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「エヴァ」が終わった感覚がない――「シン・エヴァンゲリオン劇場版」碇シンジ役緒方恵美インタビュー

「シン・エヴァンゲリオン劇場版」は好評公開中
「シン・エヴァンゲリオン劇場版」は好評公開中(C)カラー

公開中の「シン・エヴァンゲリオン劇場版」。完結編となる本作について、そして「エヴァンゲリオン」シリーズについて碇シンジ役の緒方恵美さんにお話を伺いました。

──「シン・エヴァンゲリオン劇場版」がとうとう公開を迎えました。初日を迎えたときのお気持ちはいかがでしたか。

緒方 初日は、「普通に始まった!」と申しますか(笑)……「ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q」の公開初日などは、当日の午前0時から最速上映があって、お祭りモードの中で迎えていたんです。でも、「シン・」の初日は最速上映もありませんでしたし、平日(月曜日)だったので朝、起きたときも「あれ? 今日だったっけ? そういえば今日だ!」みたいな?(笑) すっと初日が始まってしまった感じがありました。どちらかというと、公開初日チケットの発売日の争奪戦のほうがお祭り感がありましたね。午前0時になったころに、友人で脚本家の上江洲(誠)くんが「チケットが取れない!」と大騒ぎしていて。それをたまたまSNSで見かけたので、上江洲くんがチケットを購入するClubhouseのルームに参入したんです。なんてことはない、ただの「チケットが取れない」「ここだったらチケットが取れそう」と言っているだけだったんですけど(笑)。気が付いたら、そのClubhouseの配信をたくさんの関係者が聞いていて、不思議な熱気を感じましたね。そんなわけで個人的には、公開初日よりも、チケット発売日のほうが印象的だったかも(笑)。

――たしかにチケット発売日の発売開始直後は都内の劇場のチケット販売サイトがつながらなくなったり、順番待ちになったりとあちこちで盛り上がっていたようです。

緒方 でも、公開初日の朝10時半くらいから、関係者……というか別作品でお仕事をごいっしょしている方々から一斉に「いま、観た」という報告のLINEが、私のスマホにバンバンと届き始めたんです。「なんでみんな朝7時の初回を見てるんだ! 仕事は⁉」と(笑)。なんか、そうなってからお祭り感を味わいました。寝ないで映画館に行ってくれたんだろうか、それとも仕事前に頑張って駆けつけて、最初の回を観てくれたのかなと。嬉しくて、くすぐったくて。そういう気持ちになって、ようやく「『エヴァ』の終わりが、始まったんだ」と実感できた気がします。

――「シン・」のアフレコのお話を伺いたいのですが、キャストの皆さんはかなり録り直し(リテイク)を重ねていらしたそうですね。緒方さんの収録はいかがでしたか。

緒方 どうなんでしょう……そういうお話なのに申し訳ないんですけど、今回、私の収録ではあまりリテイクがなかったんです。最初の収録は、ケンスケ(岩永哲哉)とアスカ(宮村優子)との3人で録ったのですが、そのあとからはほとんどひとりでそれぞれのシーンを少しずつ録っていくかたち。かなり長期にわたる収録だったので、記憶もうっすらしているんですが、わりと一発で「今のでいい」とか、「今ので良いけれど、もう一回だけやってみようか」ということが多くて。テイクを重ねているセリフは、私はあまりなかったように思います。いや、でも一つだけ何度もテイクを重ねたのがありました!「さようなら、全てのエヴァンゲリオン」というセリフ。あれは最初にいただいた台本になくて、終わり頃になって急に書き加えられたセリフだったんです。これだけは「緒方のことばとして言ってほしい」という指示が。それで「いろいろやってみてほしい」ということになって。いろいろなテイクを録りました。中には、叫んだりもしたですけど、たぶん最初の方に録ったテイクが本編で使われているような気がします。違うかもしれませんけど(笑)。

――「さようなら、全てのエヴァンゲリオン」というセリフは予告編だけでなく、本編でも聞くことができました。緒方さんは「エヴァ」が終わったという感覚は、どのときに実感しましたか。

緒方 それが、ないんですよね(笑)。……あの、ごめんなさい。実はですね、私KADOKAWAさんから出させていただいた、自分の本のラストページに、シンジを全て終えたあとの気持ちを書いているんです。だから、それをここでしゃべった方がいいのか、ちょっと微妙な感じなんですけど。いいんでしょうかね? ダメ? ……かなやっぱり(笑)。それはそれとして、お客様には、終わったと思っていただけていたらいいなと思います。ただ、もはや「エヴァンゲリオン」という作品は、それぞれの方の中にそれぞれの「エヴァンゲリオン」があって。「これが正しい」とか「間違っている」とかそういうものでもなく、それぞれの「エヴァンゲリオン」が正しくて良いんだろうなと思っているんです。我々は作品をつくったら、そのあとはお客さんに委ねるのが当たり前ですから、お客様の中で「決着がついた」と思う方がいればそれでいいと思うし、「決着がついていないじゃないか」と思う方がいてもそれも良いと思います。

――緒方さんの単行本「再生(仮)」は自叙伝ということですが、「シン・」についてもお書きになっているんですね。

緒方 はい。その文章を単行本の締めにしていたので、「シン・」公開後に発売することになったんです。高橋洋子さんの歌本(「~高橋洋子のヴォーカル・レッスン~ 「残酷な天使のテーゼ」「魂のルフラン」をだれよりも上手に歌えるようになる本」)が出て、林原(めぐみ)さんのご本(「林原めぐみのぜんぶキャラから教わった 今を生き抜く力」)も出て、そのあとに私の本が出ることになって。「エヴァ」でご興味をおもちになった方は、それぞれお読みになってもらえたら良いなと思っています。

――お話を戻すと「『エヴァ』が終わったという感覚がない」とのことでしたが、「シン・」の最後に「終劇」という文字が出たときは、どんなお気持ちでしたか。

緒方 そうですね。終わった、というよりも……私は初号試写で「シン・」を最初に拝見したんですが、試写会の会場で鶴巻(和哉)さん(監督)とちょっとだけお話する時間があったんです。そのときに鶴巻さんと私で、「終劇」という文字は入らなくても良かったんじゃないかと言いあっていて(笑)。今回の「エヴァ」はこれで良いと思うけれど、今回の「エヴァ」とは違う世界があっても良いと思うし、もっといろいろな可能性があって良いんじゃないかという話をしたりしてました。あ、でも、期待はされないでくださいね?(笑) その時は後に仕事があって、また、と別れたんですが、本当は打ち上げパーティがあって、そういうところでいろんな話ができたら良いなと思うんですけど、昨今の状況だとはたして実施できるのかどうか。「26年かけてきて、打ち上げがないのは辛いね」という話をしました。

――「エヴァ」の制作も一段落しましたし、打ち上げパーティがいつかできるとこを祈るばかりです。

緒方 そうですね。でも、こればっかりはわかりません。庵野(秀明)さん(総監督)も、もう次の作品に没入されているでしょうし、スタッフもそうでしょうから。時間がかかっても、何かのかたちでみんなと会う機会ができたら良いなと思っています。

(プロフィール)
●おがた・めぐみ/緒方自身の本作への思いが語られる初の自伝本「再生(仮)」、自身がシンジの気持ちで初めて作った楽曲「Repeat」が収録されるアルバム「劇薬-Dramatic Medicine-」が発売中

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「シン・エヴァンゲリオン劇場版」が表紙のニュータイプ6月号は好評発売中
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【取材・文:志田英邦】

リンク:「エヴァンゲリオン」公式サイト
    公式Twitter・@evangelion_co
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