アーティスト

「リストラ宣告」から40年。森口博子が伝説の作家陣と紡いだ、涙と笑顔の"歌の花束"【全曲解説ロングインタビュー】

「森口博子、もってます(笑)」
インタビュー中、彼女は何度もそう言って笑顔を見せました。しかしそのことばの裏には、18歳でのリストラ宣告、バラエティでの奮闘、そして歌手としての誇りを守り抜いてきた、壮絶な40年の軌跡があります。

歌手デビュー40周年記念アルバム「Your Flower ~歌の花束を~」は、そんな森口博子さんの人生を彩ってきた豪華盟友たちが集結した、まさに奇跡のような一枚。デビュー曲を手がけた伝説のコンビによる40年ぶりの新曲、代表曲の34年越しのアンサーソング、そして自身の半生を綴ったコミカルな楽曲まで。そこには、ファンへの限りない感謝と、未来への希望が満ちあふれています。

「テレビの森口博子はこんなにちゃんと音楽をやっていたんだって驚かせる自信がある」。そう語る森口さんが、松葉杖でのレコーディングという逆境すらも力に変えて完成させた本作。その全貌と制作秘話を、たっぷりと語っていただきました。



34年越しのアンサーソングと、骨折が教えてくれたこと

――まずはデビュー40周年、本当におめでとうございます。
森口 ありがとうございます! いやぁ、もう自分でも信じられないです。デビューしてすぐにリストラ宣告にあったりとか、本当にいろんなことが起こりすぎたんですけど(笑)。でもこうして振り返ると、近年は令和に毎年リリースしてきたアルバム8枚ともすべてオリコントップ10入りする奇跡に遭遇するなど、ずっと求めてくれるファンの皆さんやスタッフの皆さんに守られつづけていただいた40周年だなって思います。だから森口博子、「もってます(笑)」。

――その集大成となる今回のアルバムですが、1曲目の「ETERNAL DAYS~あなたがいてよかった~」は、1991年の代表曲「ETERNAL WIND~ほほえみは光る風の中~」の34年越しのアンサーソングですね。
森口 名曲からまた名曲が誕生しました。「ETERNAL WIND」は、私にとってもファンの皆さんにとっても特別で、デビュー6年目にしてようやく歌手としてのスタートラインに立てた、本当に大切な楽曲なんです。初めてオリコントップ10入りし、紅白歌合戦や全国ツアーへつながったので、40周年の記念には、再び西脇唯さんにアンサーソングを書いていただきたいと思い、オファーさせていただきました。いろいろなところに「ETERNAL WIND」の歌詞がちりばめられているので、「機動戦士ガンダムF91」を見ていたファンの皆さんにとっても、すごくグッとくる仕上がりになっていると思います。

――ファンの皆さんからは「F91」の主人公、シーブックとセシリーがその後穏やかに暮らしている絵が見える、といった感想もあったそうですね。
森口 そうなんです! 「もうそれだけでも泣ける」って言ってくださって。私自身も、この曲の「生きることは戦いだけど それはなんて美しい」という歌詞を読んだときに、もう涙が出ちゃって。というのも、実はこのレコーディングの時はちょうど足を骨折していて、車いすと松葉杖で生活していた時期だったんですよ。

――それは大変でしたね。
森口 私の不注意でこんなことになって、予定していたライブも休演せざるを得なくなって、情けないやら悔しいやら、何よりも皆さんに申し訳なくて、精神的にもとても苦しい時期だったんですけど、だからこそ「生きることは戦いだけど美しい」っていうことばがすごく刺さって。本当に支えられましたね。

――歌詞の最後に、「あなたがいてよかった」と2回繰り返すのも印象的ですね。
森口 そこ気づいてくれました? 私も「(2回繰り返すのではなく)最後は違う歌詞にするっていう選択肢もありますか?」って西脇さんにお尋ねしましたら、「この"あなた"は意味違いなんです」とおっしゃって。1回目の「あなたがいてよかった」は、「ETERNAL WIND」という楽曲がいてくれてよかったという意味。2回目の「あなたがいてよかった」は、ファンの皆がいてくれてよかった、という意味なんですって。

――それは……グッときますね。
森口 泣けるでしょ? だから即決でこのままでいいです!と。レコーディングでもMVでも、その2つの感情を込めて歌い分けているんです。

――MVも拝見しましたが、霧がすごく神秘的でした。
森口 あれ、実はまったくの想定外で、大自然の変化球だったんですよ(笑)。本当は晴天の高原で撮るはずだったんですけど、ロケ地に行ってみたらなんと大濃霧で。でもそれがかえって、「ガンダム」の作品世界にも通じるような、神秘的な映像になったような気がします。だからあの映像のトーンは、大自然の演出なんです。



