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私の中に変わらずレイちゃんがいる――「シン・エヴァンゲリオン劇場版」アヤナミレイ(仮称)役林原めぐみインタビュー

「シン・エヴァンゲリオン劇場版」は好評公開中
「シン・エヴァンゲリオン劇場版」は好評公開中(C)カラー

公開中の「シン・エヴァンゲリオン劇場版」。完結編となる本作について、そして「エヴァンゲリオン」シリーズについてアヤナミレイ(仮称)役の林原めぐみさんにお話を伺いました。

――完成した作品をご覧になって、いかがでしたか?

林原 収録のときには既にコロナ禍でもありましたし、もともと庵野さんの考えもあって、「ヱヴァンゲリヲン新劇場版:破」くらいからシーンごとに細かく分けてアフレコを進めていたので、完成したものを見るまで自分の出演しているシーン以外、まったくどうなっているのか、わかっていなかったんです。台本は全体のものをいただいているんですけど、それはあくまで字でしかないというか、「エヴァンゲリオン」に関してはその字がどのような画になるか、どんなぐるぐるしたものが、どんなぶにょぶにょして、どんな光が差してくるか、まったく想像がつかないですからね。

――ですよね。

林原 だから完成した作品は、関係者でありながらファンのような、みんなの戦いを見守ってきた「誰か」のような、そんな目線で見ました。アスカやミサトやシンジや、いままでずっと一緒に戦ってきた仲間の活躍を見るのが、単純にうれしかったし、それぞれのキャラにスポットが当たっていて、救いがあって、見応えもありましたね。あ、別レイちゃんが農作業することに関してのびっくりだけは、アフレコの時点で消化していましたけど(笑)。あとはそう、手前味噌なんですけれど、「集結の運命」という曲を「:破」のあと、「:Q」がまだ形もないころに作ったんですけど、「シン・」を見終わった後に聴くと内容に重なるところがあって、ちょっとゾッとしました。「舵を失ったまま方舟が/命の螺旋構造へと沈む」って歌詞を書いたんですけど、ヴンダーじゃん!って。マリは出ては来ていたけど、「決まり事をはらんで動く」。って、あらまあって感じ。

――不思議ですね……!

林原 何かそういう、突き動かされる、どうしようもないものが「エヴァ」という作品にはありますね。「決して私、スゴいでしょ」と言いたいわけじゃなくて、何か全部、細胞ごと巻き込まれるようなところがあるんです。

――それにしても、細かく分けた収録だと、役者のみなさんには難しいところもあったのでは?

林原 全員そろうことはなく、別々に収録しましたけど、いい時代になったもので、「エヴァ」のLINEグループがありまして。「今日録ってきました」とか、「リテイクもらいました」みたいな、何気ないことを「エヴァ」スタンプを使ってやりとりしたりして。「:序」「:破」「:Q」のときにはなかったような、ましてやTVシリーズのころにはまったく想像もしなかったような、かつてないコミュニケーションの取り方ができたんですよ。文字だけだけど、ちょっと優しくなれるところもあってね。

――現場の外でのコミュニケーションが濃くなった

林原 そうです。そして、それはとても暖かいものでした。みんな「戦友」なんですよ。前の劇場版も一緒に乗り越えた。その前のTVシリーズのときから、みんなでとにかく素材を渇望する庵野さんに投げるだけのものを投げて、疲弊して、化け物みたいなヒットをしたけど、そのころには収録が終わっていたから、何をみんな騒いでいるんだろう? みたいな気持ちを味わって。居酒屋に行けばまわり中で「エヴァ」の話が飛び交っている事もあった。そんな時代を共に生きた仲間だからわかること、一緒に時を駆けたからこそわかる気持ちがあるんじゃないかなって感じてます。

――25年前より、適切な距離感が掴めているような?

林原 適切な距離かはわからないですけど、みんな大人になりましたよ。キャラクターとしてもケンスケは、「あのカメラ小僧がこう成長したのか」という、ひとつの人生のモデルケースを示すようにもなっていて。キャラクターも役者も、みんなわけもわからず翻弄されまくりましたけど、大人になりました。「シン・」はそんな時間の流れを一気に2時間半で体感できる作品になっているようにも思いますね。

――TVシリーズ、新世紀エヴァ劇場版、そして新劇場版と、様々な形で演じて、そして「シン・エヴァンゲリオン劇場版」を終えた今、レイという存在を林原さんはどのように感じておられますか?

林原 TVシリーズのころも、「新世紀エヴァ劇場版」のころも、「新劇場版」を作っているあいだも、私とレイちゃんの距離は世間とは別のところにあったんです。たとえば、何かの人気投票でレイちゃんが1位になっても、それはそれだし、アスカが1位になってもそうだろうな…とか。それでいうと、キャラクターの受け入れられ方の考察もおもしろかったですね。レイちゃんのようなキャラクターは、あのころは他に見たことのない衝撃があり、センセーショナルだったけど、レイちゃんの登場以降、似たような子…まあ、ざっくり物静かなヒロインって意味だと思うんですけど、そんな子が増えたから、今の人たちにとっては別に珍しくないんだ……みたいな。なるほどね…と納得です。

――アニメはもちろん、マンガやゲーム、小説といった様々なジャンルに影響が大きかったです。

林原 レイちゃんに限らず、「エヴァンゲリオン」って作品がほんの一滴でも何かを垂らすと、波紋が多岐にわたる。それは人気作と呼ばれる作品のサガなのかもしれないですけれど、ともあれ、私はそうやって波紋が広がっていくとき、表面にはいないんですよね。もっと水面下の、流れて行かないところにいる。だから、「シン・エヴァンゲリオン劇場版」を経ても、あくまでひとつの巨大な作品が終わった、以上でも以下でもないというか。感慨や哀愁や感謝などはもちろんあるけれどそれも含めて。言葉にすると、冷たい反応に見えるかもしれませんね。

――いやいや、そんなことは。

林原 でも本音として、むしろ今は、清々しいくらいの気持ちなんです。前の劇場版のときは、ちょっと消化不良なところが、関わった人全員にあったと思うんですよ。何年も経たないと見返せなかったって、宮村(優子)もいってたし。私としても、何か傷つける必要のところのないところまで、あえて傷つけた気がして。その傷から学ぶべきこともあったのかもしれないけど、でも「その傷は何?」という思いもあった。今回は、エンターテインメントを世の中に投じる意味で、とてもいい「完」を見た気がします。ただ、そうなったけれども、私の中には変わらずレイちゃんが存在しているので。「『:序』『:破』『:Q』のダイジェスト版を作ります」といわれ、少々新録があるとしたら、それはそれとして、その時点のレイちゃんにシンクロする。だから、答えるまでの前置きが長くなりましたけど、「どういう存在か」と聞かれても、はっきりとはわからないですね(笑)。長く時間の掛かった手のかかる子ではあったけど、それだけでは収まらない……みたいな感じです。

●はやしばら・めぐみ/東京都出身。代表作は「らんま1/2」(らんま役)、「スレイヤーズ」(リナ=インバース役)、「名探偵コナン」(灰原哀役)など。歌手、作詞家としても活躍中

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「シン・エヴァンゲリオン劇場版」が表紙のニュータイプ6月号は好評発売中
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【取材・文:前田久】

リンク:「エヴァンゲリオン」公式サイト
    公式Twitter・@evangelion_co
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