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脚本&シリーズ構成・伊藤和典VS「ニュータイプ」元編集長・井上伸一郎が激突! 「機動警察パトレイバー」30周年展トークイベントをレポート!

1988年の「機動警察パトレイバー」プロジェクト開始から30周年を記念して池袋マルイで2018年12月24日まで開催、大盛り上がりのうちに終了した「機動警察パトレイバー30周年記念展~30th HEADGEAR EXHIBITION~」。この展示会の一環で、「初期OVAシリーズ(アーリーデイズ)」「機動警察パトレイバー the Movie」「機動警察パトレイバー2 the Movie」で脚本、「TVシリーズ」「NEW OVAシリーズ」でシリーズ構成・脚本を務めたHEADGEAR伊藤和典さんと「月刊ニュータイプ」元編集長で現KADOKAWA代表取締役の井上伸一郎とのトークイベントが、12月15日に行なわれました。

「パトレイバー」を企画の当初から追いかけていたという井上。「ニュータイプ」以前に編集に携わっていた雑誌「アニメック」時代から、原作・原案者である漫画家・ゆうきまさみさんのアパートを訪れては、アイデアノートを読み、語り明かしていたという思い出を語ってくれました。

一方で、伊藤さんは「初期OVAシリーズ」の脚本から参加。メカニックデザインを担当した出渕裕さんから、当初のSF色が強かったころの構想を聞かされた伊藤さんは、最初自分と作風が合いそうにないと断ったとのこと。その後、ゆうきさんが描いたイメージボードのなかから、雷門の隣に立つイングラムの絵に興味をもって制作に参加されたそうです。ロボットには詳しくないけれど、キャラクターに軸足を置いた話ならできると判断し、「焼き魚定食志向の生活アニメ」がスタートしました。

今回の対談では、横に積まれた過去の月刊「ニュータイプ」のページや付録を開きながら、「パトレイバー」の歴史を振り返る形でトークが展開されました。最初に提示されたのは、ゆうきさんにずっと「ニュータイプ」に寄稿してほしいと頼み続けた結果、OVA発売時に掲載へとこぎつけた、ゆうきさん描き下ろしコミックの小冊子。短編ながらとてもよくできた内容で、伊藤さんもTVシリーズ第3話のベースとして使った、と思い出していました。また、当時のインタビューの写真と現在を見比べて、伊藤さんの容姿の違いで盛り上がる一幕も。

回顧はまだ続きます。出渕裕さんの伝手でキャラクターデザインの高田明美さんが合流してから、ゆうきさんを交えた4人で企画を練り固めていったと伊藤さん。最初からOVAは6本制作することが決まっていましたが、その前に制作されたOVAシリーズ「トワイライトQ」が中途で終了してしまった経験から、「監督はひとりに統一したい」という理由により、押井守さんが監督として参加した経緯を語りました。OVAはあえて「TVシリーズでは番外編として扱われるような内容にしよう」という構想のもと、バラエティ豊かな内容に。当時高価だったビデオパッケージを、あえて冒険して大幅に値下げしたことが大ヒットにつながったことを語り合いました。

そして話題は初の劇場版「機動警察パトレイバー the Movie」へとつながります。「劇場版3つの誓い」として「(当初からメインキャラクターだった)遊馬と野明が活躍すること」、「レイバーの敵はレイバーにすること」、「娯楽の王道をいくこと」が宣言されていたのは有名です。その理由を「それで押井さんを縛ったつもりだったんだけど、そんなの簡単にほどいちゃった(笑)。案の定、大詰めにきたところで『実は(事件の容疑者である)帆場はいなかった、って話にしちゃダメかな』と言われて、『ダメです!』と返しました」と、伊藤さんは冗談交じりに語ってくれました。

TVシリーズは最初2クールの予定でしたが、突然4クールに延長となり、頭を抱えたという伊藤さん。当時の「ニュータイプ」では「パトレイバー」が延長するかどうかで読者を煽って、大議論を交わしていたと井上は当時を振り返ります。ライバルメカであるグリフォンを表紙にした号は、自分でも大満足の出来だったと語りました。話題はゆうきさんによるコミックにおいて読者人気も高かった(敵勢力の中心人物である)内海課長のキャラクター性に移り、伊藤さんは「ゆうきさんは本当にキャラクターを作るのがうまくて、内海は一歩間違えばただのおかしな人なのに、嫌味をまったく感じさせないよね。そこはゆうきさんのバランス感覚がすごいんだろうな」と脚本家ならではの視点から分析しました。

ようやくTVシリーズの終わりが見えかけたところで、「NEW OVA」の制作が決まって心が折れかけたという伊藤さん。(コミック版を元に映像化された)「グリフォン編」の決着を付けなくてはいけないという課題はあったものの、当時コミック連載でもグリフォンとの決着は着いておらず、怒涛のオリジナル展開に投入することに。そのときの苦労の反動が、楽しい番外編へとつながったのだといいます。

劇場版第2作「機動警察パトレイバー2 the Movie」では、映像の進化と同時に技術の進歩も取り入れられ、よりリアリティを増した内容へと変化。伊藤さんは、当時の湾岸戦争を経て、押井さんが考える戦争というものを取り入れられたと述懐します。井上は当時「ニュータイプ」から他誌に異動した時期で、後任の作品担当者がどんどん誌面のミリタリー色を強めていったと振り返っていました。時代の流れとともにその当時の背景を取り入れていくのも、日常に根差した作品である「パトレイバー」のよさと言えるかもしれません。

井上は「機動警察パトレイバー2 the Movie」での野明とかつての愛機・アルフォンスとの距離感にも触れ、アルフォンスから遠ざかる野明の心情がセリフ回しに反映されていると指摘。伊藤さんは「これが最終作だから野明の成長も描こうと考えました。どうしたって女性の方が、男よりも現実に向き合うのは早いじゃないですか」と、制作当時の思いを振り返ります。

話題はいよいよ新プロジェクト「PATLABOR EZY」へ。このプロジェクトの発端は、押井さんが制作した実写版「THE NEXT GENERATION -パトレイバー-」への疑問から、押井さんを除くHEADGEARメンバーが集結したことにある、と語った伊藤さん。現在はストーリーの構成を固めている段階にあり、「TVシリーズ」から「NEW OVA」への流れの延長線上にある世界を舞台に、前作から30年後の「パトレイバー」が構築されつつあります。西暦2030年ごろを背景とした作品でありつつも、SF色が強すぎては「パトレイバー」ではないという思いから、あえて未来色を抑えた日常的な内容が展開されていくとのこと。30年のときを経ても「焼き魚定食志向の生活アニメ」というコンセプトを大切に、HEADGEARならではの作品づくりがされていきそうです。

トークショーの檀上で井上が披露した当時1988~93年発行の「月刊ニュータイプ」掲載イラストは、復刻グッズとなって会場の物販コーナーで販売されました(会期終了後はKADOKAWAのECサイト・エビテン(ebten)内「Newtype Anime Market」にて、通販予約を受付中)。

そのほかにも、会場内ではさまざまな原画や、特車二課の制服サンプル、1/1コックピット、1/1リボルバーカノン、多彩なジオラマなども展示されていました。期待の新作「PATLABOR EZY」に向け、スタートから30年を経てますます「機動警察パトレイバー」が盛り上がってきました。

【取材・文:石谷太志郎】

リンク:「パトレイバー」公式サイト
     公式Twitter・@patlabor0810
ECサイト・エビテン(ebten)内「Newtype Anime Market」
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