大人たちに贈る、平松愛理からのエール

――2曲目は平松愛理さんが手がけた「Good Morning Good Night」。少しロックテイストで、サビで一気に明るくなるのが気持ちいい楽曲ですね。
森口 本当に! これは私も出演させていただいたドラマ「最後から二番目の恋」をモチーフにお願いしました。このドラマって、見ていると「年齢を重ねるのも悪くないな」と思える魅力があって、個人的にもすごく好きな作品なんですね。なので、これまで頑張ってきた大人たちの背中を押す曲を、とリクエストしたら、みごとに想像以上にすてきな楽曲をつくていただきました。特に好きなのが「動揺しながらシビれちゃえ」っていう歌詞なんです。大人ってやっぱり、ついつい安全なほうを選びがちじゃないですか。だけど、あえて動揺しながらも挑んでみたら、新しい喜びでシビれちゃうこともあるよって。

――「今日こそひとつだけ大切にあきらめよう」という歌詞も深いなと思いました。
森口 そこ一番好きなところです!! 哲学的ですよねえ。大切に頑張ってきたからこそ、手放せる。手放したほうがうまくいくこともあるよ、と。でも、あきらめるのってやっぱり悔しいじゃないですか。だからこそ「大切に」ということばが心に刺さるんですよね。

誇りと感謝を込めた"ヒャダイン流・自叙伝"


「Your Flower ~歌の花束を~」初回限定盤ジャケット


――そして3曲目「元祖バラドルなんだもん!」。これは前山田健一(ヒャダイン)さんによる、まさに森口さんの自叙伝のような楽曲ですね。
森口 もう、最高です!! 打ち合わせでいろいろなお話をさせていただきつつ、ヒャダインさんがもともと知ってくれていた番組のワードなども盛り込んで、ユニークにつくってくださいました。初めて歌詞を読んだ時は爆笑しちゃいました。ライブで盛り上がること間違いなしですね。

――Aメロから「卒業前にリストラ宣告」とあるように、波乱万丈な人生が綴られています。
森口 よくここまでやってこれましたよね(笑)。高校生で事務所からリストラ宣告を受けて、スケジュールも真っ白になって。まさに崖っぷちっていうときに居場所をいただいたのがバラエティのお仕事だったんです。私も「どんなジャンルのお仕事でも全力で頑張ります!」っていう気持ちで臨みつつ、同時に「いつかはこれを歌に繋げるんだ」という思いでやってきて。歌詞の最後に「素敵な歌に巡り会い 素敵な人に助けられ」というフレーズがあるんですけど、本当にその通りだなって思ってホロリときちゃいました。

――ちなみに、当時「バラドル」と言われることには葛藤もあったのでしょうか?
森口 そうですねえ。やっぱり「歌手なのに!」って思ってモヤモヤした時期もあるにはありましたね。でもそんな時に「ETERNAL WIND」に出会うことができて、紅白歌合戦にも出演させていただいて、それでようやく「森口さんって歌手だったんですね」って認めてもらえたので。今では「元祖バラドル」も「アニソン歌手」も、どちらも誇りに思っていますね。

「.......」に込められた、永遠に続くファンとのきずな

――続いて4曲目は広瀬香美さんの「forever and ever and ever and ever.......」です。壮大なバラードですが、冒頭のため息など、少しミュージカルっぽいというか、お芝居がかっている演出も印象的でした。
森口 これも名曲です。30年来の親友でもある広瀬香美さんが、プロデュースもしてくれたんです。私が歌手であり、女優としてドラマやミュージカルもやっているからこそ書ける、お芝居仕立ての冒頭にしたらおもしろいんじゃないかということで、「はぁ ため息か ふぅ 深呼吸なのか」というセリフから入る構成はさすがですよね! インパクトがあって惹きつけられます。そこから、40年間いろんな景色をいっしょに広瀬さんとファンのみんなと見てきたよねっていうのを、走馬灯のように描いてくれました。香美さんが「博子ちゃんとファンの皆さんの関係はずっと続いていくから、歌詞カードに書ききれないぐらい続くから『.......』にしたんだよ」って。じつはこの点の数に広瀬さんのこだわりがあって、forever の7文字と、森口博子(もりぐちひろこ)の7文字をかけて、それで7個にしてくれたんです。

――すごいこだわりですね。
森口 今までいろんなアーティストさんに楽曲を提供してきたけど、号泣しながら曲を書いたのは博子ちゃんが初めてだって言ってくれて、私も号泣。本当にうれしいですし、宝物ですね。

――続いての「Ubugoe」は、映画「機動戦士ガンダム ククルス・ドアンの島」の主題歌ですね。改めて、スケールが大きくて、アーバンさと郷愁が入り混じった楽曲で、優しくも力強いボーカルが素晴らしいですね。
森口 ありがとうございます。「ガンダム」シリーズの主題歌を担当できるというのは特別なことで、もちろん私自身も待ち望んでいたんですけど、何より50代になっても主題歌を担当させていただき、ガンダムファンの皆さんから「森口のガンダムソング、待ってました!」と熱い想いを寄せてくださったのがすごくうれしかったですね。母性あふれる、地球規模の優しさと力強さをもった歌になったと思います。

