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全7人の監督が一夜限りの大集合! こだわりが詰め込まれた珠玉の8作品の制作秘話とは?「藤本タツキ 17-26」

監督の皆さん


「チェンソーマン」「ルックバック」で知られる人気漫画家・藤本タツキが17歳から26歳までに描いた読み切り短編全8作品をアニメ化した「藤本タツキ 17-26」が、国内主要都市の劇場にて2週間限定で絶賛公開中! その初日となる2025年10月17日には新宿バルト9で、各作品を手がけた7人の監督による舞台挨拶も開催。作品制作時の苦労話や、藤本タツキ作品の魅力などについて、各監督が語ってくれました。



2025年11月8日(土)よりPrime Videoにて世界独占配信されることに先駆けて限定上映されている「藤本タツキ 17-26」は、藤本タツキによる短編作品集「藤本タツキ短編集 17-21」「藤本タツキ短編集 22-26」に収録された8作品を原作に、6つのスタジオと7人の監督たちが新たなカラーで創り上げていくアニメ作品です。

劇場では各巻に収録されている4作品ずつを1セットにした二部構成で上映中。「Part1」は藤本タツキ漫画賞初投稿作で人類が滅亡した世界で生き残った二人の絆を描く「庭には二羽ニワトリがいた。」(監督:長屋誠志郎/制作:ZEXCS)、思春期の衝動が炸裂する「佐々木くんが銃弾止めた」(監督:木村延景/制作:ラパントラック)、恋心が宇宙規模で暴走するSFラブコメ「恋は盲目」(監督:武内宣之/制作:ラパントラック)、ネジの外れた殺し屋少女の暴走する愛を描く「シカク」(監督:安藤尚也/制作:GRAPH77)。
「Part-2」は、海中のピアノが奏でる少年と人魚の恋物語「人魚ラプソディ」(監督:渡邉徹明/制作:100studio)、過酷な宿命を背負った兄妹の再生の物語「予言のナユタ」(監督:渡邉徹明/制作:100studio)、ジェンダーの枠を超えて“自分らしさ”を見つける「目が覚めたら女の子になっていた病」(監督:寺澤和晃/制作:スタジオカフカ)、絵に懸ける姉妹の嫉妬や葛藤、そして成長を描く「妹の姉」(監督:本間修/制作:P.A.WORKS)といった作品群となっています。


長屋誠志郎監督。お気に入りのTシャツで登場


この日の舞台挨拶には、『藤本タツキ 17-26』の全8作品を手掛けた7人の監督が登壇。このメンバーが一堂に会するのはこの日限りということもあって、ズラリと並んだ豪華監督陣に会場からは大きな拍手が。満員の観客を見渡した長屋監督は、「今日このイベントに来ている方はかなりコアな藤本タツキのコアなファンだと思うので、楽しみな反面ドキドキしています」と緊張気味なようす。MCから「この企画を最初に聞いたときの印象は?」という質問を投げかけられると、「一人の漫画家の短編集を全部アニメ化する!?」と思ってビックリしたと一言。そんな驚きの企画ではあったが、監督オファーについては「藤本タツキ先生の作品ということでぜひやりたいと思いました」と前向きな気持ちで依頼を請けたことを明かしてくれました。


木村延景監督


木村監督は「アニメ制作っていろんな人が関わっているので、一人の人間がコントロールしていくのは難しかったりするんです。でもこの作品はかゆいところに手が届くようになってるので、本当に濃ゆい作品になるだろうなって思いました」と、この企画ならではのメリットについて分析。自身が監督した「佐々木くんが銃弾止めた」だけでなく、他の監督監督作品の「濃さ」についても期待感を口にしていました。


武内宣之監督


また武内監督は「7人監督がいるので、とにかく似なければいいな」と思っていたそうで、「仕上がったフィルムの肌触りや見てる方の印象が他の作品と違うようなるように作らないといけない」というのが課題だったと振り返ります。そんな中「自分なりの持ち味を出そうと思いつつ、原作漫画に描かれているものはそのまま映像として使いたい」と考えていたとのこと。原作へのリスペクトを大切にしながら、武内監督ならではの表現がどう映像に活かされていったのかは、ぜひ「恋は盲目」実際に劇場で観て確認してもらえたらと思います。


