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12回にわたる本連載も今回が最終回。穏やかにペットショップ談議をしつつ素晴らしい作画でガチファイトするMAOとケモナーマスク、そしてクライマックスの大乱闘……。素晴らしいラストでしたね。実況アナウンサー・村田晴郎氏も興奮が止まらないようです。なにやら、物凄い数の「プロレスネタ」が仕込まれていたそうで……!? それでは最後の「実況!けものみち」、お楽しみください!
語り所が多すぎて最終回の余韻に浸るどころではありません。
ケモナーマスクとMAOの試合は本当に素晴らしかったのですが、バッサリいきます。
なんでかって? それは鍛えてr…じゃなくて「細かすぎて伝わらないプロレスネタ」が多すぎるからだー!
キャストの皆さん、アドリブにも程がありますよ!
ということで、それらを厳選して説明していきます! 文字数が足りないので飛ばしていくぞ!!
〇MAOの回想シーン「こんな会社辞めてやる!」
1984年2月3日、新日本プロレス札幌大会。
藤波辰爾選手(*1)vs長州力選手(*2)のタイトルマッチ開始前に藤原喜明選手(*3)が突如乱入し、入場途中の長州選手を鉄パイプで滅多打ちにした。
大流血となった長州選手は試合どころではない状態。すぐにストップがかかり無効試合に。
ライバルである長州選手とのタイトルマッチに燃えていた藤波選手は試合を壊された怒りで試合コスチュームのまま雪の降り積もる会場の外へ飛び出し「こんな会社辞めてやる!」と吐き捨てタクシーに乗り込み会場を後にしてしまった。
これがプロレス史に残る「雪の札幌テロ事件」である。
はっきり言って作中のMAOとの共通項は全くない。だがそれがいい。
稲田さん、しかと受け取りましたよ。
〇観客の大乱闘
ケモナーマスクとMAOの闘いを中心とした大乱闘は「ダークナイト ライジング」のクライマックスを彷彿とさせて、アメコミ映画好きの私はテンション上がりました。プロレスと関係ないですね、はい。次!
〇コボルトの旦那の「いっちゃうぞ、バカヤロー!」
新日本プロレスの小島聡選手(*4)の決めセリフ。
コーナーに追い詰めた相手の胸板に連続チョップを叩き込んだ後「よぉーし!」と言い、相手を対角線のコーナーへホイップ。ダッシュからの「ジャンピング・エルボーアタック」で相手をダウンさせ、人差し指を突き出し「いっちゃうぞ、バカヤロー!」と会場中に響く大声で叫びます。この時、観客も一緒に叫ぶのがお約束。そして最後はコーナートップから「ダイビング・エルボードロップ」で締めます。
〇ギルドマスターレフェリーのカウント19
場外(リングの外)で大乱闘を繰り広げたケモナーマスクとMAOはギルドマスターレフェリーが「19」まで数えたところでリングの中に戻ります。
プロレスは場外に出た時はレフェリーが「20」を数えるまでにリング内に戻らないと「カウントアウト負け」になります。両選手共に戻れなかった場合は「両者リングアウト」となり引き分けとなります。
これ、プロレスの基本ルールなのですが、ここまでそんなシチュエーションは出てきませんでした。最後の最後でこんな基本的なルールを説明することになるとは思わなかったよ!
ちなみに「場外カウントは10まで」というルールの団体もあるので、観客もプロレスラーも注意が必要です。
〇MAOの超必殺技「キャノンボール450(フォーフィフティー)」
正式名称は「450スプラッシュ」もしくは「ファイヤーバードスプラッシュ」。
DDTプロレスリングのMAO選手の必殺技で、彼が使用すると「キャノンボール450」という名称になります。
トップコーナー上からリング上に仰向けに寝ている相手に前方回転してボディプレスする高難易度の技。「450」とは回転角度のことで、自身の身体を一回転と四分の一回すので360度+90度=450度。
ところで、皆さんはお気づきであろうか? キャノンボール450がケモナーマスクにヒットする瞬間、MAOの大胸筋と腹筋が鬼の顔のように変化していたことを。究極まで発達した異形のキャノンボールマッスル! これがマカデミアン・オーガ(鬼)の由来だったのか!
