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2月20日に発売される林原めぐみさんの書籍「林原めぐみのぜんぶキャラから教わった 今を生き抜く力」。
これまで林原さんが声を担ってきたキャラクター達のなかからピックアップされ、その時に感じたことやエピソードがふんだんに盛り込まれた文章と、各作品の作家から寄せられた豪華なイラスト&コメントが楽しめる、とても豪華な本。今回紙&電子書籍、そして日米同時発売(※電子版のみ)されるこの本に込めた思いを、林原さん本人にたっぷりうかがいました。
――現時点でのキャリアを総決算するかのような書き下ろし企画におどろきました。動機はなんだったのでしょう?
林原 まずひとつは、NetflixやAmazonPrimeやHulu で、以前よりも自由に、気軽にアニメが見られるようになった環境が、過去の作品を「過去のもの」ではなくしていると感じたこと。具体的な話でいえば、3、4年前からですが、私のラジオ(「林原めぐみのTokyo Boogie Night」)に、12歳の子から「『らんま1/2』が面白かった」というようなハガキが舞い込むようになりました。最初はどこかで再放送をしているのかな? なんて思っていたんですが、そうか、配信か、と。高価なボックスセットを買ったりだとか、大変な苦労をしなくても、昔の作品が気軽に見られる時代がきた。配信といえば、海外でも同じことが起きている。
――配信サイトのおかげで、海外でも日本のアニメを見る人も増えているようですね。
林原 それもありますけど、これも私のラジオの話なんです。地方ネット局が減って、その代わりとしてWeb配信することが決まったとき、当初は「放送の規模が縮小する」ととらえていたんですね。まだ「ラジオはオンタイムで聴くものだろう」みたいな、コアな気持ちも残っていた時代だったし。ところがふたを開けてみたら、ドイツやフランスからのリスナーの声が届くようになったんです。「結婚して日本を離れたけど、まさかこの土地でめぐさんのラジオが聴けるとは……」みたいな。日本でも、これまでネット局から漏れていた地域に住んでいる子から、メールやハガキが来始めた。それを読むうちに、私が想像していた恐怖……「インターネットは、どこか、人の気持ちを薄くしてしまうんじゃないか」というような感覚は、全くもって違ったと理解したんです。
――むしろ濃くなる、近くなる部分もある。
林原 でも一方で、システム化されたことで、やはり何かを失う可能性があるとも感じていました。たとえば、音声収録のやり方です。今はコロナの影響もあって、ますます変化が進んでいますが、そんな中で、かつての音声収録の仕方を、ひとつの文化として、字に残しておきたい気持ちも湧いてきたんです。といっても、80年代や90年代が素晴らしかったといいたいわけではありません。このような手法がかつてあったという事実を、いろいろな作品で実際に経験してきた人が、冷静に、感情的にではなく、歴史のひとつとして残すものがあってもいいかなと思ったんです。
――「字に残す」ことにこだわったのはなぜですか?
林原 私は「スレイヤーズ」という作品を通じて、作詞をより深くするようになりました。作品からもらった元気や勇気を、芝居で表現するだけじゃなく、もうちょっと噛み砕いて、3分や6分くらいの曲の中に、メッセージとして込めたら、みんなの生活に役立てることができるんじゃないかな…って思ったんです。実際、そうして書いてきた歌詞と共に、受験や転職といった、人生の大事なタイミングの不安を乗り切ったという感想をいただくことがあります。やっぱり字にすることには意味があるかなって。そのおかげで、声優として演じる、声を発することも基板として大切だけど、字として残すのは、また違った形で人の心に思いを刻めることなんだと実感したんですね。だから、私が(「スレイヤーズ」の)リナ・インバース以外にも、本当にたくさんのものをキャラクターたちからもらっていることは、ラジオや取材などでずっと話してきているけど、キャラクターからもらってきたものは、そのまま実生活の踏ん張りどころに、悔しさや涙に寄り添えるものなんじゃないかなと。私をずっと追いかけてきてくれた三十代、四十代、五十代の人だけじゃなく、ついこのあいだ乱馬を好きになってくれた、灰原哀ちゃんを好きになってくれた若い子にも伝えたい。そのために触れやすい、書籍という、読みやすい形で字にしたらどうか…と考えたのが、今回、この本を書こうと思った動機です。
――とりあげるキャラは、どのように選んでいかれたんでしょう?
林原 基準は「私の人生そのものに影響を与えてくれた子たち」です。「この子はこんな気持ちで演じました」というエピソードがあるだけではなく、仕事としての部分を飛び越えて、「林原めぐみ」という個人、声優という職業を離れたひとりの人間としての人生にまで影響を与えてくれたと感じているキャラクターを選びました。あとは、ラジオをやっていると感じることなんですが、10代であっても、50代であっても、悩みは等しく重いんです。恋の告白、親の問題、結婚、就職……どれもその人にとって、困っていることに変わりはない。だからどの年齢の人が見ても自分の人生に持って帰れるものがありそうなキャラクターであることも意識しましたね。「電影少女」の天野あいちゃんのページで書いた、恋愛に関するルービックキューブを使ったたとえだとか、綾波レイちゃんのところで書いた「自分につく嘘」の話だったりとか、年齢や立場に関係なく、読む人の人生に、ダイレクトに役立ててもらえるものという観点がらチョイスしました。
――恋愛に、身近な人間関係に、親子の話も。親子の話題は、林原さん自身が娘として親と向き合った話と、逆に、林原さんが母親としてお子さんと向き合った話が両方あるのが印象的でした。特にお母様にキツい言葉を投げてしまった時の話は、胸に来ます。
林原 なんとなくファンの人の中では、「林原めぐみ」という人ってポジティブで、がんばりやさんで、ラジオをやっていて、アニメの主題歌を歌っていて……みたいな、ある程度いいイメージがあるかとは、思うんですけど、ひとりの人間に立ち返ったときにダメなところは当たり前にあるんです。「ワタシ、ダメな人なんですぅ〜」って、必要以上に自分を低く見せるわけじゃなくて、本当に、普通にダメなことがもう、それは、それは、いっぱいある。でもそれを、わざわざみんなに、「昨日こんなにダメなことをしちゃって……」みたいに見せないだけ。ダメが面白いときは、ラジオで話けどね(笑)ただ、強靭だから何かを成し遂げているわけじゃないし、そもそも、成し遂げてなんていないし、アニメキャラが私に強靭な力というか、「思考」を与えてくれた。それを伝えるために、ダメな部分も隠さずに書いたんですよね。
写真:田上富実子
ヘア&メーク:清水寛之
原稿:前田久