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山口勝平が体当たりで挑んだ落語初挑戦、その仕上がりは!?――「声優落語天狗連 第10回」レポート

2017年5月6日(土)、東京・中央区の浜離宮朝日ホールにて、「声優落語天狗連 第十回」と、そのスピンオフイベント「声優落語天狗連 ver.立川志ら乃と愉快な声優たち」が開催されました。

「声優落語天狗連」は、ニッポン放送アナウンサーの吉田尚記さんとお笑い芸人であり国語学者のサンキュータツオさんが発起人となり始まったイベント。テレビアニメ「昭和元禄落語心中」をきっかけに落語に興味を持ってくれた人に、もっと落語を好きになってもらおうと2016年1月に始まり、今回の開催で10回目を迎えました。

本イベントは、特別に二部構成での開催。第一部は過去に声優落語チャレンジに参加した若手声優が再び高座にあがる「ver.立川志ら乃と愉快な声優たち」が行なわれ、大盛況のうちに幕を下ろしました。今回のレポートでは、その後に開催された第二部、通常構成の「声優落語天狗連 第十回」の模様をお伝えします。

イベントは毎回恒例、吉田さんとサンキュータツオさんによるディープな落語トークからスタート。今回の声優落語チャレンジでは、山口勝平さんが古典落語の定番「粗忽長屋」に挑戦するということで、“粗忽”についてから。

落語好きにはなじみ深い“粗忽”は、普段の生活ではあまり耳にすることのない言葉。サンキュータツオさんも、どのように説明してよいのか迷う言葉だそうです。落語には、いわゆる“おバカ”な役割を担う「与太郎」とせっかちな「慌て者」がよく登場しますが、粗忽者はその2つの中間に位置している役割とのこと。「粗忽長屋」は、噺家が“粗忽というものをどのように解釈しているか”がわかる噺であり、そこが聞き所だと語りました。

そして話題は粗忽長屋を得意とした大看板、5代目柳家小さん師匠へ。人間国宝にもなった柳家小さん師匠が、その師匠である4代目小さん師匠から教わった噺は3つしかなく、「粗忽長屋」はそのひとつであったそう。柳家は滑稽話を得意とする家で、他の家には負けないというプライドを持って「粗忽長屋」をやっていること、そして5代目柳家小さんの「粗忽長屋」はひとつの到達点に至ったが、そこからさらに大きくしたのが他でもない立川流家元・立川談志であること……など、知っていると落語がさらに楽しくなる話題がつぎつぎに飛び出します。

「ひとつの到達点を示した『粗忽長屋』を、柳家の血を引く立川流の、立川志ら乃師匠が山口勝平さんに仕込んだ。勝平さんがどのようにやるのか楽しみでしかたがない」というサンキュータツオさんの言葉に、客席の期待はますます高まります。

「あんたがたどこさ」の出囃子で登場した勝平さんは、「こうやって新しいことに挑戦できるのが嬉しい」と挨拶。口演するのが「粗忽長屋」に決まった時、粗忽を辞書で調べたところ“迂闊、おっちょこちょい”とあり、「昔、通信簿によく書かれていたなあ。今回やるのも、軽い気持ちでやりますって言っちゃったからだし(笑)」と語ると、場内は大きな笑いに包まれました。

「粗忽長屋」は、行き倒れを兄弟分と勘違いした八五郎と勘違いされた熊五郎の2人が、互いの主観をぶつけ合うという滑稽話。八五郎と熊五郎の間の抜けたやりとりに、客席からは大きな笑い声がわき起こります。勝平さんは、大粒の汗をかきながら難しい古典の滑稽話を体当たりで熱演。とても落語初挑戦とは思えない素晴らしい口演が終わると、場内は割れんばかりの拍手に包まれました。

チャレンジ終了後、ステージには吉田さんとサンキュータツオさん、そして立川志ら乃師匠が登場。勝平さんの熱演に、吉田さんもサンキュータツオさんもただただ脱帽の様子。「これが昇進試験なら余裕でOK」「もう真打ちでしょう!」といった言葉が飛び出すほど。「本番を終えて今の気分は?」という質問に、勝平さんは「めちゃくちゃ楽しかったし、稽古も本当に楽しかった。この楽しさはクセになりそうですね」と笑顔で応え、初挑戦成功の手応えを感じている様子でした。志ら乃師匠は「膨大な経験を積んだ勝平さんと本気でぶつかり合った稽古は、本当に楽しかったし私自身もすごい勉強になったと」と稽古を振り返ると、勝平さんは「教えていただいたけれど今回できなかった事があるので、次はそこにたどり着きたい」とコメント。大ベテランの新たなチャレンジはまだまだ続きそうです。

大いに盛り上がった声優落語チャレンジの後は、プロの噺家が「昭和元禄落語心中」に登場した噺を披露。今回は、春風亭昇々さんによる「初天神」。春風亭昇太師匠のお弟子さんである昇々さんは現在二ツ目。新作落語を精力的に発表し、YouTubeチャンネル「アバンギャルド昇々」での活動も行なっています。さらにその動画が切っ掛けで「ポンキッキーズ」の司会に抜擢されるなど、いま最も勢いのある二ツ目です。そんな昇々さんをサンキュータツオさんは“いま落語の最先端にいる噺家”と紹介。「そんな人が『初天神』というスタンダードナンバーをどうやるのか楽しみにしてほしい」と語りました。

大きな拍手と共に高座にあがった昇々さん。“まくら”では若手の大変さを体験談を元に面白おかしく、そして少し毒を入れて語りますが、その毒が少量なのに効きは満点。披露された「初天神」でその毒はさらに強くなり、少しゾッとしながらも大いに笑う衝撃的な口演に客席は酔いしれました。

楽しかったイベントもついに終わりの時間。次回第11回は、詳細がまだ未定なものの、7月の開催が決定したと発表されると、勝平さんからは「結構(落語を)やりたがってる役者さん、僕の周りにいますよ」との発言が飛び出すひと幕も。こうして、今後さらなる展開を予感させつつ、記念すべき第10回は大盛況のうちに幕を下ろしました。番組はひとまず終了となってしまいましたが、そこから派生した落語の魅力を伝える場は、まだまだ続いていきそうです。【取材・文=小川陽平】

リンク:カルチャー情報サイト「yoppy」内「声優落語天狗連」ページ
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