〇ケモナーマスクの「蒼魔刀」からの「ジャンピング・ジャーマン・スープレックス・ホールド」
「蒼魔刀」は第9回コラムで紹介したDDTプロレスリングのHARASHIMA選手の必殺技である「ダッシュ・ダブルニーアタック」。立っている相手に放ったので「スタンディング蒼魔刀」です。
フィニッシュとなった相手をホールドしながらジャンプしジャーマン・スープレックスで叩きつける超絶技は実在しません。恐らく人類には無理でしょう。
先日、プロレスリング・ノアの原田大輔選手(*5)がコーナートップから相手をジャーマンで投げる「雪崩式ジャーマン・スープレックス」をマットにブリッジした状態で着地しホールドするという日本国内初(世界初?)の「雪崩式ジャーマン・スープレックス・ホールド」を成功させ話題となりました。
今回、ケモナーマスクが見せたジャンピング・ジャーマン・スープレックス・ホールドに一番近い技はそれになりますね。
〇コボルトの旦那「やってやるって!」
試合後の打ち上げでさりげなく言っています。
これは越中詩郎選手(*6)の決めセリフというか口癖です。
ケンドーコバヤシさんの物まねでご存じの方もいるでしょう。
越中選手は語尾に「~って!」とつけるのが特徴。「やってやるって!」の他にも「ふざけんなって!」「嵐みたいな風吹かしてやるって!」「俺はビートルズだって!」など、様々なバリエーションがあります。
皆さんもオリジナルの「~って!」を見つけて日常会話で積極的に使っていきましょう。
〇源蔵さんとMAOのコサックダンス
対戦格闘ゲーム界を代表するプロレスラー、ザンギエフ(*7)のエンディングですね。
「げんぞうくん、まおくん。きみたちは、ぷろれすによる いせかいこうりゅうに よく つとめてくれた それでは、いつものやつを しようではないか!」
〇パンを食べるMAO
プロレス界イチのパン好きレスラー、小島聡選手へのオマージュでしょう! 違う?
ちなみに小島選手はパン好きレスラーを集うユニット「BREAD CLUB」のリーダー。加入資格は「パンを一日で五個以上食べる」だそうです。
〇MAO「この道を行けば……」
アントニオ猪木(*8)さんが自身の引退セレモニーでファンに贈った「道」という題名のメッセージ。
「この道を行けばどうなるものか、危ぶむなかれ。危ぶめば道はなし。踏み出せばその一足が道となり、その一足が道となる。迷わず行けよ。行けばわかるさ」
これは宗教家・哲学者である清沢哲夫氏の詩が元になっています。
猪木さんの波乱万丈なプロレス人生をそのまま現しているような詩は、プロレス者の心に深く刻まれています。ラストのMAOの心情にぴったりの言葉でしたが、ガルムの子供によって最後まで言うことはできませんでした。ガルムめんこい。MAOもめんこい。
最後の最後まで愛のあるプロレスネタに満ち溢れ、怒涛の展開で走り切った「旗揚!けものみち」。このコラムも最終回ですが、思い出を語るようなしんみりとした内容なることを許してくれませんでした。さすがだ!
全12回に渡ってお付き合いいただいた皆様、誠にありがとうございました。
これをお読みになってくれた方がほんの少しでもプロレスに興味を抱いてくれたなら、このコラムは大成功です。
いつか「旗揚!けものみちを見てプロレスラーになることを決意しました!」という選手が誕生したら最高ですね。
そして私がそんなプロレスラーの試合を実況することを夢見て!
それではごきげんよう!さようなら!!
