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虚淵玄(ニトロプラス)「Thunderbolt Fantasy Project」インタビュー(前編)「アナログの味わいは尊いもの」

2017年11月29日 16:17配信
虚淵玄(ニトロプラス)「Thunderbolt Fantasy Project」インタビュー(前編)「アナログの味わいは尊いもの」

「Thunderbolt Fantasy Project」より

(C)2016-2017 Thunderbolt Fantasy Project

人間の手で操る人形が、まるで本当に生きているかのように動き、さまざまなドラマを紡ぐ台湾の伝統芸能「布袋劇(プータイシー)」。2016年に日本で放送され、多くの日本人に布袋劇の魅力を知らしめた「Thunderbolt Fantasy Project」から、この冬劇場作品「Thunderbolt Fantasy 生死一劍」が上映されます。12月2日(土)の劇場上映に向けて、原案・脚本・総監修を務める虚淵玄さんにインタビューを敢行! 第1期の手応え、そして劇場作品から第2期にかけての見どころを語ってもらいました。前半となる今回は、第1期を中心にお話を伺います。

――あらためてTVシリーズ第1期「Thunderbolt Fantasy 東離劍遊紀」についてお話を伺っていきたいと思います。まずは、作品の制作の経緯を聞かせてください。

虚淵:2014年に「Fate/Zero」のサイン会で台湾に行ったんですが、観光中にたまたま霹靂國際多媒體股份有限公司(以下:霹靂(ピーリー)社)がやっていた「素還真(ソカンシン/霹靂社が手がける「霹靂布袋戲」のメイン主人公)シリーズ」の展覧会を見かけまして。クオリティの高さに衝撃を受けると同時に、これだけのものがすぐ隣の日本に伝わっていないなんてありえないだろうと。

――「霹靂布袋戲」は、台湾ではコンビニでDVDが売っているぐらいメジャーな作品だそうですが、2014年当時の日本でこの作品のことを知っている人なんてほとんどいなかったですよね。

虚淵:2002年に「聖石傳説」という素還真シリーズの劇場版が日本でも劇場公開されていたんですが、僕も後から「あ、あれがそうだったんだ!?」と気付いたぐらいなので……。展覧会でクオリティアップした現在の布袋劇を目にして「もう1回仕切り直して、日本に紹介すれば今度こそうまくいくんじゃないか」と思ったんです。で、その場でDVD-BOXを買ってからサイン会の会場に入ったんですが、翌日台湾の地元の新聞記事に僕がBOXを持ってはしゃいでいる写真が載っちゃって(笑)。

――それを見た霹靂社さんから、後日お仕事のオファーがあったと。

虚淵:僕が霹靂社さんに「日本向けに布袋劇をやりたい」と企画書を送ろうかと用意していた一方で、霹靂社さんのほうも「日本のアニメのライターが布袋劇に興味を持っているらしいから、仕事をオファーしてみよう」ということで僕を探していたんです。それで、ご一緒させていただきました。

――日本と台湾、それぞれのファンの手応えはいかがでしたか?

虚淵:霹靂社さんの布袋劇の特徴といえば、やはりカンフーアクション。人形劇でカンフーアクションというスタイルは日本ではかなり目新しいものでしたが、自分が思った以上の幅広さで許容してもらえたことは幸せに思っています。台湾の伝統芸能に日本のアレンジを入れるなんてと台湾では怒られるかと思っていたんですが、「コレはコレでアリ」という評価をいただけたみたいで。日本での成功以上にデカいハードルを超えられたという手応えはありました。

――木偶(人形)の顔の造り、とくに丹翡(タンヒ)の顔は日本のアニメキャラに寄せていたように思います。人形の造形は虚淵さんのほうで細かく指示を出されたんでしょうか?

虚淵:いえ、デザインは衣装イメージぐらいのつもりで提出していたので、正直「ここまでイメージに寄せられるのか」と驚きました。丹翡は布袋劇における美女のフォーマットからはかなり外れた異端の造形なので、台湾のお客さんもびっくりしたみたいです。霹靂社さんの現場は新しいことをやってみたいという人であふれていて、みんなチャレンジが大好きみたいです。本家の「霹靂布袋戲」シリーズではそういう造形の木偶を出す機会がなかったからこそ、挑んでもらえたのかもしれませんね。

――殤不患(ショウフカン)も台湾の布袋劇の木偶の造形からすると、かなりワイルドな感じですね。

虚淵:主流である雅な造形からどこまで離れていいものか、というラインを探るのは難しかったですね。優男と二枚目になりきらない、ところのさじ加減に悩みました。結局あちらで彫っていただいた人形がベストな解になりました。

――ちなみにお気に入りの木偶は?

虚淵:豪勢さで言うと、殺無生(セツムショウ)とか蔑天骸(ベツテンガイ)ですかね。あのキラッキラ加減が良いなと。

――たしかに他のキャラクターと比べても、かなり豪勢ですね。

虚淵:のっけからキラキラでいくと布袋劇を見慣れない人は「なんだこれは!?」と思っちゃうので、全体的な衣装デザインは抑えめにしました。日本人が武侠ものとして思い描く範囲の衣装を足がかりにして、だんだんエスカレートさせて行ったんです。だから最初からラスボスとして登場する蔑天骸や途中から登場する殺無生はちょっとはしゃいだコスチュームになっています。凜雪鴉(リンセツア)は例外で、最初から異質な空気をまとってほしかったのでかなり派手にしてもらいました。

――ストーリーの後半で凜雪鴉の正体が「人の矜持を奪う怪盗」だと明らかになったときには驚きました。武侠物の主人公としてもかなり異色な設定だと思うのですが、凜はどのような意図で作られたキャラクターなのでしょうか?

