アニメ

28年ぶりに語られるキャスティング&アフレコ秘話 「もののけ姫」4Kデジタルリマスタープレミア上映会レポート


「生きろ。」から28年。1997年17月17日に劇場公開され、歴史的な興行成績をあげたスタジオジブリ制作、宮﨑駿が原作・脚本・監督を務めた映画「もののけ姫」。その歴史的な傑作が最高画質の4Kデジタルリマスター化されます。それを記念して、2025年10月20日にTOHOシネマズ新宿にて、IMAX(4K DCP)によるプレミア上映会が行なわれました。
そのプレミア上映会には豪華なゲストが結集。アシタカ役を務めた松田洋治さん、サン(もののけ姫)役の石田ゆり子さん、映画プロデューサーの鈴木敏夫さんがステージに姿を見せました。


写真左より松田洋治さんと石田ゆり子さん


「28年ぶりにこの大きなスクリーンで『もののけ姫』を観られることを幸せだと思っております」と登壇した石田さんが感動のことばを述べると、会場からは温かい拍手が贈られます。3人が顔を合わせると、よみがえってくるのは28年以上前の思い出。3人は『もののけ姫』にキャスティングの思い出を振り返ってくれました。


松田洋治さんとアシタカ


28年前、松田さんは所属事務所からスタジオジブリの新作映画のオーディションがあることを教えられて、作品の内容を一切知らないままスタジオへ行ったのだそうです。
「スタジオに行ったら誰もいない。そこにひとりの男性が現われて……いま思えば音響監督の若林(和弘)さんだと思うんだけど、彼から『今回はこういう映画です』『このセリフを読んでほしい』と簡単な説明を受けて、いきなり収録をしたんです。どう考えても主役のセリフだったから、ああ、これはオーディションのサンプルを録るためのものなんだなと納得をしていたんです。その収録を終えたあとは、ずっと何も連絡がなくて。しばらくしてから映画の特報が出て、それを観た知り合いから『洋治すごいね、ジブリの新作の主役をやるんだって?』と言われたんですよ。あわてて映画館に観に行ったら……たしかその映画は『エビータ』だったかな。そこで流れた『もののけ姫』の特報に自分の声が入っていたんです。そのときはじめて、オレ、主役をやるんだ、とわかってびっくりしました」と松田さんは当時を語ってくれました。
鈴木プロデューサーは、松田さんのコメントを聞いて、そのときの顛末を思いだしたようす。
「さっき楽屋で松田さんに言われるまで忘れてたけど(笑)、松田さんには『風の谷のナウシカ』でアスベルをやってもらったんですよね。松田さんと話をしていて思いだしました。それでね、たしかアシタカ役を誰にするかというのはけっこう悩んだんです。でも、結局松田さんにお願いした決め手はアスベルなんですよ。宮(宮﨑駿)さんにね、アスベルの声はどうですか? あれ、よかったよって言った覚えがあるから」。


石田ゆり子さんとサン


 一方で、石田さんは自分の所属していた事務所に鈴木プロデューサーが訪れていたところを目撃したことがあり、何かが起きる予感があったそうです。
「とにかく私はスタジオジブリという名前を聞くだけで、頭がバーッとなって。何が起こるんだろうと思っていました。最初に『もののけ姫』に出演すると伺ったときは、天にも昇るほど嬉しかったです」。
 すると鈴木プロデューサーは、石田を起用したおどろきの理由を明かしてくれました。
「まあ、簡単に言うと、 (石田が)宮﨑駿の(好みの)タイプだったんですよね。『平成狸合戦ぽんぽこ』に石田さんが出演したときに、宮さんが挨拶に行ったんです。そのとき、宮さんの鼻の下が伸びているのを、僕は見逃さなかったの。あ、これだ! と。それで石田さんにサン役をお願いしようと思いました」と鈴木プロデューサーが冗談交じりに語ります。
 そんなにありえないようなキャスティングとともに進められたアフレコですが、実に難航したそうです。
「声の仕事は『ナウシカ』ぐらいしかやっていなくて、アニメーションに参加したことは2~3本くらい。アニメーションに声を当てる経験がほとんどないものですから、考えても無駄だと思って。当たって砕けるしかないと思ってアフレコに臨みました」と松田さんが言うと、石田さんもことばを選びながら神妙な顔つきで当時を振り返ってくれました。
「膨大なあのこの企画書と絵コンテを資料として事前にいただいたんですが、それを読んでも読んでもよくわからない。サンのセリフは実はそれほど多くないんですけど、人間であって人間じゃない、動物になりたいけど動物にもなれないという不思議な役なので、私はたいそう難しかったですね」と石田さん。


