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TVアニメ「彼方のアストラ」を盛り上げるためのキャスト&スタッフによるリレー連載。第13回のゲストは、シャルス役の島﨑信長さんです。第11話でついに明らかになったシャルスの過去。複雑な背景を持つ彼を島﨑さんはどう演じたのか、たっぷり語っていただきました。
――第11話でシャルスの生い立ちが明かされましたが、率直な感想はいかがでしたか。
島﨑 いっぱい喋りましたね(笑)。ただ、感想を聞かれると答えるのが難しいです。原作はとても面白く読ませていただいたのですが、実際に演じてみると、とにかく必死だったので……。原作を読んだときに衝撃を受けたエピソードでしたし、「ついにアニメでもここまで来たか」という感慨深さみたいなものはありました。
――シャルスを演じる際はどのようなことを大事にしましたか。
島﨑 シャルスの事情をわかった上で演じていたので、真実を知っているシャルスだったらB5班のメンバーにこう接するだろうとか、こういう言い回しで説明するだろうとか、含みを持たせることもあれば、状況や場の空気のままに演じることもありました。
特に、アリエスとの接し方は意識的に変えていたところがあります。アリエスとほかのメンバーとで接し方にちょっとした違いを出してみたり、イケメン発言をするときもほかのみんなの前ではキラキラするけれど、アリエスの前ではどこか素が出るようにしたり。画面の中でシャルスの視線の先にアリエスがいるというような細かい伏線もあったので、そういう部分を探りながら演じるのはとても楽しかったです。
――状況や場の空気のままに演じる、というのは?
島﨑 真相を隠して行動していたシャルスですが、たまにカナタの熱量や勢いに乗ってしまう瞬間があるんです。序盤だと、たとえばカナタの指示で電源ケーブルを繋ぐときがそうですね(第3話)。危機的な状況でシャルスも一生懸命になっていたという理由もありますが、カナタの熱量にシャルスが思わず引っ張られているなと。シャルスがカナタに引っ張られているときは、僕自身もグッと乗せられることが多かったです。
そういう意味で、「彼方のアストラ」は役と自分のリンクがすごく多かったですね。カナタは芯が強くて何者にも縛られず、その勢いのまま周囲の人間を引っ張っていける人。シャルスはそのエネルギーに引っ張られてカナタに惹かれていきましたが、僕も細谷(佳正)さんの熱量や臨場感によく引っ張られていました。
――少しずつカナタに引き寄せられていったのは、シャルスの計算外だったかもしれないですね。
島﨑 人間ってやっぱりそうだと思うんです。頭で考えたことだけで行動できるわけではなくて、当然、気持ちで動いてしまうこともあるし、不合理なことをしてしまうこともある。言ってしまえば、シャルスはもっと早くみんなを始末するタイミングがあったはずなんです。でも、そうしなかった。それはカナタや仲間と積み重ねてきたものが想像以上に大きかったから。第11話で「ホントは好きさ」とみんなに言っていましたが、あれは心の底から出た言葉でしょうね。
――第11話のカナタとシャルスのやりとりはとても熱かったです。
島﨑 完全にカナタに泣かされてしまいました。細谷さんの芝居を受けてやっていると、カナタの言葉がシャルスにグサグサ刺さっているのがよくわかるんです。あのときは、カナタも細谷さんも素敵だなって思いながら演じていました。
――シャルスとセイラ、シャルスとアリエスの関係についてはいかがでしたか。
島﨑 セイラとアリエスは別人なのにそれを認められなかったのが、シャルスの敗因だったのかなと。シャルスは自分を王のクローンだと認識して生きてきて、自分というものをまるで気にしようとしませんでした。自分を一人の人間だと認識していないから、アリエスのこともアリエスそのものではなくセイラのクローンとして見ていたんです。
