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内田&柿原の熱が満ちた舞台「ひと夏のアクエリオン」

7月24日(金)~26日(日)に、渋谷のアイア2.5シアタートーキョーで舞台「ひと夏のアクエリオン」が上演されました。

この舞台は、「マクロス」シリーズなどで知られるビジョンクリエイター・河森正治さんが2013年3月に発表した多次元プロジェクト“The Fool”の第2回作品。過去には第1回作品「ノブナガ・ザ・フール」が三部作で上演されています。「ノブナガ・ザ・フール」では声を担当する“LiveVoice”と演技を担当する“LiveAct”が同時にステージ上に存在しつつ、完全な役割分担でひとつの役をつくっていました。

一方「ひと夏のアクエリオン」ではLiveActも声を発します。別個の存在として始まるLiveVoiceとLiveActが、物語が進むにつれ徐々に同一の存在へと「合体」していく。その試みがひとつの見どころでもありました。

一万年と二千年前に繰り広げられた堕天翅<ライハ>と魔道士<ガレ>の戦いは狭間の巫女<イリア>の命をも奪いながら、世界を一度消滅へと導きます。

時を移した現代では桃ノ木学園演劇部の新入部員・拳一と部のエース・波瑠斗、そして女性部員の優花の間で三角関係とも言える状態ができあがりつつありました。3人は演劇合宿で訪れた森に立つ一本の樹から、はるかな時空を超えた<ライハ><ガレ><イリア>の魂をその身に宿すこととなり、壮大で密かな戦いが始まりました。

取材をしたのは、内田雄馬さんがLiveVoice<ライハ>、柿原徹也さんがLiveVoice<ガレ>を担当した2日目の昼公演。LiveActは全ステージ共通で、安達勇人さん(拳一<ライハ>役)、北村諒さん(波瑠斗<ガレ>役)。<ライハ>と<ガレ>が憎み合い戦う殺陣では、LiveActに呼応するように内田さんと柿原さんは舞台上で身をよじり、時に拳を突き出しながらすさまじい熱演を見せました。

演劇部員に乗り移る、という形で進められる<ライハ>と<ガレ>、そして<イリア>の悲しい記憶。それは取り戻せない過去として再現されていますが、現代でも拳一<ライハ>と波瑠斗<ガレ>が優花<イリア>を巡り思いを交差させるというシンクロした三角関係で観客を引き込んでいきます。やがて、思いもよらないクライマックスと、情熱ほとばしるカタルシス満点のラストに場内の拍手は鳴り止みませんでした。

ここぞという時に惜しげもなく流れる「アクエリオン」の名曲たち。一万年と二千年の間、引き裂かれ続けた<ライハ>と<ガレ>と<イリア>が「荒野のヒース」をバックに舞台を駆け巡るなど印象的な場面の数々。そしてLiveVoiceの2人の熱演。それらが余韻となっていつまでも心に残り続けました。

終演後のアフタートークでは、柿原さんが「俳優さんの熱演に引っ張られて、まだ夜の回が残っているのも忘れて全力でやってしまいました」と話すと、内田さんも大きく頷いていました。また、柿原さんと内田さんがこの日初めて対面し、初めて共演したことも明らかに。柿原さんは内田さんの演技を見るのも初めてで、稽古の時は内田さんが菅沼久義さんと、柿原さんは小林裕介さんと組んで進められたとのこと(小林さんと菅沼さんは公演初日に出演)。

内田さんは「同じ役なのに柿原さんが菅沼さんと全っ然違うのでびっくりしました」とふり返りました。2人が顔を合わせたのが本番当日ということもあり、綿密な演技プランは決めずにお互い舞台に立ったとのこと。内田さんは「頭で考えてはいるものの、ほとんどライブで演じていました」と打ち明けました。

本作はオリジナルのためキャラクターイラストも稽古段階ではなく、役づくりのための手がかりは台本のみ。「自由に役をつくってくださいと言われました」とふり返る柿原さんでしたが、用意されたキャラクターイラストを本番当日目にした2人は「こんなにカッコよかったの!?」と戸惑ったことを打ち明け、会場を沸かせました。

最後のあいさつになると、柿原さんはほぼ同期デビューの寺島拓篤さんが「創聖のアクエリオン」で主人公を演じ活躍していたことに悔しさを感じたとふり返り、「この『ひと夏のアクエリオン』で、僕は今までの『アクエリオン』を超えようと思っています」と力強い言葉で締めくくりました。

初日に行われたアフタートークの際、総監督を務める河森さんは「各回の声優さんがぜんぜん違う役づくりをしてる上に、台本の感情はキチンと抑えている。さらに声優さんに応じてLiveAct2人の動きも変わるんですよ」と、本作ならではの発見を興奮気味に打ち明けました。また、本舞台ではロボットが出ないにも関わらず「アクエリオン」の代名詞とも言える「無限拳(パンチ)」が炸裂します。河森さんは「人の思いが繋がれば『無限』になるなと、稽古の直前にようやく思いつきました」とコメント。舞台上で「無限拳」は10人の役者による正拳突きの連なりで表現されました。様々な思いや人が繋がってできあがったこの舞台。確かにこの夏、観客にかけがえのないものを残していったのではないでしょうか。

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