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「父になる」ということ――映画「鹿の王 ユナと約束の旅」監督・作画監督・キャラクターデザイン 安藤雅司インタビュー

2022年02月07日 11:00配信
映画「鹿の王 ユナと約束の旅」より
映画「鹿の王 ユナと約束の旅」より(C)2021「鹿の王」製作委員会

「精霊の守り人」「獣の奏者」などで知られる上橋菜穂子の大ヒット小説を劇場アニメ化した「鹿の王 ユナと約束の旅」が、二度にわたる延期を経てついに公開。「病」によってつながれた父娘の思い――。安藤雅司監督が自身の体験も重ねながら描き出したものとは? 映画の公開にあわせ、「月刊ニュータイプ」2021年10月号の特集記事で行なったインタビューを再掲載します。

映画「鹿の王 ユナと約束の旅」より、主人公のヴァン
映画「鹿の王 ユナと約束の旅」より、主人公のヴァン(C)2021「鹿の王」製作委員会

――長大で情報量の多い「鹿の王」の原作小説を2時間の映画として内容を整理するうえで、監督がポイントとして留意されたところは?
安藤 この物語の発端は、ヴァンがユナという少女と出会うことです。死を覚悟した男が、小さな命と出会うことで生き直していく。しかし皮肉なことに、それをつなぐものが病である。とても悩んで、いろいろと試行錯誤もしましたが、最終的にはそんな大本の発端から、彼らがどういう顛末をたどっていくのかを軸にしようと考えました。やはり始まりがそこにあるからには、その帰結するものが何なのかを描き出すのが、映画としてわかりやすい形であろうと判断したんです。

映画「鹿の王 ユナと約束の旅」より、ヴァンに拾われた身寄りのない少女・ユナ
映画「鹿の王 ユナと約束の旅」より、ヴァンに拾われた身寄りのない少女・ユナ(C)2021「鹿の王」製作委員会

――始まりと終わりをつなぐ形に。
安藤 ただ、おっしゃるとおり原作は複雑で、さまざまな要素を兼ね備えています。ヴァンだけではなくホッサルを中心にした物語の軸もあって、原作ではその2つが、短い時間だけれども濃密に交わる構成になっている。その特色をまったく失わせるわけにもいかない。そこで、基本的にはヴァンを軸にしつつ、ヴァンを追い求める人間たちを描いていき、そのなかにホッサルもいるという構成にしました。複雑なことが起こっていても、彼らが見ているものは常にヴァンである。そうした形にすることで、ひとつの映画としてのまとまりを生み出せると考えたんです。

映画「鹿の王 ユナと約束の旅」より、天才医師のホッサル
映画「鹿の王 ユナと約束の旅」より、天才医師のホッサル(C)2021「鹿の王」製作委員会

――サエの描き方も原作とは大きく違いますね。
安藤 そうですね。サエは年齢感も、背負っているものも原作とは変えています。原作では「母になれなかった女性」という、ヴァンに寄った目線のキャラクターですが、映画では「家族をもてなかった少女」という、ユナに近い立場でとらえ直しました。だから映画のサエは、ヴァンの「ユナ!」と呼ぶ声に反応してしまう。自分の味わえなかった、経験しなかった父の思いみたいなものを、ヴァンがユナに語りかける声のなかに感じ取って、行動をためらってしまうんですね。そうした描き方にしたのは、ホッサルの立ち位置が変わったこととも関係しています。

映画「鹿の王 ユナと約束の旅」より、狩人のサエ
映画「鹿の王 ユナと約束の旅」より、狩人のサエ(C)2021「鹿の王」製作委員会

――どういうことでしょう?
安藤 映画ではヴァンとホッサルが共に行動する場面が原作よりも多い。そのとき、サエの立ち位置をどうするか。ヴァンにすごく寄り添った形にすると、ヴァンとサエの組み合わせにホッサルがかかわるように見えてしまう。そうではなくて、あくまでヴァンとホッサルをちょっと離れながら見ているサエという距離感にしたかったんです。そのほうがお話を見せやすい。となると、そのときのサエの目線は、どちらかといえばユナ寄りであろうと考えました。だから親子連れを見かけるシーンでは、サエはいつも子供のほうに自己投影しているイメージで描いています。サエというキャラクターはクールでもあるので、感情を表立って出すわけではないですけど。

――今のお話だと、父娘関係を物語の中心に設定されたのは、純粋に映画としてまとまりをつくるためだったのでしょうか。
安藤 いえ、それだけではないです。自分はもう52歳になるんですけど、50歳を目前にしたタイミングで子供をもったんです。そのとき、「父親になれるのか?」と自分に問いかけた経験は、非常に大きかったんですね。正直、今でも「なれる」とはまったく思えていないし、実際になれているかどうかもわからないところがあります。そういう思いがあったので、ヴァンというキャラクターをつくり上げるときも、思い入れがあったんです。