安藤尚也監督


安藤監督も他の作品から影響を受けるのは問題だと考えていたらしく、「なるべく皆さんの情報を入れずに、ゼロから作っていくようにしました」と制作時の注意ポイントを語ってくれました。そんな安藤監督ですが、最近になってようやく他の監督作品を鑑賞したそうで、寺澤監督の「目が覚めたら女の子になっていた病」を「すごい良かったです」と大絶賛。その評価に寺澤監督は「光栄です!」と照れた表情を浮かべていました。


渡邉徹明監督


「人魚ラプソディ」と「予言のナユタ」の二作品を担当した渡邉監督は今回の企画について「フェスのような楽しさがありました」と回想。自身が手掛けた「人魚ラプソディ」では海中でピアノ弾いてるシーンなど気合いを入れまくった結果、通常のTVアニメなら1話に約3000枚から5000枚程度で収まるはずの作画枚数が、この作品では1万枚を超えてしまったそうで「いろんな人に怒られながら作りました(笑)」と当時を思い返して苦笑いを浮かべていました。また「予言のナユタ」について「『人魚ラプソディ』とは対照的な作品だったので、逆方向でのアプローチを目指しました。別の人間が作ったのかなと思われるぐらいにはしたつもりです」と、それぞれ違う作品に見えるように差別化したそうです。


寺澤和晃監督


寺澤監督は「目が覚めたら女の子になっていた病」の注目ポイントとして劇中歌をピックアップ。わざわざ作品のために劇中で使われる楽曲を、アーティスト本人にお願いして新録してもらったという。作品にその歌の雰囲気が反映されていたりもするそうで、「ああいう朗らかな世界観を皆さんにも久しぶりに味わってもらえれば」と嬉しそうに語ってくれました。


本間修監督


制作途中に「ルックバック」を作っているという情報が耳に入ってきて、ものすごいプレッシャーを感じていたという本間監督。「結果的に全然違うものになったと思います」という「妹の姉」ですが、「端々のところまで丁寧に丁寧に作っていくことを目標にしていました」との言葉通り、原画のリテイクが20~30枚と極めて少なかったり、演出修正や作監修正が入る第二原画も無かったりと、徹底した品質管理の下で制作されたとのこと。本間監督としても、そのこだわりの完成度には自信アリといった様子となっていました。

ここからは各監督が感じている「藤本タツキらしさとは?」ということを語っていくことに。「米津玄師と比べていいこと言えるかどうかわからないんですけど(笑)」と会場を笑わせた長屋監督は、「藤本タツキの主人公は痛みとともにあらなければいけない。まず肉体的な痛みがあって、その後精神的な痛みを感じて力を解放する。そうした藤本タツキ的な御作法を自分の作品には取り入れたつもりです」と解説します。続いて木村監督は「直感の表現が上手いのに構成もしっかりしてて。感覚と理路整然としている部分のバランスが絶妙なところがヒットの要因だと思ってます」との考察を披露。武内監督は「眉毛の角度がずっと同じだったりと、表情の変化や姿勢に縛りをつけて漫画を描かれている」と指摘。「恋は盲目」でもそうした縛りを課していると教えてくれました。

安藤監督は「普通のアニメでは絶対しないようなセリフ回しがオシャレ」とのこと。「シカク」では、声優にあえて原作通りに演じてもらっているそうです。渡邉監督は担当した二作品を例に出しつつ、「想いのすれ違いみたいな中にタツキさん特有の変態性が散りばめられていて。そこが作家性に繋がっているのかなと思っています」と自身の解釈について説明してくれました。また寺澤監督は「ファンタジーなのにものすごい説得力が作品の設定」、本間監督「目の表情とか何を見ているかが繊細に表現されているところ」にそれぞれ注目。藤本タツキ作品の映像化を手掛けたからこそ気付けた各監督が挙げる藤本作品らしさについての解釈に、観客たちも納得といった様子となっていました。

最後に各監督が会場のファンへ向けてメッセージを一言。長屋監督が「藤本タツキは最初からこんなに面白い作品を描いていたんだよっていうことを、ぜひ多くの方に広めてもらえたらありがたいです」と呼びかけたほか、木村監督は「ぜひ観てください!」、武内監督は「若いスタッフの熱い力で作られた作品です」と猛アピール。ここで安藤監督が「8作品あるので8回観てもらえれば」と言って観客を笑わせる一幕も。

渡邉監督が「どの作品も素晴らしいので、ぜひ【Part1】と【Part2】それぞれ観てください」と全話コンプリートをオススメした後は、寺澤監督が「スタッフ一同精一杯作りましたのでたので楽しんでいただけたなら嬉しいです」と静かに語りかけていきます。ラストは本間監督が「とても良い仕上がりになったので、ぜひ楽しんでください。そして感想をSNSでシェアしてください」と観客に呼びかけ、こうして劇場公開されている『藤本タツキ 17-26』へのファンの期待感を大きく高めてくれた制作裏話満載の舞台挨拶は、大きな拍手に包まれながら観客大満足のうちに終了となりました。