――続いての6曲目は「年下のあいつ」。歌詞は岸谷香さんとの共作ですね。
森口 そうなんです。私が香さんに過去に作曲していただいた「スピード」のようなライブで盛り上がる曲を、とオファーしましたら、爽快なロックチューンを書き上げてくださって。譜面に「年下のビリー」って書いてあったのがすごく気に入って。私もいい大人になって、だんだんと年下の人たちとかかわることが増えてきたんですね。最初は私がいろいろ教えていたつもりが、いつのまにかすごくたくましく成長していて。そんな年下の世代にエールを送る歌を書きたいなと思ったんです。私が一度詞を書いて、それを香さんにパスして、きれいに仕上げてもらいました。

――「恋人でも母親でもないスペシャルサポーター」というフレーズが、言い得て妙だなと。絶妙な距離感ですよね。
森口 そうそう。でも今では「あれ? もはや私のほうが支えられているのでは?」って思う瞬間も多くて。いやほんと、若い子の成長はすごいですね。

50代のビキニから生まれたハッピーソング

――次はご自身で作詞・作曲された「ドキがムネムネ?」です。タイトルからしてすごいですね(笑)。
森口 あはは(笑)。これは昨年のコンサートツアー(「ANISON & POPS NIGHT」)に合わせてつくった曲なんです。グッズでビキニ姿のアクスタをつくったんですけど、そのデザインが8cmシングルCDふうだったので、どうせならそこに詞を書いて曲もつくっちゃおうってなって。50代の私がビキニになったところで誰も死にゃあしないし(笑)、どうせなら人生やりたいことをやっちゃいましょう、というメッセージを込めました。

――歌詞には「バッチグー」や「レッツラゴー」など、懐かしいことばが満載です。
森口 このコンサートのコンセプトがレトロポップだったので、私がバラエティ時代によく使っていたことばを全部入れました。今の若い人は知らないと思いますけど、「バッチグー」ということばは「バッチリ」と「グー」をくっつけてつくった私の造語なんですよ。「ラッキーウッキー」とかもアドリブで言っていましたね。なので、昔からファンでいてくれる方からすれば、私がこれを歌い出したら懐かしくて爆笑だと思います(笑)。

盟友・西村由紀江との一発録り


「Your Flower ~歌の花束を~」通常盤ジャケット


――楽しい曲のあとには、西村由紀江さん作曲の「ペンタス」。ピアノと歌だけのシンプルな構成が心に沁みますね。
森口 ピアニストで友人である由紀江さんの透明感あふれるピアノが大好きで。今回は光と影を感じる美しいメロディーを作曲してくださってグッときました。実はこの曲、一発録りでレコーディングしたんですよ。お互いにパスを出し合い、高め合いながら、同時レコーディングだからこそ出せた響き合いの世界になったと思います。

――歌詞は森口さんが担当しています。
森口 この歌詞は、ちょうど骨折して最高にネガティブになっていた時に書いたんです。窓の外の穏やかな日差しが苦しいくらい、自分だけ社会から取り残されたような気持ちになっちゃって。でも家族やスタッフが私以上に私のことを信じてくれていて、その人たちのためにも、このネガティブな感情を「断ち切る勇気」を見せなきゃ、という想いを込めました。

40年ぶりの奇跡と、「森口博子と森口博子の戦い」

――そして「聖なる惑星 -Sanctuary-」では、デビュー曲以来となる売野雅勇さんとニール・セダカさんのタッグが40年ぶりに実現しました。これはすごいニュースです。
森口 本当にすごいです。当時から応援してくれたファンの皆さんにとって、最高のサプライズになるんじゃないかなと思います。「涙はたったひとつだけ 心が造れる宝石」という歌詞を見たとき、一瞬で心を掴まれましたね。ただ、あとで売野さんに聞いたら「(歌詞を)書くのがすごいプレッシャーだった」とおっしゃっていましたけど(笑)。デビュー曲「機動戦士Zガンダム」の主題歌「水の星へ愛をこめて」から40年。歌詞に“水の星”と入っているのも感動ポイントです。本当に魂レベルの高い、美しい歌だなって思います。

――11曲目は「ETERNAL WIND ~ほほえみは光る風の中~ (40人の森口博子によるアカペラヴァージョン)」です。ご自身の声を40トラック重ねて再構築したアカペラヴァージョンですが、これはもう圧巻でした。
森口 そう言っていただけると、やったかいがありました。デビュー35周年の時に「水の星へ愛をこめて」で35人のアカペラをやったときから、40周年は「ETERNAL WIND」でやるしかないと決めてはいたんです。ただ、レコーディングした時は骨折の真っ最中で、まだ松葉杖だったんですよ。

