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「ジョゼと虎と魚たち」タムラコータロー監督インタビュー「実写の俳優さんを起用したのは生身の人間の持つ生々しさを伝えたかったから」

2020年12月19日 10:00配信
「ジョゼと虎と魚たち」は2020年12月25日より公開

「ジョゼと虎と魚たち」は2020年12月25日より公開

(C)2020 Seiko Tanabe/ KADOKAWA/ Josee Project

趣味の絵と本と空想。それだけが自分の生きる世界であった車椅子のジョゼが出会った大学生の青年・鈴川恒夫。ひねくれ者で辛辣に当たるジョゼに、臆することなく真っ直ぐにぶつかっていく恒夫は次第にジョゼの心を開き、2人の距離は縮まっていく。

ジョゼと恒夫の優しくも心に刺さる青春恋愛ストーリー「ジョゼと虎と魚たち」が、12月25日(金)より全国ロードショーとなります。原作は1984年に発表された芥川賞作家・田辺聖子さんの同名小説で、監督のタムラコータローさんにとっては初の劇場作品になります。

2003年には実写映画化もされたこの作品を、令和の今の時代に送る理由、作品で表現した世界をタムラ監督にうかがいました。

――原作は36年前、昭和59年に発表されたものです。古い作品ですが、もともとご存じだったのでしょうか。

タムラ:いえ。不勉強で申し訳ないのですが、実写映画があったな、というくらいの知識で、手に取ったのは今回が初めてでした。実は映画制作のお話をいただいた時点ではまだ原作候補が決まってなく、(KADOKAWAの)笠原プロデューサーが用意してくださった本を片っ端から読んで、その中で一番刺さったのが「ジョゼと虎と魚たち」だったんです。

実写映画ありきのリメイク作品のように思われている方もいるかもしれませんが、そうではなく、そもそもの入り口が原作なんです。文芸系の小説で今の世の中に受け入れられる作品を作れないかと模索していた時期でもあったので、より深く僕の中に入ってきたというのもあります。

――原作単行本(短編集)では他の収録作品もありますが、「ジョゼ」のどのあたりに惹かれたのでしょうか。

タムラ:まず僕は短編ということすら知らなかったので、始めから「ジョゼ」を読むぞ、という入り方をしたのは間違いありません。ただ、表題作であることから、田辺さんにとっても推しの作品であったに違いないと思ったんです。

読後にいろいろ調べたのですが、田辺さんが「大阪のサガンになりたい」とおっしゃっている記事を見つけました。サガン(フランソワーズ・サガン。フランスの小説家)は田辺さんご自身が憧れる存在だったわけですよね。ジョゼもまたサガンに憧れを抱き、愛読しているという女性でした。どこまで意図的であったのかは分かりませんが、「ジョゼ」は田辺さんにとって特に思い入れの深い作品なのではないかと思えました。作品の記述にジョゼもクリエイターの片鱗を見せている部分があり、なおかつサガンが好きというところからご本人が乗り移っているんじゃないのかと思う節もあり、非常に輝いて見えた一節だったんです。

――物語はいかがでしたか。

タムラ:最後の閉じ方が特に印象的で、2人の物語がこれから始まっていく、というところで終わるんですよね。そこでのジョゼの幸せの表現の仕方がまた独特で、“幸福イコール死”という表現をしているんです。ワードだけだとネガティブですが、心象としてはポジティブにも取れるんですよ。どう解釈するかは読み手次第ですが、僕はこの終わり方に自分が試されている感覚になりました。

この先、2人はどのように手をつないで歩むのか。これは僕が作り手側だからかもしれませんが、想像を掻き立てられると同時に、田辺さんから「自分で読み解いてみなさい」と言われているようでした。

――原作を読んでいる方は予告映像で気づいたと思いますが、大胆なアレンジを加えていますね。

タムラ:原作は昭和の作品で、その時代感がこもっています。実写版は平成の時代感で作り直していますよね。やっぱり今の20代の方々を中心に観てもらいたい作品。ノスタルジックを求めたわけではないので、そこはキャラクターも含め、令和の時代感で作り直しています。

――ジョゼと恒夫に関しては、どのような描き方をしたいと思いましたか。

タムラ:ジョゼは原作からして強烈なキャラクターで、彼女の存在を変えると作品自体が「ジョゼ」ではなくなってしまうので、ほぼ原作通りのイメージです。変えたのは時代感に沿った設定くらいです。

一方の恒夫はすさまじく迷走しました。原作の市役所勤めをしようとしている恒夫、実写版で妻夫木さんが演じた大学生の恒夫。そのどちらもですが、恒夫の個性というより、その時代の普通の人代表みたいな感じで設定されているんです。それはそれでひとつの方法論ですが、僕としては普遍性を持つと同時に、恒夫は恒夫であって、みんなの平均値を取ったキャラクターではないという風にしたかったんです。

まず感情を共有しやすいキャラクターとして、「今どきの男子大学生ってどんな感じ?」というところからスタートしたのですが、なかなかその姿が思い描けませんでした。セリフにしても心情にしても、探り探りという状況で、脚本の桑村(さや香)さんも相当悩まれて……。キャラクター原案も、性格設定も間違っていないと思いつつも、どこか定まらない。そんな迷走キャラだった恒夫の輪郭を固めてくれたのが、中川大志くんの声でした。中川くんの声が最後のピースとしてハマり、ようやく恒夫の存在に説得力を持たせることができたんです。