【取材・文/川畑剛】

「藤本タツキ 17-26」
2025年10月17日(金)より2週間限定上映
【Part-1】【Part-2】2作同日公開
2025年11月8日(土)よりPrime Videoにて世界独占配信

原作:藤本タツキ
「藤本タツキ短編集 17-21」「藤本タツキ短編集 22-26」(集英社ジャンプコミックス刊)

制作統括:FLAGSHIP LINE
配給:エイベックス・ピクチャーズ
製作:「藤本タツキ 17-26」製作委員会


「庭には二羽ニワトリがいた。」
STAFF 監督・脚本=長屋誠志郎 キャラクターデザイン=もああん 制作=ZEXCS
CAST 小野賢章、桜井しおん、浦和希、斉藤貴美子、岩田光央
STORY 宇宙人との戦争に敗れ、人類は滅びた――とされている地球。そこで暮らす宇宙人の学生・陽平は、学校で二羽のニワトリを世話していた。だが、そのニワトリには秘密があった。

「佐々木くんが銃弾止めた」
STAFF 監督=木村延景 脚本=内海照子 キャラクターデザイン=小園菜穂 制作=ラパントラック
CAST 熊谷俊輝、安済知佳、岡野陽一
STORY 春休みの補修、担任の川口先生に会いたい一心で参加した学生・佐々木。そこに突然の銃声が響く。教室に現れたのは、かつて川口先生に振られた男だった――。

「恋は盲目」
STAFF 監督=武内宣之 脚本=内海照子 キャラクターデザイン=もり ともこ 制作=ラパントラック
CAST 堀江 瞬、若山詩音、森川智之、山本高広、諏訪部順一、能登麻美子
STORY 高校卒業の前日、生徒会長の伊吹は、想いを寄せるユリを下校に誘う。長年秘めてきた恋心を彼女に伝えようとするが、様々な障害が現れては、伊吹たちの下校を阻む!

「シカク」
STAFF 監督・脚本=安藤尚也 キャラクターデザイン=MYOUN 制作=GRAPH77
CAST 花澤香菜、杉田智和
STORY 殺し屋としてその名を馳せている少女・シカク。吸血鬼・ユゲルは、3500年にも及ぶ不死の生活に退屈し、シカクに自分を殺すよう依頼する。

「人魚ラプソディ」
STAFF 監督=渡邉徹明 脚本=小林達夫 キャラクターデザイン=島崎望 制作=100studio
CAST 菊田千瑛、幸村恵理
STORY 海辺の町に暮らす少年・トシヒデの宝物は、海の底に捨てられている人魚のピアノ。ある日、いつも通りピアノを演奏していたトシヒデは、隠れて聴いていた人魚の少女・シジュと出会う。

「目が覚めたら女の子になっていた病」
STAFF 監督・脚本=寺澤和晃 キャラクターデザイン=徳岡紘平 制作=スタジオカフカ
CAST 榊原優希、河瀬茉希、山下誠一郎
STORY ある日、目が覚めたら女の子になっていた少年・トシヒデ。クラスの男子たちの嫌がらせの標的にされてしまったトシヒデを助けたのは、恋人・リエの兄・アキラで……。

「予言のナユタ」
STAFF 監督・脚本=渡邉徹明 キャラクターデザイン=東島久志 制作=100studio
CAST 咲々木瞳、松岡洋平
STORY ケンジの妹・ナユタは「世界を滅ぼす」と予言された悪魔の子として、周囲の人々から忌み嫌われていた。ある日ついに、ナユタが大事件を起こしてしまう……。

「妹の姉」
STAFF 監督=本間修 脚本=米内山陽子 キャラクターデザイン=佐川 遥 制作=P.A.WORKS 
CAST 中島瑠菜、中井友望、今井朋彦
STORY ある朝、光子が美術学校に登校すると、玄関に自分の裸の絵が飾られていた! それは光子の妹・杏子が描いた作品で、1年間も学校に飾られることに。屈辱を晴らしたい光子は……。

リンク:
公式サイト
https://fujimototatsuki17-26.com/

公式X
https://x.com/17_26anime_pr

(C)藤本タツキ/集英社・「藤本タツキ 17-26」製作委員会

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