「雨を告げる漂流団地」田村睦心×瀬戸麻沙美 対談 「作品自体が”思い出”になるような映画」

小学生最後の夏休み、「おばけ団地」に入りこんだ航祐と夏芽は、不思議な現象に巻き込まれ、団地と共に大海原へ漂流してしまう――。Netflix全世界独占配信＆日本全国ロードショーにて9月16日(金)より公開される、石田祐康監督×スタジオコロリドによるオリジナル長編アニメーション映画「雨を告げる漂流団地」。幼なじみ同士の航祐と夏芽を演じた田村睦心さん（熊谷航祐役）と瀬戸麻沙美さん（兎内夏芽役）に、少年少女の心のゆれと成長を伸びやかに描いた物語の魅力を語っていただきました。

――不思議な夏の物語ですが、台本を読み、物語にふれたとき、どんな感想をいただきましたか？
田村　最初に読んだとき、号泣してしまいました。航祐と夏芽が出会う〝のっぽ〟くんや、航祐のおじいちゃんのやすじいとのシーンがせつなくて、私、アフレコちゃんとできるかなっていうぐらい泣いてしまったんですよね。団地という場所に、みんなの思い出がつまっている感じにも、ウルッときてしてしまって。

瀬戸　私が演じる夏芽は感受性が豊かで、子供ながらに心に大きなものを抱えている子で。そんな彼女の近くに航祐という幼なじみがいるという物語で、いろいろこじれてしまっているけれど、昔からの自分を知ってくれている存在っていいなと思いました。ただ、夏芽自身は自分の殻に閉じこもってしまっているので、その表情をどうやって芝居にのせてこうかと悩みながら台本を読んでいきましたね。なので、純粋に物語を受けとめられたのは、完成した映画を見たときだったかもしれません。それまでは夏芽のことでいっぱいでした。

――航祐と夏芽、どんな魅力を感じながら演じていかれましたか？
田村　私が最初にもっていた航祐のイメージは、思春期感があってぶっきらぼうな男の子という感じ。やるときにはやる子だけど、少年らしいコミカルな部分もたくさんあるので、結構ストレートな少年像をもって現場にいきました。アフレコでは「こういう子だからこんな感じに」というような固定のディレクションはなく、いろんな可能性を探っていく収録になったので、最終的にどのテイクが使われるかはわからなかったです。なので、映画を見て、思った以上にリアル寄りの男子になった航祐にびっくりしました。ずっとぶつくさ言っていて、素直になれない極致みたいな。でも、端から見ると感情がだだ漏れで、かわいいですよね。
瀬戸　航祐、不器用なのにめちゃくちゃ優しくて好き。

田村　でも当事者の夏芽ちゃんの立場になったら、その瞬間はふざけんなって思っちゃうかも。
瀬戸　そうなんですよ！　だから、私、収録時は夏芽として接していたのでその優しさにいまいち気づいてなかった。完成した映画を見て、一気に航祐に惚れてしまいました（笑）。一方、夏芽はというと、先ほど話したとおり、夏芽には葛藤があるのですが、それを口に出さないことでまわりに迷惑をかけてることもたくさんあって。夏芽は私さえ我慢すればって思っているので、感情の波が寄せては返す感じで、ずっとグネグネしているんですよね。それが夏芽らしさなのだと思うのですが、いつも悩みが解決しきらなくて元気になったと思ったらまた沈んで。一歩進んで二歩下がる感じが苦しかったです。
田村　隣で聞いていても夏芽はとても苦しそうだったよ。
瀬戸　私自身、中盤はけっこうメンタルにきちゃってましたね。夏芽の感情を引きずってしまって苦しくて、１回家に帰りたいって思ってしまうほどでした。