でも、実際はアリエスとセイラが別人だということは内心わかっていたと思います。一緒に旅を続けてきて二人が違う人間だと気付いていたにもかかわらず、それを認められなかったのは、結局、自分を否定してしまうからなんです。王のクローンとして生きてきたはずなのに、王と自分は違う人間だと認めることになってしまう。その考えを捨てきれなかったから、アリエスという個人から目を反らしてきたのだろうなと思いました。
――だからこそ、カナタの「アリエスはアリエスだ」という言葉が心に刺さったんでしょうね。
島﨑 そこがどうやってもカナタに敵わないところですね。カナタはアリエスだけではなく、シャルスのことも個として見ているし、ほかのみんなに対しても「自分はどうしたいんだ」という視点をもって向き合ってきました。だから、シャルスも最後の最後で心が揺らいでしまったんです。結果としてカナタのことを傷つけてしまいましたが、でも、カナタのおかげでここからやっとシャルスという個人として生きていけるんじゃないかなと。本当の意味でみんなとも向き合っていけるのかなって思います。
――カナタは凄まじいリーダーですよね。
島﨑 本当にそう思います。カナタの前では全員がヒロインになってしまうというか(笑)。以前、アリエス役の水瀬(いのり)さんと話したときも、カナタのヒーローらしさは凄まじいという話題が出たんです。アリエスって一見するとふわふわっとしたかわいらしい女の子ですが、実はみんなを引っ張ってくれるような芯の強さを持った、カナタに近いヒーロー側の人間なんです。シャルスもほかのみんなもアリエスにたくさん救われました。でも、そのアリエスもカナタの前では恋する乙女になってしまう。カナタの信頼感、安心感って凄まじいなと水瀬さんも僕も感心していました。
――実は何度かアフレコ見学をさせていただいたのですが、間の取り方や会話のテンポなどキャストさんの裁量に任せる部分が多い印象がありました。
島﨑 途中から「ボールド(台詞の長さを示すガイド)は気にせず、やりやすいテンポでやってください」と言っていただくことが増えましたね。B5班がどんどん仲良くなっていくことで僕らの掛け合いもより軽快になっていったので、その流れを重視してくださったのはとてもありがたかったです。
用意されていた尺より少し会話が短くなることもあり、その結果、別に急ぐわけでもなく自然と会話の尺が短くなるなら、断腸の思いでカットしたシーンをもう一度入れることができるのではないかということになって、カットされた台詞が復活するということもありました。
――たとえば、どんなところでしょうか?
島﨑 第5話のアリスペード到着前にシャルスとアリエスがしていた「前世は親子かな」という会話がそうでしたね。どうしても入りきらないということで台本からカットされる予定だったのですが、全体として尺が詰まるならこの台詞を復活させられると。ほかにも僕のほうから提案させていただいたところもありました。台詞に干渉するというのは越権行為になるのですが、安藤(正臣)監督をはじめ、スタッフの皆さんが快く受け入れてくださって。
でも、それってとんでもないことなんです。というのも、アフレコの段階で絵コンテが出来上がっているわけで、尺の長さが変わって台詞が変わってしまったら絵コンテを切り直さないといけなくなるんです。完全にプレスコ(画が出来上がる前に音声を収録する方法。アフレコの逆)のような状態ですね。大変であるにもかかわらず、それでもいいものを作ろうとするスタッフの皆さんのクリエイティブな姿勢に感謝したいですし、その熱意に全力で応えたいなと思いました。
――そして、いよいよ次回は最終話です。どんなところに注目しほしいですか。
島﨑 いろいろな謎が残されていますが、最終回をご覧いただければ「いいものを見たなぁ」とすっきりできると思います。「彼方のアストラ」は最初から最後まで見ることで、本当の意味で面白さがわかる作品だと思うので、ぜひ最後まで見届けていただきたいですね。そして、見終わったらぜひ最初から見直していただきたいですし、原作未読の方にはぜひ原作を読んでいただきたいです。どちらもまた新しい発見がたくさんあると思います。
【取材・文:岩倉大輔】