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アニメ『異世界魔王と召喚少女の奴隷魔術』で主演する若手声優・水中雅章さんが、尊敬する先輩方をゲストにお呼びし、経験に裏付けられた仕事術から声優業界の裏側までを語っていただく連載「俺より強い奴に会ってみる」。ネトゲ界の最強プレイヤー・ディアヴロのように、この連載を通して声優としてのレベルを上げることができるのか!? 第5回のゲストは、同作品で英雄的存在であるガルフォード役を演じる大塚明夫さんです!
水中:大塚さんは、『異世界魔王』の魅力をどんなところに感じていますか?
大塚:それはもう、主人公を演じる水中くんの演技力の高さとか…。
水中:……ぐふっ!
大塚:自ら蒔いた種だ、受け止めよ(笑)。
水中:は、はいっ! それくらいで勘弁してください(笑)。
大塚:ハハハ。こういう異世界作品にあまり縁がなかったので新鮮でした。水中くんの演じるディアヴロは、実社会で不自由だったのに異世界で自由になっていく感じが、見ていて楽しいし。羽ばたけ少年よ、なんて言いたくなる。息子や娘みたいなみなさんと一緒に演じられるのも、なんだか楽しいなと。
水中:ありがとうございます! 大塚さんの演じるガルフォードは「城塞都市ファルトラを預かる領主」という設定で、登場シーンから迫力がありました。
大塚:ガルフォードは、感じ悪い大人。若者にとってはある意味、大人を象徴するような存在かもしれない。一つの壁であって、それを突破するのがきっと楽しいんだろうね。
水中:アフレコ現場では、キャラクターとは逆に、優しく声を掛けてくださったり、リラックスできるようなお気遣いをいただいてとてもありがたく感じていました…!
大塚:かえってプレッシャーになってないといいけど(笑)。最近、現場ではできるだけ不貞腐れないようにしていて。不機嫌な顔をしていると、みなさんがやりにくくなるだろうから。昔はとんがっていて、演出に「意義あり」みたいに突っかかることも随分やったんですが、それを今のポジションでやると、みなさんのモチベーションがだだ下がりになるなあと。みんなが緊張しないで、伸び伸びとできるように心がけてます。
水中:大塚さんがいらっしゃる現場は温かいなと感じます。
大塚:もし若い頃の俺に助言するとしたら、「そんなにとんがるな」と言いたいね。作品全体のこととか、お金の流れとか、誰が偉いとか、そういうのをもっと頭に全部入れて仕事すればよかったなって思うよ(笑)。それがわかってないで、ただ闇雲にセリフを喋っているだけじゃダメ。みんなで仕事しているんだってことに、もっと早く気づけばよかった。そういう意味じゃ、ちゃんとできるようになったな、俺も(笑)。
水中:今の若手声優にも助言をいただくとしたら、どんなことでしょうか。
大塚:とにかく、いい役をやりたい、という気持ちを日常の中で埋没させずに、大切に持っていてほしい。何でもいいからたくさんやれば儲かるし、みたいな考えがいつまでも通じるわけではないので。自分の核みたいなものと向き合ってやってほしいですよね。それが声優にとって、すべてのエネルギーの源になる、そんな気がしますね。
アニメの現場って、売れてる人はみんな、それを持っているんですよ。僕らの年齢から見たら、まだ色々やることもあるなって思いますけど。自分の核と向き合っている人が、作品とも視聴者のみなさんとも、ちゃんと向き合えるんじゃないかな。
水中:今後もディアヴロのようないい役をいただけるように、僕もしっかり向き合っていきたいと思います。今まで、ターニングポイントになった人や作品はありますか?
大塚:ターンしてばかりで同じところをグルグル回っているんじゃないかって。迷走している感じもあるし(笑)。
水中:ええ! 大塚さんが、ですか!?
大塚:方向性はなんとなく定まってきていると思うんだけど、自分を変えた作品って言われるとわからない。実は、アニメーションでは何年も長く演じ続ける役をやっていないんですが、最近は若い人から、「え、吹き替えやっているんですか。アニメやゲームがメインだと思ってました」と言われることも多いんですよ。
水中:そうなんですか?たくさんの吹き替え作品にも出演されてますし、僕の中ではやはりスティーヴン・セガールさんの吹き替えのイメージがあります!
