「世界を滅ぼす」と予言された悪魔の子。事実、おそろしい力をその身に宿していることにくわえ、何を考えているかよくわからず、ことばの使い方もおかしくて意思疎通も困難なナユタは、周囲の人々からその不気味さでもって激しく忌み嫌われていた。それでもケンジは兄として、けなげに妹のことを守ろうとしている。しかし、ほんのささいな出来事がきっかけで、ナユタが大事件を起こしてしまう。「人魚ラプソディ」と同じく100studioの制作だが、監督と撮影監督以外のメインスタッフは別。キャラクターデザインは「ブルーロック」(アクション作画監督)、「マッシュル-MASHLE-」(キャラクターデザイン)の東島久志が担当している。
渡邉徹明
●わたなべ・てつあき/フリー。おもな参加作品に「ブルーロック第1期」(監督)、「花は咲く、修羅の如く」(ED絵コンテ、演出)、「ネコカブリーナ」(MV制作)など
【取材・文/前田久】
■「藤本タツキ17-26」
リンク:アニメ公式サイト https://fujimototatsuki17-26.com/