――それは具体的にどんなピースだったのでしょうか。

タムラ:生身の人間の雰囲気ですね。ジョゼ役の清原果耶さん、恒夫役の中川くん。実写の俳優さんを起用したのは生身の人間の持つ生々しさを伝えたかったからで、これは2人にもお話したことです。

誤解しないでいただきたいのですが、プロの声優さんが悪いわけではないんです。ただ、アニメの絵にマッチしすぎると、いかにもなキャラクターが出来上がってしまう場合があります。仮にそうなり、ジョゼと恒夫が空想のアニメキャラだと見られるのは寂しくて、どこかに生っぽさがほしかった。それを出すには実際に体を動かして芝居をしている方のほうがいいだろうという判断です。

意識せずに漏れ出すリアリティ。言ってみればアニメーションとのズレでもありますが、今回はそれがほしかったんです。なので、アフレコもジョゼと恒夫を先に録り、2人の作る世界観、リアリティのレベルを基準に他のキャラクターを収録しているんです。リアリティの追求とアニメの絵にマッチする芝居という、その両天秤でバランスを取った結果が、今の2人の演技です。ここはぜひ劇場で聴いていただきたいです。

――監督が目指した地に足の付いた芝居というのが伝わってきます。

タムラ:“らしさ”みたいなのは絵でも表していて、例えば服装も着回しさせて、前のシーンで履いていたスカートを後のシーンでもう一度履いていたり。恒夫も同じくで、そうやって生活感みたいなものを出しています。映画を観ている間だけは、ジョゼと恒夫がこの世のどこかにいるような空気感を感じてもらいたいんですよね。

――非常にジュブナイルな仕上がりでしたが、障害者の生活を描くという部分はどう捉えたのでしょうか。

タムラ:確かに車椅子は作品の重要なモチーフであることは間違いないですが、同時にこれ(原作)は障害者の物語ではないと思います。この作品の焦点は足の不自由さではなく、心の不自由さ。ジョゼはいわゆる引きこもりの生活をしていますが、それはジョゼの家庭の話で、僕が取材させていただいた車椅子の方の中には非常にアクティブな生活をされている方もいらっしゃいました。きっと田辺さんも、ジョゼを障害者の代表として書いたわけではないはずです。

生い立ちによって出来てしまったジョゼの心の不自由さ。それを表現できるのであれば、ジョゼには足の障害ではない、別のなにかを課してもよかったわけです。社会的メッセージを持った作品にすることももちろんできますが、それは今回僕が読み解いた作品感、描こうと思ったものからは離れてしまいますね。

――心の不自由さというのはすごく納得できるところで、そういう枷を持ったジョゼが、キービジュアルにある素敵な笑顔を見せる過程も心が惹かれます。明るく弾ませるような光の演出も印象的でした。

タムラ:僕は重い話を重い絵で見せるのは好きではないんですよ。明るい入り口で作りたいという思いがあるんです。そこは今回もずいぶん気を遣ったところで、演出的には前半のほうがハードルは高かったかもしれないです。シリアスな中での明るいパートって、非常に難しいんですよね。アフレコもすべて録り終えたあとに、もう一度前半パートを一部録り直しているくらいで。沈みがちな物語を明るい映像にできたのは、シーンと演出、声のトーン……どのバランスが一番マッチするか、地道なチューニングを繰り返して実ったものですね。

――最後に、完成した映像を観た感想と、公開に向けての気持ちをお願いします。

タムラ:込めたかったものは完成した映像を観れば一目瞭然ですが、そこに至るまでは当然未完成な道のりなわけで、「そんなに細かいところばかり気にして監督はなにをやりたいの?」と思われていた部分もあると思います。それに文句を言うことなくついて来てくださったスタッフの方々には感謝の念が絶えません。

毎日苦心していたせいか、今も夢の中でリテイク作業をしているんです(笑)。まだまったく終わった気がしていなく、皆さんからの感想が届き、楽しんでいただけたことが分かったときに、ようやく完成したんだな、という実感が持てると思います。ぜひ劇場に足を運んでご覧になってください。

【取材・文:鈴木康道】

アニメ映画「ジョゼと虎と魚たち」
2020年12月25日公開

スタッフ:原作:田辺聖子「ジョゼと虎と魚たち」(角川文庫刊)/監督:タムラコータロー/脚本:桑村さや香/キャラクター原案・コミカライズ:絵本奈央/キャラクターデザイン・総作画監督:飯塚晴子/コンセプトデザイン:loundraw (FLAT STUDIO)/音楽:Evan Call/アニメーション制作:ボンズ/主題歌:Eve 「蒼のワルツ」(TOY’S FACTORY)/配給:松竹/KADOKAWA/製作:『ジョゼと虎と魚たち』製作委員会
キャスト:鈴川恒夫:中川大志/ジョゼ:清原果耶/二ノ宮舞:宮本侑芽/松浦隼人:興津和幸/岸本花菜:Lynn/山村チヅ:松寺千恵美/西田店長:盛山晋太郎(見取り図)/駅員:リリー(見取り図)

リンク:映画「ジョゼと虎と魚たち」公式サイト
    公式Twitter・@joseetora_mo