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重力を操る能力を持つ少年・シキと、動画配信者「B・キューバー」の少女・レベッカたちの宇宙を翔ける大冒険を描く、真島ヒロ原作の王道スペースファンタジー「EDENS ZERO」が、好評放送中! 迫力のオープニング映像とともにビッグバン級の爆風を巻き起こすのは、西川貴教さんの歌う主題歌「Eden through the rough」。アニメーションへの深い愛とリスペクトを持って制作に携わる西川さんに、この曲に込めた思いをうかがいました。
――「EDENS ZERO」という作品に触れての印象や、どのようなところを糸口に楽曲を制作されたか教えてください。
西川:「RAVE」や「FAIRY TAIL」は存じ上げていましたので、とても真島ヒロ先生らしい、友情を軸とする熱い作品だなという印象を受けました。制作にあたっては、もちろん原作を応援している若い読者の方たちがいることを第一に考えたのですが、むしろそういった方々以外の方にも楽しんでいただけるように作れたらいいなという思いでした。というのも、真島先生の作品は海外ファンの方も多く、また、深夜帯という放送時間からも、幅広い層の方がご覧になるだろうと考えたんです。この1年で、これまであまり馴染みのなかった方たちもアニメを楽しまれている状況にあるので、普遍的な部分を抑えておくことも大切かなと思いました。僕は、アニメの主題歌とは、作品の世界へ入るためのインターフェイスを担うものだととらえています。特にこの作品は日常と乖離したスペースファンタジーということで、そんな全ての人を引っ張っていけるようなスピード感やリリックも含めた力強さを意識して制作しました。
――作品名を歌詞に含む王道のアニメ主題歌かと思いきや、実はそれが違う言葉であったり、聴くたびに発見のある曲です。
西川:レコーディングのときも、ひとつひとつのフレーズを聴かせていくような歌い方に注力しすぎると勢いが削がれてしまう曲だと感じました。主人公のシキが武器を使わずに自分の能力ひとつで求めるものをもぎ取っていくように、あまり脳を介さず、メロディと一緒に体で受け止めてもらえたらいいなと思います。僕にも経験があるのですが、今はなんだかわからずに歌っているお子さんが、数年後に初めて曲の意味を知るっていうのもおもしろいですよね。
――作曲および編曲は、昨今、タッグを組まれることも多いElements Gardenの藤永龍太郎さんです。
西川:もう一度自分の可能性を探っていこうという思いのもと‘18年に「西川貴教」としての音楽活動を本格的に開始して以来、これまで僕がやってきたことを見たり聴いたりしてくれていた世代の方たちとの制作を通して、また新しい感覚で歌と向き合えています。藤永くんと一緒に制作するのは初めてなのですが、Elements Gardenのなかでも若いメンバーと作品を作らせていただくことは、いい刺激になりました。自分の表現したいものを第三者のキュレーションを挟まずにネット上で発信したり、いくらでも制作途中でやり直すことが可能な環境で経験を積んできている世代なので、何事にも躊躇しないというか、お互いに提案しながら柔軟に物事が進められて、すごく楽しいです。
――そんなふうに制作の段階から深くコミットされているから、西川さんの楽曲はアニメ作品との親和性がこれほど高いんですね。
西川:自分自身もアニメが好きで、ずっとリスペクトを持って臨んできたので、作品との親和性を何よりも大切にしていますし、ただ単純に楽曲を提供するだけということはしたくないんです。携わらせていただくようになった当初は、その信念もなかなか伝わらなかったし、悔しい思いをすることも多かったのですが、90年代から現在に至るまでのアニメを取り巻く変革を経験できたことは大きな糧となりました。普段、あまり褒められるということがないのですが「これまで西川がやってきたことが今の礎になっている」と言っていただけた時はとても光栄に思いましたし、どんなに揶揄されようとも、自分が信じる道で筋を通してきてよかったなって思います。
――日々、さまざまなフィールドで活躍されているなかで、どうやってアニメを見る時間を作られているのですか?
西川:ほぼ毎朝、見ていますよ。仕事に出掛ける前に必ず1時間ほどランニングマシンに乗るので、その時とか。自分が関わっている作品はもちろんのこと、トレンドになっているものや、個人的におもしろいなと思っているもの……見たいものがたくさんあって大変なのは、みなさんと一緒です(笑)。
――ちなみに、ご自身が「EDENS ZERO」のようなスペースファンタジーに触れたくなるのは、どんな時ですか?
西川:どんな時かというと難しいですね。僕はありがたいことに、そういう体験に近いものをステージ上で感じさせてもらっているんですよ。自分でもわからない能力というかスイッチが入って、思いも寄らない言葉やパフォーマンスが出てくるから。また、そんな自分を俯瞰で見ている、もうひとりの自分がいたりとか、本当に不思議な時間です。この曲は、自然とライブ空間をイメージさせてくれるので、一日も早く、直接皆さんに届けたいという気持ちが湧き上がります。
――シキが宇宙を冒険する理由でもある「友達」ですが、西川さんにとってのそれはどんな存在ですか?
西川:今の僕にとっては、同じ目標のもとで、一緒に頑張っている仲間のことです。彼らと一緒に音を出す瞬間は、本当にかけがえのないものだなと、改めて思います。だから、ただ遊ぶだけの関係ではないというか。振り返ってみると、学生時代からそういうところがありました。わりと早くに、将来、自分がどうなりたいかという夢があったので、そのためにバンドメンバーが必要だったし、それぞれに違う能力を持った人たちが、ひとつの目的を達成するためのパーティを組んでいる感じだったんです。
――どうしたら、そんな仲間と出会えるのでしょうか? 新生活を迎えた方たちに、友達づくりのアドバイスをお願いします。
西川:そう簡単にいかないものだとは思いますが、ひとつ言えるのは「誰も自分のことなんて理解してくれない」と閉ざしたら、そこで終わりで、その「理解」してほしいところを、誰かに見えやすいように磨く必要があるということです。なので、空気を読んで、本当は好きでもないものについて話を合わせるよりも、一番のストロングポイントを作ることに時間を費やしてほしいな、と。その後で、友だちを作っても遅くはありません。
――きっとこの曲も、そんな悩みを抱えている方たちへの応援歌になると思います。最後に、WebNewtype読者へメッセージをお願いします。
西川:コロナ禍にあって、より、人と人との結びつきのなかで生まれてくるものを大切に活動してきた1年を経て、ここからまた力強く踏み出していきたいという僕自身の思いも込めた4枚目のシングルになります。実は、先ほどの話は自分にも言えること。世相を気にしすぎて身動きが取れなくなってしまっている現状をブレークスルーすべく仲間たちと動いていきますので、この曲とともに、これからの西川貴教に期待していただけたら、うれしいです。
【取材・文:キツカワトモ】