――そうだったんですね。それで40トラックの収録は大変ですよね。
森口 いやもう、大変でした(笑)。松葉杖なので、体を使ってリズムを取ることもできない状態でしたから。とはいえすべては自分の不注意ですから、3日間かかりましたけど、何とか執念で録り切りました。1テイクがまるでみんなで積み重ねてきた一年一年のようで、40トラック40年の歴史を積み上げていくようでした。

――さらに、音のバランスにも相当こだわったとか。
森口 私は子供のころから音に敏感な"音人間"なので、けっこう自分なりのこだわりがあるんですね。なので、いつもトラックダウンからマスタリングまで、収録の後工程にもがっつり参加するんですけど、今回は特にこだわりました。本当におもしろかったですよ。なにせ「森口博子と森口博子の戦い」ですから(笑)。普通の楽曲であればボーカルと各楽器とのせめぎ合いなんですけど、この曲に関しては「この森口のストリングスをもう少しだけ下げて」とか(笑)。結局、最後は2パターンのミックスにまで絞られたんですけど、音の響きが豊かなAパターンを推すスタッフ陣に対して、私はキラっとするBパターンが好きで。ただ1対4で多勢に無勢だったので、そこは私が折れました(笑)。

――アルバムの最後を飾るのは、木根尚登さん作曲、畑亜貴さん作詞の「真心ブーケ」です。
森口 TM NETWORKの木根さんは友人なんですが、私は特に木根さんが作曲するバラード、通称"キネバラ"が大好きなので、「"キネバラ"をください」ってオファーしました。そしたら「博子ちゃんのマイウェイを書きました」と言ってくださって。温かくてオシャレで壮大なバラードができ上がってきて感動しました。そこに、信頼を寄せている畑さんが、これまでの、そしてこれからの未来も抱きしめたくなるようなすばらしい歌詞を乗せてくださいました。「涙は笑顔の準備だよ」なんて言われたら泣いちゃいますよね。どのワードも沁みる歌詞です。ヤバいです。

――本当にそうですね。では最後に、このアルバムを楽しみにしているファンへメッセージをお願いします。
森口 これだけたくさんのアーティストがいるなかで森口博子を選んでくれて、そして私が歌ってきた作品を必要としてくれて本当にありがとうございます。私は日頃から「人格形成期に聴いたアニソンは裏切らない!」って思っているんですけど、私自身も、その幸せな使命をいただけた立場だと思っています。このアルバムは、これまでいっしょに走ってきてくれたファンの皆さんとのきずながさらに深まるような一枚になっていると思います。そして初めましての人には、「テレビの森口博子って、こんなにちゃんと音楽をやっていたんだ」と驚いてもらえる一枚になったと思います。名曲の嵐になっているので、ぜひ一度聴いてみてください。

――初回限定盤にはベスト盤に加え、ライブ映像を収録したBlu-rayも付属するんですよね。
森口 そうなんですよ。「水の星へ愛をこめて」はもちろん「∀ガンダム」の楽曲「限りなき旅路」をゴスペルコーラスグループのVOJAさんとともにスケール感たっぷりに歌い上げているので、必見です。ファンの皆さまからも「映像を残してほしい」と強く言われていましたし、ようやく実現できてうれしいです。こちらも楽しみにしていてください!

プロフィール

●もりぐち・ひろこ/1985年、アニメ「機動戦士Ζガンダム」の主題歌「水の星へ愛をこめて」でデビュー。「ETERNAL WIND~ほほえみは光る風の中~」などヒットを記録。近年は「GUNDAM SONG COVERS」シリーズが大ヒットするなど、精力的に活動中。

【取材・文:岡本大介】

■森口博子「Your Flower ~歌の花束を~」
発売中
発売元:キングレコード
価格:初回限定盤[2CD+BD]6600円(税込)/通常盤[CD]3300円(税込)

リンク:森口博子オフィシャルサイト
    「Your Flower ~歌の花束を~」全曲デジタル配信サイト

この記事をシェアする!

「リストラ宣告」から40年。森口博子が伝説の作家陣と紡いだ、涙と笑顔の"歌の花束"【全曲解説ロングインタビュー】(画像1/0

MAGAZINES

雑誌
ニュータイプ 2026年1月号
月刊ニュータイプ
2026年1月号
2025年12月10日 発売
詳細はこちら

TWITTER

ニュータイプ編集部/WebNewtype
  • HOME /
  • レポート /
  • アーティスト /
  • 「リストラ宣告」から40年。森口博子が伝説の作家陣と紡いだ、涙と笑顔の"歌の花束"【全曲解説ロングインタビュー】 /