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まさに目指した理想型――「虐殺器官」から中村悠一&櫻井孝宏対談を特別公開

全国の劇場で絶賛上映中の劇場アニメ「虐殺器官」。月刊ニュータイプ2月号に掲載された、主演の中村悠一さん(クラヴィス・シェパード役)と櫻井孝宏さん(ジョン・ポール役)の対談前編を特別公開!



──やっと公開が近づいてきたわけですが、今の率直なご感想をお聞かせください。

中村:2015年の1月に収録させていただいてから、制作が続行していることは知っていたんですが、僕らキャスト陣には具体的な進捗状況がわからなかったんですね。それで「いったいどんな作品になるんだろう」と思っていたんです。ただ、完成した映像はアフレコの時の素材の延長線上にあるものだったので、もともと目指していたとおりの形でゴールに向かっているんだなと思い、安心しました。

櫻井:僕らの作業はアフレコの段階でほぼ終わっていましたが、完成に至るまでの制作の皆さんの苦労たるや、それは大変なものだったろうと思います。公開までもう少しのところですが、そのめどが立っただけでも感慨深いものがありますね。無事に世に出ることになって本当によかったなと思います。

中村:別の現場で櫻井さんとお会いした時も本作のことはよく話しましたよね。「何か情報ある?」みたいな(笑)。収録はたった2日間でしたが、2人ともこの作品にはかなりの熱量をもって臨んだんですよ。だからこそ、その後もずっと気になっていたんです。

櫻井:大きなプロジェクトとして動いていた作品ですしね。だから、中村くんも僕も「録り直しの必要があれば、いつでも応じよう」と話していました。結果、再録の必要はなかったんですが、作品の完成度を高めるためなら協力は惜しまないつもりでいました。

──原作を読んだ時の感想は覚えていらっしゃいますか?

中村:最初の感想としては、こういう物々しいタイトルでSFというジャンルであるわりには、とても読みやすいなと感じました。それに、物語をつくる力がある人は本当にすごいと改めて感じましたね。僕らもものをつくる側の人間ではありますが、役者は台本やキャラの絵や資料をもらって、いろいろなものから少しずつ情報を集めて役柄を形成していくんです。ところが、まったく白紙の状態からお話をつくり上げていく方たちは、それとは根本的に異なる作業をされていると思うんですよ。特に誰でも経験したことのある話ではない、こういうたぐいの物語が描ける方は、本当にすごいと思いますね。「虐殺を誘発する技術をもつ男の話を書こう」と、そういった発想はどこから生まれるのか不思議に思いました。

櫻井:僕も「虐殺」という強い言葉を使ったタイトルに、まずは衝撃を受けましたね。殺伐としたグロテスクな物語かと思ったんですけど、読んでみるとそうではなかった。タイトルにミスリードされた気分を味わいました。それに、伊藤計劃さんの文章を読んでいて感じたのが、まるで英語の文章を日本語に翻訳されたものを読んでいるような感覚になったことです。日本人が書いたとは思えない感覚や発想で物語が展開していくんですよ。あまり島国的な考え方ではないというか。でも、その一方で、心のとらえ方などには日本人的な感覚もあって、原作からはすごく不思議な印象を受けましたね。

──本作の主人公であるクラヴィスの第一印象についてお聞かせください。

中村:オーディションの時は、まだ人物像が読み切れていなくて、特別変わった思想をもっていない人物だという印象を受けました。実にニュートラルな人間で、周りの人物に対してもごく普通の考えをもって接している人だなと。その後、収録前にきちんと原作を読ませていただいたことで、その印象は少し変わったように思います。素直に生きながらも常に受け身の状態ではなく、物事に対して自分の考えをしっかりともっている人物なのではと感じました。だからこそ物語の中でさまざまなことに影響を受け、自分の考えが変わっていったりもする。その結果、彼なりの答えに近づいていくんだと思います。

櫻井:クラヴィスは言葉で表現するには難しい人物なんですよ。僕も特別な個性をもった人というより、彼が「ジョン・ポールを追う」ことに懸ける熱量の方が印象に残っていますね。優れた兵士だとは思いますが、信念をもって行動するヒーローというわけではない。これはジョン・ポールにも感じたことですが、クラヴィスとジョン・ポールはチェスや将棋の盤面に立っているようなイメージなんです。この作品には、盤面の上の2人の距離が刻々と変わっていく様子を眺めているような感覚があるんです。その展開の中でジョン・ポールがクラヴィスに影響を及ぼし、クラヴィス自身が変わっていくんですね。

──それでは、クラヴィスに影響を及ぼすジョン・ポールには、どのような印象をおもちでしょうか?