大塚:向こうの役者が年取って仕事が減ってるから困ったなと思って。もう少し若い役者を演じないと(笑)。最近は、親父があちらのほうに引っ越したものですから、親父のやっていた役を演じるようになって、これはなんか新しい方向性かなと思っていますけど。
水中:大塚さんといえば、プライベートも充実されているイメージがあります。最近、プライベートで大切にされていることとは。
大塚:バイク乗ったり温泉行ったり麻雀したり…っていう楽しみが。でも最近はちょっと飢えてますね。家庭を持つと、そうならざるを得ないのかなあ。今まで好き放題にやってきたから、ちゃんと帳尻合わせないとって神様から言われているような気がします。飯食えるだけ仕事すればいいか、と思っていた時期もあったんだけど、50を過ぎると考えたくなることがあってね、俺の幸せって何だろうと。
水中:今はご家庭がバイタリティーの源になっている、ということでしょうか。仕事に対する「自分の核」も、若手の時期とは変わってきていますか?
大塚:若い時はね、とにかくなんでもできるようになりたいから、技術を身につけるためにいろんなお芝居にチャレンジしていた。だけど今は、身についてしまった技術をあえて使わずに、どれだけその場にいられるかっていうのが面白くなってきてね。すごいなと思うのが、林原めぐみで。あいつは本当に天才なんですよ。昔っから必要以上にやらなくて、それがちょうどいいところにクリティカルヒットするんだよね。
水中:必要以上にやらない。
大塚:そう。こういう声も出る、こんな芝居もできるよって全部詰め込んでいると、いつまで経っても主役をもらえない。そんなものは邪魔なんだと、ある時にわかるんだよね。それに気づいたのは若い時だったけど、すぐにできるものではないから、それをやるためにもがき続けて。今はもう、どうせ向いた役にキャスティングされているんだから、何にもしなくていいんじゃないか、そういう方向もあるんじゃないかと思ってね。とにかく、そういうことの繰り返し。なんだ、言ってること違うじゃん! って言われるかもしれないけど、その時はそう思うんだからごめんなさい、と(笑)。
水中:(笑)。僕も、その時その時で感じたことを大事にしていきたいです! そして、大塚さんのように声優の仕事を長く続けていけたら…。
大塚:「長く」って、目標にしたくなっちゃうけど、結果だと思うんだよね。結果を先に求めるべきではないんじゃないかな。もがいた結果、振り返ったら長くやっていたっていうのはいいと思うんだけど。最初から長く続ける方法ってないと思うんだよね。
僕なんかは来年60歳だから、できることは残り少ない。あっという間ですよ。いろんな作品に出会ってきて、常に新しいことやらなきゃって思うと食傷気味になっていた時期もあったけど、なんか面白いじゃんってアプローチを変えると、それが楽しかったりして。こういう役しかやらないって決め込んじゃうと飽きちゃうと思うし。現場で若手から刺激を受けることもありますよ。
水中:本当ですか?
大塚:ラジオドラマで、僕と森田順平さんのWキャストで、対の役を若い人たちがやったんですよ。そうしたら、僕と森田さんはセリフの裏を読んじゃったりして、それは別に悪いことじゃないんだけど、若い役を演じているわけだから…。若い人たちが胸で感じたままやりとりしているのを見て、こうでなきゃいけないって考えたりしてね。
水中:逆に、若手…といいますか、僕だったらそれしかできないと思います…(笑)。
大塚:若くて純粋で、っていう裏表のない役をやるんだったら、それでいいと思うよ。若い人から学ぶこともありますね。
水中:声優をやってきて良かったと思うのはどんなことですか?
大塚:やってきて良かったと思うのは、自分に向いてる仕事で飯が食えてるってこと。振り返ると、「向いてたんだろうな」と思えるので。やっぱり人間、人生の3分の1くらいの時間は仕事しているわけだから、その時間を、やだなと思いながら過ごしていると思うとゾッとするよね。仕事が楽しくて、誇りが持てるっていうのは幸せなことだなと。
水中:貴重なお話を本当にありがとうございました。最後になりますが、水中に叱咤激励のお言葉をいただけませんでしょうか!
大塚:自信を持ってやりなさいよ。いいセンスを持っているんだから。技術も大事だけど、技術に走りすぎないようにね。
水中:身に余るお言葉をありがとうございます! その言葉を励みに頑張ります!
【取材・文:吉田有希】