鈴木敏夫プロデューサーと土面


松田さんは収録の模様を「地獄だった」と明かしてくれました。
「回数でいうと10回以上アフレコを行いましたね。ほかの映画に比べると考えられないくらいの回数でした。スムーズに収録が進んでいても、一旦止まると大変なことになるんです。地獄が待っている(笑)。でも、宮﨑さんが素晴らしいと思ったのは、誰が引っ掛かっても同じように何度もやり直しをお願いするんです。そこは平等だなと思っていました」
その松田さんのことばを聞きながら、石田さんも苦笑いを浮かべます。
「一番大変でした。みなさんがどんどん収録を終えてスタジオからどんどん帰っていってしまうんです。全員の中で私が一番へたくそでしたし、私ひとり居残り授業みたいな感じで収録をしていました」と石田さんは当時の収録を思いだしたようです。
「僕も収録の途中で『今日は帰れ』と宮﨑さんに言われたことがありますよ」と松田さん。
サンがたたら場に乗り込んで、エボシ御前と戦って。アシタカがふたりを気絶をさせて、『誰か手を貸してくれ』とアシタカが言うシーンで、松田さんの芝居は何度もリテイクとなり、収録は中断したのだとか。
石田さんの最も記憶に残っているシーンは、サンが倒れたアシタカを弟犬に乗せていっしょに走るシーン。
「あそこのくだりが、本当に難しくて。なんでもないようなシーンのようでいて、最も難解でした。『お前、死ぬのか』というセリフを、宮﨑監督が『お前、パンツ履いてないじゃん』というふうにやれとおっしゃったんです。この子(サン)にとっては『パンツ履いていないけど、どうしたの』という程度の出来事だと。そう言われても、当時の私には難解すぎて。毎日泣きそうな気持ち。でもこんなに夢みたいなことはなかったので、夢のなかなんだけれど、地獄みたいな。不思議な恍惚感がありました」と語ってくれました。
最後に石田さんは、その独特な宮﨑監督の演技指導を振り返ってくれました。
「宮﨑さんは絶対に甘やかさないんです。ダメなものはダメ。きっと、この子はやめさせた方がいいんじゃないかって考えていたと思う」「いまでも、もう一回やりたい。でももう、この声は出ないので。それくらい思い出に残っています」。


写真左より松田洋治さん、石田ゆり子さん、鈴木敏夫プロデューサー


「もののけ姫」は興行収入190億円超、観客動員数1500万人を記録する作品となりました。鈴木プロデューサーは「もののけ姫」を、あのときしか作れなかった作品だと振り返ります。
「人間、誰でも年をとりますからね。 宮さんがもしアクション映画を作るなら今だと思いました。当時、ジブリがスタッフの募集をやっていてね。その人たちがアニメーターとして力をつけていた時期なんです。『紅の豚』という作品がおかげさまでお客さんに支持を集めていたし、じゃあお金を使うならこのタイミングだなと思って、『もののけ姫』を作ることができたんです」
松田さんはここまでヒットしたことは予想外だったそうです。
「上條恒彦さん(ゴンザ役)が小さい子や家族連れにはしんどい作品だから、数字(動員)的にはそこまでは行かないんじゃないかとおっしゃっていたんです。そうしたら、公開後にえらいことになった」。
石田さんもそのことばに同意しました。
「10歳未満の子どもたちに、どういうふうに受け入れられるかなと思っていたんです。でも宮﨑さんが『実際に一番深いところで理解しているのは、10歳くらいの子どもたちだ』とおっしゃっていた。それは真実だったなと思います」
そのことばを受けて、鈴木プロデューサーは「お客さんがいっぱい観てくれたのが、素直にうれしかったですね。僕らが作品をつくるのは、お客さんに観てもらうため。自分たちのために作るんじゃない。そのことに改めて、気付かさせてくれた作品になりました」とまとめてくれました。
松田さんと石田さんが魂を込め、スタジオジブリの転換点となった、伝説的な一作。4Kリマスターが行われたことで、これからも観客は増え、作品は語り継がれていくことでしょう。


松田洋治さん


石田ゆり子さん


鈴木敏夫プロデューサー


会場となったTOHOシネマズ新宿のフロアには歴代ポスターが飾られていました


【取材・文:志田英邦】

「もののけ姫」4Kデジタルリマスター
2025年10月24日(金)より全国の劇場にてIMAX上映
劇場情報はこちら
https://theater.toho.co.jp/toho_theaterlist/mononokehime4kremaster.html

©1997 Hayao Miyazaki/Studio Ghibli, ND IMAX® is a registered trademark of IMAX Corporation

この記事をシェアする!

MAGAZINES

雑誌
ニュータイプ 2025年11月号
月刊ニュータイプ
2025年11月号
2025年10月09日 発売
詳細はこちら

TWITTER

ニュータイプ編集部/WebNewtype
  • HOME /
  • レポート /
  • アニメ /
  • 28年ぶりに語られるキャスティング&アフレコ秘話 「もののけ姫」4Kデジタルリマスタープレミア上映会レポート /