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「笑い、それはとてつもなく幸せな地獄、だ。」若木未生さん著「ゼロワン」インタビュー【後編】

2016年03月03日 15:21配信
 「笑い、それはとてつもなく幸せな地獄、だ。」若木未生さん著「ゼロワン」インタビュー【後編】

若木未生さん著「ゼロワン」発売中

ニュータイプ2月号のBOOKページで紹介した若木未生さんによる「ゼロワン」。“お笑い”をテーマにした作品を手掛けた若木さんに、WebNewtypeがインタビューしてきました。

登場するのは、33歳になる王串ミドロと21歳の青山零、ふたりの名前を由来とする「ゼロワン」なるコンビ。声優として活動もしていた王串だが、もはや過去の栄光でお笑い芸人としても今ひとつ……相方の零は見てくれはいいものの、どうにも頼りなく──辞めるべきか、続けるべきか。その答を「マングラ」こと年末のマンザイ・グランプリ優勝に賭けることを静かに決意する。

「私はいわゆる『ダウンタウンチルドレン』で、松本人志という人の恐るべき才能と、その隣りに立てる唯一の相方・浜田雅功という人が作る番組を観てきました。

さらにオードリーというコンビの存在を知り、ファンなら誰もが知る若林正恭さんのブログ『どろだんご日記』(現在は過去ログ非表示)で、ある一文に出逢いました」

それは、マングラのモデルとなったM-1こと「M-1グランプリ」にブレイク前の彼らが参加した当時のもの。

「敗者復活戦の日に若林さんがまず書くのが『他人の嘔吐した跡のあるトイレ』で、ああ、この人達はどれほどの想いで、覚悟で、この賞に挑んでいるのか、とリアルに感じました。私は敗者復活戦を観ることが好きで、なぜなら、一度は負けた人々が、たった一組の枠めざして、もう一度立ちあがって戦おうとしている。笑いという眼に見えないものを追う人々が挑戦を諦めないこと、その姿そのものがとてもすばらしいと思っているからです。

生身の当事者である若林さんの表現を超えることばに辿り着けたかはわかりませんが、なによりも、この痺れるような世界を丸ごと自分の手で描きたくなりました」

もちろんライバルとなる存在も登場する。圧倒的な人気と実力を誇るライバルで、スタイリッシュな兄弟コンビの「クロエ」。兄の狂気とも言える笑いの世界に食らいつき、客席に届けようとする弟の放つ漫才は危うく、けれど激しくステージで炸裂する──しのぎを削る彼らは、果たしてマングラで勝ち残ることができるのか?

思わず手に汗握る、漫才の最中の心理が、観客の反応が、相方の息遣いが、怒涛のように押し寄せ、読む者を翻弄し圧倒する。

「ゼロワンもクロエも作中で登場するネタはすべて自前で考えました。

モデルとしてイメージしたコンビは複数いますが、モデルが誰だか考えられないくらい『ゼロワンらしさ』『クロエらしさ』を感じてもらえたらと思って書きました」

結果、読者からは「実際に彼らの漫才が観たい」「ゼロワンの次はクロエ兄弟の物語が読みたい」といった声も届いた。

「王串たちの人生もまだ先へと続くし、できればクロエのことをもう少し書きたい気はするのですが……どうかな。ともかくは、この小説自体が予想よりも暖かく迎えてもらえたことが、とてもうれしかった。連載当時は、なぜ漫才を題材に書いているのかと驚かれたこともありましたが、一冊の本になったら『そういえば若木未生って元々こうだよね』と思ってもらえたような。

確かに『GLASS HEART』のときと同じ脳を使って書いたのですが、今回は40代になった自分が、仮に誰かに『いまさら正面から青春を書く歳じゃないだろう』と思われたとしても、大人の青春を書ききれるのか……そこが自分なりの挑戦でした。簡単な道のりではありませんでしたが、この本の出版によって新たな評価に出会えたようで、それはとても大きな糧となりました」

同時にすべてを書き終えた最後に記された、「後書き」に触れてほしい。この小説を書くに至る著者の慟哭が刻まれている。

「ふだん、自分がフィールドにしているのはエンタメです。サーカスはサーカスに徹するべきで、道化師は泣いてはいけない。どこまでも笑顔で『ありがとうございました』と終えることが美学でした。

けれど、今回は書かねばならないと、舞台裏を明かすことがこの作品には必要であると信じました」

だからこそ「自分のことを開示する」と決めた。その思いはぜひとも、その目で確かめてほしい。

「楽しくサーカスを見終わって『あー、おもしろかった!』で終わることができれば、一番いいんですよ。理想はそうなんです。でも、それでは済まされないであろう人の存在を私は知っていると思うので、その人達に届くことを祈ってボールを全力で投げました。

これからも書きたいものはたくさんあるので、ひとつずつ誠実にボールを投げていきたいです」

折しも、本書が上梓された年は、5年ぶりに「M-1グランプリ2015」が復活。そこに生きる者たちだけでなく己の選んだ道にすべてを捧げ生きる人々へ、その姿を応援する人々に、届いてほしい一冊。【取材・文/おーちようこ】

■著者プロフィール

若木未生(わかぎ・みお)/89年、早稲田大学文学部在籍中に「AGE」で第13回コバルト・ノベル大賞佳作入選。 同年、自身の代表作となる「ハイスクール・オーラバスター」で単行本デビュー。軽やかに、けれど熱く青春譚を描き続ける。近著に「ハイスクール・オーラバスター・リファインド 白月の挽歌」「真・イズミ幻戦記 暁の国篇(上・下)」(いずれも徳間書店トクマ・ノベルズ)など。

リンク:若木未生公式サイト「MEGALO VISION」

■「ゼロワン」

発売中

著者:若木未生

定価:1836円

ISBN:978-4-19-864060-6