<注釈>
(*1)藤波辰爾
ニックネームは「ドラゴン」「炎の飛龍」。昭和の新日本プロレスを代表するプロレスラーのひとり。ニックネームを冠した「ドラゴン殺法」と呼ばれるオリジナル技を数多く持つ。以前コラムで紹介した「ドラゴン・スープレックス」「ドラゴンスクリュー」は藤波選手が開発した技である。現在65歳、キャリアは48年を誇る現役プロレスラー。
(*2)長州力
ニックネームは「革命戦士」。スター選手のアントニオ猪木さんや藤波辰爾選手に対抗し、実力でリング上の序列を変えてみせた反骨のプロレスラー。体制に噛みついていく姿がファンの共感を呼び、絶大なる人気を博した。ライバルである藤波選手とは幾度となく激闘を繰り広げ、それらの試合は「名勝負数え唄」と呼ばれた。得意技は「リキラリアット」「サソリ固め」。
今年の6月26日に現役を引退。45年に渡る闘いの日々に終止符を打った。
(*3)藤原喜明
ニックネームは「関節技の鬼」「組長」。1972年に新日本プロレスでデビュー。ファイトスタイルに派手さはないが、職人肌の実力者で関節技の達人。強面で黙々と相手をレスリングでねじ伏せ、関節技で仕留めるその姿は「仕事人」と称された。得意技である「脇固め」という腕と肩を極める関節技は英語圏では「フジワラ・アームバー」とその名を冠された名称で呼ばれている。70歳となった今でも不定期ながらリングに上がり現役を続けている。
(*4)小島聡
新日本プロレス所属のプロレスラー。ニックネームは「剛腕」「コジ」。1991年デビュー。キャリア28年。親しみやすい人柄とパワフルで豪快なファイトスタイルで幅広い人気を誇る。盟友である天山広吉選手とのタッグチーム「テンコジ」でも数々の実績を残す。得意技は鍛え抜かれた剛腕から放たれる「ラリアット」。現在も新日本プロレスで活躍中。
(*5)原田大輔
プロレスリング・ノア所属のプロレスラー。レスリングで身体を鍛え、大阪プロレスに入門。2006年、19歳でデビュー。2013年にプロレスリング・ノアへ移籍。同団体の中心選手として活躍中。得意技は「ジャーマン・スープレックス」だが、原田選手が使うと「片山ジャーマン・スープレックス」という名称になる。これは原田選手の出身地、大阪府吹田市片山町が由来となっている。地元愛にあふれた技名である。
(*6)越中詩郎
ニックネームは「サムライ」。相手の攻撃を食らいまくっても耐えに耐え続け、反撃する愚直なファイトスタイルが特徴。体制になびくことを嫌い「反選手会同盟」や「平成維新軍」という反体制ユニットを結成しリングで暴れまくった。得意技は「ヒップアタック」。ダッシュして自身の尻を相手の顔面に叩き込む。尻と言うと「柔らかい」イメージがあるが、実際にヒットする部分は尾骶骨。ダッシュの勢いも合わさり、見た目以上のダメージを相手に与える。現在はフリーとして活躍中。キャリア40年のベテランだが、みなぎる闘志とヒップアタックの破壊力は健在。
(*7)ザンギエフ
カプコンの対戦型格闘ゲーム「ストリートファイター」シリーズに登場するキャラクター。ロシア人プロレスラー。ニックネームは「赤きサイクロン」。必殺技は「スクリューパイルドライバー」「ダブルラリアット」。「ストリートファイターⅡ」ではザンギエフを使用してクリアすると、エンディングで祖国の偉い人であるゴロバチョフさんとザンギエフが一緒にコサックダンスを踊ります。
(*8)アントニオ猪木
第二回コラムで紹介しましたね。猪木さんは「プロレスこそ最強の格闘技で、キング・オブ・スポーツである」と自負し、プロレスを他のメジャースポーツと肩を並べさせ、さらにそれ以上のジャンルとして世間に認知させるべくリングで闘い続けました。「最強」「キング」という挑発的な主張に批判的な見方をされたりしましたが、猪木さんは迷わずその道を歩み続けました。時に真摯に、時に傍若無人に。源蔵さんも異世界で種族を問わず「プロレスこそ最強」を証明するために闘い、プロレスを知らない者たちに「プロレスの素晴らしさ」を教えてくれた。時に迷惑なほどの「けもの愛」を見せながら。源蔵さんは異世界のアントニオ猪木だったのかもしれません。