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「役者としての自分のエゴが入らないように」演技の本質に向き合うこと――坂泰斗インタビュー(前編)


「魔術士オーフェン はぐれ旅」への出演をきっかけに注目を集めている坂泰斗さん。「お隣の天使様にいつの間にか駄目人間にされていた件」藤宮周役で初主演を果たすなど、その声と演技力でさらなる活躍を期待されているひとり。「俺だけレベルアップな件」水篠旬役を経て、キャリア8年目を迎えた今、演じてきた役や演じることに対する思いを語っていただきました。

プロフィール
ばん・たいと●12月18日生まれ/福岡県出身/大沢事務所所属/主な出演作品は、「俺だけレベルアップな件」(水篠旬)、「アンダーニンジャ」(雲隠九郎)、「ギヴン」(八木玄純)ほか。

マイク前に立つのは僕ではなくキャラクター

――「俺だけレベルアップな件」第1期、まずはお疲れさまでした。そして新情報もどんどん出ていますが、今の心境などを聞かせてください。
 主人公・水篠旬を演じた「俺だけレベルアップな件」第2期の制作が発表されました。今年放送された第1期は、実は作品のプロローグのような内容で、第2期ではこれまで誰からも目を向けられなかった旬が、いよいよ世界に影響を与えていきます。いろんな人物の思惑が絡み合いながら、謎がどんどん明らかになっていく。魅力的なキャラクターがたくさん登場しますし、スタッフの皆さんにとにかく寝てくださいね!と言いたくなるような、とんでもない戦闘シーンが描かれるのはもう間違いないので、ぜひ楽しみにしていただければと思います。



――水篠旬の演技が真に迫っていて、惹きつけられました。演じる際に意識していることは?
 旬をはじめ、僕が役を演じるときに心がけていることは、マイク前に立つのは僕ではなくキャラクターだということです。〝声をマイクに乗せる〟のではなくて、キャラクターとして〝ただしゃべっている〟というスタンスでいたいと思っています。第1期の旬は体が大きく変化するのですが、負の感情を原動力にして生きる、人間の泥臭さを説得力をもって出したい、出さなければいけないなと感じて、弱い頃の旬を演じるときは目線を下げたり姿勢を悪くするためにマイクの高さを下げてもらい演じました。キャラクターとして立つ、自分じゃない人になるってものすごくカロリーを使うことなんですよね、第1期には旬が腕を失うシーンがあって、そこはもう……もう、映像で見たままを実感して絶叫しています。心を動かしながら自分がマイク前でキャラクターとして「いる」ということを先輩方はずっと続けているんですよ。先輩方がいかにすごいかを改めて痛感しました。



――アフレコまでの準備としてはどのようなことをなさるのでしょうか。台本をどのように読み込んでいくかなどを教えてください。
 僕は台本を読むのに時間がすごくかかるんです。1話1話、そのキャラクターがその言葉を発する意味や、もちろん意味なく発していることも含めて、セリフひとつひとつを何十パターンと書き出していく。その後、1話を通して振り返ったときに役者としての自分のエゴが入らないようにじっくり読み解いていきます。あと、これは僕の肌感覚なんですが、アドリブがすごい役者さんってものすごくまじめな方が多くて、台本に全部書き出していることが多いんです。だから僕も、キャラクターが言う可能性のある言葉を、長い時には丸1日かけて考えて書き出す。僕個人の人格をのせすぎるとキャラクターに失礼かなと思うので、アドリブの加減はせめぎ合いです(笑)。



たくさんの現場を見て、こんな座長になりたいと思うように

――主役を担当する作品では座長という立場も引き受ける形になると思いますが、そのときに意識していることはありますか?
 「俺レベ」に限らず、座長としてやらせていただく作品では現場にいる皆さんが演じやすい状態でいていただけるように、できるだけ話しかけようと思っています。役者もスタッフさんも心がリラックスした状態になれば、現場すべてが前向きになるし、座長はそういう空気をつくれると思うんですよ。こんな座長でいたいと思ったのは、モブでの現場経験があったからです。自分みたいなモブ役でももっと表現していいんだと、温かい空気感の現場をつくっておられた座長の方々をトレースしているんだと思います。始めてレギュラーで出演させていただいた「魔術士オーフェンはぐれ旅」もそんな現場のひとつでした。森久保祥太郎さんや浪川大輔さん、日笠陽子さんといった尊敬する先輩方とご一緒できて、得るものがすごく大きかったです。




――ほかの作品でもいろんな縁が生まれ、続いているのではと思いますが、特に印象的な作品はありますか?
 声優になる前から西尾維新先生の大ファンだったので「美少年探偵団」でご縁ができたときは信じられませんでした。自分が演じた咲口長広は人々を魅了する美声の持ち主ということで、2話に1回ぐらい台本5ページほどの長台詞があるんです。毎回すごく緊張するし、音楽のようなセリフ回しをめざして噛まないように必死に練習しました。最終回は坂本真綾さん演じる主人公・瞳島眉美による長大な長台詞で締めくくられるのですが、まさに感無量です……。後ろで聞いていても涙が出るくらい特別な感情がありました。今だから言えますが、第1話の収録に西尾維新先生がいらっしゃってご挨拶させていただいたとき、「美声、大丈夫でしょうか」と伝えたんです。それに対して先生が「そのままで大丈夫です」と言ってくださったのがすごく心強かった。あのときに先生から太鼓判をいただけたのは大きかったですね。



まったく違った方向の役ばかりやってきた

――初めて主演を担当された作品についても、ぜひ振り返っていただければと思います。どのような日々でしたか?
 僕が初めて主演をやらせていただいたのが「お隣の天使様にいつの間にか駄目人間にされていた件」です。これまでに出会った素敵な座長の方々に倣おうというのは決めていたので、コミュニケーションをたくさん取るように意識しました。特に、僕と石見舞菜香さん、八代拓さん、白石晴香さんとはよくコーヒーを飲みに行っていろんな話をしました。ほとんどが家の中のシーンで、会話を重ねて心のゆらぎや人間としてどう変わっていくのかを描いた作品ですから、役者同士の関係性の良さがいい作品づくりにつながると思ったんです。僕を含めた4人ともがお芝居に対して同じような思いをもっていたこともあって、人間としても芝居上でも共感し合えたし、こういうことかなという役者としての新しい視点をもてた作品です。今でも4人でご飯に行ったりと交流関係が続いているのもうれしいですね。




――最近の出演作を見ていると、演じているキャラクターの振り幅に驚かされます。「貴族転生、鑑定スキルで成り上がる」と「アンダーニンジャ」での思い出も教えてください。
 「転生貴族、鑑定スキルで成り上がる」のリーツ・ミューセスは今まで演じたなかで一番しっかりした立ち位置のキャラクターなんじゃないかなと思います。「アンダーニンジャ」で雲隠九郎を演じたときは一歩引いて、周りのキャラクター引き出すお芝居を心がけましたが、リーツは逆で、他のキャラクターに引っ張られる感覚がありました。年若い純真なキャラクターの言葉を受けて、心がすごく揺さぶられるし自然と涙が流れたりする、それをそのまま演じられたなと思っています。僕の出演作をこうやって見ると本当にまったく違った方向の作品ばかりですね(笑)。全部の現場で新たな挑戦を続けるのは簡単ではないですが、役者でしか得られない刺激が絶えずあって、とても充実しています。



【撮影:武田真和/ヘアメイク:齊藤沙織/文:細川洋平】

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