――石田監督や音響監督の木村絵理子さんとは、どんなやりとりをされましたか？
田村　石田監督はアフレコ始まる前に毎回わーっと入ってきてくださって、「今日もよろしくお願いします！　先日の収録もとてもすばらしかったです」と勇気づけてくださったのが心強かったです。もう１回もう１回と同じシーンを何度も撮り直すってそんなに多くあることではないのですが、音響監督の絵理子さんに「ダメなんじゃないからね！」っていつもひと言添えていただいていたので安心して臨めました。
瀬戸　木村さん、心のサポートをしてくださいましたね。収録時間が長めで、ひとりで録る日でも4、5時間あったりするなか、ずっと寄り添ってくださって。本当に、みんなで乗り越えよう、みんなで見つけよう、という団結感がすごくありました。
田村　あと、絵理子さんが、航祐のセリフのニュアンスを「こんな感じで〜」と言ってくださることがあったんですけど、それがとてもかわいかったです（笑）。

――お互いのお芝居にどんな印象を持っていますか？
田村　瀬戸ちゃんのお芝居は本当に繊細で、クセのないきれいなお水みたいな、すっと心に入ってくる、聞いていて気持ちがいいお芝居だなあっていつも感じます。だから、夏芽のせつなさとか、悲しさがすごく伝わってきます。隣で演じていると手を差し伸べたくなっちゃって、航祐が想定よりかっこよくなっちゃったりして、それはリテイクになりました（笑）。
瀬戸　睦心さんの演じる航祐は最高すぎて。そのジェントルになりすぎない微調整とか、怒って伝えるときのリアクションとか、収録中も映画を見たときにも、すごいって思いました。航祐が本当に、立体的にそこにいました。

――たくさんあると思いますが、お気に入りのシーンは？
田村　航祐と夏芽の感情が爆発するクライマックス30分ぐらいが心に響いています。2人の心がどんどん動いていくんです。観覧車のシーンのアクションも航祐がとてもかっこいいです。

瀬戸　私はやっぱり、航祐と夏芽がベランダ越しに話すシーンです。航祐と話すうちにぽろぽろあふれていくものがあって。航祐に感情を引き出してもらった感覚がありました。それから映像としてすてきだったのが、過去の思い出のシーンのキラキラした光の表現です。形のない光のようなものを、これだけの力強さとか柔らかさで表現できるって凄まじいなと思って。見られるものならこの目で見てみたい……でも、漂流はしたくない！
田村　思った以上に苛酷にサバイバルしてるもんね。草を食べたり！　子供たちがたくましくなっていく姿もよかったですね。

――思い出の場所である団地が舞台の物語ですが、お2人にとって心に残っている特別な場所はありますか？
瀬戸　私にとっては、近所の神社ですね。家の裏にあって、あぜ道を通って行ったんですけど、思い出がありすぎて……。子どものころは境内でみんなで遊んでましたし、初詣は絶対そこだし。中高生になって、この仕事をしたいと思ってからは境内の裏で歌ったりもしていました。全部がつまった場所です。
田村　私は5年生ぐらいまで住んでいた、団地じゃないけどマンションでもない大きな集合住宅がありまして。そこはとっても思い出深い場所ですね。屋上にはジャングルジムもあるし、ブランコもあって。子ども同士で建物全体を探検するみたいにして遊んでいました。

――映画を楽しみにしているみなさんへメッセージをお願いします。
田村　ここまで航祐と夏芽の話をさせてもらっていたのですが、他のキャラクターたちも本当にすごく魅力的なので、きっと心に響くキャラがいるはずです。今まさに思春期な方々はもちろん、大人のみなさんにも自分の少年時代を思い起こしながら見ていただきたいですし、いろんな視点から感じてもらえる作品だと思っています。劇場で静かに色よい音響で浸っていただくもよし、配信をお家で見て語りながら楽しむもよし。とにかくこの作品に出会っていただけたらうれしいです。
瀬戸　間違いなく見てくださった方の心を動かす作品だと思います。登場する少年少女たちみんなに個性があるので、きっとどこかに自分とシンクロする部分があるはず。たとえば、子供のころに病院にお見舞いにいったことがある、とか小さなポイントからブワッとそのときの感覚がよみがえってくるような描写がたくさんあるんです。私自身にとってもそうですが、この作品自体が思い出になるような映画なので、とにかくみなさんに見ていただきたいという気持ちです。

【取材・文：ワダヒトミ】