虚淵:本作で主人公を設定するにあたって、一番デカい壁になったのが素還真でした。彼は聖人君子のスーパーヒーローなので、生半可なスーパーヒーロー像では彼に見劣りしてしまう。なので逆張りでピカレスクにして、傳法でざっくばらんな無法者とやたら悪賢い怪盗という2人が合わさって、ヒロイックな活躍をする物語になったわけです。王道の話を作るのにはそんなに向いているキャラクターじゃないんですが、若干敷居が高くなるにせよ、変則的にしようという意図はありましたね。

――本作のシナリオを執筆するうえで、他の作品のシナリオを書くときと異なるポイントはありましたか?

虚淵:僕はストーリーとセットでキャラを考えることが多くて、いつもはストーリーが終わる頃にはキャラも燃え尽きるぐらいの設計をしていたんです。今回はシリーズものにしたいという思いがあったので、アルコールランプのように、オイルを継ぎ足して派生展開に繋げられるように、と考えました。これからシリーズ通してメインを張る予定のキャラと、単体の作品だけで登場する脇役ポジションのキャラは、だいぶ意識して書き分けています。

――布袋劇のシナリオを作る上で独特の苦労なども?

虚淵:使える背景セットに限りがあるので、なるべく情景を絞って使いまわしながら話を展開できるように、というのは結構考えました。あとは日本のお客さんの最初の一本としてとっつきやすい話にするのが大前提だったので、入り組んだ話はしないようにしています。布袋劇の常識や作り方は逐一霹靂社に伺いを立てながらやっていたので、学びながら書いてくという感じでした。

――セットだけでなく小物のクオリティも凄いですよね。番組公式Twitterが食事解説ツイートをしていたこともあり、個人的に食事のシーンも印象的でした。

虚淵:食事のシーンは台湾の食文化の充実ぶりが露骨に出ますよね。毎回メニューのボリュームにも驚かされますが、ミニチュアの再現度もすごいというか、ほぼ本物だったりしますから。メイキングでも肉を焼いてます。

――本物の食べ物を使っているんですか?

虚淵:作り物のこともあれば本物のこともありますが、あれは本物の肉です。木偶が人間のほぼ半分ぐらいなので、食べ物も倍のサイズとして想像がつくなら本物が使えるんですよ。ニボシを置いておくと焼き魚っぽく見えたりとか、キンカンをおいておけばポンカンに見えたりとか。その辺の霹靂社さんの工夫はうまいなと思いますね。

――そういったこだわりが世界観の演出に活きているんですね。激しいアクションシーンも見どころでしたが、ディレクションは大変だったのでは?

虚淵:じつはアクションは完全に現場に任せています。第1話の殘凶(ザンキョウ)の切り落とした首を魑翼(ミヨク)が持っていって、というような話に絡むシーンはこちらで指示していますが、普通の戦闘などは脚本では「ここで必殺技が炸裂」とか書いてあるだけだったりします。映像として一番見栄えのする最適解は現場の方がわかっているので、「一番効果的に見映えのする方向で」という形でやってもらってます。自分もラッシュフィルムを見て、凄いことになっていると驚いたりしました。

――とくに印象に残っているアクションシーンはありますか?

虚淵:第9話の殺無生と蔑天骸の対決シーンですね。「最初はお互いに刀を持って構えて、構えを見て手を読み解く」という脚本を書いて、普通にお互い構える映像が上がってくると思っていたら、蔑天骸のほうが刀の鞘を地面に突き立てて自分は手をかざしているだけっていう……。あれは正直びっくりしましたが、「こうだよね、布袋劇は」とも感じました。

――虚淵さんが感じる布袋劇の魅力とは?

虚淵:CGによる架空の映像に目が慣れていく中で、ああいうアナログの味わいは逆に新鮮だし、貴重だし、尊いものじゃないかなと僕は思うんですね。CGは極端な話、センスさえ到達すればどんな映像も実現できるし、摩訶不思議なものを見て驚くって、そろそろCGではそうないと思うので。「この人形どう動かしたんだろう?」という驚きの新鮮さ、ある種の手品・奇術の領域の魅力というのはこの表現ならではだと思います。なにせ15年訓練を積んで、やっと才能があるかどうか分かるっていうぐらい過酷な世界ですからまさに匠の世界です。

――人形ごとに専属の人形師がいたりするんでしょうか?

虚淵:おおむねありますね。女性的な動きが得意な人がいれば、勇ましい動きが得意な人もいる。まさに役者さんの芸風と同じで、現場で各々分担してます。

――虚淵さんが「生死一劍」でとくに驚いた動きというのはありますか?

虚淵:どれもこれも甲乙つけがたいんですけど、「生死一劍」の戦闘シーンで二刀流のキャラ同士が戦うシーンはすさまじいなと思いましたね。構造上、人形の右手は小指と薬指だけで操作しないといけないので、すごく難しいんです。劇場版をご覧になる際は、そこもぜひ注目していただきたいです。

虚淵玄さんの布袋劇への熱い思いが込められた「Thunderbolt Fantasy Project」、TV第1シーズン「Thunderbolt Fantasy 東離劍遊紀」は、BD&DVD全4巻が発売中のほか、huluやAmazonプライム・ビデオなど映像配信サービスでも配信中です。インタビュー後半では、劇場版の見どころについても伺っていきます!

取材・文:段木英里

■「Thunderbolt Fantasy 生死一劍」

公開日:2017年12月2日(土)

公開館:ユナイテッド・シネマ豊洲、109シネマズ川崎、ユナイテッド・シネマ札幌、109シネマズ名古屋、109シネマズ大阪エキスポシティ、109シネマズHAT神戸、ユナイテッド・シネマキャナルシティ13、ufotableCINEMA

リンク:「Thunderbolt Fantasy」公式サイト