櫻井:この男が諸悪の根源というか、とても危険な人物という描かれ方で登場しますが、実は非常に人間くさい理由で動いている人なんですよ。そこに猛烈なギャップを感じました。過去にものすごくつらい経験をしていて、普通の人間なら耐えられないような後悔を抱いたと思いますが、もはやその感覚すらないようなところが痛々しく思えました。自分の中にある回路を1本切ってしまっているように見えて、そこにどれだけ苦しみが残っていて、どれだけ突き抜けてしまっているのか、その加減を推し量るのが難しかったですね。

中村:クラヴィス側から見れば悪人に見えるかもしれませんが、彼自身の中にどれだけ悪意があるのかは明確にはつかめないんですよね。どの言葉が彼の本心で、どの言葉がこちらを誘導するためのものか、セリフからもまったく真意が見えないんです。それに比べると、少なくとも今はこういう思考で動いているんだとわかるクラヴィスやその他の登場人物は、とてもわかりやすいと思いますね(笑)。ジョン・ポールはとにかく底が知れない人物ですが、その奥底に悪意のような黒く渦巻くものがあるわけでもない。それでいて何かしらの信念は感じるんです。とてもとらえ方の難しいキャラクターだと感じました。

──昨年10月に行なわれた「東京国際映画祭」では、冒頭の15分が公開されました。(※インタビュー当時は本編の完成前)

中村:アフレコの段階から、映像は完成していなくても色味や絵のイメージは想像がつくんですよ。ですが、音は予想がつかないので、どういう形でSEやBGMが入るのかが、とても楽しみでした。実際に見させていただいた映像は、音響も含め、まさに僕らが目指した理想型だと思えるものでした。村瀬(修功)監督が音楽にもかなりこだわってつくられていると聞いていたので、監督の中にはこのイメージが当初から明確にあったんだなと実感しました。できるだけ多くの方に、その映像と音響を劇場で体感してもらいたいです。

櫻井:物語冒頭はいきなり戦闘シーンから始まり、人体破壊の描写も結構描かれていくんですよ。そこは本作の大事な要素でもあるので、そこをしっかり見せないと作品の面白さが伝わらないんですよね。でも、個人的にはその場面が不思議ときれいだなと感じたんです。「残酷なものを見せよう」という思いでつくっているわけではなく、それがクラヴィスたちの日常なんですね。だから、無機質に淡々と描かれていくんですが、恐ろしく感じつつもどんどんと引き込まれていくんです。この没入感は劇場ならではのものだと思うので、たくさんの方に劇場へ足を運んでいただきたいです。【インタビュー・文=橋本学】

なお、この対談の後編に加えて、ツィア・シュクロウポヴァ役の小林沙苗さんや監督・脚本を務めた村瀬修功さん、山本幸治プロデューサーのインタビューも掲載。さらに付録としてキャラクター原案のredjuiceさん描き下ろしのB2ポスターが付属する付いた月刊ニュータイプ3月号は2月10日(金)発売です。

■劇場アニメ「虐殺器官」
2月3日(金)より公開中
スタッフ:原作…「虐殺器官」伊藤計劃(ハヤカワ文庫JA)/監督…村瀬修功/キャラクター原案…redjuice/アニメーション制作…ジェノスタジオ
キャスト:クラヴィス・シェパード…中村悠一/ウィリアムズ…三上哲/アレックス…梶裕貴/リーランド…石川界人/ロックウェル…大塚明夫/ルツィア…小林沙苗/ジョン・ポール…櫻井孝宏

リンク:「虐殺器官」公式サイト
    公式サイトTwitter・@PJ_Itoh
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