――詳しくうかがいたいです。
安藤 ヴァンには、一度子供を亡くして、父であることが途絶えてしまった経験がある。そこからもう一度ユナと生き直そうというときに、「自分は今度こそ父親になれるのだろうか?」という思いがあったと思うんです。単純に父だから感情移入したわけではなく、そうした悩みをもつことへ思い入れたというか。いっしょに暮らしていて、周りからも親子と思われているけれども、純粋にその関係を受け入れていいものなのかという思いがヴァンのなかにはあるのではないか。ユナが寝ているときに自然と背中にしがみついてくる。一度ほどいて普通に寝かせても、やっぱりまたしがみついてくる……そういうことがあったときに、ヴァンが感じるものは何だろう?と。そんなに詳しくは描いていないですが、かつての妻子の死の瞬間を、ヴァンは戦に出ていたので見ていない。そうやって妻と子を顧みなかった過去があるなかで、ユナを娘として自分の手の中に抱いていいのか。そこに対するためらいがあるんじゃないか。それがいちばん、自分たちがこの物語をつくるときの視線としては、素直なものに感じられたんです。

――興味深いです。思えば「ももへの手紙」や「ひるね姫~知らないワタシの物語~」といった、父娘関係に焦点を当てたアニメ映画の流れがあるように思います。
安藤 疑似家族的なものをテーマにした作品は増えている印象で、自分も含め時代がそういうものを求めているのかもしれませんね。

――作品をつくることで、その父娘関係、疑似家族的なテーマに対する何か答えは出せましたか?
安藤 むしろ「なかなか出せないものだな」という感じがしました。答えを出すことより、考えつづけることが大事なんだろうなと気づかされたといいますか。今、新型コロナウイルスの影響のなかでどう生きるか、どう共生していくかが問われていますよね。共生というのは病と人との関係もですし、人と人との関係においても。今までつながっていたものが離れざるを得なくなって、距離をもたなければいけなくなっているなかで、どう過ごすか、どう生活していくのか。それをこの社会のみんなが、すごく考えている。

――はい。
安藤 この作品の内容自体はコロナ禍前につくったものですけど、「共に生きる」という部分においては、そんな今の状況に通じるところがあって、特にヴァンが取った最後の手段の意味はつくった自分たちでも、やはり何度も改めて考えてしまいます。人々の間の分断はより明確になるばかりで、その分断をつなぎ合わせるための答えを私たちは一向に見つけ出せていない。というか、見つけ出せないんだろうなと思いますが、それでも答えを模索する姿勢が大事です。「鹿の王」の登場人物たちが生きる術を探す姿は、ある意味、今の世の中のそういう部分に通じるものとして、とらえてもらえるんじゃないかと考えています。

――この作品を特に見ていただきたいのは、どんな方々ですか?
安藤 自分自身の話もしましたけど、父親である人に見てほしいですね。主人公のヴァンは決してことばの多いキャラクターではないですが、どこか不器用なりの表現の仕方をもっている男。そんな男に対して思い入れをもって描いているだけに、立場の近い人にも見てほしい気持ちがあります。ただ、基本的にはいろんな人に見てほしいです(笑)。あまり小さなお子さん向けの感じではないんでしょうけど、ちょっと背伸びするような気持ちで見てもらえたらうれしいですね。必ずしも親切な映画ではないと思うんですけど。見ながら考えて、想像してもらう……みたいな要素が多い作品になっている。だからぜひ、見終わった後には考えてほしいんです。そうすると、より深みを感じてもらえるのかなと思っています。

映画「鹿の王 ユナと約束の旅」は絶賛公開中!
映画「鹿の王 ユナと約束の旅」は絶賛公開中!(C)2021「鹿の王」製作委員会

【取材・文:前田久】

■映画「鹿の王 ユナと約束の旅」
全国公開中

スタッフ:原作…上橋菜穂子『鹿の王』(角川文庫・角川つばさ文庫/KADOKAWA刊)/監督…安藤雅司、宮地昌幸/脚本…岸本卓/キャラクターデザイン・作画監督…安藤雅司/コンセプトビジュアル…品川宏樹/美術監督…大野広司/音響監督…菊田浩巳/音楽…富貴晴美/主題歌…milet「One Reason」(ソニー・ミュージックレーベルズ)/アニメーション制作…Production I.G

キャスト:堤真一/竹内涼真/杏/木村日翠/安原義人/桜井トオル/藤真秀/中博史/玄田哲章/西村知道

リンク:映画「鹿の王 ユナと約束の旅」公式サイト
    公式Twitter・@shikanoou_movie